うちのニンゲン観察記録

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ピュリラスカ編

交感

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 なにが、「わかった」なんだ? ピュリラスカは混乱していた。「愛してる」の返答が「わかった」ってなんだ? 「いやだ」だったら理解できた。「わかった」ってつまり、わかったってことだ、了解ってこと、間違っても「求愛を受け入れます」ってことじゃないよな? 俺は間違えない、今度こそ間違えないぞ。ニコラが部屋を出ていってから、ピュリラスカはそんなことをずっと考え続けて、気づけば夜になっていた。

 一方、ニコラは決意を新たにしていた。「わかった」とはつまり、わかったということだ。ピュリラスカがニコラを愛することを許し、認めるということ。彼はピュリラスカの求愛を受け入れていた。ピュリラスカが性交を求めてきたとしてもなるべく嫌がらないようにしよう、と心に決めていた。

 お互い様子を見ていて、一週間ほど何事も無かった。ニコラが痺れを切らしてピュリラスカを寝室に呼んだところから、二人の攻防が始まった。ピュリラスカをベッドに横にならせて、その隣で添い寝するニコラ。ピシリと固まったまま眠るピュリラスカ。一週間ほどそうやって一緒に寝て、またニコラが痺れを切らした。
「いつ、するの?」
ベッドに横になって、ピュリラスカはニコラを見返した。
「するって?」
「交尾」
「え!?」
「だから、いつするの、交尾」
ピュリラスカは慌てて全ての触手を振って否定を示した。
「し、しないしないしない、しないよ!」
ニコラは眉をひそめた。
「しない?」
「しないよ!」
「どうして?」
ニコラは不満げだ。
「どうしてって……」
「ぼくのこと、愛してる、でしょ?」
ピュリラスカは混乱した。愛してたら交尾していいの!? なんで!? 自責の念に駆られてニコラに尽くしてきたピュリラスカは、その愛が返されることがあるとは思ってもいなかった。わけがわからないままのピュリラスカに、ニコラは叩きつけた。
「交尾する、今から!」


 ピュリラスカの制止もむなしく、ニコラはさっさと服を脱いでピュリラスカの腹にまたがった。
「勘弁してください……どうしてこんなことに……」
「覚悟、きめて」
無慈悲なニコラの言葉に、ピュリラスカは泣きそうになった。
「待ってよ、ニコラは? ニコラは本当に交尾したいの?」
「したいんじゃない、する、決めた」
「なんでぇ!?」
ニコラが触手を口に含もうとするのを必死に止めながら、ピュリラスカは叫んだ。ニコラは決意に満ちた顔で、ピュリラスカを見下ろして言った。
「全部、ゆるす。最初のこと」
ピュリラスカは固まった。ニコラは微笑んだ。
「ぼくも、愛してる、ピュリラスカ」


 ピュリラスカは混乱と嬉しさで半泣きだったが、慎重にことを進めた。初夜の二の舞いにはなるまいと、徹底的に己を律した。それを嘲笑うかのように、ニコラは自分勝手に振る舞った。そうしなければ何も進まなかったからだ。
 ニコラはピュリラスカの首に腕を絡めてキスをした。ピュリラスカはガチガチに固まっていたから、好き勝手にちゅうちゅう吸った。ピュリラスカに口を開けさせて舌を舐め合っていると、ようやくピュリラスカの緊張がほぐれてきて、触手がそろそろとニコラの肌を撫でた。ピュリラスカはニコラに少し触れては、感動に震えて涙を零す。ニコラは呆れて何度も涙を拭ってやった。 
 ピュリラスカの触手は器用だ。平たい触手の裏側からは何本もの細い触手が生えていて、普段はそれを駆使して機械いじりをしている。その器用な触手が、ニコラの後孔をやわらかく解していく。もうそれだけで気持ちよくて、ニコラは何度か達した。ピュリラスカは歯を食いしばり、黙々と拡張作業をしている。
「ピュリラスカ」
ニコラが呼ぶと、ハッとしてこちらを見た。
「くち」
ピュリラスカは命じられるがまま、拡張作業を続けながらキスをした。何回かキスをしたらもう上手になってきて、口もすぐ気持ちよくなってしまう。ピュリラスカの胸が上下して、脇のエラが大きく動いている。興奮で辛そうだ。
「いいよ」
ニコラは許した。ピュリラスカがまた涙を零す。
「いいよ、おいで」
ピュリラスカはたくさんの触手でニコラを抱き締め、太い交接腕をニコラの中に埋め始めた。そのままゆらゆら、ゆっくり揺すられる。ピュリラスカはすすり泣いていた。
「愛してるよ」
ニコラは抱きしめられたまま少しずつ強くなる律動に揺すられ、喘ぎながら、ピュリラスカが何度もその言葉を繰り返すのを聞いていた。





 保護から一年。
 ジョルジョカとの通信を終えると、ニコラがやってきた。
「友達?」
ピュリラスカはニコラを抱き上げ、触手で優しく包み込んでキスをした。
「そう、ジョルジョカがニンゲンを拾ったんだって」
ニコラの目が輝く。
「ほんと!? どこの、人かな」
「黒い髪だって言ってたよ」
「ふぅん」
ピュリラスカはニコラの頬に自分の頬を擦り寄せる。ニコラはピュリラスカの首に腕を回して抱きついた。
「今から風呂に入れるらしいんだけど、俺ちょっと嘘ついちゃった」
ニコラは身体を離してピュリラスカを見た。
「嘘?」
ピュリラスカは気まずくなって笑う。
「うん、風呂は最初は手伝いがいるかもだけど一人で入れるよ~とか、うちも最初は大変で~とか……」
「ぼく、最初から、一人で入ったよ」
「そうだよね……俺が嫌われてたからね……」
ニコラは声を上げて笑った。
「今はだいすき、知ってるでしょ?」
「うん……」
愛してるよ、ニコ。そう囁くと、ニコラは嬉しそうに笑った。




 保護から二年。
 ジョルジョカに保護された日本人のコウタとはすっかり友達になっていた。
『二人ってさ、どのくらいのペースでセックスしてる?』
「ええー?」
通信でのお喋り中に急にプライベートな話題を振られて、ニコラは困った。でもコウタは真剣に悩んでいるらしい。
『最近頻度がすごくて……毎回気絶するくらいしてるから、ちょっと疲れるし』
「減らしてって頼めば?」
『泣きそうじゃない?』
あー、とニコラは納得した。真面目なジョルジョカはすごく反省するだろうし、コウタから言われない限り交尾しないとか言い出しそうだ。
「うちも泣くな、多分」
『え? ピュリラスカってそんな純情なタイプなの?』
ニコラは苦笑した。ピュリラスカは長髪みたいな頭の触手と、ニヒルな顔立ちが災いしてこういった誤解を受けることが多い。本人の言動も軽薄だから尚更だ。実際は好きな子に振られるかもと思っただけで泣いてしまうのに。
「ああ見えて純情だよ、すごく」
『へえ~』
いや、とコウタは話を元に戻した。
『本気で減らしたいわけじゃないんだ。疲れはするけど、ジョルジョカとセックスするの好きだし』
「あ……そう」
お悩み相談に見せかけたとんだ惚気を聞かされているのでは? ニコラは頬杖をついた。
『ただ、ほぼ毎日ヤるのって普通なのかなって……』
「毎日!?」
ニコラは思わず頬杖から顔がずり落ちた。
『やっぱり多い? そんな気はしてたんだよな』
「いや、どうなんだろう、うちは数日おきとか、週一とかだけど……」
ピュリラスカのことだ、だいぶ遠慮している可能性が出てきた。
「なんの話?」
仕事部屋から出てきたピュリラスカが顔を覗かせた。ちょうどいい。
「ピュリラスカ、今の僕らの交尾の頻度についてどう思う?」
「えっ!?」
ピュリラスカが大声を出して、画面の向こうではコウタがゲラゲラ笑っている。
「ジョルジョカとコウタはほぼ毎日してるんだって」
「イヤそんなの知りたくなかった! ……え!? もしかしてニコラは毎日したい!?」
「いや、別に」
画面の向こうからヒーッと笑い声が聞こえる。
「あ、そ、そう……」
「ピュリラスカは?」
「え?」
「ピュリラスカもほんとは毎日したいの?」
ピュリラスカは黙り込んだ。触手をモゾモゾさせている。ニコラはため息をついた。
「言えばいいのに」
「え!? 毎日していいの!?」
「したくない日もある」
「あ、そ、ソウデスヨネ……」
「でも、確認取ってくれたらいいよ」
「毎日確認してもいい!?」
「断っても泣かないでね」
頑張るよ!とピュリラスカは大声で言った。コウタは笑いすぎて机に突っ伏している。息も絶え絶えに言った。
『俺も参考にするよ、本人同士で話し合えばいいことだよな』
じゃーね、ごちそうさま、と言ってコウタは通信を切った。
 ピュリラスカは忠犬のようにこちらを伺いながら尋ねた。
「きょ、今日は、してもいい……?」
ニコラは思わず破顔した。これはこっちが断れないかもしれない。抱きついてキスした。
「いいよ!」
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感想 1

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みんなの感想(1件)

SATORIN
2023.04.15 SATORIN

私の好きな漫画『異世界に行ったら謎の生物に可愛がられた話』を思ってしまいました。異種で最初は相容れないけど、段々と想いが通じ合い、コータの場合はエロを含め愛が。
これからの展開を楽しみにしていますね。

2023.04.15 as

知らない作品だったので調べてみました。かわいい作品ですね!
お読み下さりありがとうございます。

解除

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