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ジョルジョカ編
バケモノに拾われた
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触手生物に保護されて三日目。
初日は何が何だかわからなかったし、俺を拾った生き物のビジュアルが化け物すぎて部屋の隅で震えていることしかできなかったが、食べ物をくれて、身体も洗ってくれたので、悪い奴ではないんだと思う。
どうやら知らない世界に飛ばされたらしい、と俺は保護生活三日目にしてようやく諦めがついた。ブラック企業務めだったから、辞められてよかったなとポジティブに考えることにした。
一度は家の外に出てみたが、カラスくらいの大きさの凶暴な鳥たちに襲われて、二度と外に出ないと誓った。少なくとも、強そうな保護主と一緒でなければ出ない。俺の保護主はヤバい。材質のよくわからない槍みたいな武器一本で、クジラみたいなやつを獲ってきていた。
食事は見た目がヤバいのが多いが、味はうまい。ほとんど魚介類で、海藻や見たことのない果物が添えられる。保護主と俺とでは食べられるものが違うらしい。保護主が食べていたものが馴染みのある貝に似ていたから、手を伸ばしてひとつ貰おうとしたら、すごい勢いで止められた。人のものを取ろうとしたから怒られたのかと思ったが、身振り手振りでこれは食うなと必死で教えてくれた。いいやつだ。
言葉は全くわからないが、ジェスチャーは人間に近い。はいといいえの動作が比較的似ていて助かった。首を振るか、触手を振るかの違いだ。
原始的かと思えば、文明の利器がかなり発達しているようで、通信で誰かと会話しはじめた時は驚いた。画面もホログラムだし、音声認識システムもあるみたいだし、技術力はたぶん元の世界よりもすごい。フィジカルが強すぎて狩りのほうが楽だから狩りで生活しているだけらしい。
保護主は、見慣れればイケメンの部類だと思う。鼻がないし、眼光鋭いし、皮膚はヌメヌメしてるけど。頭から触手まで合わせると俺の二倍くらいある。皮膚は灰色と青を混ぜたような感じで、触手はタコみたいな吸盤がある。タコは筋肉の塊だって聞いたことあるけど、触手でギュウッとされたときはマジで窒息しそうになってヤバかった。
すごい大切にされてる気がする、と思ったのは風呂に入れてもらった時だ。最初は服を破きながらひん剥かれてビビって大暴れしたけど、頑張って丁寧にしようとしてくれるし、顔周りは触らないようにしてくれた。ただ、意図せぬ触手プレイに俺の愚息がハチャメチャ元気になってかなり困った。保護主は全く気にせずニュルニュルしてきて、俺だけ気持ちいいやら恥ずかしいやらで、けっこう我慢したけど出してしまった。
保護主は俺の奇行にかなりびっくりして、風呂場を飛び出して助けを求めるように誰かに通信をかけた。オーイ、これ射精っていうんだよ、と俺はたくさんの触手に抱っこされたまま思ったが、とりあえず黙っていた。すると通信相手は大爆笑で、どうやら俺が気持ちよくなっちゃったのがバレたらしい。人間に詳しいやつがいるんだろうか。
それから保護主はなんだかしおらしくなって、泡まみれの俺をぬるめのお湯でパチャパチャ洗い流してくれて、なんかゴワゴワした布で拭いてくれた。いいやつだ。
保護生活四日目。
なんか色んなアイテムが届いた。通販?みたいなやつで。海から船がやってきて、荷物を置いていった。中身は俺が着れそうな服や、ふわふわのタオル、マットレス、あったかそうな毛布やクッションなんかだった。絶対に俺用なので、たぶんあのハイテクな機械で頼んだんだろう。
服は少しサイズが大きかったが、普通の無地のシャツやズボンだった。厚手の上着もある。保護主は何かを考えているのか、じっと俺を見つめて、それからホログラムの画面を見た。俺は画面を一緒に覗き込む。なんかフリフリの衣装が並んでいる。伺うように保護主がこちらを見たので、絶対嫌だ!という顔をして首をブンブン振ってやった。保護主は少しがっかりした様子だったが、画面を示して促した。自分で選んでいいらしい。
文字が読めないが、なんとなくの画面のニュアンスで操作をし、画像を眺める。特にこれといったものはなかったので、首を振ってその場を離れた。
寝具がかなりありがたかった。初日から貰っていた寝床をどかしてマットレスを広げ、クッションをのせて毛布をかける。保護主は寒さに強いのか、室内はけっこう肌寒いのにほとんど裸で、ハンモックに悠々と寝ていた。この三日間、俺の寝床は部屋の隅の、ゴワゴワした布を集めた即席のものだ。
保護主が布を片付けてくれた。それから飯を準備してくれる。今日はなんと、パンがあった。先ほどの荷物に入っていたらしい。俺が喜びを伝えようと大げさに小躍りすると、保護主は少し嬉しそうにした。
二人でパンを分け合って食べた。保護主は食べるのが初めてなのか、しばらく触手でぺたぺた触っていたが、ようやく口に入れて驚いた顔をした。うまかったらしい。他に缶詰めなども頼んでくれていて、俺は明日以降の楽しみにすることにした。
「コウタ。コ、ウ、タ」
俺はコミュニケーションを図るため、名前を教えることにした。すごくいいやつだとわかったからだ。保護主ははじめ、訝しげに俺を見つめていた。俺はめげずに、自分を指さしたり、胸を叩いたりしながら、自分の名前を繰り返した。
「コウタ!」
保護主はようやく意図がわかったらしい。
「コータ」
ちょっと変わった発音で繰り返される。俺はうんうんと頷いた。
保護主は手を胸に当て、ゆっくりと発音した。
「ジョルジョカ」
「じょる……?」
「ジョルジョカ」
「じょるじょか」
ジョルジョカは首を動かして頷いた。俺が頭を動かして意思疎通をするから、合わせてくれようとしたらしい。そういう気遣いが嬉しかった。
「コータ」
ジョルジョカは優しい声音で呼んだ。表情は乏しいが、そのぶん他のところで感情を伝えてくる種族だった。俺は微笑んだ。
「ジョルジョカ」
初日は何が何だかわからなかったし、俺を拾った生き物のビジュアルが化け物すぎて部屋の隅で震えていることしかできなかったが、食べ物をくれて、身体も洗ってくれたので、悪い奴ではないんだと思う。
どうやら知らない世界に飛ばされたらしい、と俺は保護生活三日目にしてようやく諦めがついた。ブラック企業務めだったから、辞められてよかったなとポジティブに考えることにした。
一度は家の外に出てみたが、カラスくらいの大きさの凶暴な鳥たちに襲われて、二度と外に出ないと誓った。少なくとも、強そうな保護主と一緒でなければ出ない。俺の保護主はヤバい。材質のよくわからない槍みたいな武器一本で、クジラみたいなやつを獲ってきていた。
食事は見た目がヤバいのが多いが、味はうまい。ほとんど魚介類で、海藻や見たことのない果物が添えられる。保護主と俺とでは食べられるものが違うらしい。保護主が食べていたものが馴染みのある貝に似ていたから、手を伸ばしてひとつ貰おうとしたら、すごい勢いで止められた。人のものを取ろうとしたから怒られたのかと思ったが、身振り手振りでこれは食うなと必死で教えてくれた。いいやつだ。
言葉は全くわからないが、ジェスチャーは人間に近い。はいといいえの動作が比較的似ていて助かった。首を振るか、触手を振るかの違いだ。
原始的かと思えば、文明の利器がかなり発達しているようで、通信で誰かと会話しはじめた時は驚いた。画面もホログラムだし、音声認識システムもあるみたいだし、技術力はたぶん元の世界よりもすごい。フィジカルが強すぎて狩りのほうが楽だから狩りで生活しているだけらしい。
保護主は、見慣れればイケメンの部類だと思う。鼻がないし、眼光鋭いし、皮膚はヌメヌメしてるけど。頭から触手まで合わせると俺の二倍くらいある。皮膚は灰色と青を混ぜたような感じで、触手はタコみたいな吸盤がある。タコは筋肉の塊だって聞いたことあるけど、触手でギュウッとされたときはマジで窒息しそうになってヤバかった。
すごい大切にされてる気がする、と思ったのは風呂に入れてもらった時だ。最初は服を破きながらひん剥かれてビビって大暴れしたけど、頑張って丁寧にしようとしてくれるし、顔周りは触らないようにしてくれた。ただ、意図せぬ触手プレイに俺の愚息がハチャメチャ元気になってかなり困った。保護主は全く気にせずニュルニュルしてきて、俺だけ気持ちいいやら恥ずかしいやらで、けっこう我慢したけど出してしまった。
保護主は俺の奇行にかなりびっくりして、風呂場を飛び出して助けを求めるように誰かに通信をかけた。オーイ、これ射精っていうんだよ、と俺はたくさんの触手に抱っこされたまま思ったが、とりあえず黙っていた。すると通信相手は大爆笑で、どうやら俺が気持ちよくなっちゃったのがバレたらしい。人間に詳しいやつがいるんだろうか。
それから保護主はなんだかしおらしくなって、泡まみれの俺をぬるめのお湯でパチャパチャ洗い流してくれて、なんかゴワゴワした布で拭いてくれた。いいやつだ。
保護生活四日目。
なんか色んなアイテムが届いた。通販?みたいなやつで。海から船がやってきて、荷物を置いていった。中身は俺が着れそうな服や、ふわふわのタオル、マットレス、あったかそうな毛布やクッションなんかだった。絶対に俺用なので、たぶんあのハイテクな機械で頼んだんだろう。
服は少しサイズが大きかったが、普通の無地のシャツやズボンだった。厚手の上着もある。保護主は何かを考えているのか、じっと俺を見つめて、それからホログラムの画面を見た。俺は画面を一緒に覗き込む。なんかフリフリの衣装が並んでいる。伺うように保護主がこちらを見たので、絶対嫌だ!という顔をして首をブンブン振ってやった。保護主は少しがっかりした様子だったが、画面を示して促した。自分で選んでいいらしい。
文字が読めないが、なんとなくの画面のニュアンスで操作をし、画像を眺める。特にこれといったものはなかったので、首を振ってその場を離れた。
寝具がかなりありがたかった。初日から貰っていた寝床をどかしてマットレスを広げ、クッションをのせて毛布をかける。保護主は寒さに強いのか、室内はけっこう肌寒いのにほとんど裸で、ハンモックに悠々と寝ていた。この三日間、俺の寝床は部屋の隅の、ゴワゴワした布を集めた即席のものだ。
保護主が布を片付けてくれた。それから飯を準備してくれる。今日はなんと、パンがあった。先ほどの荷物に入っていたらしい。俺が喜びを伝えようと大げさに小躍りすると、保護主は少し嬉しそうにした。
二人でパンを分け合って食べた。保護主は食べるのが初めてなのか、しばらく触手でぺたぺた触っていたが、ようやく口に入れて驚いた顔をした。うまかったらしい。他に缶詰めなども頼んでくれていて、俺は明日以降の楽しみにすることにした。
「コウタ。コ、ウ、タ」
俺はコミュニケーションを図るため、名前を教えることにした。すごくいいやつだとわかったからだ。保護主ははじめ、訝しげに俺を見つめていた。俺はめげずに、自分を指さしたり、胸を叩いたりしながら、自分の名前を繰り返した。
「コウタ!」
保護主はようやく意図がわかったらしい。
「コータ」
ちょっと変わった発音で繰り返される。俺はうんうんと頷いた。
保護主は手を胸に当て、ゆっくりと発音した。
「ジョルジョカ」
「じょる……?」
「ジョルジョカ」
「じょるじょか」
ジョルジョカは首を動かして頷いた。俺が頭を動かして意思疎通をするから、合わせてくれようとしたらしい。そういう気遣いが嬉しかった。
「コータ」
ジョルジョカは優しい声音で呼んだ。表情は乏しいが、そのぶん他のところで感情を伝えてくる種族だった。俺は微笑んだ。
「ジョルジョカ」
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