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魔法の学園
何が出る?
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目の前に差し出された紙に私は手を添えながら、項垂れていた。
「契約できない?」
「はい」
「そんな……」
ちょっとだけ楽しみにしていたのに、私の前に置かれた紙は反応を見せてくれない。
「普通でしたら、ここにカケラの形が文字となって浮かぶはずなんですが」
結愛の方を見ると、光る文字が浮かんでいた。
それをカイが指でなぞる。結愛に何か伝えると彼女は頷いて、カイと同じ動きをする。
「私、落ちこぼれなのかなぁ」
聖女として召喚されたのは一緒のはずなのに、彼女はどんどん先に進んでいく。
「そんなことありませんわ。ほら、ヨウもなんとかいいなさいな」
そう言いながらイソラがつっついたのは、黒い猫のほっぺた。
「にゃぁん」
制服が届いたのに、ヨウは今日も猫の姿。彼は明日からって言って、猫の魔法をかけてくれっていうからかけたのだ。
「「「おぉ!!!!」」」
教室がざわつく。結愛の手の中に、ファンタジーの世界で有名な、竜が現れた。真っ白な身体と翼。小さいけれど、威厳も迫力もある。
「白竜」
「竜が二人目」
「どっちがすごいんだろう?」
まわりの人達の話し声が耳にどんどん入ってくる。竜ってすごいし珍しいのが何となく理解できる会話。やっぱり結愛はすごいんだ。私と違って。
テトに認めてもらいたい。見てもらいたいのに、結愛と私の差は広がっていくばかり。聖女の魔法だって、一人で出来ないし。
「すず、気にしすぎないで」
「ん?」
「人と比べて自分を卑下しないことです」
イソラはそう言うと、まっすぐ教師の方に顔を向けた。結愛の眷属獣が出たので、授業の続きが始まった。私は、何も出なかった紙を畳んで制服のポケットにしまった。
◇
「おい、お前!」
教室の片隅。授業が終わった後、あるグループが結愛の席に向かう。
「オレ様の竜の方が凄いんだからな。いい気になるなよ」
絡まれているのは、結愛。絡んでいるのは、クラン。最上位と言われた男の子だった。
青い眼がきつく結愛を睨み付ける。
「あの……」
「どっちが上か、はっきりさせようぜ」
困ってる結愛を気にせずにクランは続けていた。
どうしよう。言わなきゃ! 助けなきゃ!
そう思い、結愛のところに走り出し、彼女の前に立った。クランは背が高く目付きもキツイ。上から睨まれて自然と顔がひきつった。
「ゆあちゃん、困ってる! やめて」
「すずちゃん」
昨日結愛と一緒にいた人達はクランが怖いのか、遠巻きに見ているだけだった。
麻美とは違う。結愛は私の友達で、あの日もきっと一緒に歌おうって言ってくれるつもりだったんだよね。私は、結愛と、この世界で一番の歌姫になるんだ……。
「友達に意地悪しないで下さい! クランさん」
叫んだとたん、彼の頭上から、あの日いつのまにかいなくなっていたリスがふってきてちょこんと座って頭を傾げていた。
「あれ、あの時のリス……」
私はリスをじっと見ると、クランがばばっと頭の上に手をやって、リスを追い出す。追い出されたリスは私の身体をかけ登り肩に乗った。
「……邪魔が入った、また今度試合おうぜ。聖女様」
そう言い残し、クランは教室を出ていった。
「試合おう?」
「すず、たぶんクランは、眷属獣の試合をしたかっただけでは?」
「え、そんなのがあるの?」
「えぇ」
イソラは笑っていた。なんだ、試合の申し込みだったの? なんだ、私の勘違い……。
彼に悪い事をしてしまったかもしれない。
それにしても、どっちがすごいかなんて、目立つとそんなことで何か言われるんだ。結愛は大変だなぁ。
結愛の方に顔を向けると、少し涙ぐんだ彼女がいた。
「すずちゃん、ありがとう」
結愛が立ち上がってぎゅっと私の手を握る。彼女の手は小刻みに震えていた。
「すずちゃん、違う場所に行っちゃって、私、置いていかれたって思ってた……。私、助けられなかったから、当たり前だよねって……だから……」
「あ……、ごめんね……」
結愛も好きでここにいるわけじゃなかった。結愛の気持ち聞いていたのに、私、結愛が遠くにどんどん行ってしまったって思ってた。
「もしかして、お二人はお友達だったのですか?」
イソラが首を傾げながら聞いてくる。
「うん、一緒に歌ってた大事な仲間で、友達」
「まぁ……! 友達の友達は友達ですわね。私はイソラ。ごめんなさい、すずを勝手に連れ出したのは私で」
「え、あ、そうなの? すずちゃん」
「あ、えっと、そうなんだ。なんだか、流れで」
「ゆあが嫌いになったわけじゃない?」
「ないない」
急いで否定すると、結愛はいつもの笑顔にもどった。
「その子が、すずちゃんの眷属獣?」
「え?」
結愛が指差すのは私の頭の上。移動したリスがいる場所だった。
「あ、この子は――」
「それですわーーーー!」
「え?」
「すずはもう眷属獣がいたから紙が反応しなかったのですよ」
「え、そうなの?」
私は頭の上のリスと一緒に頭を捻って考えていた。
いやいや、契約した覚えなんてないし、どういう事?
「可愛いねー」
「可愛いですわね」
結愛とイソラが私に、いや、私の頭の上に熱い視線を送っていた。
「契約できない?」
「はい」
「そんな……」
ちょっとだけ楽しみにしていたのに、私の前に置かれた紙は反応を見せてくれない。
「普通でしたら、ここにカケラの形が文字となって浮かぶはずなんですが」
結愛の方を見ると、光る文字が浮かんでいた。
それをカイが指でなぞる。結愛に何か伝えると彼女は頷いて、カイと同じ動きをする。
「私、落ちこぼれなのかなぁ」
聖女として召喚されたのは一緒のはずなのに、彼女はどんどん先に進んでいく。
「そんなことありませんわ。ほら、ヨウもなんとかいいなさいな」
そう言いながらイソラがつっついたのは、黒い猫のほっぺた。
「にゃぁん」
制服が届いたのに、ヨウは今日も猫の姿。彼は明日からって言って、猫の魔法をかけてくれっていうからかけたのだ。
「「「おぉ!!!!」」」
教室がざわつく。結愛の手の中に、ファンタジーの世界で有名な、竜が現れた。真っ白な身体と翼。小さいけれど、威厳も迫力もある。
「白竜」
「竜が二人目」
「どっちがすごいんだろう?」
まわりの人達の話し声が耳にどんどん入ってくる。竜ってすごいし珍しいのが何となく理解できる会話。やっぱり結愛はすごいんだ。私と違って。
テトに認めてもらいたい。見てもらいたいのに、結愛と私の差は広がっていくばかり。聖女の魔法だって、一人で出来ないし。
「すず、気にしすぎないで」
「ん?」
「人と比べて自分を卑下しないことです」
イソラはそう言うと、まっすぐ教師の方に顔を向けた。結愛の眷属獣が出たので、授業の続きが始まった。私は、何も出なかった紙を畳んで制服のポケットにしまった。
◇
「おい、お前!」
教室の片隅。授業が終わった後、あるグループが結愛の席に向かう。
「オレ様の竜の方が凄いんだからな。いい気になるなよ」
絡まれているのは、結愛。絡んでいるのは、クラン。最上位と言われた男の子だった。
青い眼がきつく結愛を睨み付ける。
「あの……」
「どっちが上か、はっきりさせようぜ」
困ってる結愛を気にせずにクランは続けていた。
どうしよう。言わなきゃ! 助けなきゃ!
そう思い、結愛のところに走り出し、彼女の前に立った。クランは背が高く目付きもキツイ。上から睨まれて自然と顔がひきつった。
「ゆあちゃん、困ってる! やめて」
「すずちゃん」
昨日結愛と一緒にいた人達はクランが怖いのか、遠巻きに見ているだけだった。
麻美とは違う。結愛は私の友達で、あの日もきっと一緒に歌おうって言ってくれるつもりだったんだよね。私は、結愛と、この世界で一番の歌姫になるんだ……。
「友達に意地悪しないで下さい! クランさん」
叫んだとたん、彼の頭上から、あの日いつのまにかいなくなっていたリスがふってきてちょこんと座って頭を傾げていた。
「あれ、あの時のリス……」
私はリスをじっと見ると、クランがばばっと頭の上に手をやって、リスを追い出す。追い出されたリスは私の身体をかけ登り肩に乗った。
「……邪魔が入った、また今度試合おうぜ。聖女様」
そう言い残し、クランは教室を出ていった。
「試合おう?」
「すず、たぶんクランは、眷属獣の試合をしたかっただけでは?」
「え、そんなのがあるの?」
「えぇ」
イソラは笑っていた。なんだ、試合の申し込みだったの? なんだ、私の勘違い……。
彼に悪い事をしてしまったかもしれない。
それにしても、どっちがすごいかなんて、目立つとそんなことで何か言われるんだ。結愛は大変だなぁ。
結愛の方に顔を向けると、少し涙ぐんだ彼女がいた。
「すずちゃん、ありがとう」
結愛が立ち上がってぎゅっと私の手を握る。彼女の手は小刻みに震えていた。
「すずちゃん、違う場所に行っちゃって、私、置いていかれたって思ってた……。私、助けられなかったから、当たり前だよねって……だから……」
「あ……、ごめんね……」
結愛も好きでここにいるわけじゃなかった。結愛の気持ち聞いていたのに、私、結愛が遠くにどんどん行ってしまったって思ってた。
「もしかして、お二人はお友達だったのですか?」
イソラが首を傾げながら聞いてくる。
「うん、一緒に歌ってた大事な仲間で、友達」
「まぁ……! 友達の友達は友達ですわね。私はイソラ。ごめんなさい、すずを勝手に連れ出したのは私で」
「え、あ、そうなの? すずちゃん」
「あ、えっと、そうなんだ。なんだか、流れで」
「ゆあが嫌いになったわけじゃない?」
「ないない」
急いで否定すると、結愛はいつもの笑顔にもどった。
「その子が、すずちゃんの眷属獣?」
「え?」
結愛が指差すのは私の頭の上。移動したリスがいる場所だった。
「あ、この子は――」
「それですわーーーー!」
「え?」
「すずはもう眷属獣がいたから紙が反応しなかったのですよ」
「え、そうなの?」
私は頭の上のリスと一緒に頭を捻って考えていた。
いやいや、契約した覚えなんてないし、どういう事?
「可愛いねー」
「可愛いですわね」
結愛とイソラが私に、いや、私の頭の上に熱い視線を送っていた。
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