獣のお礼参り~こちらけもけもネットワークでございます~

ねこセンサー

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ご注文は猫でございますね

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お電話ありがとうございます、けもけもネットワークでございます。

…お客様、申し訳ございません。当店は電気屋ではございません。

『ネットワーク』、まぎらわしゅうございますか…左様ですか…もうしわけございません。

ですが当店は電気屋ではございませんので、今一度おかけになった電話番号をご確認の上、おかけ直しのほどを、お勧めいたします。

失礼いたします。


…お電話ありがとうございます…

お客様でございますね。いえ?こちらはあやしいものではございませんよ。あやかしのたぐいではございますが…いえいえ、こちらの話でございます。

お客様、当店をお選びくださいましてありがとうございます。

当店では、日々のつらい暮らしに堪えかねたお客様のような方々に、癒しを差し上げたく営業しております。

…はい、そうです。ご理解がお早くてこちらも助かります。

それでは、どういったコースをご所望なさいますか?

『夢の中でひたすら甘えんぼ猫ちゃんとモフモフコース』、こちらは癒しのにゃんコースの中で一番人気でございますね。

おお、いい反応ですね。お客様、お目が高うございますよ。

こちらは夢でありながら、寝起きの際一時間近くはモフ感が残って幸せ気分が残るのです。猫アレルギーの方も大丈夫!夢ですから。

お客様、少々お疲れのようですから、此方がよろしいかと思いますが…

おや、もしや、お仕事上で気に入らない上司の方がいらっしゃると。

…わかります、わかりますとも。今はやりのパワハラでございますね?

なんと、すでに同僚の方が三人もお辞めになっておられるとは…お立場お察しいたします…

お客様?オプションなのですけれども。

猫は猫でも、大変に恐ろしい猫もいるのでございますよ。

そうです、猫と一口に言いましても、可愛いイエネコから、百獣の王ライオンまで…猫は幅が広いのです。

丁度こちらで退屈しているちょっと大きな…はい、ちょっと大きな猫ちゃんがおりましてね。

この子は態度の大きな人間を躾るのが大変好きなもので…ちょっと配置に困っていたのですよ。

おや、上司さんの命の心配をなさるとは…お優しいのですね、お客様。

大丈夫でございます。お客様は夢コースをご希望ですので、コース内でのオプションになりますので…

お客様は猫と遊んで幸せに、上司の方は猫にしつけられてお客様が幸せになれます。

あの子はああ見えて躾自体は大変上手なのですよ。

上手すぎて、ちょっと洗脳みたいだと言われてしまっておりまして。

お客様としてはよろしいかと思いますが。

はい。では、商談成立でございますね。

お買い上げありがとうございます。

お支払いでございますか?

大丈夫でございます。

お客様の魂は大変綺麗で居られますので、その周りで巣食っている悪いものをですね、こちらの従業員が頂きますので、それで十分なのでございます。

ハイ、悪意というものを大変好む従業員が居りまして。

あなたの魂を浄化することで、こちらの従業員の満腹も買えるというものですから。

…其れでは申し訳ないと…お客様、大変すばらしい清い魂の持ち主なのですね。

それは生きづらかったでしょう。

では、お客さま。いつか、お客様の元を訪れる”何か”がございましたら、一生そのものの面倒を見ていただいても、宜しいでしょうか?

はい、おそらくは、獣の類ではあるかと思います。

迷ったときに、飼ってあげてほしいのです。おそらく、良い状態ではないでしょうから。

こちらとしてもですね、恨みを多く持つ生き物が増えるのは、好ましいものでもないのですよ。

すべては程々がよいのです。

はい、よろしくお願いいたします。

それでは、派遣は明日より行います。

…期限ですか?そうですね、それは『時が来れば』自然と行われますでしょう。

それではお客様、よい夢を。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ブラック企業と見破れず、ぼろきれのように働き続けていたある日、妙な夢を見た。

昔懐かしい黒電話を持って、どこかに電話する夢。

電話の先の声は、ハキハキしていて、話している内容はどうにも信じられない内容なのに、なぜか明瞭に覚えていた。

その日の夜から、妙な夢を見るようになった。

毎日、一匹ずつ、さまざまな猫が、自分の元にやってくるようになったのだ。

白猫だったり、黒猫だったり。ペルシャみたいなふわふわの子だったり。

みんな、すっごく甘えん坊だった。毎晩、モフモフしまくった。

夢を見るのがとっても楽しみになった。

なんだか体の疲れも取れているみたいで、つらい仕事も耐えられた。

そんな中で、だんだんとやってくる猫が決まってきた。

かぎ尻尾の、黒猫さん。喧嘩しちゃったせいなのか、片目が引っかき傷で開かないのだけれど、すごく優しい子だった。

あまり声は上げないのだけど、つらいときはゆっくりやってきて、そっと背中同士を合わせてくれるような、配慮のできた子だった。

可愛くって毎晩撫で回したり、頬ずりした。

ちょっと迷惑そうな顔はするんだけど、結局は折れてくれる優しい子だった。

そんな時、最近元気がなかった上司がでかいミスをして、首になった。

そのあとにやってきた、ちょっとふくよかな上司は、見た目は穏やかだし、私たち平にも優しかったけど、すごく仕事のできる人だった。

どうも、うちの部門が社員が減りすぎてるということで、社内改革に乗り出したようだった。

うちの部門は平和になった。

そのころには、猫と戯れる夢は見なくなっていた。

寂しく思っていた雨の日、道端で血にまみれた黒いものを拾ってしまった。

何かの生き物のようで、どうしても見捨てられなかった私は、動物病院に駆け込んだ。

治療費がかなりかかったけれど、なぜか見捨てる気にはなれなかった。

その子は一命を取り留めたが、右目の傷が深くて、失明してしまっていた。

喧嘩でやられてしまったのでしょうね、とお医者様は仰った。

どうしますか?ときかれた。

迷わなかった。

かぎ尻尾の、隻眼の、甘えん坊の、黒猫。

「やっと会えたね」

その子は、私の腕の中で、ずっと低音を響かせていた。


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