169 / 173
後編#4
あの日
しおりを挟む
『樹?…樹?…』
優子は恐る恐る樹に近付いていった。膝から力が抜けそうなのをなんとか、発狂してしまいそうなのをなんとか堪えながら大切な親友の前で立ち尽くしていた。
照準を鷹爪に合わせ優子はこの3年間の憎しみを込めた。
しかし引き金を引いた時にはもう樹が間に入っていた。弾が樹の胸に直撃すると樹は崩れるように倒れ、鷹爪は一目散に逃げていった。
『どうして…なんでだよ…』
殺して終わり。自分はもうそれで終わりでよかった。当然死ぬつもりでいた。
鷹爪さえ殺したら、あとはもう…
そんなことさせる訳ないじゃん。そう、樹ならきっとそうやって言った。
あんたに人殺しなんてさせる訳ないでしょ。
樹。分かってたけど、あんたはやっぱり…
『…ねぇ、聞いてんの?』
『…え?』
優子がふと我に返ると樹が仰向けに倒れたままこちらを見ている。
『樹!?大丈夫なの!?大丈夫なの!?』
『あぁ。なんとか、ギリギリね』
樹はそう言って特攻服の下に着た防弾ベストをちらつかせた。
『あんた、それ』
『へへ…ちょっと借りたぜ。どうせ着ろって言ったって、あんたは着なかっただろうからさ』
『バカじゃないの!?死んだらどうするつもりだったんだよ!!』
優子は涙をにじませ樹の胸ぐらをつかみ寄せた。
『あんたが…死んだ未来をさっき夢で見たんだ』
樹は指先で優子の涙をぬぐってやった。
『あんたが死ぬより、あんたに殺させるより、そっちの方がずーっとマシだよ。あたしの命で守れるならね』
優子はぬぐってもらったばかりの頬をまた濡らした。
『優子。あたし中1の時、あんたを守れなかったよね。中3であんたが転校した時も、あたしは結局なんにもできなかった。だけど今は違う。ちゃんとあんたを、優子を守れるよ。何があったって守ってみせるよ。だから、もういいから、もう安心していいからさ…戻ってきなよ、相模原に…』
優子は不思議な気分だった。
どす黒い心の中の殺意と憎しみが薄れていく気がした。
でもダメだ。自分にはもう…
『バカ言わないでよ。あたしに帰る場所なんてある訳ないだろ?』
だが樹はそっと優子を抱き寄せ、優しく声をかけた。
『バ~カ。あんたに帰る場所が他にあんのかよ』
…いいのかな?
覚悟した心がまた揺れているのが分かった。
…本当に、いいのかな?
自分にはそんな資格なんてない。
けど、だけど、樹の腕の中が心地いい…
樹の声が温かい…
優子はやっと親友のことを抱きしめ返した。
『…帰りたい…あたし…帰りたいよ…樹…』
優子の本音がやっと言葉になった時、遠くからサイレンの音が鳴り始め、あっという間に数台のパトカーと救急車が駆けつけた。
鷹爪肖は車で弾を補充していた所を押さえられ呆気なく連行されていった。
救急車は樹が呼んでいた。美術室で防弾ベストを身に付けた後に連絡を入れた。
もちろん誰も死なず誰も怪我しないのが1番だが、何かあるかもしれない以上救急車の到着は早い方がいいと判断した。
警察へは救急からもそうだが近所から通報が入っていた。
『愛羽!大丈夫か!』
2人は立ち上がると愛羽たちの方へ駆けていった。
鷹爪が戦国原に向けて撃った2発目の弾は愛羽が戦国原をかばい左腕に受けたらしく特攻服に血が染みている。
『あたしは大丈夫…でも、メイちゃんが…』
愛羽は自分に体を預けさせ横たわる戦国原の傷口を手で押さえていたが出血が止まらない。
戦国原の表情は虚ろで呼吸が上手くできていないらしくすでに虫の息だ。
『メイちゃん…ごめんなさい…なんで?…なんであたしなんて助けたの?…やだよ…死なないで…メイちゃん…』
愛羽が流した涙がポタポタと戦国原の顔に落ちていく。
戦国原はもう口を動かすことができない。
意識はゆっくりと遠のいていく。
(愛羽さん…やめてください…ボクは…あなたなんて…)
自分はCRSの真の黒幕レディ。始めから愛羽たちのことを利用する為だけに近付いた。
それだけだ。鷹爪を殺す計画を全うする為に彼女と友達であると装っていただけに過ぎない。
(あぁ…でも…)
戦国原は消えゆく意識の中、自分の誕生日の日のことを思い出していた。
こんな時だというのに頭の中に浮かんでくるのは、いつも以上にニコニコしながら、でも少し恥ずかしそうな顔でプレゼントを渡してくれた愛羽の笑顔だった。
(…あのクッキーは…おいしかった…)
戦国原冥の目は閉ざされていった。
閉ざされる瞬間その両方の瞳からは、彼女の今日までの悲しみが零れ落ちていた。
優子は恐る恐る樹に近付いていった。膝から力が抜けそうなのをなんとか、発狂してしまいそうなのをなんとか堪えながら大切な親友の前で立ち尽くしていた。
照準を鷹爪に合わせ優子はこの3年間の憎しみを込めた。
しかし引き金を引いた時にはもう樹が間に入っていた。弾が樹の胸に直撃すると樹は崩れるように倒れ、鷹爪は一目散に逃げていった。
『どうして…なんでだよ…』
殺して終わり。自分はもうそれで終わりでよかった。当然死ぬつもりでいた。
鷹爪さえ殺したら、あとはもう…
そんなことさせる訳ないじゃん。そう、樹ならきっとそうやって言った。
あんたに人殺しなんてさせる訳ないでしょ。
樹。分かってたけど、あんたはやっぱり…
『…ねぇ、聞いてんの?』
『…え?』
優子がふと我に返ると樹が仰向けに倒れたままこちらを見ている。
『樹!?大丈夫なの!?大丈夫なの!?』
『あぁ。なんとか、ギリギリね』
樹はそう言って特攻服の下に着た防弾ベストをちらつかせた。
『あんた、それ』
『へへ…ちょっと借りたぜ。どうせ着ろって言ったって、あんたは着なかっただろうからさ』
『バカじゃないの!?死んだらどうするつもりだったんだよ!!』
優子は涙をにじませ樹の胸ぐらをつかみ寄せた。
『あんたが…死んだ未来をさっき夢で見たんだ』
樹は指先で優子の涙をぬぐってやった。
『あんたが死ぬより、あんたに殺させるより、そっちの方がずーっとマシだよ。あたしの命で守れるならね』
優子はぬぐってもらったばかりの頬をまた濡らした。
『優子。あたし中1の時、あんたを守れなかったよね。中3であんたが転校した時も、あたしは結局なんにもできなかった。だけど今は違う。ちゃんとあんたを、優子を守れるよ。何があったって守ってみせるよ。だから、もういいから、もう安心していいからさ…戻ってきなよ、相模原に…』
優子は不思議な気分だった。
どす黒い心の中の殺意と憎しみが薄れていく気がした。
でもダメだ。自分にはもう…
『バカ言わないでよ。あたしに帰る場所なんてある訳ないだろ?』
だが樹はそっと優子を抱き寄せ、優しく声をかけた。
『バ~カ。あんたに帰る場所が他にあんのかよ』
…いいのかな?
覚悟した心がまた揺れているのが分かった。
…本当に、いいのかな?
自分にはそんな資格なんてない。
けど、だけど、樹の腕の中が心地いい…
樹の声が温かい…
優子はやっと親友のことを抱きしめ返した。
『…帰りたい…あたし…帰りたいよ…樹…』
優子の本音がやっと言葉になった時、遠くからサイレンの音が鳴り始め、あっという間に数台のパトカーと救急車が駆けつけた。
鷹爪肖は車で弾を補充していた所を押さえられ呆気なく連行されていった。
救急車は樹が呼んでいた。美術室で防弾ベストを身に付けた後に連絡を入れた。
もちろん誰も死なず誰も怪我しないのが1番だが、何かあるかもしれない以上救急車の到着は早い方がいいと判断した。
警察へは救急からもそうだが近所から通報が入っていた。
『愛羽!大丈夫か!』
2人は立ち上がると愛羽たちの方へ駆けていった。
鷹爪が戦国原に向けて撃った2発目の弾は愛羽が戦国原をかばい左腕に受けたらしく特攻服に血が染みている。
『あたしは大丈夫…でも、メイちゃんが…』
愛羽は自分に体を預けさせ横たわる戦国原の傷口を手で押さえていたが出血が止まらない。
戦国原の表情は虚ろで呼吸が上手くできていないらしくすでに虫の息だ。
『メイちゃん…ごめんなさい…なんで?…なんであたしなんて助けたの?…やだよ…死なないで…メイちゃん…』
愛羽が流した涙がポタポタと戦国原の顔に落ちていく。
戦国原はもう口を動かすことができない。
意識はゆっくりと遠のいていく。
(愛羽さん…やめてください…ボクは…あなたなんて…)
自分はCRSの真の黒幕レディ。始めから愛羽たちのことを利用する為だけに近付いた。
それだけだ。鷹爪を殺す計画を全うする為に彼女と友達であると装っていただけに過ぎない。
(あぁ…でも…)
戦国原は消えゆく意識の中、自分の誕生日の日のことを思い出していた。
こんな時だというのに頭の中に浮かんでくるのは、いつも以上にニコニコしながら、でも少し恥ずかしそうな顔でプレゼントを渡してくれた愛羽の笑顔だった。
(…あのクッキーは…おいしかった…)
戦国原冥の目は閉ざされていった。
閉ざされる瞬間その両方の瞳からは、彼女の今日までの悲しみが零れ落ちていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる