1 / 13
ジョルジョカ編
ニンゲン拾った
しおりを挟む
一日目。
ニンゲンを拾った。
ニンゲンは、他のニンゲンと同じように他の時空から落ちてきたようだ。彼らのことをよく知らないので、ニンゲンを飼っている友人のピュリラスカに聞いたが、どこから来たのかは詳しくわからないらしい。
ニンゲンがニンゲンと呼ばれているのは、かつて落ちてきたニンゲンが我々の言葉を覚え、自分たちはニンゲンだと教えてくれたからだ。
ニンゲンは不思議な形態をしている。上半身は我々クァラリブスに似ていた。手足が合わせて四本しかなく、それぞれの先に五本の小さな指がついている。ニンゲンは器用だと聞いていたが、確かにあの小さな指は細かい作業に向いていそうだ。我々の手の指は四本で、水かきがついているため作業には向かない。下半身に生えたたくさんの触手を主に使うが、触手の形状によっては向き不向きがある。触手ではなく尾びれを持つものもいる。
フリーアクセスのアーカイブを探して、ニンゲンの資料をいくつか読んだ。
資料に従って性器を確認すると、人間はオスだった。ひどく暴れ抵抗されたが、その力のなんと弱々しいことか。体長がクァラリブスの半分しかないので、触手で絡めて抱き締めるだけで動けなくなってしまう。こちらに落ちてきたニンゲンが、皆保護され可愛がられているのも無理からぬことだった。
資料を参考に、食べられるものを用意してみる。このあたりはあまり陸地がなく、海産物ばかり獲れるから魚介類が多い。加熱したほうがいいと聞いて、生と加熱の両方を用意した。ニンゲンはそれらを恐る恐る口にして、美味しかったのか目をみはった。食事を頬張る様子が可愛らしかった。
二日目。
少し目を離して海に狩りに行った隙に、ニンゲンが居住エリアから出ていた。小さな肉食鳥類の群れに襲われて逃げ惑っていたので、慌てて銛で追い払う。ニンゲンは怯えていた。居住エリアから出てはいけない、と私は身振り手振りで言い聞かせたが、理解できているかわからなかった。鍵をかけて閉じ込めるべきなのだろうか。
ニンゲンは綺麗好きらしいので、身体を洗ってやることにした。水中で呼吸を止めると数分程度しか生きられないと知って驚いた。慎重にしなければ。
あらかじめピュリラスカに通信で確認すると、最初は介助が必要だが、賢いのですぐに一人で身体を洗えるようになるらしい。温かい湯が必要とのことだった。居住エリアにはハンモックや通信機器など必要最低限のものしかないが、ちょうど使っていないリラクゼーションルームがあった。陸でもプールが必要な者のための部屋だが、私は陸でも問題なく生活できるため、使ったことがなかった。そこのプールに湯を張ることにした。
ピュリラスカのところもそうだったらしいが、うちのニンゲンもかなり抵抗した。特に衣服を脱がせるところが難関で、少し破ってしまった。クァラリブスは海中に潜ることが多いため、上半身に装飾や鎧をつける程度で衣服はほとんど着ない。新しいものをどこで調達すればいいのか、ピュリラスカに聞かなければ。
裸になって観念したのか、ニンゲンは大人しくなった。大型海洋哺乳類の脂からできた石鹸を丹念に泡立て、力加減に注意しながらニンゲンの柔らかい髪や、すべすべした皮膚を洗う。私の触手が器用なタイプでよかった。
敵意がないことがわかったのか、ニンゲンは気持ちよさそうに身を委ねてくる。飼い主の欲目かもしれないが、うちのニンゲンはかわいいと思う。髪は美しい黒で、目は茶色、つぶらな目は少し垂れていて、肌はどこもかしこもぷよぷよモチモチしている。年齢はよくわからないが、おそらく子どもでも年寄りでもないと思う。
私が触手を使って念入りに全身を洗ってやっていると、ニンゲンがモジモジしはじめた。なんだろう、と思いつつも動きを止めなかったが、ニンゲンはそのうちに足をすり合わせ、身を悶えさせて、かすかに声を上げて震えた。私がびっくりして全身くまなく調べると、ニンゲンの性器が立ち上がっていた。そこから白い液体が漏れている。私は慌てて、ニンゲンを抱えたまま泡だらけでリラクゼーションルームを飛び出し、ピュリラスカに通信をかけた。
「ピュリラスカ!」
『なんだいジョルジョカ、いつもはそっちから連絡してこない癖に、ニンゲン飼ってからすごいね』
「ニンゲンの性器から白い液体が」
ピュリラスカの笑い声が通信機越しに響いた。
『そりゃ射精だ』
「射精? しかし……」
『俺たちの触り方は、肌の薄いニンゲンには刺激が強すぎるんだ。特にニンゲンは定まった発情期を持たずに、好きなときに性交ができるから……ああ、どうしたの可愛い子、遊ぶの? いいよ……じゃあね、ジョルジョカ! 君のニンゲンが乗り気なら、一緒に楽しんでもいいんじゃない』
そう言って、ピュリラスカは通信を切った。自分のニンゲンを可愛がるので忙しいらしい。
私はニンゲンを見下ろした。ニンゲンは泡だらけのまま、私の触手に大人しく抱かれている。私の突然の行動に驚いたようにこちらを見上げていたが、ふと股間を隠して恥ずかしそうにした。
私は戸惑った。皆、ニンゲンをどのように飼っているのだろう。果たして普通の愛玩動物のように飼っている者がどれほどいるのか? このニンゲンに対して私が今抱いている劣情は、ニンゲンを飼う者として正常なものなのだろうか。
私はピュリラスカに通信をかけることもできず、泡を落とすためにすごすごとリラクゼーションルームに戻った。
ニンゲンを拾った。
ニンゲンは、他のニンゲンと同じように他の時空から落ちてきたようだ。彼らのことをよく知らないので、ニンゲンを飼っている友人のピュリラスカに聞いたが、どこから来たのかは詳しくわからないらしい。
ニンゲンがニンゲンと呼ばれているのは、かつて落ちてきたニンゲンが我々の言葉を覚え、自分たちはニンゲンだと教えてくれたからだ。
ニンゲンは不思議な形態をしている。上半身は我々クァラリブスに似ていた。手足が合わせて四本しかなく、それぞれの先に五本の小さな指がついている。ニンゲンは器用だと聞いていたが、確かにあの小さな指は細かい作業に向いていそうだ。我々の手の指は四本で、水かきがついているため作業には向かない。下半身に生えたたくさんの触手を主に使うが、触手の形状によっては向き不向きがある。触手ではなく尾びれを持つものもいる。
フリーアクセスのアーカイブを探して、ニンゲンの資料をいくつか読んだ。
資料に従って性器を確認すると、人間はオスだった。ひどく暴れ抵抗されたが、その力のなんと弱々しいことか。体長がクァラリブスの半分しかないので、触手で絡めて抱き締めるだけで動けなくなってしまう。こちらに落ちてきたニンゲンが、皆保護され可愛がられているのも無理からぬことだった。
資料を参考に、食べられるものを用意してみる。このあたりはあまり陸地がなく、海産物ばかり獲れるから魚介類が多い。加熱したほうがいいと聞いて、生と加熱の両方を用意した。ニンゲンはそれらを恐る恐る口にして、美味しかったのか目をみはった。食事を頬張る様子が可愛らしかった。
二日目。
少し目を離して海に狩りに行った隙に、ニンゲンが居住エリアから出ていた。小さな肉食鳥類の群れに襲われて逃げ惑っていたので、慌てて銛で追い払う。ニンゲンは怯えていた。居住エリアから出てはいけない、と私は身振り手振りで言い聞かせたが、理解できているかわからなかった。鍵をかけて閉じ込めるべきなのだろうか。
ニンゲンは綺麗好きらしいので、身体を洗ってやることにした。水中で呼吸を止めると数分程度しか生きられないと知って驚いた。慎重にしなければ。
あらかじめピュリラスカに通信で確認すると、最初は介助が必要だが、賢いのですぐに一人で身体を洗えるようになるらしい。温かい湯が必要とのことだった。居住エリアにはハンモックや通信機器など必要最低限のものしかないが、ちょうど使っていないリラクゼーションルームがあった。陸でもプールが必要な者のための部屋だが、私は陸でも問題なく生活できるため、使ったことがなかった。そこのプールに湯を張ることにした。
ピュリラスカのところもそうだったらしいが、うちのニンゲンもかなり抵抗した。特に衣服を脱がせるところが難関で、少し破ってしまった。クァラリブスは海中に潜ることが多いため、上半身に装飾や鎧をつける程度で衣服はほとんど着ない。新しいものをどこで調達すればいいのか、ピュリラスカに聞かなければ。
裸になって観念したのか、ニンゲンは大人しくなった。大型海洋哺乳類の脂からできた石鹸を丹念に泡立て、力加減に注意しながらニンゲンの柔らかい髪や、すべすべした皮膚を洗う。私の触手が器用なタイプでよかった。
敵意がないことがわかったのか、ニンゲンは気持ちよさそうに身を委ねてくる。飼い主の欲目かもしれないが、うちのニンゲンはかわいいと思う。髪は美しい黒で、目は茶色、つぶらな目は少し垂れていて、肌はどこもかしこもぷよぷよモチモチしている。年齢はよくわからないが、おそらく子どもでも年寄りでもないと思う。
私が触手を使って念入りに全身を洗ってやっていると、ニンゲンがモジモジしはじめた。なんだろう、と思いつつも動きを止めなかったが、ニンゲンはそのうちに足をすり合わせ、身を悶えさせて、かすかに声を上げて震えた。私がびっくりして全身くまなく調べると、ニンゲンの性器が立ち上がっていた。そこから白い液体が漏れている。私は慌てて、ニンゲンを抱えたまま泡だらけでリラクゼーションルームを飛び出し、ピュリラスカに通信をかけた。
「ピュリラスカ!」
『なんだいジョルジョカ、いつもはそっちから連絡してこない癖に、ニンゲン飼ってからすごいね』
「ニンゲンの性器から白い液体が」
ピュリラスカの笑い声が通信機越しに響いた。
『そりゃ射精だ』
「射精? しかし……」
『俺たちの触り方は、肌の薄いニンゲンには刺激が強すぎるんだ。特にニンゲンは定まった発情期を持たずに、好きなときに性交ができるから……ああ、どうしたの可愛い子、遊ぶの? いいよ……じゃあね、ジョルジョカ! 君のニンゲンが乗り気なら、一緒に楽しんでもいいんじゃない』
そう言って、ピュリラスカは通信を切った。自分のニンゲンを可愛がるので忙しいらしい。
私はニンゲンを見下ろした。ニンゲンは泡だらけのまま、私の触手に大人しく抱かれている。私の突然の行動に驚いたようにこちらを見上げていたが、ふと股間を隠して恥ずかしそうにした。
私は戸惑った。皆、ニンゲンをどのように飼っているのだろう。果たして普通の愛玩動物のように飼っている者がどれほどいるのか? このニンゲンに対して私が今抱いている劣情は、ニンゲンを飼う者として正常なものなのだろうか。
私はピュリラスカに通信をかけることもできず、泡を落とすためにすごすごとリラクゼーションルームに戻った。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
雪 いつき
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる