87 / 189
第三章・水の精霊の国
番外編・猫耳王子の考え事
しおりを挟む
「よかっ……た……」
小さな女の子の無事を確認したリサは、そう言ってからボクの腕の中で、すぅっと目を閉じた。魔力が尽きたのだろう。
気になるのは前に浄化した時と違って、使った直後に彼女の身体が硬直し、急に崩れ落ちた。
イフリート
ウンディーネ
そう、前とは違い彼女は、二回浄化の魔法を使っている。
「アリスト様! 今すぐ戻りましょう」
ルードが何か言っている。帰るわけないだろ。
それよりもさっきの力がボクは気になる。浄化の魔法を使った時、手から流れ込み抜けていった力。まるで暴れ狂う暴風のような、嵐の日に産まれる激流のような巨大な力がボクの中を駆け抜けていった。
「カナ様なら、癒しの魔法で!」
彼女の中にあれほどの力があるのか?
だけど、彼女に聞いた水晶で調べた数値は聖なる力が10魔力は100だったはず……。
前回は一度使って力尽きていた彼女。今回は二回使えた。
彼女の力はもしかして――成長している?
ただ、あの硬直が気になる。彼女に何か起こったのかもしれない。あれほどの力だ……。
「癒しの魔法なら、私も使えます」
アミスがルミナを抱え立ち上がった。
「ブルーシェル城に行きましょう。あそこなら、水の力が強くなる場所があります」
水の精霊の場のことだろう。やはり、あの中にあったのか。
「夜まで待っていては手遅れになるかもしれません!この方は!」
ルードはかなり動揺しているようだ。ラーファでも、ここからライトコールまでかなりの距離がありどれだけ飛ばしても結局は夜までかかるだろう。
「大丈夫です。少し、待っていてください」
そう言って、アミスは湖に足を浸けあの歌を歌いだした。
ザブザブザブザザザァー
「夜でもないのに――」
「私達の魔力に反応して大きくなるので、いつでも出来るのです。夜にだけ呼ぶのは昔ほど必要がなくなったからでしょう。あの城は、戦争や病などで傷ついた人々を癒すための場所なので、今の平和な世には不必要ですから」
「そうだったんですか」
「さぁ、中へ」
ボクはリサを腕の中に抱いたまま、ブルーシェル城に向かった。
ーーー
「だから、私は言ったのだ。聖女の契約をさせるなと」
「ですが、兄上」
ハーフィとクレスが言い合いながらボク達の前を歩いている。
アミスは少し哀しげな顔をして、彼らを見る。
「お前がアミスを好いているのはしっている。私のことが嫌いなことも。アミスを聖女にし、自分の妻に迎えいれれば王の座につけると考えたのだろう」
「それは――」
「聖女には、国を護る力があると同時に魔物を引き寄せる力もあるというのに……」
「っ……」
小さな声で話しているけれど、ボクの耳には聞こえてしまう。
聖女には、魔物を引き寄せる力が……。
「こちらです」
アミスが彼らとは違う方向へと招く。彼らはそのまま何処かへと歩いていった。
「ここに、寝かせて下さい」
沢山の石の台が並ぶ部屋に着いた。部屋の奥に、水の精霊の魔法陣らしきものがうっすらと光を放つ。
アミスから交代してルミナを抱えていたルードが手前の台の一つに寝かせた。ボクもルミナの横にリサをそっと寝かせる。
「ウォータ」
澄んだ声で、アミスが水の精霊を呼ぶと、魔法陣がパァッと大きく光ったあと、ルミナとリサのまわりに水球が現れた。
パシャンパシャン
水球が割れ、彼女達に降り注ぐ。
「これで、水の精霊の癒しは済みました。目覚めるのを部屋で待ちましょう」
ボクはもう一度リサを抱き上げて、アミスが案内する方へと歩いていった。
ーーー
リサはあれからなかなか目を覚まさない。アミスはルミナの様子を見に隣の部屋へ。ルードはボクと同じ部屋にいる。
寝ている彼女の手をギュッと握ると、ピクリと小さく動いた。
「アリス……ちゃん……」
「リサちゃん!」
「よかった、手繋いでた……」
「リサちゃん?」
夢でも見ていたのだろうか。まだはっきりとしていない感じだ。
浄化の魔法は彼女にしか使えない。ボクには出来ない。
守ると約束したのに、逆に守られてしまっている。
彼女を守る力が欲しい。ボクは彼女を守る事が出来る強い剣になりたい。
小さな女の子の無事を確認したリサは、そう言ってからボクの腕の中で、すぅっと目を閉じた。魔力が尽きたのだろう。
気になるのは前に浄化した時と違って、使った直後に彼女の身体が硬直し、急に崩れ落ちた。
イフリート
ウンディーネ
そう、前とは違い彼女は、二回浄化の魔法を使っている。
「アリスト様! 今すぐ戻りましょう」
ルードが何か言っている。帰るわけないだろ。
それよりもさっきの力がボクは気になる。浄化の魔法を使った時、手から流れ込み抜けていった力。まるで暴れ狂う暴風のような、嵐の日に産まれる激流のような巨大な力がボクの中を駆け抜けていった。
「カナ様なら、癒しの魔法で!」
彼女の中にあれほどの力があるのか?
だけど、彼女に聞いた水晶で調べた数値は聖なる力が10魔力は100だったはず……。
前回は一度使って力尽きていた彼女。今回は二回使えた。
彼女の力はもしかして――成長している?
ただ、あの硬直が気になる。彼女に何か起こったのかもしれない。あれほどの力だ……。
「癒しの魔法なら、私も使えます」
アミスがルミナを抱え立ち上がった。
「ブルーシェル城に行きましょう。あそこなら、水の力が強くなる場所があります」
水の精霊の場のことだろう。やはり、あの中にあったのか。
「夜まで待っていては手遅れになるかもしれません!この方は!」
ルードはかなり動揺しているようだ。ラーファでも、ここからライトコールまでかなりの距離がありどれだけ飛ばしても結局は夜までかかるだろう。
「大丈夫です。少し、待っていてください」
そう言って、アミスは湖に足を浸けあの歌を歌いだした。
ザブザブザブザザザァー
「夜でもないのに――」
「私達の魔力に反応して大きくなるので、いつでも出来るのです。夜にだけ呼ぶのは昔ほど必要がなくなったからでしょう。あの城は、戦争や病などで傷ついた人々を癒すための場所なので、今の平和な世には不必要ですから」
「そうだったんですか」
「さぁ、中へ」
ボクはリサを腕の中に抱いたまま、ブルーシェル城に向かった。
ーーー
「だから、私は言ったのだ。聖女の契約をさせるなと」
「ですが、兄上」
ハーフィとクレスが言い合いながらボク達の前を歩いている。
アミスは少し哀しげな顔をして、彼らを見る。
「お前がアミスを好いているのはしっている。私のことが嫌いなことも。アミスを聖女にし、自分の妻に迎えいれれば王の座につけると考えたのだろう」
「それは――」
「聖女には、国を護る力があると同時に魔物を引き寄せる力もあるというのに……」
「っ……」
小さな声で話しているけれど、ボクの耳には聞こえてしまう。
聖女には、魔物を引き寄せる力が……。
「こちらです」
アミスが彼らとは違う方向へと招く。彼らはそのまま何処かへと歩いていった。
「ここに、寝かせて下さい」
沢山の石の台が並ぶ部屋に着いた。部屋の奥に、水の精霊の魔法陣らしきものがうっすらと光を放つ。
アミスから交代してルミナを抱えていたルードが手前の台の一つに寝かせた。ボクもルミナの横にリサをそっと寝かせる。
「ウォータ」
澄んだ声で、アミスが水の精霊を呼ぶと、魔法陣がパァッと大きく光ったあと、ルミナとリサのまわりに水球が現れた。
パシャンパシャン
水球が割れ、彼女達に降り注ぐ。
「これで、水の精霊の癒しは済みました。目覚めるのを部屋で待ちましょう」
ボクはもう一度リサを抱き上げて、アミスが案内する方へと歩いていった。
ーーー
リサはあれからなかなか目を覚まさない。アミスはルミナの様子を見に隣の部屋へ。ルードはボクと同じ部屋にいる。
寝ている彼女の手をギュッと握ると、ピクリと小さく動いた。
「アリス……ちゃん……」
「リサちゃん!」
「よかった、手繋いでた……」
「リサちゃん?」
夢でも見ていたのだろうか。まだはっきりとしていない感じだ。
浄化の魔法は彼女にしか使えない。ボクには出来ない。
守ると約束したのに、逆に守られてしまっている。
彼女を守る力が欲しい。ボクは彼女を守る事が出来る強い剣になりたい。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる