ツンデレ神官は一途な勇者に溺愛される

抹茶

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17.門出に

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「本当にごめん!」
「別に、怒ってませんから」

 まだベッドから起き上がれないマイロに、俺は何度も何度も謝っていた。

 昨晩、俺たちはやっと気持ちが通じ合い、合意のうえでちゃんとしたセックスをすることができた。
 愛する相手が応えてくれる行為は、信じられないくらい気持ちよかった。

 そして俺は、調子に乗りすぎた。

 足腰が立たなくなるくらいベッドで愛し合い、マイロが目を覚ましたあとにシャワーで身体を洗いながらもう一度致した。その可愛いことといったら、俺は世界一の幸せものだといえる。
 しかし翌朝、俺は頭を抱えることになる。マイロは性行為にはあまり良い思い出がないだろうに、また無理をさせてしまったかもしれないと、寝顔を見ながら悶々とした。
 幸いなことに、目覚めた本人はけろっとしており、俺は深く反省し謝罪するだけでことなきを得た。

 ただ、当然ながら翌日の旅立ちは延期された。
 足腰が立たない状態では、とても出発できない。それどころが、教会に帰ることすら辛そうだった。不甲斐ない相棒で申し訳ない。次回は、予定を崩さないようにちゃんと自制するつもりだ。

 何度も謝る俺の隣に、シーツを巻いたマイロが降り立つ。そのまま甘えるように身体を寄せて、俺の頬にキスをする。

「ルカと愛し合えて、嬉しいです」
「えへへ。俺も嬉しいよ」

 マイロが呼び捨てにしてくれるだけで、空も飛べそうなくらい幸せなのに、その上キスまで。素直になったマイロは可愛すぎて、我ながらちょっと気持ち悪いくらいデレデレしてしまう。

 しばらくイチャイチャしたあとに、出発を遅らせることと、マイロが帰らないことを伝えに教会へ向かった。
 当然、司祭には生温かい目で見られるが仕方ない。話したいこともあったが、それは次の日に持ち越すことにした。

 しっかりマイロを休ませて、余裕ができた午後には、世話になった武器屋さんに挨拶をする。向かいのパン屋では、干し葡萄と胡桃のクッキーをたくさん買い込んだ。
 このクッキーを見るたびに、マイロの笑顔が目に浮かぶようだった。



 翌日にはマイロの体力も回復し、出発する準備も整った。
 荷物を持って教会に向かうと、入り口の扉の前でマイロと司教が話をしていた。
 周りに他の人はいない。話に入っていいものかと、遠目から様子を伺う。司教は落ち着いた様子で、マイロは少し涙ぐんでいる。

 声が聞こえない程度に距離をとって、話が終わるのを見守った。
 最後には2人とも穏やかな顔をしていた。誤解は解けたのだろう。

 昨夜に話した仮説は、俺の想像でしかない。本当のことを司教の口から聞きたい気持ちもあるが、それは出過ぎた真似だといえる。この件に関して、俺は全くの部外者だ。
 諸悪の根源だったアークデーモンは去ったので、これからはきっと良いほうに向かっていくはずだ。

 本来マイロの過去は彼自身のもので、俺がとやかく言うのはお門違いなのだ。俺はこれからの未来で、しっかりマイロを支える。マイロがまた間違えて苦しむことがあれば、その時に道を正すのは俺の役目だ。

「ルカ様」

 司教がこちらに気づいたようだ。話が終わるまで、気づかないふりをしてくれていたのかもしれない。
 マイロが涙を拭うのを、あえて知らんぷりして司教と握手した。

「マイロをよろしくお願いします」
「任せてください」
「マイロも、しっかりルカ様をお守りするのだぞ」
「はい、司教様」

 マイロはまだ少し鼻声だったが、悔いはなさそうだった。行くべき道を決めたときのマイロは、きっと強い。
 心身ともに旅支度を整えたマイロのもとに、子供たちが駆け寄ってきた。

「マイロにいちゃん、行っちゃうの?」
「また戻ってくるよね?」
「私は……」

 子供たちには嘘がつけないのか、マイロの語尾が弱々しく消える。魔王を倒す旅に出るのだ。険しい道のりになるだろうし、命の保証はない。
 それでも俺は、迷わずマイロの手を取った。子供たち一人一人に目を合わせて、宣誓するように語りかける。

「俺たちは戻ってくるよ、絶対」
「ほんとに?」
「本当だ。戻ってきて、この町で鍛冶屋を開くんだ。な?」

 マイロの方に片目をつむってみせる。
 
「ふふ。そうですね」

 マイロは穏やかな表情で、子供たちを1人ずつ抱き寄せながら、別れの挨拶をしていった。
 子供たちの笑顔も、別れを惜しむ涙も、しっかりと目に焼きつける。彼らの期待を裏切るようなことがあってはならない。俺が、責任を持ってマイロをここに連れて帰るのだ。

「では、行ってきます」
「いってらっしゃい!」

 これは「さよなら」じゃない。
 俺たちは必ずここに戻ってくる。平和になった世界で一緒に生きていく。
 マイロの手を取ると、同じだけの力で握り返してくれる。それだけのことが、とても頼もしい。

 決意を新たに、俺は新しくできた大切な仲間とともに街を出ていくのだった。
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