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高校入学
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私立有栖高等学校
「人を思いやる心 将来に役立つ技 逞しく育つ体」をスローガンに掲げ、学力と人間力を育んでいくことをモットーとした高等学校。
学力のレベルとしては悪くないが、良すぎないとまぁ平均だ、その代わり部活への力の入れようは凄い。野球 サッカー バスケ バレー 卓球 柔道 剣道 バドミントン マンガ研究会とほぼ総ての部活が県の強豪と呼ばれている。
僕がこの学校を選んだのは、学校のスローガンに憧れた訳でなく、部活への興味もその力の入れようにも惹かれた訳ではない。
あの、七梨さんの母校…という訳でもない。
まぁ、何よりも単純な理由だ。
家から一番近い。
それだけのことで僕は有栖学校に決めた。
4月 無事に入学し教室へと入る。僕と同じ中学から来た人の他に違う中学の人たちも居るのでクラスは賑やか…というか騒がしかった。
1日中の会話の6割強が「マジで~」「ウケる~」「ウゼ~」の3つの単語が占めている。
そうだ、一つこんな会話があったので聞いて欲しい。
以下 男3人の会話
A「俺の知り合いがウケるんだよ~」
B「マジで!?」
A「休み時間にさぁ~なんか静かだなぁ~と思って見ると~」
B「見ると~?」
A「教科書」
Aは本を読むジェスチャーをする。
B「マジで~!?」
C「ウケる~ハハハ」
A「だろ~!教科書!」
全「ハハハーッ!」
会話終了。
…一連の会話に1つでも笑えるところがあったのだろうか?少なくとも僕には理解出来なかった。
そう言えば、最近のお笑いでも二人して特に面白いことを言ってる訳ではないのに、1人がもう1人を叫びながら叩いている。人が人を叩いている所を見て何が楽しいのだろうか? どっちの目線なのか?
叩く方?それとも叩かれる方?
理解が出来ない…そうだ、きっと彼らは新人類なんだ!今の人達って凄いなぁ…と心の中で思っていた。
おや?よく見ると小中学校で僕をからかっていた同級生…名前は何だったかー…?しまった、ド忘れした。えーと…あっ思いだした!「近藤翔太」だ。
確か何か話を聞いたなぁ 確か中学の時に野球部に入部したが、明らかな力不足でレギュラーには選ばれず…なんというか…残念だという話を又聞きしたことがある。
そんな彼も今では新人類の仲間になって…多少なりとも筋肉は付いてきてるみたいだけど…。
僕の高校生活は平和なんだろうか?
放課後、野球部の掛声、吹奏楽部の音色が響く中、僕は教室で勉強をしていた。早く家に帰って勉強すればいいのだが教室の方が集中できる。
我ながらよくここまで勉強が続くとは思ってもみなかった。七梨さんに、身体だけ鍛えても強くならない!何より学生の本分は勉強だ!と言われて少しづつ勉強も頑張っていたんだ。
さて、そろそろ一時間になるし今日の所は区切りがいいから帰ろうかな。教科書を鞄にしまい僕は教室を後にする。
僕の家は高校から歩いて15分くらいの所にあり自転車でもいいのだが、体力作りの為に歩くようにしている。
学校の敷地内にある駐輪場を通りすぎて校門の所に差し掛かる。
おや?なんだろうか?話し声がする?僕以外でもこの時間まで残って勉強してたのかな?
「いいから、コッチ来いよコラー!!」
突然の怒鳴り声で僕はビクッ!?となり、その怒鳴り声が聞こえた方向を見た。
その場では髪の毛をトゲトゲに逆立てていていかにもゴツい先輩が1人の男子生徒の肩に手を回して逃がさないようにしていた。
あれは、確か異次元の会話をしていた3人組の1人…Aの人の藤田翼…だったかな…。
「おい!テメェ!何見てんだ殺すぞコラー!!」
え!?見てる?誰が?僕以外に誰かいる?周りを見ても誰も居ない…って僕か!
「さっさと行けよコラー!!」
わぁぁぁ…!?
慌てて僕は走り出した。
数メートルは走ったのか、もうあの先輩の姿は見えなくなっている。
彼は、あの後どうなるのだろう?あのトゲトゲの先輩に殴られてるのか?にしても何故殴られるのだろうか?ケガをしていないか?血が流れていないだろうが?逃げるべきではなかったのかと考えながら僕は家に着いた。
部屋に入り制服から私服に着替える。窓から外を見るとうっすらと暗くなってきている。
先程の光景が頭から離れない。僕は居ても立っても居られなくなり、学校へと走った。何か考えがあった訳ではない、ただじっとしていられなかった。
走り出して数分やっと校門が見えてきた。確か向こうの林の方だったか…息を整え、静かにその場へと向かう。
野球部の声とボールがバットに当たる打球音や風が木を揺らし軋む音しか聞こえない。
そう、その場には誰も居なかった…。
良かった…そう、僕は確かにそう思った。
短絡的だが、その場に藤田翼君の姿がなかったことで良かった。帰れたんだと自分の胸を撫で下ろした。
先程より、軽くなった心と足どりでまた僕は家に帰る。
本日2度目の道のりで自分は何をしているのだろう?何をしたかったのだろう?何が出来ただろう?自問自答を繰り返していた。
あの場所へ着いて、まだ居たとしたら?藤田君が殴られていたら僕はどうしていただろう?彼を助けたかったのか?
ドン!
そんなことを悶々と考えながら歩いていたので人にぶつかってしまった。こんな事もあるのでながらの行動は危ないな…ちゃんと謝らなければ!
「あっ、すいまっうぐっ!?」
謝る前に襟を掴み上げられた。足が地面から結構浮いてるのが感覚で分かった…というか息が…出来ない…。
「あ?なんだ、正義か」
相手の人は僕の顔を確認するとゆっくりと手を放してくれた。
「ごほっごほっ!なんだじゃないですよ、七梨さん」
「悪い悪い、しかしお前も人にぶつかってきたんだ何か一言は?」
「すっすいません!…でもさっきも言おうとしましたよ」
「声が小さい!」
七梨さんは間髪いれずに返してくる。
「うっ、すいません…」
七梨さんの髪も先程の先輩と同じく立っているがなんというかキレイにまとまっている。それと、男の僕が言うのも変だが顔立ちも整っていて見る角度によっては女性に見えなくもない。結構な頻度で着ている黒と赤が織り混ざっているトレンチコートは、もうトレードマークで離れたことからでも直ぐに分かるだろう…さっき僕は考え事をして気付かなかったが…。
数々の武勇伝を持つ七梨さんは今現在、喫茶をやっていると聞いていた。立ち話もなんだからとその店に行くことになり、僕自身1度は行ってみたいと思っていたからうれしかった。
「ところで、源さんは元気か?」
「はい、親父は相変わらずですよ。銭湯で七梨さんと会っていないから少し心配してましたよ」
「そうか~最近は行けてないもんな~…源さんや生駒に挨拶しにいかないとな~」
「生駒…さん、ですか?」
「あぁ、高校の同期で色々と世話になった奴でな」
「え?確か生駒銭湯ですよね?同級生なんですか?」
「そうだ、俺がこの町に来た以来の友人でなかなか頼れる奴だよ」
「長い付き合いなんですね」
「そうだな…」
「七梨さんの知り合いってことならその人もケンカとか強い人なんですか?」
「ん~…強いと言えば強いがな…女だよ生駒は」
「女?女性ですか!?」
「そうだ、かなりのいい女だそ」
「てっきり男の人だと…」
「手ぇだすなよ、俺の友の女だからな」
「え?」
「手ぇだしたら腕ごと文字通り砕くからな」
「まさか…ははは…」
ははは、こ、この人の場合…なんというか総てが冗談に聞こえない…。
七梨さんと会話をしながら店に向かう道中、すれ違う人達は皆、七梨さんに挨拶をしていく。この人はただケンカが強いだけで暴れているだけとかではない。毎月自主的に町内の掃除をしているらしいし、その他にも色々とやっているそうだ。
買い物帰りの老夫婦や帰宅途中の会社員や学生…大柄でスーツの怖そうな人達までもこの人に頭を下げていく。
ホントウに何者なんだろうか?僕も結構長い付き合いなんだけど…底がしれない…。
「甘味処 七竜」
店内は和を基調とした創りになっていて、テーブルやイス等は木製でどこか安らぎを感じれる創りに仕上がっている。ガラスケースの中に並んでるケーキは苺のショートケーキ モンブランをはじめ店のオリジナルのケーキが数種類と餡蜜などが注文できるらしい。
店内には数人ほどお客さんがいて常連さんなのか顔見知りなのか皆、七梨さんに一言なり挨拶をしている。
普通は、店の定員がお客さんに挨拶をすると思うのだが…この店では逆みたいだ。
「正義、なんか食べてくか?」
「いえ、すいません そろそろ家で夕飯がありますので」
「あー、そっかもうそんな時間か?悪かったな急に誘ったりして」
「いえいえ!とんでもないです!一度この店に来たいと思っていましたから!」
「ふむ、そっか…おーい!ケーキ2、3個適当に詰めてくれ持ちかえり用で!それと俺に珈琲頼むー」
七梨さんが厨房の方に向かって軽く叫ぶ。
「え?七梨さん、持ちかえり用って?」
「あぁ、せっかくだからな持って行きなー」
「あ、あの僕今手持ちが…」
「気にすんな気にすんな!」
「お待たせしました」
七梨さんが先程、厨房へ注文?してから1分もたったのだろうか?女性の方が綺麗にラッピングしたケース箱と珈琲を持ってきた。その早さに驚いたが何よりもその女性の姿に一番驚愕した。
「メイドさん?」
他の従業員の方は黒いズボンに上は白いTシャツといったシンプルな服装なのだが…今、珈琲とケーキを持ってきた人は…その人だけが1人メイド衣装だった。
秋葉原とかにいる萌え系?とかの感じではなく…なんというか、そう王族に使えてる清楚なメイドというか…。
「おぉ、ありがとな!みどり 流石に早いな」
「はい」
みどりと呼ばれた女性は微笑みながら会釈する。
「ところで、カオルの姿が見えないが?」
「確か、フランスの方とデートだと話してました」
「本当にか?この間はイタリア人じゃなかったか?」
「はい、そのはずです」
「カオルはすごいなー」
その後再び会釈をしてその女性は仕事に戻っていく。
「おい、正義何か色々と聞きたい事もあるだろうが…先ずはその開いた口を閉じな…アホっぽいぞ?」
!? どうやらポカーンと口が開いていたようだ。
「す、すいません」
「んで?さっきはなんで辛気くさい顔して歩いてたんだ?フラれたか?出会いの春だってぇのに?」
つい数秒前に聞きたい事もあるだろうがと言っていたのに逆に質問されてしまった…いや、それは気にしないが…。
「いやいやいや、違いますよ」
僕は学校帰りに見たことを話した。
先輩の事や同級生の藤田君のこと戻ったら誰も居なかったこと。
「なるほどな~…んで?お前は戻ってどうするつもりだったの?」
…そう、僕はどうするつもりだったのだろう。
「…わかりません…」
これしか言えない僕がいた。
無言で俯いている僕をよそに七梨さんは珈琲を飲んでいる。
「まぁ、高校生ってのは多感な時期だからなぁ~自分を守りたいから、まだ相手が弱いうちに黙らせようとしたのかねぇ~」
「そうなんでしょうか…?」
「思春期の時の考え方なんて考えているようで何も考えてないだろうしなーあっ、そうだ正義ー…ん?」
七梨さんが何か言う所でドアが開く音と賑やかな声に遮られた。入ってきたのは3人の男の人達でいかにもホストって感じの服装だ。その中の1人がこっちに近づいてくる。
「七梨さん!お疲れ様です!」
後の二人も続いてくる、
「お疲れ様です!」
「おっお疲れ様です!!」
挨拶してきたのは、オシャレなスーツの金髪、茶髪、黒髪?のお兄さん達。
「おう、これから仕事か?」
「そうなんですよーコイツ(黒)が今日初めての出勤なんで七梨さんに気合い入れてもらおうと思いまして」
金髪のお兄さんが黒髪の人を引き寄せる。
「あぁ?なんで俺が?」
「自分!七梨さんに憧れてるんっす!お願いします!」
1日に何人この人に頭を下げるのだろうー…黒髪のお兄さんは深く頭を下げている。
…なんだか、長くなりそうだなー…。
「七梨さん、僕、そろそろ帰ります。親が心配すると行けないので」
「んー、そっか悪いな、また今度ゆっくり遊びにいよ」
「はい、では失礼します」
その夜、珍しく七梨さんからメールがきた。
(いい忘れてたが、1つ覚えときな、悪は悪を増やす)
「人を思いやる心 将来に役立つ技 逞しく育つ体」をスローガンに掲げ、学力と人間力を育んでいくことをモットーとした高等学校。
学力のレベルとしては悪くないが、良すぎないとまぁ平均だ、その代わり部活への力の入れようは凄い。野球 サッカー バスケ バレー 卓球 柔道 剣道 バドミントン マンガ研究会とほぼ総ての部活が県の強豪と呼ばれている。
僕がこの学校を選んだのは、学校のスローガンに憧れた訳でなく、部活への興味もその力の入れようにも惹かれた訳ではない。
あの、七梨さんの母校…という訳でもない。
まぁ、何よりも単純な理由だ。
家から一番近い。
それだけのことで僕は有栖学校に決めた。
4月 無事に入学し教室へと入る。僕と同じ中学から来た人の他に違う中学の人たちも居るのでクラスは賑やか…というか騒がしかった。
1日中の会話の6割強が「マジで~」「ウケる~」「ウゼ~」の3つの単語が占めている。
そうだ、一つこんな会話があったので聞いて欲しい。
以下 男3人の会話
A「俺の知り合いがウケるんだよ~」
B「マジで!?」
A「休み時間にさぁ~なんか静かだなぁ~と思って見ると~」
B「見ると~?」
A「教科書」
Aは本を読むジェスチャーをする。
B「マジで~!?」
C「ウケる~ハハハ」
A「だろ~!教科書!」
全「ハハハーッ!」
会話終了。
…一連の会話に1つでも笑えるところがあったのだろうか?少なくとも僕には理解出来なかった。
そう言えば、最近のお笑いでも二人して特に面白いことを言ってる訳ではないのに、1人がもう1人を叫びながら叩いている。人が人を叩いている所を見て何が楽しいのだろうか? どっちの目線なのか?
叩く方?それとも叩かれる方?
理解が出来ない…そうだ、きっと彼らは新人類なんだ!今の人達って凄いなぁ…と心の中で思っていた。
おや?よく見ると小中学校で僕をからかっていた同級生…名前は何だったかー…?しまった、ド忘れした。えーと…あっ思いだした!「近藤翔太」だ。
確か何か話を聞いたなぁ 確か中学の時に野球部に入部したが、明らかな力不足でレギュラーには選ばれず…なんというか…残念だという話を又聞きしたことがある。
そんな彼も今では新人類の仲間になって…多少なりとも筋肉は付いてきてるみたいだけど…。
僕の高校生活は平和なんだろうか?
放課後、野球部の掛声、吹奏楽部の音色が響く中、僕は教室で勉強をしていた。早く家に帰って勉強すればいいのだが教室の方が集中できる。
我ながらよくここまで勉強が続くとは思ってもみなかった。七梨さんに、身体だけ鍛えても強くならない!何より学生の本分は勉強だ!と言われて少しづつ勉強も頑張っていたんだ。
さて、そろそろ一時間になるし今日の所は区切りがいいから帰ろうかな。教科書を鞄にしまい僕は教室を後にする。
僕の家は高校から歩いて15分くらいの所にあり自転車でもいいのだが、体力作りの為に歩くようにしている。
学校の敷地内にある駐輪場を通りすぎて校門の所に差し掛かる。
おや?なんだろうか?話し声がする?僕以外でもこの時間まで残って勉強してたのかな?
「いいから、コッチ来いよコラー!!」
突然の怒鳴り声で僕はビクッ!?となり、その怒鳴り声が聞こえた方向を見た。
その場では髪の毛をトゲトゲに逆立てていていかにもゴツい先輩が1人の男子生徒の肩に手を回して逃がさないようにしていた。
あれは、確か異次元の会話をしていた3人組の1人…Aの人の藤田翼…だったかな…。
「おい!テメェ!何見てんだ殺すぞコラー!!」
え!?見てる?誰が?僕以外に誰かいる?周りを見ても誰も居ない…って僕か!
「さっさと行けよコラー!!」
わぁぁぁ…!?
慌てて僕は走り出した。
数メートルは走ったのか、もうあの先輩の姿は見えなくなっている。
彼は、あの後どうなるのだろう?あのトゲトゲの先輩に殴られてるのか?にしても何故殴られるのだろうか?ケガをしていないか?血が流れていないだろうが?逃げるべきではなかったのかと考えながら僕は家に着いた。
部屋に入り制服から私服に着替える。窓から外を見るとうっすらと暗くなってきている。
先程の光景が頭から離れない。僕は居ても立っても居られなくなり、学校へと走った。何か考えがあった訳ではない、ただじっとしていられなかった。
走り出して数分やっと校門が見えてきた。確か向こうの林の方だったか…息を整え、静かにその場へと向かう。
野球部の声とボールがバットに当たる打球音や風が木を揺らし軋む音しか聞こえない。
そう、その場には誰も居なかった…。
良かった…そう、僕は確かにそう思った。
短絡的だが、その場に藤田翼君の姿がなかったことで良かった。帰れたんだと自分の胸を撫で下ろした。
先程より、軽くなった心と足どりでまた僕は家に帰る。
本日2度目の道のりで自分は何をしているのだろう?何をしたかったのだろう?何が出来ただろう?自問自答を繰り返していた。
あの場所へ着いて、まだ居たとしたら?藤田君が殴られていたら僕はどうしていただろう?彼を助けたかったのか?
ドン!
そんなことを悶々と考えながら歩いていたので人にぶつかってしまった。こんな事もあるのでながらの行動は危ないな…ちゃんと謝らなければ!
「あっ、すいまっうぐっ!?」
謝る前に襟を掴み上げられた。足が地面から結構浮いてるのが感覚で分かった…というか息が…出来ない…。
「あ?なんだ、正義か」
相手の人は僕の顔を確認するとゆっくりと手を放してくれた。
「ごほっごほっ!なんだじゃないですよ、七梨さん」
「悪い悪い、しかしお前も人にぶつかってきたんだ何か一言は?」
「すっすいません!…でもさっきも言おうとしましたよ」
「声が小さい!」
七梨さんは間髪いれずに返してくる。
「うっ、すいません…」
七梨さんの髪も先程の先輩と同じく立っているがなんというかキレイにまとまっている。それと、男の僕が言うのも変だが顔立ちも整っていて見る角度によっては女性に見えなくもない。結構な頻度で着ている黒と赤が織り混ざっているトレンチコートは、もうトレードマークで離れたことからでも直ぐに分かるだろう…さっき僕は考え事をして気付かなかったが…。
数々の武勇伝を持つ七梨さんは今現在、喫茶をやっていると聞いていた。立ち話もなんだからとその店に行くことになり、僕自身1度は行ってみたいと思っていたからうれしかった。
「ところで、源さんは元気か?」
「はい、親父は相変わらずですよ。銭湯で七梨さんと会っていないから少し心配してましたよ」
「そうか~最近は行けてないもんな~…源さんや生駒に挨拶しにいかないとな~」
「生駒…さん、ですか?」
「あぁ、高校の同期で色々と世話になった奴でな」
「え?確か生駒銭湯ですよね?同級生なんですか?」
「そうだ、俺がこの町に来た以来の友人でなかなか頼れる奴だよ」
「長い付き合いなんですね」
「そうだな…」
「七梨さんの知り合いってことならその人もケンカとか強い人なんですか?」
「ん~…強いと言えば強いがな…女だよ生駒は」
「女?女性ですか!?」
「そうだ、かなりのいい女だそ」
「てっきり男の人だと…」
「手ぇだすなよ、俺の友の女だからな」
「え?」
「手ぇだしたら腕ごと文字通り砕くからな」
「まさか…ははは…」
ははは、こ、この人の場合…なんというか総てが冗談に聞こえない…。
七梨さんと会話をしながら店に向かう道中、すれ違う人達は皆、七梨さんに挨拶をしていく。この人はただケンカが強いだけで暴れているだけとかではない。毎月自主的に町内の掃除をしているらしいし、その他にも色々とやっているそうだ。
買い物帰りの老夫婦や帰宅途中の会社員や学生…大柄でスーツの怖そうな人達までもこの人に頭を下げていく。
ホントウに何者なんだろうか?僕も結構長い付き合いなんだけど…底がしれない…。
「甘味処 七竜」
店内は和を基調とした創りになっていて、テーブルやイス等は木製でどこか安らぎを感じれる創りに仕上がっている。ガラスケースの中に並んでるケーキは苺のショートケーキ モンブランをはじめ店のオリジナルのケーキが数種類と餡蜜などが注文できるらしい。
店内には数人ほどお客さんがいて常連さんなのか顔見知りなのか皆、七梨さんに一言なり挨拶をしている。
普通は、店の定員がお客さんに挨拶をすると思うのだが…この店では逆みたいだ。
「正義、なんか食べてくか?」
「いえ、すいません そろそろ家で夕飯がありますので」
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「え?七梨さん、持ちかえり用って?」
「あぁ、せっかくだからな持って行きなー」
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「気にすんな気にすんな!」
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七梨さんが先程、厨房へ注文?してから1分もたったのだろうか?女性の方が綺麗にラッピングしたケース箱と珈琲を持ってきた。その早さに驚いたが何よりもその女性の姿に一番驚愕した。
「メイドさん?」
他の従業員の方は黒いズボンに上は白いTシャツといったシンプルな服装なのだが…今、珈琲とケーキを持ってきた人は…その人だけが1人メイド衣装だった。
秋葉原とかにいる萌え系?とかの感じではなく…なんというか、そう王族に使えてる清楚なメイドというか…。
「おぉ、ありがとな!みどり 流石に早いな」
「はい」
みどりと呼ばれた女性は微笑みながら会釈する。
「ところで、カオルの姿が見えないが?」
「確か、フランスの方とデートだと話してました」
「本当にか?この間はイタリア人じゃなかったか?」
「はい、そのはずです」
「カオルはすごいなー」
その後再び会釈をしてその女性は仕事に戻っていく。
「おい、正義何か色々と聞きたい事もあるだろうが…先ずはその開いた口を閉じな…アホっぽいぞ?」
!? どうやらポカーンと口が開いていたようだ。
「す、すいません」
「んで?さっきはなんで辛気くさい顔して歩いてたんだ?フラれたか?出会いの春だってぇのに?」
つい数秒前に聞きたい事もあるだろうがと言っていたのに逆に質問されてしまった…いや、それは気にしないが…。
「いやいやいや、違いますよ」
僕は学校帰りに見たことを話した。
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…そう、僕はどうするつもりだったのだろう。
「…わかりません…」
これしか言えない僕がいた。
無言で俯いている僕をよそに七梨さんは珈琲を飲んでいる。
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「そうなんでしょうか…?」
「思春期の時の考え方なんて考えているようで何も考えてないだろうしなーあっ、そうだ正義ー…ん?」
七梨さんが何か言う所でドアが開く音と賑やかな声に遮られた。入ってきたのは3人の男の人達でいかにもホストって感じの服装だ。その中の1人がこっちに近づいてくる。
「七梨さん!お疲れ様です!」
後の二人も続いてくる、
「お疲れ様です!」
「おっお疲れ様です!!」
挨拶してきたのは、オシャレなスーツの金髪、茶髪、黒髪?のお兄さん達。
「おう、これから仕事か?」
「そうなんですよーコイツ(黒)が今日初めての出勤なんで七梨さんに気合い入れてもらおうと思いまして」
金髪のお兄さんが黒髪の人を引き寄せる。
「あぁ?なんで俺が?」
「自分!七梨さんに憧れてるんっす!お願いします!」
1日に何人この人に頭を下げるのだろうー…黒髪のお兄さんは深く頭を下げている。
…なんだか、長くなりそうだなー…。
「七梨さん、僕、そろそろ帰ります。親が心配すると行けないので」
「んー、そっか悪いな、また今度ゆっくり遊びにいよ」
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