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第二章
次の人生は商人の娘でした
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なぜか今度の転生は、赤ちゃんからではなかった。ふと目を開けてみると、素朴な木の壁に、大きな木製の梁が目に入った。シスターと暮らした教会よりは質素だけれど、一回目に暮らした粗末な小屋よりは豪華…そんな感じの家だった。
どうにも体が重くて、体がべたべたして気持ち悪くて。声を出そうにも、のどがお互いに張り付いたような感触がして、顔をしかめていると、ふと遠くで大きな物音がしたのでそっちへ首を何とか動かしてみると、扉の入り口で呆然と立っている女の人が居た。
そして―ー
「@#$&%¥*+>☆!!!!」
絹を切り裂く悲鳴とはこういうものか、と納得できるほどの大声で、その女の人はすぐに姿を消した。
耳が痛くて、そのせいでめまいがきて。すぐに私は気を失ってしまった。
それから…さっきの人より身なりの良い女性が来て、何か話しかけてくるのだけれど、さっぱり私には理解できない。
凄く切ない顔して一生懸命私に何かを訴えてきているのだけれど…申し訳ないけどわからない。
何だろう、異国の言葉で話しかけられているような…もしかしなくても、そうなのかしら。
目の前の女性はもう半泣きで、後ろに控えている女性はすでに身につけているエプロンの裾で鼻をすすっているのだけれど。申し訳ないけど、何が何だかわからないからなんともしようがない。困惑したまま二人の顔を見比べ、ため息をついていると、また新しい人が部屋に入ってきた。今度は男の人のようだ。
「#$”*‘@!!…<{」;、」
「~‘:。・:「・”#」
…うん、何か二人で話し合ってるみたいなんだけど、さっぱりわかんないわ。しきりに私のほうを見て話しているから、多分私のことだけれど。
「…わからないんですよ、あなたたちのことばが」
私のことのはずなんだけど、私自身が仲間はずれに話が進んでいるのを感じて、嫌気を感じていたので、こっそりとベッドで俯きながら呟いてしまった。その時私は俯いていたため、話し合っていた二人のうちの一人の男性が、ぴくりと反応したことに気づかなかった。
ベッドの上でどうしたものかと自分の小さな手を眺めて思案していると、ベッドのそばに誰かが近寄っていたことに気づき、私は身を硬くした。
「…こんにちは」
「え?…あ、はい。はじめまして…?」
あれ?この人の言葉はわかる。通じるじゃないか、と思ってびっくりしていたのだけれど、男性の言葉はどこかたどたどしくて、硬い発音だった。
「あなたのことば、どこで習いましたか?」
「…え?生まれた村で普通に皆話してましたよ?」
いなかでしたけど。なにかおかしいことがありますか?そうたずね返すと、男性はわずかにひげの生えた顎を指でなでさすってゆっくりと答えてくれた。
「あなたの、ことば。今は、話してる人、いない。昔の、言葉です」
「…うそ、でしょ…?」
あんぐりと口をあけていると、男性はゆっくりと頷いて告げた。
「…古代ロアム語。二百年ほど前に、ロアムという国で話されていた言葉です。…あなた、なぜ、知っていますか?」
彼の瞳に映る疑いの色に、私は初めて対応を誤ったことを悟った。
脳裏で、神様の助言が木霊する。
『あなたは、少しは人を疑うことを覚えたほうが良いですよ』
…そうですね、そのとおりですね、神様。確かに数世代あとだって、おっしゃってましたね…でも、言葉が通じないなんて、思ってなかったのですもの。頭の中で、神様に言い訳をする。そんな神様の顔は、苦笑いしているような、そんな気がした。
「…わたしは」
ここまできてしまうと、下手に隠しても良くない気がする。もともと嘘をつくのは、下手なのだもの。
「…私、昔その時代に生きていた記憶があるんです」
開き直って、神様のお仕事だけは隠して、記憶もちだということにした。この時代の常識を知る前に、人に疑われてしまったんだから仕方がない。今は、この人に信じてもらわなければ。
案の定、男性は眉をひそめた。やっぱり、おかしいよなあ。
「信じられませんかもしれませんが…」
「いえ、」
男性は首を横にふって、ベッドのそばに近寄る。ベッドの上で半身を起こして座る私を見下ろす形になった。
「信じますよ」
「ほんとう、ですか?」
われながら怪しい発言だと思うのだけれど…そう思っていた私は、彼の爆弾発言に驚いた。
「自分の父親もわからないんですから、あなたは私の娘ではない」
「…はいぃ?」
父親?娘?
「あなたは…私の娘です。5歳になる。ディアナ。それが、貴方の名前」
「…ディアナ」
「…そして、あなたは私の本当の娘ではない」
「はぁぁっ??」
私が驚きで目を見開くのを見て、心底おかしそうに、彼は笑った。
「あなたは、…ディアナは、私が自分の父親でないことを、知っていた。だから、私を避けていた。でも、あなたは私を避けていない。あなたは、ディアナではない」
「あの子は、あの子の母が不貞の末に生まれた娘。幼いながらに、あの子はそれを知っていた」
母親は隠し通せているつもりのようですが、と言う彼の顔には、嫌悪の色が隠せてはいなかった。
「正直、よその男の娘など養うのも苦痛だったので、そろそろ母娘そろって放り出そうかと思っていましたが…これは面白くなりましたね」
驚きで固まる私を見て、彼は心底楽しそうだ。
「ディアナよ。古代ロアムの言葉を知る娘よ。この現代に生きる商人オディオの力になってはくれまいか」
大仰に両腕を広げたあと彼は私に跪いて、私を見上げた。
「大地母神の信仰の起こったあの時代、混乱を収め安寧をもたらした時代の魂よ。どうか、この腐った時代をともにお救い下され」
胡散臭い言い回し、動作を繰り返す人だったけれど。私を見つめる、その瞳の暗さだけはーー彼の真実であるような、そんな気がした。
どうにも体が重くて、体がべたべたして気持ち悪くて。声を出そうにも、のどがお互いに張り付いたような感触がして、顔をしかめていると、ふと遠くで大きな物音がしたのでそっちへ首を何とか動かしてみると、扉の入り口で呆然と立っている女の人が居た。
そして―ー
「@#$&%¥*+>☆!!!!」
絹を切り裂く悲鳴とはこういうものか、と納得できるほどの大声で、その女の人はすぐに姿を消した。
耳が痛くて、そのせいでめまいがきて。すぐに私は気を失ってしまった。
それから…さっきの人より身なりの良い女性が来て、何か話しかけてくるのだけれど、さっぱり私には理解できない。
凄く切ない顔して一生懸命私に何かを訴えてきているのだけれど…申し訳ないけどわからない。
何だろう、異国の言葉で話しかけられているような…もしかしなくても、そうなのかしら。
目の前の女性はもう半泣きで、後ろに控えている女性はすでに身につけているエプロンの裾で鼻をすすっているのだけれど。申し訳ないけど、何が何だかわからないからなんともしようがない。困惑したまま二人の顔を見比べ、ため息をついていると、また新しい人が部屋に入ってきた。今度は男の人のようだ。
「#$”*‘@!!…<{」;、」
「~‘:。・:「・”#」
…うん、何か二人で話し合ってるみたいなんだけど、さっぱりわかんないわ。しきりに私のほうを見て話しているから、多分私のことだけれど。
「…わからないんですよ、あなたたちのことばが」
私のことのはずなんだけど、私自身が仲間はずれに話が進んでいるのを感じて、嫌気を感じていたので、こっそりとベッドで俯きながら呟いてしまった。その時私は俯いていたため、話し合っていた二人のうちの一人の男性が、ぴくりと反応したことに気づかなかった。
ベッドの上でどうしたものかと自分の小さな手を眺めて思案していると、ベッドのそばに誰かが近寄っていたことに気づき、私は身を硬くした。
「…こんにちは」
「え?…あ、はい。はじめまして…?」
あれ?この人の言葉はわかる。通じるじゃないか、と思ってびっくりしていたのだけれど、男性の言葉はどこかたどたどしくて、硬い発音だった。
「あなたのことば、どこで習いましたか?」
「…え?生まれた村で普通に皆話してましたよ?」
いなかでしたけど。なにかおかしいことがありますか?そうたずね返すと、男性はわずかにひげの生えた顎を指でなでさすってゆっくりと答えてくれた。
「あなたの、ことば。今は、話してる人、いない。昔の、言葉です」
「…うそ、でしょ…?」
あんぐりと口をあけていると、男性はゆっくりと頷いて告げた。
「…古代ロアム語。二百年ほど前に、ロアムという国で話されていた言葉です。…あなた、なぜ、知っていますか?」
彼の瞳に映る疑いの色に、私は初めて対応を誤ったことを悟った。
脳裏で、神様の助言が木霊する。
『あなたは、少しは人を疑うことを覚えたほうが良いですよ』
…そうですね、そのとおりですね、神様。確かに数世代あとだって、おっしゃってましたね…でも、言葉が通じないなんて、思ってなかったのですもの。頭の中で、神様に言い訳をする。そんな神様の顔は、苦笑いしているような、そんな気がした。
「…わたしは」
ここまできてしまうと、下手に隠しても良くない気がする。もともと嘘をつくのは、下手なのだもの。
「…私、昔その時代に生きていた記憶があるんです」
開き直って、神様のお仕事だけは隠して、記憶もちだということにした。この時代の常識を知る前に、人に疑われてしまったんだから仕方がない。今は、この人に信じてもらわなければ。
案の定、男性は眉をひそめた。やっぱり、おかしいよなあ。
「信じられませんかもしれませんが…」
「いえ、」
男性は首を横にふって、ベッドのそばに近寄る。ベッドの上で半身を起こして座る私を見下ろす形になった。
「信じますよ」
「ほんとう、ですか?」
われながら怪しい発言だと思うのだけれど…そう思っていた私は、彼の爆弾発言に驚いた。
「自分の父親もわからないんですから、あなたは私の娘ではない」
「…はいぃ?」
父親?娘?
「あなたは…私の娘です。5歳になる。ディアナ。それが、貴方の名前」
「…ディアナ」
「…そして、あなたは私の本当の娘ではない」
「はぁぁっ??」
私が驚きで目を見開くのを見て、心底おかしそうに、彼は笑った。
「あなたは、…ディアナは、私が自分の父親でないことを、知っていた。だから、私を避けていた。でも、あなたは私を避けていない。あなたは、ディアナではない」
「あの子は、あの子の母が不貞の末に生まれた娘。幼いながらに、あの子はそれを知っていた」
母親は隠し通せているつもりのようですが、と言う彼の顔には、嫌悪の色が隠せてはいなかった。
「正直、よその男の娘など養うのも苦痛だったので、そろそろ母娘そろって放り出そうかと思っていましたが…これは面白くなりましたね」
驚きで固まる私を見て、彼は心底楽しそうだ。
「ディアナよ。古代ロアムの言葉を知る娘よ。この現代に生きる商人オディオの力になってはくれまいか」
大仰に両腕を広げたあと彼は私に跪いて、私を見上げた。
「大地母神の信仰の起こったあの時代、混乱を収め安寧をもたらした時代の魂よ。どうか、この腐った時代をともにお救い下され」
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