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後編
料理人
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「あの、アルテ?」
「あー、待ってくれ。おかしい事を言った……。ここまで言ってしまったが、もしそうでも、違っても、まずはアイツらが先だ。その時に一緒に説明したい」
「アイツら?」
「明日、少し付き合ってくれ」
アルテはそう言うと、立ち上がって、連絡してくると外に一人出ていった。
もしかして、中身が女の子だから、可愛い妹とかそんな感じで見てたのかな。それとも、ゲームキャラだから何とも思わない?
私が好きなアルテはアルテじゃなかった?
頭の中を同じ考えがぐるぐるぐるぐるとまわる。
「明日、わかる……?」
私は、彼が戻ってくるまでずっとずっと考えていた。
少しして戻ってきた彼は、角で小指をぶつけてしゃがみこんだ。小さな不幸で凹んでいたのでウィンディーネを呼んで、治してもらった。
◇
「こんにちは。リリィさんお久しぶり」
笑いながら、グリードと一緒にやってきたのは、宮廷料理人ザイラだった。
「あの、もういいです。バレてるのに……」
「エリーナ様、くくっ、すみません。まさか、ご本人だったとは。あの声、くくくっ」
忘れて下さい。あの精一杯ボイスのことは……。
なかなか笑いがとまらないようなので私は真面目な話をする。
「筆頭魔術師に宮廷料理人、あちらの事は大丈夫なのですか?」
「問題ありません。むしろ、最近アルベルト様に嫌われたらしくて、オレ達レースの後は休暇貰ってたんで」
「え? でも、護衛って」
「アルベルト様、情緒不安定なんですよ。マリッジブルーですかね。あ、オレは直接頼まれてないんで、こいつに引っ張ってこられたんです」
「そうですか」
アルベルトは、臣下から見てもやはり少しおかしいのか。
「最近、オレ達もおかしかったんですよ。グリードに、聞かされるまで、自覚がなかったんだけど……。何か嫌な空気が広がっているとか」
それは、ナホの【魅了】のせいだろうか……。それともシナリオをねじ曲げた、私のせい?
「ここなら、そういうのがないみたいなんで、のびのび仕事させてもらいますよ! よろしく、アルテ様」
「おう。ザイラ、だったな。よろしく。俺はアルテでいい」
「はい」
そんな会話を横で聞きながら、今日という時間がどんどん進んでいった。晩御飯……。
「キッチン貸してもらっていいですか? オレが今日から作るんで」
「えっと……」
アルテの方を見ると、悩んでいるようだったが、楽しそうでもあった。
「宮廷料理人か。ぜひ調理するところを見せてくれ。あ、当番制にするか。俺も腕を落としたくないんだ」
当番制かぁ。まるでシェアハウスみたい。
あ、私も参加したいって言ったら迷惑かな……。二人のプロ級相手に言葉が出せなくてしょんぼりしているとアルテがぐいっと手を引っ張る。
「エリナにも教えてやってくれ」
ザイラは驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔で了解してくれた。
うん、いい人だ。
今日の晩御飯。本物のプロ、――すごいことになりそうだ……。
さて、仕込みに入りますかと言って、ザイラが用意を始める。
材料のストックとかは大丈夫なのかな? と、思っていたらたくさんの材料をグリードが持ってきていた。父親からだそうだ。
あんなことするけれど、娘のことちゃんと愛しているんだな。なんて、思っていたら手紙が入っていた。なんだがどす黒い封筒に、アルテ宛てらしい、緑髪の男へと書いてあった。
見ないことにして、私はそっと自分の鞄にしまっておいた。
「うわぁぁぁ、料理がまぶしい!」
「きれいだな。盛り付けまで繊細だ」
「ありがとうございます。さぁ、あたたかいうちにどうぞお召し上がりください」
高級料理店のコース料理ですね。わかります。ごめんなさい、嘘です。私の生きてきた知識では名称はわかりません。助けて、ぐー○る先生。それにしても、何これ、芸術品?
手をつけるのが勿体ないよ。でも、あたたかいうちにって言われたし、覚悟を決めてフォークとナイフを手に持った。
「美味しいです」
うん、本当に美味しい時はこの言葉が真っ先に出るね。
「ありがとうございます」
攻略キャラだけあって、ザイラもまたカッコいい顔で微笑んでくれる。乙女ゲームの美形度って、本当にすごい。
「それじゃあ、オレ達もいただきますね」
別に食べると言っていたけれど、私は皆で一緒に食べようとお願いしたので、四人で食卓を囲む。
今日の一件ですごくもやもやしているから、二人きりだとぎこちなくなりそうで――。はやく、はっきりさせたい。
「なるほど、ここで火を入れて、……、勉強になるな」
「すみません、勝手がかなり違うので変則的にしていますが」
「いや、他人の料理するところを見るのは本当にいい勉強になる。ありがたい」
「そうですか、ここはオレはこうするんですが、アルテは――」
料理談義が始まっていた。私と彼らは料理の見てるところがそもそも違うらしい。ちょっと距離を感じて少し、寂しかった。
「エリーナ様」
「はい」
「明日のご予定はどうなっていますか?」
「あ、えっと――」
まるで、気を使うようにグリードが声をかけてくれる。
「明日はアルテの用事に付き合うと――」
「では、そのように」
やっぱり、グリードもついてくるんだよね。いいのかな?
「あー、待ってくれ。おかしい事を言った……。ここまで言ってしまったが、もしそうでも、違っても、まずはアイツらが先だ。その時に一緒に説明したい」
「アイツら?」
「明日、少し付き合ってくれ」
アルテはそう言うと、立ち上がって、連絡してくると外に一人出ていった。
もしかして、中身が女の子だから、可愛い妹とかそんな感じで見てたのかな。それとも、ゲームキャラだから何とも思わない?
私が好きなアルテはアルテじゃなかった?
頭の中を同じ考えがぐるぐるぐるぐるとまわる。
「明日、わかる……?」
私は、彼が戻ってくるまでずっとずっと考えていた。
少しして戻ってきた彼は、角で小指をぶつけてしゃがみこんだ。小さな不幸で凹んでいたのでウィンディーネを呼んで、治してもらった。
◇
「こんにちは。リリィさんお久しぶり」
笑いながら、グリードと一緒にやってきたのは、宮廷料理人ザイラだった。
「あの、もういいです。バレてるのに……」
「エリーナ様、くくっ、すみません。まさか、ご本人だったとは。あの声、くくくっ」
忘れて下さい。あの精一杯ボイスのことは……。
なかなか笑いがとまらないようなので私は真面目な話をする。
「筆頭魔術師に宮廷料理人、あちらの事は大丈夫なのですか?」
「問題ありません。むしろ、最近アルベルト様に嫌われたらしくて、オレ達レースの後は休暇貰ってたんで」
「え? でも、護衛って」
「アルベルト様、情緒不安定なんですよ。マリッジブルーですかね。あ、オレは直接頼まれてないんで、こいつに引っ張ってこられたんです」
「そうですか」
アルベルトは、臣下から見てもやはり少しおかしいのか。
「最近、オレ達もおかしかったんですよ。グリードに、聞かされるまで、自覚がなかったんだけど……。何か嫌な空気が広がっているとか」
それは、ナホの【魅了】のせいだろうか……。それともシナリオをねじ曲げた、私のせい?
「ここなら、そういうのがないみたいなんで、のびのび仕事させてもらいますよ! よろしく、アルテ様」
「おう。ザイラ、だったな。よろしく。俺はアルテでいい」
「はい」
そんな会話を横で聞きながら、今日という時間がどんどん進んでいった。晩御飯……。
「キッチン貸してもらっていいですか? オレが今日から作るんで」
「えっと……」
アルテの方を見ると、悩んでいるようだったが、楽しそうでもあった。
「宮廷料理人か。ぜひ調理するところを見せてくれ。あ、当番制にするか。俺も腕を落としたくないんだ」
当番制かぁ。まるでシェアハウスみたい。
あ、私も参加したいって言ったら迷惑かな……。二人のプロ級相手に言葉が出せなくてしょんぼりしているとアルテがぐいっと手を引っ張る。
「エリナにも教えてやってくれ」
ザイラは驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔で了解してくれた。
うん、いい人だ。
今日の晩御飯。本物のプロ、――すごいことになりそうだ……。
さて、仕込みに入りますかと言って、ザイラが用意を始める。
材料のストックとかは大丈夫なのかな? と、思っていたらたくさんの材料をグリードが持ってきていた。父親からだそうだ。
あんなことするけれど、娘のことちゃんと愛しているんだな。なんて、思っていたら手紙が入っていた。なんだがどす黒い封筒に、アルテ宛てらしい、緑髪の男へと書いてあった。
見ないことにして、私はそっと自分の鞄にしまっておいた。
「うわぁぁぁ、料理がまぶしい!」
「きれいだな。盛り付けまで繊細だ」
「ありがとうございます。さぁ、あたたかいうちにどうぞお召し上がりください」
高級料理店のコース料理ですね。わかります。ごめんなさい、嘘です。私の生きてきた知識では名称はわかりません。助けて、ぐー○る先生。それにしても、何これ、芸術品?
手をつけるのが勿体ないよ。でも、あたたかいうちにって言われたし、覚悟を決めてフォークとナイフを手に持った。
「美味しいです」
うん、本当に美味しい時はこの言葉が真っ先に出るね。
「ありがとうございます」
攻略キャラだけあって、ザイラもまたカッコいい顔で微笑んでくれる。乙女ゲームの美形度って、本当にすごい。
「それじゃあ、オレ達もいただきますね」
別に食べると言っていたけれど、私は皆で一緒に食べようとお願いしたので、四人で食卓を囲む。
今日の一件ですごくもやもやしているから、二人きりだとぎこちなくなりそうで――。はやく、はっきりさせたい。
「なるほど、ここで火を入れて、……、勉強になるな」
「すみません、勝手がかなり違うので変則的にしていますが」
「いや、他人の料理するところを見るのは本当にいい勉強になる。ありがたい」
「そうですか、ここはオレはこうするんですが、アルテは――」
料理談義が始まっていた。私と彼らは料理の見てるところがそもそも違うらしい。ちょっと距離を感じて少し、寂しかった。
「エリーナ様」
「はい」
「明日のご予定はどうなっていますか?」
「あ、えっと――」
まるで、気を使うようにグリードが声をかけてくれる。
「明日はアルテの用事に付き合うと――」
「では、そのように」
やっぱり、グリードもついてくるんだよね。いいのかな?
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