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最終章・聖女じゃなくて
159話・手を繋いで
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「そんな…………」
手が震える。これ以上魔物がきて浄化魔法を使ったら、私はどうなってしまうの……?
スペードはいつもの笑みを浮かべずに話す。
「ずっと、ここに聖なる力ではった結界があったからっすね。餌はここだよと教えているようなものっす。封印された魔物以外も呼び寄せたっすね」
「何体なんだ…………」
聞きたいことをアリスが聞いてくれた。でも、答えを聞くのが怖い。
「さぁっす」
「――――っ!!」
スペードもわからない位の数がいるの――?
大きな音が、沢山の影がどんどん迫ってくる。もうすぐこの国は、魔物達に蹂躙される……。絶望の世界に塗り替えられる?
ふぅとタメ息をついてから、スペードは言った。
「聖女が国に必要なのは、魔物の脅威から守ってもらうためっすよね」
そうだ、だからカナちゃんは国に縛られた。
「じゃあ、この世界すべての魔物がいなくなれば」
聖女は必要なくなる? でも、未来は?
「大切なのは今っすよね」
「…………それでいいの?」
彼は帽子で表情をすべて隠してしまった。
決めるのは、私ということだろう。
「アリスちゃん――――」
「リサちゃん?」
私と、この国、どっちが大事なんて聞いちゃ駄目なことくらいわかってる。比べられるわけがない。
でも、きっと私が今考えていることをすると、私は私に戻れなくなる。
シンカー、グリッターが言っていた辛い選択のことだろう。
私は、それでも……。アリスの悲しい顔を見たくない。
目の前で救えなかった彼女と重ならないといいな……。
「私ね、アリスちゃんのこと大好きだよ」
「リサちゃん?」
「お兄さん説得してカナちゃんを元の世界に」
「何を言ってるの!?」
「花嫁さん、なりたかったなー」
ぎゅっと目をつぶってアリスの唇に自分の唇を当てた。
すぐに離れて、笑ってみせる。たぶん、今私の顔は真っ赤なんだろうなー。
「この国の滅びの予言を止めるために私は喚ばれたんだね」
スペードは答えない。
「あ、でも――」
そうだ、私だけじゃ全部の浄化魔法が使えない。
二人の指輪が必要だった――。
「まったく、リサちゃんは本当に困った花嫁さんだなぁ」
きゅっと手を握られた。
「一人で勝手に走っていったら危ないよ」
今度は放してもらえなさそうなくらいぎゅっと握られる。
「リサ様、私も一緒に」
ルードはまるで忠誠を誓う騎士のように手を差し出す。
やだな、決心が鈍ってしまう。目の前が潤んで見えない。
「お願いします」
アリスと、ルードと手を繋ぐ。
一人じゃない。
この世界に来た時は、一人っきりで泣いてしまったっけ……。
寂しくない。っていえば、嘘になるかな。
怖い。けど、大好きな人を守りたい。
「リサっ!」
スペードが叫ぶ。 何?
「ライト!」
キィン
大きな岩が頭上から落ちてきていたようだ。それを、光の結界が弾いた。誰が――?
「リサさん! 私は、帰りたい、タツミのいる世界に! リサさんなら、叶えてくれるって、ライトが!!」
カナちゃんが、目を覚ましたみたいだ。
「お願い!」
私は彼女にこくりと頷いた。
この世界のすべての魔物を浄化して!!
「ウィル・オー・ウィスプ!」
ミニライト達がくすくすと笑いながら飛び、光が世界に広がる。
「イフリート!」
妖艶に煌めく青い炎を纏ったサラが駆け巡る。
「ウンディーネ!」
たまに見せる優しい顔をしたウォータが暖かい雨を降らせる。
「ジン!」
いたずらっ子のように笑いながらシルフィが飛び、その後ろを追うように風が吹き、舞い踊る。
「ドリアード!」
いつもとは違って生き生きとしたエントが優しく手を広げる。それが合図になって木々が芽吹き、風と共に飛ぶ。
「ベヒモス!」
ノームは無表情のまま足でドンと地面を蹴る。そこを中心にして大きな地響きが響き渡る。
「シェイド!」
ネスのまわりから影が伸びる。その闇が世界を包み込んだ。
光と闇、二つの相反する魔法が溶け合って混ざりあう。
契約の精霊の真名をすべて呼んだ。そして、皆が答えてくれる。
ありがとう――。
でもこれで、私は――――。
私は終わりを見ることなく、ここで意識がなくなった。
手が震える。これ以上魔物がきて浄化魔法を使ったら、私はどうなってしまうの……?
スペードはいつもの笑みを浮かべずに話す。
「ずっと、ここに聖なる力ではった結界があったからっすね。餌はここだよと教えているようなものっす。封印された魔物以外も呼び寄せたっすね」
「何体なんだ…………」
聞きたいことをアリスが聞いてくれた。でも、答えを聞くのが怖い。
「さぁっす」
「――――っ!!」
スペードもわからない位の数がいるの――?
大きな音が、沢山の影がどんどん迫ってくる。もうすぐこの国は、魔物達に蹂躙される……。絶望の世界に塗り替えられる?
ふぅとタメ息をついてから、スペードは言った。
「聖女が国に必要なのは、魔物の脅威から守ってもらうためっすよね」
そうだ、だからカナちゃんは国に縛られた。
「じゃあ、この世界すべての魔物がいなくなれば」
聖女は必要なくなる? でも、未来は?
「大切なのは今っすよね」
「…………それでいいの?」
彼は帽子で表情をすべて隠してしまった。
決めるのは、私ということだろう。
「アリスちゃん――――」
「リサちゃん?」
私と、この国、どっちが大事なんて聞いちゃ駄目なことくらいわかってる。比べられるわけがない。
でも、きっと私が今考えていることをすると、私は私に戻れなくなる。
シンカー、グリッターが言っていた辛い選択のことだろう。
私は、それでも……。アリスの悲しい顔を見たくない。
目の前で救えなかった彼女と重ならないといいな……。
「私ね、アリスちゃんのこと大好きだよ」
「リサちゃん?」
「お兄さん説得してカナちゃんを元の世界に」
「何を言ってるの!?」
「花嫁さん、なりたかったなー」
ぎゅっと目をつぶってアリスの唇に自分の唇を当てた。
すぐに離れて、笑ってみせる。たぶん、今私の顔は真っ赤なんだろうなー。
「この国の滅びの予言を止めるために私は喚ばれたんだね」
スペードは答えない。
「あ、でも――」
そうだ、私だけじゃ全部の浄化魔法が使えない。
二人の指輪が必要だった――。
「まったく、リサちゃんは本当に困った花嫁さんだなぁ」
きゅっと手を握られた。
「一人で勝手に走っていったら危ないよ」
今度は放してもらえなさそうなくらいぎゅっと握られる。
「リサ様、私も一緒に」
ルードはまるで忠誠を誓う騎士のように手を差し出す。
やだな、決心が鈍ってしまう。目の前が潤んで見えない。
「お願いします」
アリスと、ルードと手を繋ぐ。
一人じゃない。
この世界に来た時は、一人っきりで泣いてしまったっけ……。
寂しくない。っていえば、嘘になるかな。
怖い。けど、大好きな人を守りたい。
「リサっ!」
スペードが叫ぶ。 何?
「ライト!」
キィン
大きな岩が頭上から落ちてきていたようだ。それを、光の結界が弾いた。誰が――?
「リサさん! 私は、帰りたい、タツミのいる世界に! リサさんなら、叶えてくれるって、ライトが!!」
カナちゃんが、目を覚ましたみたいだ。
「お願い!」
私は彼女にこくりと頷いた。
この世界のすべての魔物を浄化して!!
「ウィル・オー・ウィスプ!」
ミニライト達がくすくすと笑いながら飛び、光が世界に広がる。
「イフリート!」
妖艶に煌めく青い炎を纏ったサラが駆け巡る。
「ウンディーネ!」
たまに見せる優しい顔をしたウォータが暖かい雨を降らせる。
「ジン!」
いたずらっ子のように笑いながらシルフィが飛び、その後ろを追うように風が吹き、舞い踊る。
「ドリアード!」
いつもとは違って生き生きとしたエントが優しく手を広げる。それが合図になって木々が芽吹き、風と共に飛ぶ。
「ベヒモス!」
ノームは無表情のまま足でドンと地面を蹴る。そこを中心にして大きな地響きが響き渡る。
「シェイド!」
ネスのまわりから影が伸びる。その闇が世界を包み込んだ。
光と闇、二つの相反する魔法が溶け合って混ざりあう。
契約の精霊の真名をすべて呼んだ。そして、皆が答えてくれる。
ありがとう――。
でもこれで、私は――――。
私は終わりを見ることなく、ここで意識がなくなった。
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