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前編
大好き
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「おはようございます」
「誰だ、お前は」
玄関の扉を開けるとそこには、朝から、不穏な顔があった。
「そちらの青髪の女性に僕は用があるのですが」
アルテが私を後ろに隠す。
金色の髪、緑色の瞳、どこかの王子様によく似た顔だけど、あの人より長い後ろ髪を小さく束ねている。
アルベルトの弟で第二王子のクレスヘラ。
とても賢くて、パッと見はメイラにも似ている。ただ、性格が黒いキャラなのよね。たしか隠しキャラで、この人のルートだと兄のアルベルトは追いやられ、私とアルベルトは二人辺境に行くことになるストーリーだったかな。
ヤンでる! 黒い!! でもいい! ってサイトでもかなりの評判だったような。
「あの、何かご用ですか?」
私は、そっと後ろから顔を出す。今までの感じだと、皆、私がアルベルト一筋だから、他の男にくっつくなんて! で、別人だと思ってくれているし、クレスヘラもきっと――。
「あれ、髪が……。それに……小汚ない格好ですね」
ぴきりとこめかみに怒りマークが浮かんだ気がする。
これ、毎日洗濯してますよ? お風呂だってちゃんと入ってます!
「お前は喧嘩を売りにきたのか?」
アルテが低い声でクレスヘラに言うと、王子の護衛であろう二人が前に出ようとした。
それをクレスヘラは手で制してにこにことしながら答える。
「いえ、少しお願いがあって参りました」
「お願いですか?」
「えぇ、僕はあなたの事は何とも思っていないのでどこの誰だろうと全然かまわないのですが、ある人が気に掛けているようでして――。で、ですね、その人があなたの事をエリーナという女性だと思わせて欲しいのです」
「あ、あの意味がわかり――」
「お前はまず何もんだ!」
あ、そうだった。名乗ってないじゃない。この人。
「これはこれは、僕の顔を知らないはずはないと思いますが……、この国の王子ですよ、まさか知らないと?」
「あの、申し訳ないのですが、私はサンスコーンの者でして。――ウィンディーネ」
私は精霊を呼び出し、目の前に浮いてもらった。
これで、証明になったりするかな?
「へぇ、すごいね。精霊だ。この国には使える人がいないはずだからそうだね。君はたしかにサンスコーンからのお客様らしい」
「俺もだ、サラマンデル」
アルテもサラマンデルを呼び出した。
「そうか、クロネの目撃情報はハズレだったんだね。似てるけど。でも、ちょうどいいや」
にこにこと綺麗な顔でクレスヘラは笑う。
「兄上を追い落とすのには愛し合ってる本物より偽者の方が都合がいいからね。だって、好きでもない赤の他人だから、お金でやってくれるよね?」
うわー、典型的な悪役っぽいセリフがでちゃったー!!
「厄介事はゴメンだ! 他を当たれ」
「そうですか、残念です。引き受けてくれるならレースで――」
「いらねぇ」
バタリと、アルテは容赦なく扉を閉めた。
えっと、王子様にその対応はいいんでしょうか? 扉の向こう側が怖い。
「なんか、面倒なことになりそうだな」
ポリポリと頭をかきながらアルテは何か考えているようだった。
「ゴメンね」
私が謝ると、アルテは優しく微笑みながら聞いてきた。
「追い落とされる王子が気になるのか?」
あ、そっちは別に……。うん、そういうルートもあるし、ねぇ。でも、いまは一緒に行ってくれる子がいないのか。ちょっと、可愛そうかな。
ただ、今一番気になるのは、
「――アルテに迷惑が」
「かかってねーよ。それに、お前はリリーナだろ」
「あ、そうか」
「ぷっ、なんだそりゃ」
あははと笑いだしたあと、アルテはキッチンに私を連れていく。
「朝食、ホットケーキでいいか?」
「うん、大好き!」
…………。あっ!
「ホットケーキがだよ!」
「わかってるって」
かかっと笑いながらアルテはキッチンに向かう。
私は横でじーっと作り方を見て覚えた。今度は私が焼いてあげられるように――。
「誰だ、お前は」
玄関の扉を開けるとそこには、朝から、不穏な顔があった。
「そちらの青髪の女性に僕は用があるのですが」
アルテが私を後ろに隠す。
金色の髪、緑色の瞳、どこかの王子様によく似た顔だけど、あの人より長い後ろ髪を小さく束ねている。
アルベルトの弟で第二王子のクレスヘラ。
とても賢くて、パッと見はメイラにも似ている。ただ、性格が黒いキャラなのよね。たしか隠しキャラで、この人のルートだと兄のアルベルトは追いやられ、私とアルベルトは二人辺境に行くことになるストーリーだったかな。
ヤンでる! 黒い!! でもいい! ってサイトでもかなりの評判だったような。
「あの、何かご用ですか?」
私は、そっと後ろから顔を出す。今までの感じだと、皆、私がアルベルト一筋だから、他の男にくっつくなんて! で、別人だと思ってくれているし、クレスヘラもきっと――。
「あれ、髪が……。それに……小汚ない格好ですね」
ぴきりとこめかみに怒りマークが浮かんだ気がする。
これ、毎日洗濯してますよ? お風呂だってちゃんと入ってます!
「お前は喧嘩を売りにきたのか?」
アルテが低い声でクレスヘラに言うと、王子の護衛であろう二人が前に出ようとした。
それをクレスヘラは手で制してにこにことしながら答える。
「いえ、少しお願いがあって参りました」
「お願いですか?」
「えぇ、僕はあなたの事は何とも思っていないのでどこの誰だろうと全然かまわないのですが、ある人が気に掛けているようでして――。で、ですね、その人があなたの事をエリーナという女性だと思わせて欲しいのです」
「あ、あの意味がわかり――」
「お前はまず何もんだ!」
あ、そうだった。名乗ってないじゃない。この人。
「これはこれは、僕の顔を知らないはずはないと思いますが……、この国の王子ですよ、まさか知らないと?」
「あの、申し訳ないのですが、私はサンスコーンの者でして。――ウィンディーネ」
私は精霊を呼び出し、目の前に浮いてもらった。
これで、証明になったりするかな?
「へぇ、すごいね。精霊だ。この国には使える人がいないはずだからそうだね。君はたしかにサンスコーンからのお客様らしい」
「俺もだ、サラマンデル」
アルテもサラマンデルを呼び出した。
「そうか、クロネの目撃情報はハズレだったんだね。似てるけど。でも、ちょうどいいや」
にこにこと綺麗な顔でクレスヘラは笑う。
「兄上を追い落とすのには愛し合ってる本物より偽者の方が都合がいいからね。だって、好きでもない赤の他人だから、お金でやってくれるよね?」
うわー、典型的な悪役っぽいセリフがでちゃったー!!
「厄介事はゴメンだ! 他を当たれ」
「そうですか、残念です。引き受けてくれるならレースで――」
「いらねぇ」
バタリと、アルテは容赦なく扉を閉めた。
えっと、王子様にその対応はいいんでしょうか? 扉の向こう側が怖い。
「なんか、面倒なことになりそうだな」
ポリポリと頭をかきながらアルテは何か考えているようだった。
「ゴメンね」
私が謝ると、アルテは優しく微笑みながら聞いてきた。
「追い落とされる王子が気になるのか?」
あ、そっちは別に……。うん、そういうルートもあるし、ねぇ。でも、いまは一緒に行ってくれる子がいないのか。ちょっと、可愛そうかな。
ただ、今一番気になるのは、
「――アルテに迷惑が」
「かかってねーよ。それに、お前はリリーナだろ」
「あ、そうか」
「ぷっ、なんだそりゃ」
あははと笑いだしたあと、アルテはキッチンに私を連れていく。
「朝食、ホットケーキでいいか?」
「うん、大好き!」
…………。あっ!
「ホットケーキがだよ!」
「わかってるって」
かかっと笑いながらアルテはキッチンに向かう。
私は横でじーっと作り方を見て覚えた。今度は私が焼いてあげられるように――。
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