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28話
聞けば、今代の王様はとても頑なな人なのだという。
いくら言っても聞き入れず、これと決めたなら断固として曲げることはしないのだとか。それがよい方向にいけばいいが、現状とてもそうではないと。
私の父と、父が親しくしている人たちは今の王妃様にとても憂いているらしい。後ろ盾もなく、婚約を結ぶにいたった理由も今は失われている。それなのに、もっと国益になるような女性を娶らず、どうしてもその人ではないと駄目なのだと、王様が王子だったころから言い続け、変わることなく今まできてしまった。
王妃様はそれなりに頑張っているらしいが、王妃に望まれるのは政治手腕ではなく、子をなすことと生家や、場合によっては生国の後ろ盾をもって国力を高め、安定させることなのだと。
だから少しでも王様の執着心を削ぎ、時間をかけて離縁にまでもっていきたいらしい。
どうやってやるのかは、任せてくれればいいとだけ言って、教えてはくれなかった。私はただ、王様のそばにはべり、子をなせばいいとだけ。
最初は王妃様に対して申し訳なさを抱いていた。今後の生活がかかっているとはいえ、人のよさそうな王妃様と王様の仲を裂くような真似をしなければいけないのだから。
それに不安も抱いていた。こんなぽっと出の女が王様の関心をひけるのか。ほかの人にいじめられたり責められたりしないか。
だけど城での生活は思っていたよりも快適で、与えられた部屋も素晴らしく、夜会ではみんなが私を賞賛し、称えてくれた。
褒めてくれた人のうち何人が父の友人だったり知り合いなのかは知らないけど、それでも悪い気分にはならない。
王様のそばにはべるために、それ相応にふさわしい教育も頑張ったのだから、このぐらいの恩恵はあっても当然なのではないか。
――そう思いはじめるのに、たいして時間はかからなかった。
もちろん、王妃様に対する罪悪感が消えたわけではなかった。だから彼女の侍女が不正を働いていると知ったときは、王様に教えようとも思っていた。
それは、本当にただの偶然だった。王様が政務中は暇なので、庭園でも見に行こうかと歩いていたら、ちょうど曲がり角で侍女にぶつかってしまったのだ。
「も、申し訳ございません!」
城の侍女は貴族の出身ばかりらしい。身分で言えば私よりもずいぶんと格が上だろう彼女が頭を下げるのを、私は穏やかな気持ちで「いえいいのよ」と言って微笑んで制した。
だけどそのときに、少しだけめくれた袖口に、彼女には似つかわしくない腕輪がはめられているのに気づいてしまった。
王様に気に入られるためには、それ相応の審美眼も必要だと、徹底的に芸術品やら高級品を見極められるように鍛えられた。
侍女の手首ちかくにあった腕輪は、彼女の風体から察する家格や育ちにふさわしいもの、とはとうていいえない。
「あ、えと、これは……」
そして彼女も、私に見咎められたことに気づいたのだろう。顔色を変えて、涙ぐみながら私の前に跪いた。
いくら言っても聞き入れず、これと決めたなら断固として曲げることはしないのだとか。それがよい方向にいけばいいが、現状とてもそうではないと。
私の父と、父が親しくしている人たちは今の王妃様にとても憂いているらしい。後ろ盾もなく、婚約を結ぶにいたった理由も今は失われている。それなのに、もっと国益になるような女性を娶らず、どうしてもその人ではないと駄目なのだと、王様が王子だったころから言い続け、変わることなく今まできてしまった。
王妃様はそれなりに頑張っているらしいが、王妃に望まれるのは政治手腕ではなく、子をなすことと生家や、場合によっては生国の後ろ盾をもって国力を高め、安定させることなのだと。
だから少しでも王様の執着心を削ぎ、時間をかけて離縁にまでもっていきたいらしい。
どうやってやるのかは、任せてくれればいいとだけ言って、教えてはくれなかった。私はただ、王様のそばにはべり、子をなせばいいとだけ。
最初は王妃様に対して申し訳なさを抱いていた。今後の生活がかかっているとはいえ、人のよさそうな王妃様と王様の仲を裂くような真似をしなければいけないのだから。
それに不安も抱いていた。こんなぽっと出の女が王様の関心をひけるのか。ほかの人にいじめられたり責められたりしないか。
だけど城での生活は思っていたよりも快適で、与えられた部屋も素晴らしく、夜会ではみんなが私を賞賛し、称えてくれた。
褒めてくれた人のうち何人が父の友人だったり知り合いなのかは知らないけど、それでも悪い気分にはならない。
王様のそばにはべるために、それ相応にふさわしい教育も頑張ったのだから、このぐらいの恩恵はあっても当然なのではないか。
――そう思いはじめるのに、たいして時間はかからなかった。
もちろん、王妃様に対する罪悪感が消えたわけではなかった。だから彼女の侍女が不正を働いていると知ったときは、王様に教えようとも思っていた。
それは、本当にただの偶然だった。王様が政務中は暇なので、庭園でも見に行こうかと歩いていたら、ちょうど曲がり角で侍女にぶつかってしまったのだ。
「も、申し訳ございません!」
城の侍女は貴族の出身ばかりらしい。身分で言えば私よりもずいぶんと格が上だろう彼女が頭を下げるのを、私は穏やかな気持ちで「いえいいのよ」と言って微笑んで制した。
だけどそのときに、少しだけめくれた袖口に、彼女には似つかわしくない腕輪がはめられているのに気づいてしまった。
王様に気に入られるためには、それ相応の審美眼も必要だと、徹底的に芸術品やら高級品を見極められるように鍛えられた。
侍女の手首ちかくにあった腕輪は、彼女の風体から察する家格や育ちにふさわしいもの、とはとうていいえない。
「あ、えと、これは……」
そして彼女も、私に見咎められたことに気づいたのだろう。顔色を変えて、涙ぐみながら私の前に跪いた。
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