私は聖女じゃない?じゃあいったい、何ですか?

花月夜れん

文字の大きさ
171 / 189
最終章・聖女じゃなくて

160話・帰る日

しおりを挟む
 ピチュピチュ

 聞き慣れた、朝のぴーちゅんの鳴き声がする。

「あ、ぴーちゅん。おはよう」

 私は窓を開け、彼に挨拶をして空を見上げた。眩しい光がさしている。
 もう朝だ。

 コンコン

 誰かがドアをノックする音がして、ルーシーかな? と思っていると正解だったみたいで彼女の声がした。

「リサ様、カナ様がお帰りになる儀式を始めます。ご用意を」
「はい」

 ルーシーに、髪を結ってもらい私はここに来た時の服を着る。
 あぁ、普通の私の服達は、とてもとてもホッとする。

 ーーー

「カナは帰さない! 私は、私は!」
「カトル様!!」

 紫色の髪をなびかせて、メリエルがカトル王子のもとに走ってきた。
 そして、その勢いのままカトル王子の頬を思いっきり叩いた。
 ビターンと、とてもいい音が響く。

「死んだものは戻ってきません。カナ様は、マナエではありません! 今は忘れてしまっているけれど、貴方が愛を誓ったのは、私の妹、マナエルです!」
「メ……リエ……」

 勢いにのまれたのか、カトル王子はびっくりした顔で、少し小さな彼女を見る。

「カナ様には、愛する人がいらっしゃるのです! 貴方はそれを引き離すおつもりなのですか!! 誰よりも引き裂かれる苦しみを知っている貴方が!」

 紫色の大きな瞳からポロポロと涙が溢れ落ちる。

「私は、二番目でもかまわない。けれど、それはカナ様ではありません。私の許すのはただ一人、妹のマナエだけです」
「…………」
「足りない魔力は、私が支えます! 強くなります! だから、どうかお願いします。愛する者を引き裂くような真似は――――」

 ーーー

 ということが、私の知らないところで繰り広げられたらしい。
 メリエルの手には、手紙がぎゅっと握りしめられていたそうだ。

 コンコン

「リサちゃん、一緒に行こう」

 外からアリスの声がする。迎えにきてくれたみたい。

「うん、もうすぐ出来るよ」

 アリスのエスコートで、私が落っこちてきた部屋、魔法陣の場所へと向かう。あの日から、そんなに日にちはたってないのに、色々あったなぁ。
 私は不安に思っていることを口に出す。

「ねぇ、一緒に戻っちゃわないよね――」
「スペードの言うことが違っていたことはないから」
「そうだけど――」

 最初の一回とかだったら――、と考えて私はプルプルと頭を振る。
 魔法陣の部屋につくと、制服姿のカナちゃんが立っていた。

「リサさん!」

 その顔には、嬉しそうな笑顔が浮かぶ。

「ありがとうございました。メリエルさんや、ミュカ君、キーヒ君達に私の友達になってって言ってくれてたそうで――」
「あ、うん」
「とても、助けてもらってたんです」

 私の知らないところで第二段! でも、よかった。助けになってくれたんだね。私もあとで彼らにお礼を言わなくちゃ。
 メリエルはそこにいるし、このあとで――。
 そうだ、ミュカとキーヒはボスに成れたのかな?
 そう考えていたら、カトル王子が声をかけてきた。

「始めてもいいかな?」
「はい!」

 くるりと、魔法陣の上に戻っていくカナちゃん。
 カトル王子の横には、メリエルが凛と立っている。なんだろう、彼女凄くかっこよくなった? 手紙になんて書いていたんだろう。
 後ろには、リードとルードが並んでいる。何故か、リードの表情が寂しそうに見えた気がした。

「カナ、呼んでしまって、すまなかった」

 カトル王子が頭を下げ、謝っている。一国の王子様の謝る場面を目撃するなんて、今後絶対にないだろうな。
 そもそも王子様に会うこと事態がこんなことがなければなかっただろうけれど。

「カトル……様、国の為にと行ったことです。それに、私は彼のことがどれほど好きか、再確認出来ました。もう会うことはないと思いますが、どうかお幸せに……」

 そう言って、彼女はぺこりとお辞儀をした。二人の間でどんなやり取りがあったかなんて私は知らないけれど、関係は悪いものではなかったのかな。
 こくりと頷くと、カトル王子はそっと片方の膝をつき魔法陣に触れた。
 その時、アリスが手をとりぎゅっと握ってくれる。大丈夫、心配ないよと言って。

「召喚を行いし、魔法陣よ、その役目を逆転しろ――」

 呟くと同時に、魔法陣が光り、カナの姿が粒子になり浮かび上がる。

「さようなら! あ、リサさん、向こうのせ――」

 そこで彼女の声は途切れた。きっと、向こうの世界で伝えたいことや伝えたい人がいるかを聞き忘れていたのだろう。
 彼に会えるからと慌てて頭の中がいっぱいだったんだろうな。可愛いなぁ、そう考えてクスクスと笑ってしまった。

「ちゃんと戻って、彼氏と仲良くしてね」

 これで彼女との約束は、果たせたよね。

 カトル王子、メリエル、リード、ルード、それから私達は彼女の消えた場所をしばらくじっと眺めていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

処理中です...