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17話
どこか苛立ったようなルシアンの言葉に、ラファエルの眉間に皺が刻まれる。
クリスティーナの精神状態が不安定だったのは、自ら毒を飲んだのだからわかっている。だがそれは彼女が自らそうなる道を選んだからといっても過言ではないはずだ。少なくとも、ラファエルはそう思っている。
だから彼からしてみれば、下手に張り合おうとしなければよかっただけの話で、それで憔悴して管理が甘くなったと言われても――
「自業自得、とまでは言いすぎかもしれないけど、王妃としての意識が低かったからこうなったのはたしかだ」
どうして自分が責められるような言われ方をしなければいけないのか。ラファエルはむっとした顔でルシアンに反論した。
「まだそんなことを言っているのですか」
落胆したように吐き出されるため息。さすがにこれは見過ごせないとラファエルは不快感を露わにする。
何しろ彼は王で、ルシアンは弟ではあるが家臣に降った身。どんなときだろうと敬意を払うべき相手にそんな態度を取るなんて、許されるようなことではない。
「――なら僕にどう言えと? 僕は事実に基づいて話しているだけだ。それなのに期待どおりの言葉を話せと言うのか」
「そうではありません。期待していた言葉をいただくのはもう諦めました」
切って捨てるように言うルシアンの目には、家族としての親愛の情も、幼少のころに向けられていた尊敬の念も含まれていない。
ただ冷たく、軽蔑すら、その瞳には浮かんでいない。
「何が言いたい。言いたいことがあるのならはっきり言えばいいだろう」
「再三申し上げたはずです。義姉上をもっと気にかけてほしいと……王であるあなたにしかできないことがあると。ですが、聞き入れてはくださらなかったようです」
王だからこそ、考えるべきことが多い。各地から寄せられる陳情や報告書に目を通し、対応を考え、指示を出す。
それ以外にも細々としたことから、大きなものまで。目を光らせ、細部にまで気を回さなければいけない。
だからクリスティーナにばかりかまけている暇はなかった。
だがそれもこれも、彼女のために――完璧な王になるために必要なことだ。それなのに責められる謂れはない。
「気にかけていれば、彼女のために用意された費用が不当に使われていたことに気づけたはずです」
「……それは、クリスティーナが管理すべきだろう」
一緒に頑張るのだとクリスティーナはラファエルに言った。ならば、彼女も彼と同じく完璧な王妃となるべく精進すべきで、王妃として使用人や侍女の管理をし、不正が起こらないように目を光らせるのは当然のことだ。
それを怠ったのはクリスティーナの責任で、自らの非になるはずがない。
そんな、ラファエルが抱いた不満がルシアンにも伝わったのだろう。ルシアンの顔がわずかに歪んだ。
「そうおっしゃるのであれば、最初から彼女を妃に迎えるべきではありませんでしたね」
「何を……」
「守るなどと、できもしないことを謳わないでいただきたかった。……それならば俺だって、彼女が望んでいるからと、後押ししなかった。兄上にならと思うことはなかった。恨まれることを覚悟で、行動できた」
その歪んだ顔は、ラファエルに対する怒りからではない。自責の念と、彼がこれまで築いてきた後悔によるものだろう。
クリスティーナの精神状態が不安定だったのは、自ら毒を飲んだのだからわかっている。だがそれは彼女が自らそうなる道を選んだからといっても過言ではないはずだ。少なくとも、ラファエルはそう思っている。
だから彼からしてみれば、下手に張り合おうとしなければよかっただけの話で、それで憔悴して管理が甘くなったと言われても――
「自業自得、とまでは言いすぎかもしれないけど、王妃としての意識が低かったからこうなったのはたしかだ」
どうして自分が責められるような言われ方をしなければいけないのか。ラファエルはむっとした顔でルシアンに反論した。
「まだそんなことを言っているのですか」
落胆したように吐き出されるため息。さすがにこれは見過ごせないとラファエルは不快感を露わにする。
何しろ彼は王で、ルシアンは弟ではあるが家臣に降った身。どんなときだろうと敬意を払うべき相手にそんな態度を取るなんて、許されるようなことではない。
「――なら僕にどう言えと? 僕は事実に基づいて話しているだけだ。それなのに期待どおりの言葉を話せと言うのか」
「そうではありません。期待していた言葉をいただくのはもう諦めました」
切って捨てるように言うルシアンの目には、家族としての親愛の情も、幼少のころに向けられていた尊敬の念も含まれていない。
ただ冷たく、軽蔑すら、その瞳には浮かんでいない。
「何が言いたい。言いたいことがあるのならはっきり言えばいいだろう」
「再三申し上げたはずです。義姉上をもっと気にかけてほしいと……王であるあなたにしかできないことがあると。ですが、聞き入れてはくださらなかったようです」
王だからこそ、考えるべきことが多い。各地から寄せられる陳情や報告書に目を通し、対応を考え、指示を出す。
それ以外にも細々としたことから、大きなものまで。目を光らせ、細部にまで気を回さなければいけない。
だからクリスティーナにばかりかまけている暇はなかった。
だがそれもこれも、彼女のために――完璧な王になるために必要なことだ。それなのに責められる謂れはない。
「気にかけていれば、彼女のために用意された費用が不当に使われていたことに気づけたはずです」
「……それは、クリスティーナが管理すべきだろう」
一緒に頑張るのだとクリスティーナはラファエルに言った。ならば、彼女も彼と同じく完璧な王妃となるべく精進すべきで、王妃として使用人や侍女の管理をし、不正が起こらないように目を光らせるのは当然のことだ。
それを怠ったのはクリスティーナの責任で、自らの非になるはずがない。
そんな、ラファエルが抱いた不満がルシアンにも伝わったのだろう。ルシアンの顔がわずかに歪んだ。
「そうおっしゃるのであれば、最初から彼女を妃に迎えるべきではありませんでしたね」
「何を……」
「守るなどと、できもしないことを謳わないでいただきたかった。……それならば俺だって、彼女が望んでいるからと、後押ししなかった。兄上にならと思うことはなかった。恨まれることを覚悟で、行動できた」
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