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前編

誰だっけ、あの人

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「これは――」
「ん」
「ごめんね、何かあった?」

 ルミナスはがっかりな顔をしていた。
 駄目だったかなぁ。

「初めてでこれなら上手い。気にするな」
「うん、難しいね。料理って」

 起動確認が終わって、晩御飯の用意をしたんだけど、今日は晩御飯の一品を、教えてもらいながら手伝ったの。切り揃えたり、皮をむいたり、なかなか難しい。
 アルテみたいにトントントンてリズミカルに切るなんて無理だった。

「いきなりプロ級に出来たら、誰も苦労しないぞ」
「うん、そうだね」
「毎日毎日やるから、成長するんだ」
「うん」
「これは俺が全部食ってやるから、お前らは俺の料理を食っとけ」
「え、でも……」
「ここからどう成長するか、しっかり覚えてやるよ」

 アルテはそう言って、私が作った分をすべてたいらげていた。
 かなりの量だったと思うけれど――。

 料理の間中、彼は、はらはらどきどきしながらも必要以上のことは口出ししてこなかった。
 何度もやって体で覚えろってことですね。調理実習だけじゃ、ダメダメだなぁ。と、すごく実感する。

「ルミナスは舌が肥えすぎだ。それじゃあ、ってまあ、お前は必要ないもんな」
「ん?」
「いや、何でもねぇよ」

 二人の関係が、よくわからない。護衛する対象だったらもっとこう主従関係っぽくならないのかな? 二人からは、まるで親友や兄弟みたいな感じがする。

 ◇

「ねぇ、ルミナスはもしかしてどこかの国の王子様だったりする?」

 夜、ルミナスが帰ったあと、アルテに聞いてみた。

「あぁ、そうだ。あいつは王子だ」

 とてもあっさりとアルテは認める。あまり大きな国の王子様ではないのかな。ゲームには登場してなかったはずだし……。
 ゲームの知識、しかも一部に特化した記憶しかないから、この世界の国とか人の名前なんて私はほとんどわからない。

「お前と一緒だよ。本当の名前は違う。俺もな」
「そうなんだ……。あまりその先は聞かない方がいい?」
「……そうだな。難しいかもしれない」
「そっかぁ」

 難しいって、どういうことなのだろう。もしかして、ルミナスは敵対国家の王子様とか!?
 うーん、わからないや。ゲームの本当のこの子ライバル役令嬢だったら、何かわかったりしたのかな?

「お互い嘘つきなんですね」
「あぁ、そうだな」
「嘘つきで、最初泥棒に間違うなんて嫌な出会い方ですねー」

 そう言った時、アルテは少し目を見開いてから頭を下げてきた。

「すまなかった」

 私、何でこんなこと……。

「あの、ごめんね。気にしてないから。むしろ、感謝してるの。一緒に宝物を探してくれて、料理を教えてくれて、大事なことを教えてくれて……。だから……」

 ポロポロと泣きたくもないのに涙が出てくる。何で? どうして、涙が出てくるの?

「こんなにデカイのから掴まれて、泥棒呼ばわりされて、怖かっただろう。すまなかった。腕輪は、なんとか戻す方法を探す。割ってしまったら、幸運がどうなるかわからない。だから、きちんとした形で、絶対に――」

 でもね、その腕輪が返ってきたら、私とアルテは――。

「うん、きちんと返して下さいよ。 私の幸運。だから、頭をあげて下さい」

 すっと、アルテが頭をあげる。あれ、前にも同じようなことがどこかで……。

「俺は、約束を守る。リリーナに腕輪を返すまでは宝探しを、手伝う。だから、――」

 私は袖で涙を拭う。それから、彼の顔を見た。
 金色の瞳がまっすぐに私を見据えている。

「それまでは相棒でいてくれ」

 私はゆっくりと頷いた。

「こちらこそ。よろしく、アルテ」

 いつだったかな。前にも私、こんな風に誰かに謝られたっけ。
 誰だっけ、あの人。
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