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恩人

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 俺が高校の時は文字通りの喧嘩の毎日と言っても過言ではないくらいに暴れてた。そんなときに見かねた剣館長に組手を申し込まれ、やぁーってやるぜ!と意気込んだものの…完敗だった。

 こっちの攻めは多少なりとも当たるのだけど相手は怯まずに攻めてくるし、逆に剣館長の攻撃は全てが俺にクリーンヒットする。そして、拳を通しての会話というのはおかしいが、館長のお陰で色々なことを学ばせてもらった。
「本当の意味」での「力」とは…。


「お久しぶりです、剣館長」

頭を深くさげる。

「おぉ、久しいな七梨よ。元気そうでなによりだ!」

「館長こそ、相変わらずですね」

60歳になる筈だが、姿勢、身体の大きさは俺がここにいたときと変わらない。

「ところで、その娘か?お前が話していた転入希望者は」

「いえ、わたもが!?」

真紀が変なことを言う前に口を抑える。

「そうなんです!せめて高校は卒業させたくて!」

「ふむ、で名前はなんという?」

真紀の口から手を離す。

「ほれ!自己紹介!」

真紀が睨んでくるが仕方がない。

「深川真紀です」

「深川 真紀か…なるほど、ならば!これから転入試験を始める!!」

「はぁ!?」

 真紀の素がでているが、そりゃ当然の態度だと思う。初めて来た高校でロクに説明も受けず転入試験を受けることになるんだもんな。

「え!?でも私何も持ってきてませんよ!それにロクに勉強もしてきてませんし!」

「学力は問題ではない!問題なのは心なのだ!どんなに優秀だろうが!心無くしては真に優れているとは言わん!七梨よ!これから試験を行う故に席を外してくれないか?」

「なら、廊下で待ってますよ」

「うむ!」

 真紀が渾身の睨み付けをしているが…しらなーい!俺は廊下に出る。

 廊下にて学校のお知らせ等が張り出している。
空手部全国制覇達成!とか相撲部準優勝!とか剣道部新人戦優勝とか…格技ばっかりだな。

 5分くらいかな?館長室が開いて真紀が中に招き入れる。

「どうだった?」
「あ、あの」

「合格だ!!深川真紀よ!最後の2学期からになるがここ!覇道館でしっかりと学び!己を鍛え上げ!更なる高みへと目指すのだ!わーっははは!」


 良かった、どうやら合格だったらしい。俺は館長に必要な書類を渡しその場を後にする。そうだ職員室への真紀の紹介を忘れていた!

 先生達への挨拶もそこそこに俺と真紀はバイクへ戻る。

「良かったな!合格して!」
「うん、でもいいのかな?あんなので…」

「あんなの?」

「うん、剣館長から「お前の目指すものはなんだ?」とか「その手で掴みたいものはなんだ?」とかの質問だったよ」

 相変わらず、熱い館長だ。

「そうだ、剣館長がこんなことを言っていたよ」

「ぬ?なんだよ?」

「昔から今も、私は修練を怠っておらん!いつか七梨タカあの男の本気と組み合ってみたいものだってさ」

 はぁ、流石館長だな。一体どこまで見切られてるのやら。武術家としては本気を出さないのは失礼な話なんだけども…恩人相手に本気を出すほど若くないしな。

「まぁ、機会があったらな!」

「なにそれ?」

 不機嫌だった真紀はどこへと行ったのやら、2人で笑いながら七竜へと帰る。

「じゃ、教科書と制服の新しいのは近いうちに家に届くようにするから。」

「うん、分かった。」

 七竜の入り口を開ける。

「いらっしゃいませー!」

 ぬ?真由子ママの声じゃないか。モップを掛けながら声を出していた。

「声だしをさせてるのか?」

「はい、声だしは全ての基本ですからどんな状況でも声を出せるようにしないと。」

 やはり、みどりが店長でいいのでは?と思う。

「ほれ!真紀も行ってこい」

「え?」

「夏休みの間は七竜ここでアルバイトだ!働かざる者食うべからず!ってな!」

「え~!?」

 真紀もみどりに任せて俺は深川新居へと向かう。

 今度は、匡だ。彼もこちらの中学へと移す。そして朝の新聞配達のバイトをさせる予定だ。問題は…ちびっ子達…どうするかな?まだまだ2人で留守番をさせる訳には行かないし…。

 真紀と匡が夏休みの間は時間交代で見てもらって終わったら考えよう!

今日も1日長くなりそうだ。
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