68 / 135
第一章 聖女と竜
第68話 痩せると決意する私
しおりを挟む
空気が冷たい。頬と耳がいたい。寒さがだいぶ進んできた。
そんな中、驚くほど元気な声がルニアを呼んでいた。
「ルニアさん! こうですか!」
「ダメだ。もっと腰を落とせ」
「はい!!」
最近魔物化から人に戻った男の人がルニアにしごかれて喜んでいるところだった。
彼の名前はキルヒネア。元々はラヴェルの私兵だったのだけど……。タネシスの時と違って彼はハヘラータに帰りたがらなかった。
なぜなら、彼はルニアにひとめぼれしてしまったみたい。
横で張り合ってるオゥニィーさん。恋のライバル登場なんて、焦ってるだろうな。きっと。
でもまだまだオゥニィーさんの番はこないから、大変そうだな。ごめんね。先にしてあげられなくて……。
「こら、エマ止まってるぞ!」
「は、はい!!」
ルニアは体を鍛えるダイエットを担当してくれて、少しずつだけど確実にお肉が減っている……と思う。あと、引き締まったような気が……する。まあ、まだまだ始めたばかりだから気のせいかもしれないけれど。
やっぱりずるをして痩せてても見返したなんて言えないものね。頑張って痩せて幸せになってやるんだ。
幸せな未来を想像して頬の筋肉がつい緩んでしまう。
あのあとはもうハヘラータに行くなんて事もなく、順調にこの国の人達を元に戻しながらの日々を過ごせている。
◇
キルヒネアを人に戻して次の日の事だった。
「これから一人ずつ元に戻していく。順番は皆が暮らしていけるように重要な技術を優先していくつもりだが安心して欲しい。ボクの婚約者エマが治療にあたってくれる。ボクとともにずっとここにいてくれると誓ってくれている。だから、順番が遅くなってしまっても焦らないで欲しい。彼女はここからいなくなったりしない」
みんなの前で初めて紹介された。
なんだか色々確定されてしまっていた。婚約者を装うというのは、眠ってしまった会議で決まっていたそうだ。そういえば、何か聞かれて頷いていた。まさか、婚約者になったと言ってずっと私はここにいるから安心しろ。順番で争わないでという話に持っていくとは。
そっか、婚約者ってフリか。フリだったんだ。
「よ、よろひ……よろしくお願いします。私、全員元に戻してみせますから。時間がかかるかもしれませんが待っていて下さい」
こんないっぱいの人の前で喋るなんてすごく緊張してしまう。噛んでしまった……。こんなのじゃ、王妃なんて無理無理の無理だっただろう。だから、ラヴェルと結婚にならなくて良かったのかもしれない。ほんと、結婚してからあんな事言われてたら立ち直れなかっただろうし。
まあ、ブレイドも王子様ではあるけれど……。彼から聞いた話だと王位継承権からは外れているから、元王子様になるのかな?
いつかこの国が元通りになった日に他国に行った人達は戻ってくるのかな……。今はまだ先の事なんてわからないけれど……。
◇
「これ、あの石と同じ効果があるから。こっちの方が持ち運びやすいだろ?」
「はい?」
皆の前での披露が終わり、渡されたのは小さな宝石がついた指輪だった。
ルニアがあちゃぁという表情を浮かべている。
「ブレイド、もう少し雰囲気大事にしろよ?」
「でも、はやいほうがいいだろう?」
「あ、あの……」
これって、まさか、私の指からいなくなったあの……。
「これ、婚約指輪。ボクの婚約者になってもらえるかな」
受け取った手の中でキラキラと光る小さな指輪。
「指輪のサイズがしっかり定まるまではこれで」
華奢な鎖も渡される。準備万端すぎません?
もう、絶対にこのサイズが入るように私、頑張るっっ。
「あー、あつい。突然あついっ!!」
ルニアが走り出す。途中ひょいと顔を見せたスピアーを捕まえてそのまま走り続けていった。
「もらってくれる?」
手の中の指輪をじーっと見ながら夢見心地だった私は急いで首を縦にふった。
「もちろん。ありがとう。嬉しい」
「エマ、フリじゃなくて本当の意味でだから――」
顔が近付いてきたので、私も目を閉じた。
「好きだよ」
空気がすごく冷たいのに、私のまわりだけ火のそばにいるみたいにぽかぽかだった。
◇
今日戻すのは私がお願いして先にしてもらった人だ。
竜魔石の加工や道具作りを生業にしている職人さん。無事に人に戻して休憩に入る。お腹が空くのはどうしたって変わらない。リリーと私が作っておいたダイエットごはんを食べに向かった。
食物繊維豊富な干しきのこたっぷりいれたスープ。ブレイドがとってきたお肉の香草焼き。あとは上手に焼けるようになってきたパン。
「食べ過ぎるなよー」
「わかってる。食欲を抑える料理ってないのかなぁ」
「食べるのを抑える食べ物って……」
呆れたように笑うルニア。しょうがないじゃない。お腹は空いてしまうのだもの。
今日戻した職人さん、アルも向こうの席でふきだしてる。そんなに面白い事言ったかな。
今、瘴気の浄化はほとんどブレイドとスピアーがやってしまうから、やることが減ってしまった。その時間をあることに使いたいのだ。ダイエットとはまた別の目標。
「なぁ、どうしてまた竜魔道具なんかに興味が湧いたんだ?」
「んー?」
教えてあげたいけれど、この話は王様にしかしない決まりに触れちゃうからなぁ。
「お父さん、お母さんが竜魔道具作ってたんだ。それで、私同じ事がしてみたくて」
「ふぅん」
なんとなく言いたくないのを察してくれたのか、ルニアは次やるダイエットトレーニングメニューの話に変えてくれた。
ごめんね。気を使わせて。
私、ダイエットとは別にもう一つやりたい事見つけたの。
この国にもハヘラータみたいな装置を作りたい。その為に竜魔石や竜魔道具の扱いを知りたかったの。少しでもはやく。
いつかそれが出来れば、瘴気が減ってブレイドが自由になれるかなって思ってるんだ――――。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
一章最後までお付き合いくださりありがとうございます。
次回より第二章になります。
エマの過去や謎に踏み込んでいきます(*´ω`*)ノ
よろしくお願いいたします。
そんな中、驚くほど元気な声がルニアを呼んでいた。
「ルニアさん! こうですか!」
「ダメだ。もっと腰を落とせ」
「はい!!」
最近魔物化から人に戻った男の人がルニアにしごかれて喜んでいるところだった。
彼の名前はキルヒネア。元々はラヴェルの私兵だったのだけど……。タネシスの時と違って彼はハヘラータに帰りたがらなかった。
なぜなら、彼はルニアにひとめぼれしてしまったみたい。
横で張り合ってるオゥニィーさん。恋のライバル登場なんて、焦ってるだろうな。きっと。
でもまだまだオゥニィーさんの番はこないから、大変そうだな。ごめんね。先にしてあげられなくて……。
「こら、エマ止まってるぞ!」
「は、はい!!」
ルニアは体を鍛えるダイエットを担当してくれて、少しずつだけど確実にお肉が減っている……と思う。あと、引き締まったような気が……する。まあ、まだまだ始めたばかりだから気のせいかもしれないけれど。
やっぱりずるをして痩せてても見返したなんて言えないものね。頑張って痩せて幸せになってやるんだ。
幸せな未来を想像して頬の筋肉がつい緩んでしまう。
あのあとはもうハヘラータに行くなんて事もなく、順調にこの国の人達を元に戻しながらの日々を過ごせている。
◇
キルヒネアを人に戻して次の日の事だった。
「これから一人ずつ元に戻していく。順番は皆が暮らしていけるように重要な技術を優先していくつもりだが安心して欲しい。ボクの婚約者エマが治療にあたってくれる。ボクとともにずっとここにいてくれると誓ってくれている。だから、順番が遅くなってしまっても焦らないで欲しい。彼女はここからいなくなったりしない」
みんなの前で初めて紹介された。
なんだか色々確定されてしまっていた。婚約者を装うというのは、眠ってしまった会議で決まっていたそうだ。そういえば、何か聞かれて頷いていた。まさか、婚約者になったと言ってずっと私はここにいるから安心しろ。順番で争わないでという話に持っていくとは。
そっか、婚約者ってフリか。フリだったんだ。
「よ、よろひ……よろしくお願いします。私、全員元に戻してみせますから。時間がかかるかもしれませんが待っていて下さい」
こんないっぱいの人の前で喋るなんてすごく緊張してしまう。噛んでしまった……。こんなのじゃ、王妃なんて無理無理の無理だっただろう。だから、ラヴェルと結婚にならなくて良かったのかもしれない。ほんと、結婚してからあんな事言われてたら立ち直れなかっただろうし。
まあ、ブレイドも王子様ではあるけれど……。彼から聞いた話だと王位継承権からは外れているから、元王子様になるのかな?
いつかこの国が元通りになった日に他国に行った人達は戻ってくるのかな……。今はまだ先の事なんてわからないけれど……。
◇
「これ、あの石と同じ効果があるから。こっちの方が持ち運びやすいだろ?」
「はい?」
皆の前での披露が終わり、渡されたのは小さな宝石がついた指輪だった。
ルニアがあちゃぁという表情を浮かべている。
「ブレイド、もう少し雰囲気大事にしろよ?」
「でも、はやいほうがいいだろう?」
「あ、あの……」
これって、まさか、私の指からいなくなったあの……。
「これ、婚約指輪。ボクの婚約者になってもらえるかな」
受け取った手の中でキラキラと光る小さな指輪。
「指輪のサイズがしっかり定まるまではこれで」
華奢な鎖も渡される。準備万端すぎません?
もう、絶対にこのサイズが入るように私、頑張るっっ。
「あー、あつい。突然あついっ!!」
ルニアが走り出す。途中ひょいと顔を見せたスピアーを捕まえてそのまま走り続けていった。
「もらってくれる?」
手の中の指輪をじーっと見ながら夢見心地だった私は急いで首を縦にふった。
「もちろん。ありがとう。嬉しい」
「エマ、フリじゃなくて本当の意味でだから――」
顔が近付いてきたので、私も目を閉じた。
「好きだよ」
空気がすごく冷たいのに、私のまわりだけ火のそばにいるみたいにぽかぽかだった。
◇
今日戻すのは私がお願いして先にしてもらった人だ。
竜魔石の加工や道具作りを生業にしている職人さん。無事に人に戻して休憩に入る。お腹が空くのはどうしたって変わらない。リリーと私が作っておいたダイエットごはんを食べに向かった。
食物繊維豊富な干しきのこたっぷりいれたスープ。ブレイドがとってきたお肉の香草焼き。あとは上手に焼けるようになってきたパン。
「食べ過ぎるなよー」
「わかってる。食欲を抑える料理ってないのかなぁ」
「食べるのを抑える食べ物って……」
呆れたように笑うルニア。しょうがないじゃない。お腹は空いてしまうのだもの。
今日戻した職人さん、アルも向こうの席でふきだしてる。そんなに面白い事言ったかな。
今、瘴気の浄化はほとんどブレイドとスピアーがやってしまうから、やることが減ってしまった。その時間をあることに使いたいのだ。ダイエットとはまた別の目標。
「なぁ、どうしてまた竜魔道具なんかに興味が湧いたんだ?」
「んー?」
教えてあげたいけれど、この話は王様にしかしない決まりに触れちゃうからなぁ。
「お父さん、お母さんが竜魔道具作ってたんだ。それで、私同じ事がしてみたくて」
「ふぅん」
なんとなく言いたくないのを察してくれたのか、ルニアは次やるダイエットトレーニングメニューの話に変えてくれた。
ごめんね。気を使わせて。
私、ダイエットとは別にもう一つやりたい事見つけたの。
この国にもハヘラータみたいな装置を作りたい。その為に竜魔石や竜魔道具の扱いを知りたかったの。少しでもはやく。
いつかそれが出来れば、瘴気が減ってブレイドが自由になれるかなって思ってるんだ――――。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
一章最後までお付き合いくださりありがとうございます。
次回より第二章になります。
エマの過去や謎に踏み込んでいきます(*´ω`*)ノ
よろしくお願いいたします。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる