48 / 135
第一章 聖女と竜
第48話 甘い飲み物には
しおりを挟む
「――そうなんだ」
「うん」
次々に聞かされる衝撃の話はゆっくり静かに流れる時間とは対照的で。
当たり前だけど想像なんて出来ない。
産まれてすぐからの他人との違い。誰にも話さずに成長してきた苦しさ。そして――。
『この国がこうなったのはボクの責任なんだ』
目を少し赤くしながら彼は続けていた。
『他人に竜の姿のボクを見せた時すべてが壊れ始めてしまった』
◆
崩壊の始まりは聖女の言葉からだった。ある一人の聖女は突然逃げるように自分がいた場所へと帰った。二人いた聖女は一人になり、一人になった聖女は化け物王子とは絶対に結婚しないと言ったそうだ。
不審に思った王は王子たちに問うたそうだ。聖女がいなくなるのは瘴気が噴き出す国にとって恐ろしい結果が待つからだ。
「誰が化け物と思われるような事をしでかしたのか」
三人の王子のうち二人はまったく身に覚えがない。だから答えられるはずもなく。
一人の王子は進みでて、すべてを語った。実際に目の前で姿を変えて。
王は妃だけを愛していた。王子はあくまで愛する妃を奪った男。利用価値があったから王子でいさせたのだ。
愛していた妃は病で倒れすでにいない。婚約をした時に渡した病に効く花は王子の為に使ってしまったせいで――。
継承権は移され、弟が王になる事が決まる。聖女との結婚は兄王子の役割ではなくなった。
竜魔石作りと瘴気の関係を喋った事で、兄王子は瘴気を食べる事と竜魔石作りを言い渡された。
国を継ぐ王子でなくなった兄王子に待っていたのは、それまでとまったく違う環境だった。
「ブレイド様、今日はどうしますか?」
「そうだなぁ」
その環境にも慣れてきたある日の事だった。でなくなって久しい場所の瘴気が再び溢れ出したと連絡が入った。
担当していたもう一人の聖女はすでにいない。つまりお前がなんとかしろと言うことだろうと兄王子は体を変化させ飛んだ。
問題なく食べ終わったが、新たな問題に兄王子は気が付かされた。
周辺の住民に体の一部だけが魔物化するという病気が広がっていた。
瘴気が薄く漂っている……。
まとまっていれば食べる事が出来るが、これは掴みどころのない雲のような瘴気だった。
そして、それは城でも広がっていた。隠されるように兄王子の元へと体が変わった城仕えの者たちが送られてくる。
国を捨てる。その決断ははやく、無事であった王たちは聖女を連れて国を出た。
国を元通りにした時戻る。国を守れ。兄王子に命令を残して。
一人残された王子は命令を守り、瘴気が噴き出す場所を往復する日々を過ごしていた。そしてすぐに限界が訪れた。
同時に瘴気が噴き出したのだ。
一方はまだ食べ終わっていない。次から次へと噴き出し続ける。食べ終わった時には遅かった――。
◆
「ボクはその場についてすぐに食べたんだ。だけど、遅かったみたいでこうなってしまったんだ」
「……そうなんだ」
「うん」
それからは違う場所からも噴き出し始めて……。
頑張ったけれど、どんどん増えていって……。そんな時に、黒竜が現れて、そして……。
大変だったんだ。すごく。私なんて、浄化が終われば寝て食べて、本を読んだり出来てた。呼び出されるまでは自由と言えば自由だった。
ぎゅっとして大変だったねって撫でてあげたい。恥ずかしくて出来ないのがむず痒い。
これからはずっと一緒にいるから。一緒に瘴気と戦おうって言ってあげたい。だけどそれは出来ない。彼と私は食べられるまでの時間制限つきの関係だから。
私のこと好きになって、食べるのやーめたってなってくれないかぎりは訪れない未来で――。
ブレイドに好きになってもらうにはどうすればいいんだろう。やっぱり、細くて可愛くてスタイルをよくしないとダメなのかな。仮初めなんかじゃなくて――。
「最初エマ達が来た時、驚いたよ。地位やお金でしか動かない聖女がこんなところにきてなんの用だってね」
「聖女って言われてるのにまわりからはそんな風に思われてるんだね。この赤い目って」
「瘴気という弱みをついてくる人達だからね。最初の聖女は違ったんだろうけど」
「最初の赤い瞳の聖女アメリアね」
彼女はすべての瘴気を消そうとした。誰に頼まれたとかそういうものは伝わっていない。けど、彼女がしようとした事は伝わっている。
「この姿を見て逃げ出すどころか殴りかかってくる。本当理解が出来なかったよ」
「あー、そんなこともあり……ました」
「でも、それがなかったらボクがいまこうしてここに座ってなかったから。一応ありがとうなのかな」
「赤とかげとか言ってごめんなさい。好きでその体になったわけじゃなかったのに」
「いやいや、ボクも失礼なこといったから謝らないでよ」
二人で苦笑して、少しの間が出来た。ちょうど喉が渇いていたので、良い香りのする紅茶を手にとり一気に飲む。これにもダイエットに効く何かがいれてあるのだろうか? 体がポカポカしてきた。
「ねえ、エマ」
「はい?」
「今の話を聞いて――――」
顔を上げると大きな赤い果物があった。ブレイドの髪と同じ色の甘くて美味しいあの果物。
食べていいか聞こうと思ったけどブレイドがいない。
うーん、ブレイドどこにいったのかな。これ、食べてもいいのかな? いいよね、よし! いただきまーす。
あれ、ほんのり温かくて甘くて……いつものとは食感が違う?
あぁ、ブレイドが用意してくれたんだからお礼を言わなくちゃ……。
私の記憶はここでぷっつりとなくなっていた。
「うん」
次々に聞かされる衝撃の話はゆっくり静かに流れる時間とは対照的で。
当たり前だけど想像なんて出来ない。
産まれてすぐからの他人との違い。誰にも話さずに成長してきた苦しさ。そして――。
『この国がこうなったのはボクの責任なんだ』
目を少し赤くしながら彼は続けていた。
『他人に竜の姿のボクを見せた時すべてが壊れ始めてしまった』
◆
崩壊の始まりは聖女の言葉からだった。ある一人の聖女は突然逃げるように自分がいた場所へと帰った。二人いた聖女は一人になり、一人になった聖女は化け物王子とは絶対に結婚しないと言ったそうだ。
不審に思った王は王子たちに問うたそうだ。聖女がいなくなるのは瘴気が噴き出す国にとって恐ろしい結果が待つからだ。
「誰が化け物と思われるような事をしでかしたのか」
三人の王子のうち二人はまったく身に覚えがない。だから答えられるはずもなく。
一人の王子は進みでて、すべてを語った。実際に目の前で姿を変えて。
王は妃だけを愛していた。王子はあくまで愛する妃を奪った男。利用価値があったから王子でいさせたのだ。
愛していた妃は病で倒れすでにいない。婚約をした時に渡した病に効く花は王子の為に使ってしまったせいで――。
継承権は移され、弟が王になる事が決まる。聖女との結婚は兄王子の役割ではなくなった。
竜魔石作りと瘴気の関係を喋った事で、兄王子は瘴気を食べる事と竜魔石作りを言い渡された。
国を継ぐ王子でなくなった兄王子に待っていたのは、それまでとまったく違う環境だった。
「ブレイド様、今日はどうしますか?」
「そうだなぁ」
その環境にも慣れてきたある日の事だった。でなくなって久しい場所の瘴気が再び溢れ出したと連絡が入った。
担当していたもう一人の聖女はすでにいない。つまりお前がなんとかしろと言うことだろうと兄王子は体を変化させ飛んだ。
問題なく食べ終わったが、新たな問題に兄王子は気が付かされた。
周辺の住民に体の一部だけが魔物化するという病気が広がっていた。
瘴気が薄く漂っている……。
まとまっていれば食べる事が出来るが、これは掴みどころのない雲のような瘴気だった。
そして、それは城でも広がっていた。隠されるように兄王子の元へと体が変わった城仕えの者たちが送られてくる。
国を捨てる。その決断ははやく、無事であった王たちは聖女を連れて国を出た。
国を元通りにした時戻る。国を守れ。兄王子に命令を残して。
一人残された王子は命令を守り、瘴気が噴き出す場所を往復する日々を過ごしていた。そしてすぐに限界が訪れた。
同時に瘴気が噴き出したのだ。
一方はまだ食べ終わっていない。次から次へと噴き出し続ける。食べ終わった時には遅かった――。
◆
「ボクはその場についてすぐに食べたんだ。だけど、遅かったみたいでこうなってしまったんだ」
「……そうなんだ」
「うん」
それからは違う場所からも噴き出し始めて……。
頑張ったけれど、どんどん増えていって……。そんな時に、黒竜が現れて、そして……。
大変だったんだ。すごく。私なんて、浄化が終われば寝て食べて、本を読んだり出来てた。呼び出されるまでは自由と言えば自由だった。
ぎゅっとして大変だったねって撫でてあげたい。恥ずかしくて出来ないのがむず痒い。
これからはずっと一緒にいるから。一緒に瘴気と戦おうって言ってあげたい。だけどそれは出来ない。彼と私は食べられるまでの時間制限つきの関係だから。
私のこと好きになって、食べるのやーめたってなってくれないかぎりは訪れない未来で――。
ブレイドに好きになってもらうにはどうすればいいんだろう。やっぱり、細くて可愛くてスタイルをよくしないとダメなのかな。仮初めなんかじゃなくて――。
「最初エマ達が来た時、驚いたよ。地位やお金でしか動かない聖女がこんなところにきてなんの用だってね」
「聖女って言われてるのにまわりからはそんな風に思われてるんだね。この赤い目って」
「瘴気という弱みをついてくる人達だからね。最初の聖女は違ったんだろうけど」
「最初の赤い瞳の聖女アメリアね」
彼女はすべての瘴気を消そうとした。誰に頼まれたとかそういうものは伝わっていない。けど、彼女がしようとした事は伝わっている。
「この姿を見て逃げ出すどころか殴りかかってくる。本当理解が出来なかったよ」
「あー、そんなこともあり……ました」
「でも、それがなかったらボクがいまこうしてここに座ってなかったから。一応ありがとうなのかな」
「赤とかげとか言ってごめんなさい。好きでその体になったわけじゃなかったのに」
「いやいや、ボクも失礼なこといったから謝らないでよ」
二人で苦笑して、少しの間が出来た。ちょうど喉が渇いていたので、良い香りのする紅茶を手にとり一気に飲む。これにもダイエットに効く何かがいれてあるのだろうか? 体がポカポカしてきた。
「ねえ、エマ」
「はい?」
「今の話を聞いて――――」
顔を上げると大きな赤い果物があった。ブレイドの髪と同じ色の甘くて美味しいあの果物。
食べていいか聞こうと思ったけどブレイドがいない。
うーん、ブレイドどこにいったのかな。これ、食べてもいいのかな? いいよね、よし! いただきまーす。
あれ、ほんのり温かくて甘くて……いつものとは食感が違う?
あぁ、ブレイドが用意してくれたんだからお礼を言わなくちゃ……。
私の記憶はここでぷっつりとなくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる