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第一章 聖女と竜

第1話 婚約破棄された聖女は竜の餌?

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 あの人との出会いはそれはもう最悪さいあくだった。
 悲しみに暮れる私に追い打ちをかけ、あまつさえあんなことをしてきた。もう、絶対、忘れることなんて出来ない。
 あんなに、あんなに……。

 ◇◇◇

 私が住む国の城にある祈りの間。いつものように私は祈りを終えて一息ついていた。あぁ、一仕事のあとのお菓子はとっても美味おいしいです。面倒で着替えをしないままひょいひょいと甘い物をつまんで口に入れていく。この一時ひとときがないとこの仕事瘴気の浄化なんてやってられないわ。
 そんな時だった。

「エマ、お前はもう用なしだっ!!」
「え?」

 突然現れた婚約者は私に冷たい言葉を浴びせる。祈りの時につける薄布のベール越しに相手を見た。
 彼は桃色の瞳を持つ見目麗みめうるわしい女を連れてきていた。
 ――えっと、誰?

「彼女にも聖なる力がある。ならば、醜く肥え太ったお前にこの場所を任せておく必要はない」
「え、え?」
「毎日毎日、食べて寝るだけ。動かず、ずっとここに居続ける。まったく、最悪の聖女だ。いや、聖女というのもおこがましい。この悪女め。お前との婚約など破棄してやる!!」

 呆然とする私をよそに婚約者は私の腕を掴み指から婚約の証の指輪を取り上げた。
 愛していると言って渡してくれた指輪。
 つけた瞬間私からとても強い力が溢れた。きっと彼が私を助けてくれるようにと作ってくれた力の増幅魔法付きの指輪。
 渡してくれた人に目の前で奪われて、宝石の光が小さくなっていった。

「これは今日からキミがつけるといい」
「嬉しい。殿下」

 指輪は何度かサイズ直しをしてもらった。だからだろう、細い指にはするりどころかすかすかだ。
 悲しい。悔しい。私だって、もらったときはもっと――。
 そこからの私の記憶は少し曖昧あいまいだ。
 城から追い出されて、宿無し、飯なし、婚約者なしになった。けれど、かわりに……自由を手に入れた。

 ◇

 世界に瘴気と呼ばれるものが噴き出すようになったのは千年前だそうだ。
 それに触れると弱いものは死に、生き残っても動物は怪物になり、人も人でなくなってしまう。
 それを浄化するために捧げられた少女がいた。彼女は瘴気に触れても人としてあり続けた。その力はそれだけでなく、瘴気すら消すことができた。伝説では巨大な力を持つ竜と力を合わせすべての瘴気を消そうとしたが、力が足りず彼女は息を引き取ったそうだ。
 子孫を絶やさぬようにと彼女の血族はたくさんの子供を作らされた。子どもたちは瘴気のある国へと派遣されたり、結婚相手として送られたり、各国で管理されているそうだ。私もその一人だと思う。聞いた話によると、だけれど。
 瞳の色が赤いほど力が強いそうだ。私の色は赤色。そう、伝説の彼女と同じ色で、とても強い色――のはずだった。あの桃色の人よりも。

「もう、私がこんなに食べるのはストレスからだってぇぇ、絶対に!! あんなに頑張ってたのに、なんでよぉぉぉ」
「はいはい。間に合って良かったよ。いきなり放り出されて、はいさよなら~、なんて危ないにもほどがあるよな」

 私についてきてくれたのは幼なじみの女騎士。名前はルニア。彼女は女性でありながら一個の騎士団を任されていた人物だ。言動は男っぽいけれど、でるとこ出ているプロポーション抜群の女の子。金に輝く短い髪に水色の瞳は一見すればステキな王子様。生まれてくる性別間違った? そんな彼女だけど、今は――。

「本当にやめちゃうの?」
「うん? 別にいいだろ。エマの方が大事だし。騎士団はアイツにとられちゃったからね」

 数週間前、彼女は団長から一般兵に引き下ろされたそうだ。
 知らなかった。ずっと、あの部屋で過ごしていて、お世話役の人から聞いた話などしか知らないから。大変だったのだろう。ルニアとの久しぶりの再会が今日だった。

「一緒に新天地でハッピーライフと決め込もうぜ」
「ありがとう。ルニア」

 私達は連れてこられた山のその先に進む。この先は瘴気が深くて進めない場所だけれど――。
 手をかざしいつものようにする。あの指輪はもうないけれどこれくらいなら私だけの力でだって――。

「おぉ、さすがは聖女様」
「やだなぁ、首になったんだよ。もう……」

 自分のために瘴気を消すせいか、いつものように何か食べたくて仕方がないという気持ちはそこまで湧いてこなかった。うん、ちょっとだけ。ほんの少しだけよ? ホント。
 瘴気が消え、目の前に広がるのは鬱蒼とした森と坂道。

「痩せられそう」
「そりゃぁ、よかったな」

 二人で坂道を登りだす。登り……、なんかでっかいのが邪魔してるんですけど? 私達の第一歩を邪魔しないでもらえますっ!?
 赤色の大きなからだと金色の瞳。顔をしかめ光るその目でぎろりとこちらを見ていた。

ドラゴンじゃん!!」
「見てわかるよ!」
「あー、さすがにわたし、死にたくないなぁー」
「ちょっと、何で私を押すのよ」
「あ、ほら聖女様だし、竜も逃げ出すんじゃないかなぁーって」

 私をエサにするつもりじゃないですよね? 騎士のくせにぃぃ、って、彼女騎士やめたんだったぁぁ!

「……そんな脂肪をたっぷり食べたら腹壊すだろ」

 地面からそんな声が響いてきた。
 何……、私のこれは怠惰によるものじゃないんだからね!!
 私の中でぷちりと何かがぶちきれる。

「誰が脂肪だ、この赤とかげぇぇぇぇぇぇ!! これはストレスのせいよぉぉぉぉぉ」

 攻撃魔法なんて私は使えない。だけど、唯一使える浄化魔法を展開する。

「喰らえっ!! 聖女の一撃ホーリーストライクっっっ!!!!」

 もちろん、攻撃魔法じゃないからダメージなんて受けないはずだけど、ノリだけで放ってしまった。
 あぁ、竜を浄化してどうするのよ、私ぃ!
 光に包まれた竜はなぜかもんどりうっていた。
 あ、ヤバい。怒らせた?

「何するんだ、ゲホッ」
「ん!?」
「んん!?」

 裸の男が現れた。
 倒しますか?
 →YES
 →NO

「服をぉぉぉぉぉ!!」

 私は彼に自分の羽織っていたマントを投げつける。赤い髪の男が真ん丸な黄金色の瞳で自分の体を見て確かめていた。

「お、おぉぉ、竜化が解けた!! 解けた!!」

 なんか、すごく喜んでいるんだけど、何?
 あと、ルニア、いつまで私を盾にしとくつもり?

「なぁ、あの男、もしかしてさっきの竜?」

 ルニアは頬をほんのり赤くしながら赤い髪の男を指差している。えっと、まさか好きになっちゃった?

「そうなのかな? もしそうなら」

 私は彼に近付いて思いっきり彼の頬に向かってパンチを繰り出す。

「おい、何をするんだ!」

 軽く避けられてしまった。まあ、いまの体じゃそんなはやい攻撃なんて出来ないけどさ! むー、一発位いれないと気が済まない。

「さっきの言葉の仕返しよ!」

 叫ぶと同時に彼に投げつけたマントがはらりと風に飛んでいった。

☆☆☆あとがき☆☆☆

ここまでお読みいただきありがとうございます。
追い出された聖女エマと赤い竜との出会い。ここからどうなっていくのでしょう。お付き合いいただければ幸いです。
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