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第一章 聖女と竜
第31話 瘴気の中の国へ(元婚約者私兵視点)
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我々はいまある国へと向かっている。瘴気に飲み込まれた国【マクプン】。
瘴気は意志を持っているかのように国境に沿って漂っている。もう目の前だ。
オレはこの私兵団にきてまだ日が浅い新人キルヒネア。騎士団入りを志望していたがこちらに回される予備兵団に入れられていたようだ。
前回の任務で数人が首になり私兵団へと回された。前回の失敗というのが何だったのかは下っ端には教えてもらえない。
「今回の任務はこの女と騎士団元団長ルニアの捕縛だ。情報によればこの先に消えたという話だ」
丸い女と憧れていた騎士団の元団長の似顔絵が提示される。この先に消えた。それはつまりその二人はすでに死んでいるか魔物となって森を徘徊する存在へと変貌してるのではないのだろうか。空高く続く瘴気の壁。これに触れて平気なのは赤い目の聖女達かその聖女達の髪を縫い込んだという瘴気を緩和させる道具を使った人間だ。我々は後者、道具を使って今からあの中へと入る。
「行くぞっ!!」
生きているか死んでいるかわからない人間を探すのに、オレは命をかけなければならないのか。
使い捨てでない事を祈りながらその道具だという外套を頭からかぶる。顔は覆わなくても大丈夫なのだろうか。
一人、一人と瘴気の壁に入っていく。悲鳴は聞こえない。
足を踏み入れる。瘴気に触れるなど恐ろしい体験を今からするのか。震えている。情けない。一気にもう一歩を踏み出した。一歩、一歩進む。自分に変化は訪れない。冷や汗だけがつーっと頬を流れていく。
「道がある」
「空が見えるぞ」
目の前の瘴気はそれほどの厚みはなかった。少し進めば晴れ渡った空と地面が広がっている。
「瘴気が全部ではないのだな」
一人、また一人入ってきて驚いている。
「まだ外套を外すな! 何があるかわからんぞ」
一番手に入った男が声を上げる。油断してはいけない。その中だから見えないだけでここは瘴気だらけかもしれないのだ。
オレは外套の上の部分を掴み、フードを深く被った。
「出発だ」
もしここが見た通りの瘴気の世界でないのなら。確かにあの二人は通り抜け生きているのかもしれない。
連れて戻る。それだけ重要な人物だったのだろうか。
女二人、死ぬとわかっている道を進んだ。
騎士団をやめさせられたという女騎士の気持ちはわかる気がする。だが、もう一人はいったい誰なのだろう?
王子の女……にしては趣味が、おっとこれ以上詮索はしないほうがいいか。
オレ達はラヴェル王子の私兵団。あの人の一存で進退は……いや生死すらも決まってしまう。
首をふり、前を向く。ふと違和感があった。オレの爪はあんなに伸びていたか?
無事戻ったら切らないとな。
数人ずつのパーティーに別れオレ達は女二人の捜索へと向かった。
「おい――」
声をかけられ、足を止める。低い声が足を伝ってくる。目の前に立つ男が発したのだろうか。
闇のような黒い髪、黒い瞳の男。体には何かの鱗で作られた甲冑をまとっているように見えた。
この中で人間が生きている。二人の生存はあり得る。そして二人に繋がるかもしれない。オレ達は頷きあい武器に手をかける。
「どこから入ってきたか知らないがはやくここから消えたほうがいいぞ」
男は地面を見てそう言った。
「そうはいかない。我々は大切な使命を持ってここにきたのだ。ある人物の無事を確認し連れて帰らなければならない。もし知っていれば教えてもらえないか? 最近この中で出会った人物を」
パーティーの中で一番年上のリーダーが男に問いかける。
男は地面からこちらに少しだけ視線を移した。けれどすぐにまた地面を見る。そこに何があるというのだろう。
「何故お前達から彼女の匂いがするんだ」
男はぶつぶつと小さな声で呟いている。
「……? 何のことだ?」
男は急にこちらを睨みつける。恨まれるような覚えはないのにずっと前からの仇であるような憎しみの目で。
「返せ、それを――」
途端、男がこちらへと跳躍してくる。はやい。相手は素手であったから油断していた。武器を構えていれば……。
体にかかっているほんの少しの重みがなくなった。かぶっていた外套を全員剥ぎ取られていた。
「何をするっ」
「あっちにもいるな……」
男はその場から消えた。手が震える。剥ぎ取られた時に見えた男の体は甲冑などではなかった。体から鱗がはえていた。
「アイツは人間じゃないっ」
オレはリーダーに進言する。
「やはり、この中で人は生きられぬか――、だがどうする。我らの外套がヤツに取られた。取り戻さねば、我らも――っ!?」
足元の空気の色が変わった。これは瘴気が噴き上がる直前の。
「離れろ! すぐに!!」
恐怖で足が動かなかった。すでに瘴気に触れていたせいもあるかもしれない。瘴気にふれたものがどうなるか――。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
その場にいた全員が飲み込まれた。
……。誰か……水を……、喉が痛くて声が……出ない。手が痺れて……。オレの手……、こんなに毛むくじゃらだったか……? なんだこの爪は?
「――残ったのは二人だけか」
男が戻ってきていた。あたりに瘴気がなくなっている。どういうことだ? ここに赤い目の聖女がいるとでもいうのだろうか。聞きたいけれど言葉が喉で止まって出てこない。
「意識がまだあるのはつらいか? 次の場所に転がしておいてやる。次でお前達は…………」
男の背中に黒い大きな翼がはえた。
化けモノ……。
「それはお前達が今からなるものだ」
口の動きから読み取られたのだろうか。オレ達がなる?
瘴気に触れた者は死ぬか化けモノになる。
嫌だ、嫌だ、嫌だっ!!
瘴気は意志を持っているかのように国境に沿って漂っている。もう目の前だ。
オレはこの私兵団にきてまだ日が浅い新人キルヒネア。騎士団入りを志望していたがこちらに回される予備兵団に入れられていたようだ。
前回の任務で数人が首になり私兵団へと回された。前回の失敗というのが何だったのかは下っ端には教えてもらえない。
「今回の任務はこの女と騎士団元団長ルニアの捕縛だ。情報によればこの先に消えたという話だ」
丸い女と憧れていた騎士団の元団長の似顔絵が提示される。この先に消えた。それはつまりその二人はすでに死んでいるか魔物となって森を徘徊する存在へと変貌してるのではないのだろうか。空高く続く瘴気の壁。これに触れて平気なのは赤い目の聖女達かその聖女達の髪を縫い込んだという瘴気を緩和させる道具を使った人間だ。我々は後者、道具を使って今からあの中へと入る。
「行くぞっ!!」
生きているか死んでいるかわからない人間を探すのに、オレは命をかけなければならないのか。
使い捨てでない事を祈りながらその道具だという外套を頭からかぶる。顔は覆わなくても大丈夫なのだろうか。
一人、一人と瘴気の壁に入っていく。悲鳴は聞こえない。
足を踏み入れる。瘴気に触れるなど恐ろしい体験を今からするのか。震えている。情けない。一気にもう一歩を踏み出した。一歩、一歩進む。自分に変化は訪れない。冷や汗だけがつーっと頬を流れていく。
「道がある」
「空が見えるぞ」
目の前の瘴気はそれほどの厚みはなかった。少し進めば晴れ渡った空と地面が広がっている。
「瘴気が全部ではないのだな」
一人、また一人入ってきて驚いている。
「まだ外套を外すな! 何があるかわからんぞ」
一番手に入った男が声を上げる。油断してはいけない。その中だから見えないだけでここは瘴気だらけかもしれないのだ。
オレは外套の上の部分を掴み、フードを深く被った。
「出発だ」
もしここが見た通りの瘴気の世界でないのなら。確かにあの二人は通り抜け生きているのかもしれない。
連れて戻る。それだけ重要な人物だったのだろうか。
女二人、死ぬとわかっている道を進んだ。
騎士団をやめさせられたという女騎士の気持ちはわかる気がする。だが、もう一人はいったい誰なのだろう?
王子の女……にしては趣味が、おっとこれ以上詮索はしないほうがいいか。
オレ達はラヴェル王子の私兵団。あの人の一存で進退は……いや生死すらも決まってしまう。
首をふり、前を向く。ふと違和感があった。オレの爪はあんなに伸びていたか?
無事戻ったら切らないとな。
数人ずつのパーティーに別れオレ達は女二人の捜索へと向かった。
「おい――」
声をかけられ、足を止める。低い声が足を伝ってくる。目の前に立つ男が発したのだろうか。
闇のような黒い髪、黒い瞳の男。体には何かの鱗で作られた甲冑をまとっているように見えた。
この中で人間が生きている。二人の生存はあり得る。そして二人に繋がるかもしれない。オレ達は頷きあい武器に手をかける。
「どこから入ってきたか知らないがはやくここから消えたほうがいいぞ」
男は地面を見てそう言った。
「そうはいかない。我々は大切な使命を持ってここにきたのだ。ある人物の無事を確認し連れて帰らなければならない。もし知っていれば教えてもらえないか? 最近この中で出会った人物を」
パーティーの中で一番年上のリーダーが男に問いかける。
男は地面からこちらに少しだけ視線を移した。けれどすぐにまた地面を見る。そこに何があるというのだろう。
「何故お前達から彼女の匂いがするんだ」
男はぶつぶつと小さな声で呟いている。
「……? 何のことだ?」
男は急にこちらを睨みつける。恨まれるような覚えはないのにずっと前からの仇であるような憎しみの目で。
「返せ、それを――」
途端、男がこちらへと跳躍してくる。はやい。相手は素手であったから油断していた。武器を構えていれば……。
体にかかっているほんの少しの重みがなくなった。かぶっていた外套を全員剥ぎ取られていた。
「何をするっ」
「あっちにもいるな……」
男はその場から消えた。手が震える。剥ぎ取られた時に見えた男の体は甲冑などではなかった。体から鱗がはえていた。
「アイツは人間じゃないっ」
オレはリーダーに進言する。
「やはり、この中で人は生きられぬか――、だがどうする。我らの外套がヤツに取られた。取り戻さねば、我らも――っ!?」
足元の空気の色が変わった。これは瘴気が噴き上がる直前の。
「離れろ! すぐに!!」
恐怖で足が動かなかった。すでに瘴気に触れていたせいもあるかもしれない。瘴気にふれたものがどうなるか――。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」
その場にいた全員が飲み込まれた。
……。誰か……水を……、喉が痛くて声が……出ない。手が痺れて……。オレの手……、こんなに毛むくじゃらだったか……? なんだこの爪は?
「――残ったのは二人だけか」
男が戻ってきていた。あたりに瘴気がなくなっている。どういうことだ? ここに赤い目の聖女がいるとでもいうのだろうか。聞きたいけれど言葉が喉で止まって出てこない。
「意識がまだあるのはつらいか? 次の場所に転がしておいてやる。次でお前達は…………」
男の背中に黒い大きな翼がはえた。
化けモノ……。
「それはお前達が今からなるものだ」
口の動きから読み取られたのだろうか。オレ達がなる?
瘴気に触れた者は死ぬか化けモノになる。
嫌だ、嫌だ、嫌だっ!!
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