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第五草
32・虫の街
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「なんだ、これ」
「不思議な感じですね」
「古い建物を補強してるのかなー?」
大きな建物が立つ街なのは見えていた。だが、建物の基礎や中に蜂が巣を作るような茶色い巣材があちこちにたくさん見える。もとの建物とあまりに違う壁色がアンバランスだ。
「昆虫型しかいないのか?」
歩く人々は触覚や特徴的な節のある腕から虫の類いからの進化であると見て取れた。
鳥型の人は見当たらない。先ほどの鳥の女は求める者でたまたまあそこを通っただけだったのだろうか。
「虫の楽園へようこそ、求める者達」
蝶の羽を持つ人が一人、オレ達に話しかけてきた。
服の意匠が凝っていた。先ほど見た鳥の女とは違い、手触りがなめらかそうな艶々した生地。模様は刺繍しているのだろうか。己の羽を模したかのような美しい模様で彩られた衣裳を纏っていた。
「ここでは何ですので良ければうちにきませんか?」
オレは嫌な予感がした。ナツメの時、そうだったので何か裏があるのではないかと思うようになった。
「あの、それよりあの力、赤い光に触れたいのですが誰かに許可が必要だったりするんですか?」
チャミちゃんが動かないオレの変わりに質問してくれた。だが、それを聞いて良かったのか……。
「大丈夫ですよ。王が認めれば」
蝶の羽を持つ男は顔を花のように美しく咲かせて見せた。
◇
街の中を歩いていく。どこを見ても虫型の人達だ。
「ここです」
蝶の人、名前はアレクというらしい。彼が連れてきてくれたのは、大きな建物の中でも一、二の高さのものだった。
「大きいですね」
「もしかしてこの街の偉い人?」
ヨキが屈託なく話しかける。こういうところは子どもらしい行動が出来て助かる。
「はい、この街の王を支える一人です。他にも三人いますが、今回は僕が案内する番なので」
「求める者がよく来るんですか?」
「……」
アレクの目が少しキツくなったのをオレは見逃さなかった。
「ええ、ですが最近は見かけなくなっていますね。さぁ、中にどうぞ」
「ありがとうございます」
建物の中は見た目ほど侵食されていないのか、オレのよく知る人の建物の壁や床だった。
「お帰りなさいませ。アレク様」
蝶の羽を持つ女がオレ達に微笑む。その笑顔にオレは固まってしまった。
リーゼ――。
オレの事を裏切り者と言った、だけど大切な人。大切だった人。
その人と同じ笑顔が、オレではない男に向けられる。
どうして、ここに?
別人だと思いたい。だけど、あまりに同じ姿で、同じ声で、同じ瞳で……。
「こちらに座って下さい」
「はい」
「はーい」
チャミちゃんが服の裾を引っ張る。
「どうしました?」
「あ、いや。何も……」
アレクに話しかける女。目が離せない。守りたかった笑顔が、目の前にあった。
「ユーリ……」
チャミちゃんの心配する声にオレはきちんと返事出来たのだろうか。
「不思議な感じですね」
「古い建物を補強してるのかなー?」
大きな建物が立つ街なのは見えていた。だが、建物の基礎や中に蜂が巣を作るような茶色い巣材があちこちにたくさん見える。もとの建物とあまりに違う壁色がアンバランスだ。
「昆虫型しかいないのか?」
歩く人々は触覚や特徴的な節のある腕から虫の類いからの進化であると見て取れた。
鳥型の人は見当たらない。先ほどの鳥の女は求める者でたまたまあそこを通っただけだったのだろうか。
「虫の楽園へようこそ、求める者達」
蝶の羽を持つ人が一人、オレ達に話しかけてきた。
服の意匠が凝っていた。先ほど見た鳥の女とは違い、手触りがなめらかそうな艶々した生地。模様は刺繍しているのだろうか。己の羽を模したかのような美しい模様で彩られた衣裳を纏っていた。
「ここでは何ですので良ければうちにきませんか?」
オレは嫌な予感がした。ナツメの時、そうだったので何か裏があるのではないかと思うようになった。
「あの、それよりあの力、赤い光に触れたいのですが誰かに許可が必要だったりするんですか?」
チャミちゃんが動かないオレの変わりに質問してくれた。だが、それを聞いて良かったのか……。
「大丈夫ですよ。王が認めれば」
蝶の羽を持つ男は顔を花のように美しく咲かせて見せた。
◇
街の中を歩いていく。どこを見ても虫型の人達だ。
「ここです」
蝶の人、名前はアレクというらしい。彼が連れてきてくれたのは、大きな建物の中でも一、二の高さのものだった。
「大きいですね」
「もしかしてこの街の偉い人?」
ヨキが屈託なく話しかける。こういうところは子どもらしい行動が出来て助かる。
「はい、この街の王を支える一人です。他にも三人いますが、今回は僕が案内する番なので」
「求める者がよく来るんですか?」
「……」
アレクの目が少しキツくなったのをオレは見逃さなかった。
「ええ、ですが最近は見かけなくなっていますね。さぁ、中にどうぞ」
「ありがとうございます」
建物の中は見た目ほど侵食されていないのか、オレのよく知る人の建物の壁や床だった。
「お帰りなさいませ。アレク様」
蝶の羽を持つ女がオレ達に微笑む。その笑顔にオレは固まってしまった。
リーゼ――。
オレの事を裏切り者と言った、だけど大切な人。大切だった人。
その人と同じ笑顔が、オレではない男に向けられる。
どうして、ここに?
別人だと思いたい。だけど、あまりに同じ姿で、同じ声で、同じ瞳で……。
「こちらに座って下さい」
「はい」
「はーい」
チャミちゃんが服の裾を引っ張る。
「どうしました?」
「あ、いや。何も……」
アレクに話しかける女。目が離せない。守りたかった笑顔が、目の前にあった。
「ユーリ……」
チャミちゃんの心配する声にオレはきちんと返事出来たのだろうか。
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