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前編

息苦しさと朝の散歩

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「メイラ? あぁ、ある」

 あるんだ! って、ちがーう! 聞きたいのはそこじゃなくて。

「キレイな人だよね」
「ん、あぁ、そうだな。美人だ」

 あ、……聞くんじゃなかったかなと後悔こうかいが襲ってくる。

「それにいいヤツだし、何より大事な人間だ」

 え? もしかして、外見だけじゃなくて、本当に中身まで知ってて?

「だから、レース頑張らないと駄目なんだ」
「そ、そうなんだ」

 私はブランケットをぎゅっと掴む。聞くんじゃなかった――。

「それがどうした?」
「ううん、何でもない」

 私はガバッと勢いよく顔をブランケットで隠す。ちょっと息苦しい。

「明日はレースの練習だね。頑張ろう」
「あぁ、……んー、まあいいか。おやすみ」

 まあいいか?
 アルテが何か言おうとしていたけど、私は頭の中を整理するのにいっぱいいっぱいで、ぎゅっと目を閉じて夢に落ちるのを待っていた。

 外見じゃなくて、ちゃんと中身を見てくれる人がいた。だけどその人は、私じゃない人を見てて――。
 どうしようもなく、妹姫メイラうらやましくて――。私はつらい気持ちにふたをする。
 そうだ、応援するって、決めたじゃない。ちゃんと応援して、それで腕輪を返してもらって、それで――――。

 それで、お別れしなきゃ。

 ◆

 城の一室で今日も僕はイライラする。

「見つかったか!?」
「ダメです! この街にはやはり」

 変わらない報告にげんなりする。
 すると、クロネが一歩前に出て、頭を下げた。

「アルベルト様! エリーナ様はもしかしたら隣街に移動されたのかもしれません」
「何? クロネには何か思い当たる場所があるのか!」
「はい、ですが――」
「すぐに行くぞ!!」

 クロネが次の言葉を発する前に僕は言葉を被せて命令を出す。
 必ず見つける。僕の大切な水の妖精フェアリー。彼女を幸せに出きるのは僕だけだ。

 ◇

「ねぇ、アルテ? ハイエアートは?」
「ん、昼からでいいだろう。こっちだ」

 朝御飯を済ませたあと、アルテに連れられて街を散歩中だ。

「何処に行くの?」
「もうすぐ着く」

 アルテの言葉が少ない気がする。私は、少し早歩きの彼に合わせるためにたまに走って追いかける。
 いったいどこに連れていくつもりなのだろう。

「おーい、フラン。いいか?」
「はーい、おはよう。アルテっと、そっちがあの彼女ね」

 くすくすと笑いながら、金色の髪の女の人が顔を出す。
 背が高くてカッコいいのに、青い瞳で優しく笑み、可愛さも兼ね備える美人さんだ。

「すごい……、キレイなかたですね」
「あら、ありがとう。可愛い子ね! 妖精ちゃんみたい」
「いいから、あとはまかせる」
「はいはい、どうぞ。入ってー」
「あの?」
「私はフラン、フランチェスカよ。だからフラン。よろしくね」

 名前を教えてもらったので私も、名前を告げる。

「エリーナです。よろしくお願いします」
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