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第1話

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アンナは親代わりだったソフィーの亡骸を抱きしめ、どす黒い憎しみの炎を瞳に宿していた。







アンナ・ランプリングは没落貴族の一人娘であった。

没落しているとはいえ、艶のあるブロンド、大きくこぼれそうな瞳、透き通るような白い肌、小鳥がさえずるような声を持ち、心優しいその様子はどこの伯爵令嬢と比べても引けを取らない淑女であった。

母はアンナを生んだ後、産後の肥立ちが悪くアンナの顔を見ずにこの世を去り、頼りの父はアンナが16歳の時に病に倒れた。

アンナの父は残されるであろう一人娘の今後を心配し、没落貴族の娘でも貰ってくれる縁談を持ってきた。
残りの力を振り絞って取ってきた縁談だったからか、縁談が成立すると知るや否やこの世を去ってしまった。

天涯孤独になってしまったアンナは、父の最後の贈り物である縁談を頼りに生きていくほかなかった。




「ここも掃除しておいて頂戴っ!」
「あぁっ!」

侯爵の愛人ヴァネッサはナッツを鷲掴みにすると、アンナに向かって投げつけ去っていった。

嫁ぎ先であったはずの侯爵家はアンナにとって到底心安らげる場所ではなかった。

まず夫であるはずの侯爵ドミニクはアンナの必死にかき集めた持参金を巻き上げた後、一方的に婚約を解消。
愛人のヴァネッサを寵愛し、アンナを召使同然に扱った。

その愛人ヴァネッサは底意地が悪く、没落したとはいえ貴族の、しかも若く美しい娘をいびるのが大層楽しいらしく、何かにつけてはアンナを虐め、罵倒してくる。

そしてこの2人に倣ってか、ドミニクの一族はアンナにことあるごとに酷く当たり、サディスティックな欲望を満たしていた。

城の中にはアンナを傷つけて楽しんでやろうという思いで渦巻いていた。

「アンナ様、ここは私がいたしますのでお休みになられてくださいませ」
「ソフィー」

そんな中、唯一アンナの心の拠り所は嫁ぐ際に一緒についてきてくれたソフィーだった。

ソフィーはアンナの母が亡くなった後、アンナの世話を続けていたランプリング家の使用人で、アンナが母のように慕っている女性である。

「いいえ、いいのよ。私がやらなければまた何を言われるか分かったものではないし・・・。」
「アンナ様・・・。」

こんな環境に陥っても泣き言を言わず、従順に絨毯の上のナッツを拾い始めたアンナに、ソフィーは何とかこの美しい天使をこの城から出す方法はないものかと心を痛めるのであった。



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