暴走♡アイドル3~オトヒメサマノユメ~

雪ノ瀬瞬

文字の大きさ
170 / 173
後編#4

ユビキリ

しおりを挟む
『…メイ…メイ…』

 戦国原は声の方に振り返った。

 辺りは深い霧?のような物で視界が悪いが向こうから人影が近付いてくる。

 いや、この声は…

『お母さん?』

 気付くと目の前には10年前に亡くなった母親が立っていた。

『お母さん…お母さん…』

 こちらを見て優しく微笑む母親に戦国原はボロボロに泣きながら抱きついていった。

『まぁ。メイちゃん、大きくなったわね』

 まるで7才の女の子のように涙も鼻水も垂らすだけ垂らして泣きじゃくる生き別れになった愛娘を母親も目元を潤ませながら抱きしめる。

『うぇ~ん…会いたかったよぉ、お母さ~ん…』

『あらあら。メイったら、相変わらず甘えん坊さんなんだから』

 母親は彼女の背中を手でゆっくりトン、トン、としながら頭を後ろから前に向かって優しく撫でてやり、戦国原が落ち着くまでしばらくそうしていた。

『メイ、ごめんなさいね。お母さんあなたに謝りたかったの』

『どうして?』

『だってお母さん、あなたに何もしてあげられなかったから。遠足や運動会でお弁当も作ってあげられないし、授業参観も卒業式だって見に行けなくて、お誕生日もクリスマスも。それだけじゃないわ。もっと色んなお洋服いっぱい着させてあげて、いっぱいお出かけして色んな所に連れてってあげたかったのに、今日まで何もしてこれなかったのよ。ごめんなさい、メイ…』

『お母さんは悪くなんてない。悪いのは全部…』

 戦国原は鷹爪や覚醒剤を使う奴らだと言おうとしたのを寸前でやめていた。大好きな母親に自分の今の姿をさらしてしまうことをためらってしまった。

『でもね、何より謝りたかったのは、あなたにこんなことをさせてしまったこと。こんなに怖いことをあなたにずっとずっと1人で考えさせてきてしまったことよ』

『…お母さん…知ってたんだ…』

『当たり前じゃない。いつだってあなたのことを見てるのよ?あなたが私のことを思ってくれるように、いつだってあなたのことを思っていたわ。でもね、メイちゃん。もう私のせいで苦しい思いをするあなたを見ていたくないの。だからこれからは前を向いて幸せに生きていってほしいの』

『お母さんのせいなんかじゃない』

『メイちゃん…お願い…』

 鷹爪が死んでも母親が喜ばないであろうことは分かっていた。むしろ悲しむであろうことも。
 だがあまりにも悲惨な事故に大好きな母親を奪われた少女には止まる理由がなかった。
 でもこうして母親と再会し、その母親にこんな悲しそうな顔をされると申し訳なくなるばかりだった。

 それに今はもう全て失敗に終わり、結局自分は撃たれてしまったのだ。だから今更拒む理由もない。

『お母さん、ボク死んじゃったんだ。だからもう大丈夫だよ。まぁ、きっとボクは地獄に行くけど』

『何言ってるの?あなたは生きるのよ』

『え?何言ってるのって。だってボクは撃たれて…』

 死んだからお母さんと会えたんでしょ?

『あなたは小さい頃から友達を作るのが下手だったから、心配していたの』

 鷹爪に近付く為にグループに入ってからは愛想良く人付き合いをしてきたが、それまでの彼女は母親の言う通り親しい友達が特にいない孤独な少女だった。

『でも今のあなたにはちゃんとお友達がいて、お母さんそれを見てすごい安心しちゃった』

『…友達?』

 ボクに友達なんて…

『いいえ。あなたお友達をちゃんと守ったじゃない。だからお友達もあなたのことを守ってくれたのよ?』

 暁愛羽のことを言っているらしい。でも、あれは別に…

『彼女だけじゃないわ。あなたのことを私やお父さんのように大切に思ってくれる人達が今のあなたの周りにはいるし、これからももっと素敵なお友達を増やしていってほしい』

『ボクは別に友達なんて…』

 戦国原はそこまで言われても意志を曲げようとしなかった。それを見て母親は困ったように笑い、でも彼女が本当は素直になれないだけなのだということをなんとなく感じていた。

『メイちゃん。あなたはこのまま生きるの。だからもうすぐ私たちはまた会えなくなる。もう2度とこんな風に会うことはできないかもしれない。ううん、多分もう会えないと思う。だからちゃんと笑ってお別れしましょう?お母さんはそうしたいわ』

 母親はそう言うと左の手の小指以外を握り差し出した。

『だから約束して。これからはお友達を大切にして前を向いて生きるって。私はあなたが幸せに生きてくれることを祈って、これからもずっと見守っているから』

『でも…』

 戦国原は戸惑っていた。母親を安心させてあげて自分だって笑顔で別れたいが、ここまでした自分が愛羽たちと友達だなんてありえないと思っていた。仮に愛羽がいいとしても他の人間が自分を受け入れることはないだろう。普通に考えてそんなバカな話はない。
 何よりも自分には無理だと思っている。そんなすぐに人は変われはしない。

『そうね。とても難しいことかもしれない。でも1歩ずつでもいいから、あなたには前を向いて歩いていってほしいの』

 母親は戦国原の小指と自分の小指を絡ませた。

『ゆーびきーりげーんまーん♪』

 母親はそこまで歌って戦国原の顔を覗きこんで笑いかけた。

 昔からそうだった。約束ごとをする時は母親から歌い始め、次を戦国原が歌い最後は2人で終わる。

『…うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます♪』

『ゆーびきった!
 ゆーびきった!』

 大好きなお母さんを笑わせてあげたい。安心して見守っていてほしい。ただその一心で戦国原は涙ながらだが歌った。
 もちろん不安の方が多いが彼女はもう後ろは振り向かないと笑顔で約束した。
 これが大好きなお母さんへの最初で最後の親孝行だからだ。

『ありがとうメイ。私の大切なメイちゃん。私の所に生まれてくれて、本当にありがとう』

 霧が急に濃くなっていく。

 母親はもう1度愛する娘のことを抱きしめた。それで戦国原は別れの時が来たのだと思った。

『お母さん。ボクのこと産んでくれてありがとう…本当に…本当にいっぱいありがとう…』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...