17 / 24
第1章 ~ノワール国~
ノワール国 その5
しおりを挟む
「ところで親父さんはどんな人なんだ?」
屋敷へ向かう途中でシチリが問いかけてくる。
「父上か?父上はとても優しい人でな、騎士としても勇敢で力強く部下からの信頼も厚いぞ。」
「ふむ、なるほどな。」
「シチリの方こそどうなんだ?お前のご両親のことだから2人ともかなりの実力者なのだろう。」
「ぬ~…。」
渋い顔をすると同時に右側頭部の角に見える髪の毛が垂れ下がる……器用なヤツめ…。
「どうした?」
「色々と省くけど、俺は孤児なんだよ。育ての親は覚えてるけど産みの親には会ったことすらないんだ。その育ての親も今は居ないんだけどね…。」
っ…!しまった……私としたことが触れてはならなかったか。
「そ、そうか…あの…ごめん。」
「いやいや大丈夫。気にすることないさ。」
にっとシチリは笑っている角も上を向いた。……私は母上1人居ないだけで泣いた夜もあったのに…産みの親も育ての親も居ないなんて……。
「シチリは1人で大変だったのだな…。」
「ぬ。」
「…それは、そうとだな…シチリ………。」
「ぬ?」
「いい加減に手を離してくれないか?」
楽園を出たときから手を繋いだままだった。
「おお、すまん。」と言って手を離すシチリ。ずっと心拍数が大変なことになっていたから…まさかとは思うが聴こえてないだろうな?心音。
このまま町の中を歩いていたら何かしら言われるだろうが…でも、それはそれで…。
「おい、アリスじゃないか!」
っ!?
短髪の金髪で青い瞳。白い歯と腰の銀の剣が輝いているのは……。
「オズ-カペルシュ」
スピードに特化した特殊虚兵『レユニオン』の操縦者で私の先輩であり………………黒歴史。
「なんだよ、こんな朝早くから散歩か?剣の修練はしなくていいのか?」
「私は父上の遣いでだな……そんなことよりなぜオズはここにいるのだ?カペルシュ家までは距離があるはずだし……私用でもあったのか?」
「いや、ちょっとな…アリス…剣の修練だが良かったら俺が見てやろうか?前みたいに優しくするぜ?」
オズと恋仲だった頃は剣の打ち合いをよくしていた。今思えばあれはじゃれあいで修練と呼べるものではなかったな。
…今は全力で断りたい…。
「いや、遠慮し」
「よし、決まり!今からでいいか?」
オズは私の肩に手を回してきたが、ざわっ…!と寒気がしたので回避する。
「断ります。」
ハッキリと私の意思を伝える。
「なんだよ、テレてるのかアリス?」
………この男は………。
「オズ、あのな」
「あぁ!思い出したその声、あのロボットに乗ってた奴か!」
私の台詞を遮ってポンと手を叩くシチリ。
「なんだお前は?何処かで会ったか?」
「そう言えばお互いに自己紹介をしてなかったな。俺は七梨 タカってんだよろしくな。」
シチリはフランクに握手を求める手を出す。
「あいにくと男の顔と名前は覚えない主義でね。」
差し出し手を乱暴に払うオズ。
「ちょっ、オズ!なんだその態度は!せっかくシチリが挨拶をだな!」
「フンッ、知るかよ。それよりアリス俺と2人でどこか行こうぜ。」
オズのこの態度……これも別れた理由の1つ。シチリは命の恩人なのに…シチリに嫌な思いをさせてしまったな。
「ぬ?」
「俺と挨拶をしたいなら最低限騎士になるんだな平民君。」
シチリを見下すオズ。
「……悲しいヤツだな。」
哀れまれてたオズ。
「ん…貴様今何て言った!!!」
シチリの胸元を掴みかかる。
「ぬ?」
「ぬ?じゃねぇ!俺をバカにしたな!どうなるか解ってるのか!!俺は泣く子も黙る虚兵騎士様だぞ!」
「ふ~ん………手を出してきたな?俺も出していいか?」
「なんだと!」
シチリの角が尖り、目つきが変わってくる。ほのぼのとした目から…あのオウガを葬ったときの目に……。
「まてまてシチリ落ち着け、オズもだ虚兵騎士ともあろうものが市民に手を出すとは何事だ!」
「待てよ俺はコイツ(シチリ)が侮辱してきたから!」
「ぬー…。」
「ふざけやがって!」
「オズ!私は父上の遣いでシチリを屋敷へと連れていかねばならないのだ。それに本当に覚えていないか?魔族に囲まれた時にオウガを屠った男を!」
あの絶望に囲まれた時を忘れられるものか。
オズはあっと思い出したという顔をしてからシチリを見て青ざめていた。
「では、我々は急ぐゆえ失礼する。」
今度は私がシチリの腕を引っ張って歩き出す。
「ぬ。」
「いいから来い!父上が待ってる!」
「あっ!待てよアリス!話は…。」
「話なら終わったし我々は急ぐ!」
これ以上は時間が勿体ないと屋敷へ足早に歩いていく。
こんなことなら初めから馬で来るべきだったかな?でも歩きたい気分だったし…第一シチリが馬に乗れるかどうか…。
「う~ん…なにが正解だったのだ…。」
「なんだ考え事かい?」
「いやいや、なんでもないぞ。」
「そうかい。おっアリスの屋敷ってもしかしてあれか?」
シチリがそう言って指差す先に見えるは我がへーリオス家の門。
父上が一代で築いた我が家。
若い頃に今は亡き母上と構造を考えたそうだ。中庭では母上の好きな花に水をやり、父上が子供に剣を教え3人でお茶を飲めるようにと……。
現在は母上が見ても悲しませぬよう定期的に庭師を呼び管理させている。それに天気が良い日は時々中庭で食事をしたりする。
「綺麗な屋敷だな。」
「そうか……!」
シチリは純粋な目で屋敷を見ている。自分の家を綺麗だと言われると嬉しくなるものだな。
「こっちだ。」
屋敷の入口に1人で立って我々を迎えてくれる者が居た。いつもは優しい顔をしているのだが…今回は眉間にシワをこれでもかと寄せて…大変怪訝な顔をしている。
「出迎えありがとうクロック。コチラがシチリ殿だ。」
何かを言われる前に私から話しかける。
「七梨タカです。」
「シチリ殿、メイド長のクロックだ。」
「お初にお目にかかりますシチリ様この度は旦那様とアリス様を救っていただき大変感謝しております。」
クロックはシチリに深々と頭を下げる。
「いやいや。」
「………それにアリス様。既に仲がよろしいようで。」
「え?」
っ!?しまったーーーー!!
「ぬ?」
私は急いでシチリの手を離す。オズと別れた後からずっと手を繋いでいたようだ…恥ずかしい!
「シチリ!何故何も言わなかった!?」
「ぬ?」
「ぬ、じゃない!」
「いや、俺が迷わないように捕まれてる、と思っていた。」
そんなわけあるか!
「はぁ、旦那様は自室にいらっしゃいます。」
あぁ、クロックが若干あきれ顔に………ふぅ…よし!気を持ち直して。
「よし!行くぞこっちだ。」
「お待ちなさい。」
クロックの目が光る。
「なんだクロック。」
「失礼ですがシチリ様、その様な姿で旦那様に会うつもりですか?」
シチリに指を指す。
「ぬ?」
「なんですか、その汚れた服は!!」
「あー……これでも洗ったんだが…血の汚れはなかなか落ちなくてな。」
見ると所々がヨレヨレで何ヵ所か糸で縫っりしているツギハギが目立つ。白いシャツだったものが魔族の血が落ちず、薄い赤に染まってしまっている。
「あー…これは完全には色が落ちないかもしれないなぁ…。」
「シチリ様こちらへ…。」
「ぬ?」
クロックに連れられて部屋に入っていくシチリ。
「お、おいクロック!?」
~~数分後~~
「お待たせしましたアリス様。」
「クロック、シチリをどうしたんだ?」
「着替えをしていただきました。」
「着替え?」
「ロングジャケットだけど、なかなかに動きやすい。通気性もあってこの国の気候にもいいな。」
紅いシャツに黒い上着。
「この服は『勇者様』から伝わった『異世界』の服装を私なりに解釈して作らせました。それと前の服は私がしっかりと洗っておきますので…それまでこちらを着用してください。」
「助かるよ。着の身着のままでもそろそろ辛かったからなぁ。」
服装が違うと雰囲気も変わるな……格好いいじゃないか。
「似合っているんじゃないか。」
「なんだこれ?太陽か?」
シチリは左肩に付いている紋章を見る。
「それはへーリオス家の家紋でな太陽をイメージしているんだ。」
「太陽?」
「へーリオスとは太陽を意味していてな、我がへーリオス家の騎士は太陽と共に敵と戦うのだ。」
「へー、お天道様と共に戦うかぁ……いいね。」
「あぁ、そうだろう。」
「アリス様そろそろ…アレク様もお待ちですよ。」
「そうだそうだ。さぁ行こうかシチリ。」
「おう。」
屋敷の中を進み父上の部屋の前へと到着。2回ドアをノックする。
「父上、シチリ殿をお連れしました。」
「そうか入れ。」
「はっ、失礼します。」
父上はベットで上半身を起こして私達を待っていた。
「お待たせしました父上。」
「うむ、そちらがシチリ殿か?」
「はじめまして、七梨タカです。お元気そうでなにより。」
「シチリ殿すまないが近くへ来てくれないか?」
「ぬ?なんでしょ?」
シチリが近づくと父上の右の腕が素早く顔面を捉える。
「父上!?」
シチリの左頬スレスレで止まっている拳。
「………。」
「ぬ。」
睨み付ける父上に対しシチリはいつもと変わらなかった…いや、それどころか。
「うん、体力あるし、怪我の具合も良いみたいだね。」
「何故だ?」
「ぬ?」
「瞬き一つしなかったが…寸止めすると何故解った?」
なんだ最初から当てる気がなかったのか……。
「いや、腕の長さを考慮してもこの位置なら当たらないだろうと思っていたし…なにより。」
「なにより?」
「殺気が全くなかったもの。」
これまたけろっとした表情のシチリ。
「ふっ、ふふふ……がはははははははははははははははははははは……………娘を宜しく頼む。」
豪快な笑いから一転父上は頭を下げる。
「へぁ!?」
「なんでだ!?」
驚く私とツッコミを入れるシチリ。
「ちっちちち父上!?いったいなにを言っているのですか!!!!」
「……うむ、アリスよ。俺は本気だ。」
「ええ!?」
「どうだろう?シチリ殿俺はこの通りもう動けんし戦えん…。娘アリスも年頃だがいい縁談もない。助けてもらった礼と言うわけでも無いが…アリスを支えてやってくれないか?いや………むしろ婿に…!」
「落ち着いてください父上!いったいどうしたのです!!」
「なかなか愉快な親父さんだな。」
「うるさい!!なに1人冷静で他人事のように眺めている!!」
「そうだ、ちょっと親父さんと2人で話をさせてもらえない?」
「人の話を聞け…って、お前までなにを!?」
「式の段取りの話か?」
「父上!!」
「まぁまぁアリス、ちょっとごめんな…。」
「ちょっ、ちょっとシチリ!?」
私はホレホレと部屋の外へと閉め出された。
ちゃっかり鍵まで掛けたようでこちらからは開かない。……まさか!本当に式の段取りを!?しかし…しかしだなぁ!新婦である私(?)の意見もだなぁ!!聞くべきではないのかぁぁぁぁ!!!
………って、そうじゃないけどぉぉぉぉぉぉ!!!
…それから5分くらいかな?1人でイライラと悶々としていたらドアが開らいた。
「…終わったよ。」
「えぇ!?もう終わったのか!?」
段取りにしては短いだろう…それに私にも心の準備が必要だし…なによりお互いの………ん?
「アリス……。」
あれ?父上の顔が真っ青になっている?何があったの?
「父上…?なにかありましたか?」
「うむ………少し考えたい事があるから1人になりたい。アリスは婿殿に屋敷を案内してやってくれ。」
「婿殿っていうな!」
さっきと今で空気が全然違う。
「承知しました。」
「お前も否定しろ。」
あぅ、私までツッコまれてしまった。
「では、え~とアレク殿今後ちょくちょく顔をだしますので…。」
「解った…よろしく頼む。」
父上はシチリに深く頭を下げる。話についていけない状況だったが部屋から出る。
「シチリ…父上と何を話したのだ?」
「ぬ?」
「なにか様子が変わっていたが?」
「まっ……色々とな……あっアレク殿には話したが俺、明日からちょくちょくここに来るから。」
「それもそれでどういうとなんだ?」
「まぁ、いずれな…婚約どうこうって話ではないことは確か…期待すんなよ。」
「なぁ!?」
一気に顔が赤くなるのが解る。
「わ、わたしは期待なんぞしてないぞ!!」
この男は何を言っているのだ!!まったく……!!
………はぁ、期待するな…か………。
「あの建物ってなんだ?」
むーー……人の気持ちも考えずに…。
「あれは、へーリオス家の鍛錬所だ。」
「ふ~ん…。」
なにやら興味がありそうだな。
「見てみるか?」
「ぬ、いいのか?」
「あぁ、父上にも案内を任されたしな。」
「なら、よろしく頼む。」
ーーへーリオス家鍛練所ーー
中に入るなりシチリは目を輝かせている。やはり男というのはこういう所に興味があるのだろう。……そうだ!!
「なぁ、シチリ私と一戦、手合わせしてみないか?」
「ぬ?」
壁に掛けてある木剣を2本手に取り1本をシチリに渡す。
相変わらず、ぽかんとした表情だったが、木剣を構えると目付きが変わる。
「ハァ!!」
一閃二閃と木剣を振るうが上体を反らして軽くかわされる。
「どうしたシチリ!サムライというものを私も体験してみたい。遠慮は要らんぞお前も打ってこい!」
シチリから距離を取り木剣を構える。
「ぬー……ところで、アリスお前もすきるというものが使えるのか?」
特殊技能
この世界では魔法や剣技、獣化など様々なスキルが存在する。
大きく分けると。
「生まれもって使用出来る天性型」
これは種族特有なもの。ドワーフのオヤジさんの『怪力』とか奥さんのトワさん、ダークエルフの『魔術』などがこれに当たる。
「突発的に使用出来るようになった突発型」
これは何かの拍子で発現してしまう。生涯で1度だけの人も居ればそのスキルを使いこなす人も居る。
「指導や魔導書による習得型」
主に魔導書による低級魔術を修得しているものが多く普段の生活の為に役立てていたりする。例としては火を起こす着火目的の為の使用など。
上記の3つは複合も可能である。しかし、上記以外にも例外としてのスキルが存在する。
『伝説の勇者』が使用できるチート級のスキルである。存在が認められていないもの、常軌を余りにも逸しているスキルの事を言う。
「あぁ、簡単なのだが私も幾つか修得している。その1つが…!」
「ぬ!?」
筋力を一時的に高める強化。踏み込む速度を2段階3段階と上げることが出来る。私の最も得意なスキルだ。
シチリの目の前で木剣がクロスする。
「やるな!」
「ぬ………!これは驚きだ。」
驚きだと言っていたシチリだがしっかりと私の剣に合わせてくる。
鍔迫り合いでは男の腕力の前に女の私では力負けしてしまう。………そう今のままでは…。
「オウガを葬ったその力を見せてみろ!シチリ!」
強化!!
「おわっ!?」
腕力を上げシチリを木剣ごと振り払う。そして離れた瞬間、踏み込む速度を強化して間合いを詰める。
反応が遅れているシチリに木剣の狙いを定め…必殺。
『ライトニング・スピアー!』
高速の突き技…私の必殺だったのだが…。
「!?!?」
そこにシチリ姿は既になく私の突きは何もない空を突く形になった。
「消えた!?」
周りを見渡した所で自分の首元に木剣が姿を見せる。
「なにぃ!?」
「…はい、俺の勝ちだね。」
負け知らずとまではいかないのだが、私の必殺技には自信があったからショックだ…。
「………よく避けたな。」
「まぁね、あとサムライ、サムライと言われるけども、俺はどちらかと言うと忍。」
「…しのび?」
「平たく言うと忍者だ。」
「ニンジャか!」
「ぬ…知ってるの?」
「『勇者様』の仲間にも居たしな、にんじゃ!にんにんってやつだろ!」
左手の人差し指を右手で握り右人差し指を伸ばす…よく言う忍者ポーズ。
「にんにん言うな。」
「にん!」
シチリはため息をつきながら後ろを向き離れる。そして私に木剣を向き直す。
「同期…というか同い年のヤツには『超忍』と呼ばれてる奴が2人ほどいるがな…。」
「『ちょうにん』?」
「鏡花口伝 ……。」
シチリの目の光が静に…鋭くなった気が……何か来るな…私も木剣を構え直し攻撃に備える。
「シャドーウォーク…。」
シチリの姿がまた消える。
「2回目。」
「っ!?」
首元にまた木剣が……速い、見えない。
「っ!?………ま、参った……。」
「流石、騎士と言うだけはあるね…。」
…言ってくれる…私の攻めは最初だけで後は動くことすら出来なかったというのに……『伝説の勇者』と私の差がこれ程もあるのかと落胆する。まぁ父上にも剣の腕は敵わないのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれども……今の私にはシチリの背中すら見えないのだな………。
「いや、手も足も出なかった…まだまだ未熟だな私は………。」
木剣で肩をトントンと叩いてるシチリの次の言葉に私は耳を疑った。
屋敷へ向かう途中でシチリが問いかけてくる。
「父上か?父上はとても優しい人でな、騎士としても勇敢で力強く部下からの信頼も厚いぞ。」
「ふむ、なるほどな。」
「シチリの方こそどうなんだ?お前のご両親のことだから2人ともかなりの実力者なのだろう。」
「ぬ~…。」
渋い顔をすると同時に右側頭部の角に見える髪の毛が垂れ下がる……器用なヤツめ…。
「どうした?」
「色々と省くけど、俺は孤児なんだよ。育ての親は覚えてるけど産みの親には会ったことすらないんだ。その育ての親も今は居ないんだけどね…。」
っ…!しまった……私としたことが触れてはならなかったか。
「そ、そうか…あの…ごめん。」
「いやいや大丈夫。気にすることないさ。」
にっとシチリは笑っている角も上を向いた。……私は母上1人居ないだけで泣いた夜もあったのに…産みの親も育ての親も居ないなんて……。
「シチリは1人で大変だったのだな…。」
「ぬ。」
「…それは、そうとだな…シチリ………。」
「ぬ?」
「いい加減に手を離してくれないか?」
楽園を出たときから手を繋いだままだった。
「おお、すまん。」と言って手を離すシチリ。ずっと心拍数が大変なことになっていたから…まさかとは思うが聴こえてないだろうな?心音。
このまま町の中を歩いていたら何かしら言われるだろうが…でも、それはそれで…。
「おい、アリスじゃないか!」
っ!?
短髪の金髪で青い瞳。白い歯と腰の銀の剣が輝いているのは……。
「オズ-カペルシュ」
スピードに特化した特殊虚兵『レユニオン』の操縦者で私の先輩であり………………黒歴史。
「なんだよ、こんな朝早くから散歩か?剣の修練はしなくていいのか?」
「私は父上の遣いでだな……そんなことよりなぜオズはここにいるのだ?カペルシュ家までは距離があるはずだし……私用でもあったのか?」
「いや、ちょっとな…アリス…剣の修練だが良かったら俺が見てやろうか?前みたいに優しくするぜ?」
オズと恋仲だった頃は剣の打ち合いをよくしていた。今思えばあれはじゃれあいで修練と呼べるものではなかったな。
…今は全力で断りたい…。
「いや、遠慮し」
「よし、決まり!今からでいいか?」
オズは私の肩に手を回してきたが、ざわっ…!と寒気がしたので回避する。
「断ります。」
ハッキリと私の意思を伝える。
「なんだよ、テレてるのかアリス?」
………この男は………。
「オズ、あのな」
「あぁ!思い出したその声、あのロボットに乗ってた奴か!」
私の台詞を遮ってポンと手を叩くシチリ。
「なんだお前は?何処かで会ったか?」
「そう言えばお互いに自己紹介をしてなかったな。俺は七梨 タカってんだよろしくな。」
シチリはフランクに握手を求める手を出す。
「あいにくと男の顔と名前は覚えない主義でね。」
差し出し手を乱暴に払うオズ。
「ちょっ、オズ!なんだその態度は!せっかくシチリが挨拶をだな!」
「フンッ、知るかよ。それよりアリス俺と2人でどこか行こうぜ。」
オズのこの態度……これも別れた理由の1つ。シチリは命の恩人なのに…シチリに嫌な思いをさせてしまったな。
「ぬ?」
「俺と挨拶をしたいなら最低限騎士になるんだな平民君。」
シチリを見下すオズ。
「……悲しいヤツだな。」
哀れまれてたオズ。
「ん…貴様今何て言った!!!」
シチリの胸元を掴みかかる。
「ぬ?」
「ぬ?じゃねぇ!俺をバカにしたな!どうなるか解ってるのか!!俺は泣く子も黙る虚兵騎士様だぞ!」
「ふ~ん………手を出してきたな?俺も出していいか?」
「なんだと!」
シチリの角が尖り、目つきが変わってくる。ほのぼのとした目から…あのオウガを葬ったときの目に……。
「まてまてシチリ落ち着け、オズもだ虚兵騎士ともあろうものが市民に手を出すとは何事だ!」
「待てよ俺はコイツ(シチリ)が侮辱してきたから!」
「ぬー…。」
「ふざけやがって!」
「オズ!私は父上の遣いでシチリを屋敷へと連れていかねばならないのだ。それに本当に覚えていないか?魔族に囲まれた時にオウガを屠った男を!」
あの絶望に囲まれた時を忘れられるものか。
オズはあっと思い出したという顔をしてからシチリを見て青ざめていた。
「では、我々は急ぐゆえ失礼する。」
今度は私がシチリの腕を引っ張って歩き出す。
「ぬ。」
「いいから来い!父上が待ってる!」
「あっ!待てよアリス!話は…。」
「話なら終わったし我々は急ぐ!」
これ以上は時間が勿体ないと屋敷へ足早に歩いていく。
こんなことなら初めから馬で来るべきだったかな?でも歩きたい気分だったし…第一シチリが馬に乗れるかどうか…。
「う~ん…なにが正解だったのだ…。」
「なんだ考え事かい?」
「いやいや、なんでもないぞ。」
「そうかい。おっアリスの屋敷ってもしかしてあれか?」
シチリがそう言って指差す先に見えるは我がへーリオス家の門。
父上が一代で築いた我が家。
若い頃に今は亡き母上と構造を考えたそうだ。中庭では母上の好きな花に水をやり、父上が子供に剣を教え3人でお茶を飲めるようにと……。
現在は母上が見ても悲しませぬよう定期的に庭師を呼び管理させている。それに天気が良い日は時々中庭で食事をしたりする。
「綺麗な屋敷だな。」
「そうか……!」
シチリは純粋な目で屋敷を見ている。自分の家を綺麗だと言われると嬉しくなるものだな。
「こっちだ。」
屋敷の入口に1人で立って我々を迎えてくれる者が居た。いつもは優しい顔をしているのだが…今回は眉間にシワをこれでもかと寄せて…大変怪訝な顔をしている。
「出迎えありがとうクロック。コチラがシチリ殿だ。」
何かを言われる前に私から話しかける。
「七梨タカです。」
「シチリ殿、メイド長のクロックだ。」
「お初にお目にかかりますシチリ様この度は旦那様とアリス様を救っていただき大変感謝しております。」
クロックはシチリに深々と頭を下げる。
「いやいや。」
「………それにアリス様。既に仲がよろしいようで。」
「え?」
っ!?しまったーーーー!!
「ぬ?」
私は急いでシチリの手を離す。オズと別れた後からずっと手を繋いでいたようだ…恥ずかしい!
「シチリ!何故何も言わなかった!?」
「ぬ?」
「ぬ、じゃない!」
「いや、俺が迷わないように捕まれてる、と思っていた。」
そんなわけあるか!
「はぁ、旦那様は自室にいらっしゃいます。」
あぁ、クロックが若干あきれ顔に………ふぅ…よし!気を持ち直して。
「よし!行くぞこっちだ。」
「お待ちなさい。」
クロックの目が光る。
「なんだクロック。」
「失礼ですがシチリ様、その様な姿で旦那様に会うつもりですか?」
シチリに指を指す。
「ぬ?」
「なんですか、その汚れた服は!!」
「あー……これでも洗ったんだが…血の汚れはなかなか落ちなくてな。」
見ると所々がヨレヨレで何ヵ所か糸で縫っりしているツギハギが目立つ。白いシャツだったものが魔族の血が落ちず、薄い赤に染まってしまっている。
「あー…これは完全には色が落ちないかもしれないなぁ…。」
「シチリ様こちらへ…。」
「ぬ?」
クロックに連れられて部屋に入っていくシチリ。
「お、おいクロック!?」
~~数分後~~
「お待たせしましたアリス様。」
「クロック、シチリをどうしたんだ?」
「着替えをしていただきました。」
「着替え?」
「ロングジャケットだけど、なかなかに動きやすい。通気性もあってこの国の気候にもいいな。」
紅いシャツに黒い上着。
「この服は『勇者様』から伝わった『異世界』の服装を私なりに解釈して作らせました。それと前の服は私がしっかりと洗っておきますので…それまでこちらを着用してください。」
「助かるよ。着の身着のままでもそろそろ辛かったからなぁ。」
服装が違うと雰囲気も変わるな……格好いいじゃないか。
「似合っているんじゃないか。」
「なんだこれ?太陽か?」
シチリは左肩に付いている紋章を見る。
「それはへーリオス家の家紋でな太陽をイメージしているんだ。」
「太陽?」
「へーリオスとは太陽を意味していてな、我がへーリオス家の騎士は太陽と共に敵と戦うのだ。」
「へー、お天道様と共に戦うかぁ……いいね。」
「あぁ、そうだろう。」
「アリス様そろそろ…アレク様もお待ちですよ。」
「そうだそうだ。さぁ行こうかシチリ。」
「おう。」
屋敷の中を進み父上の部屋の前へと到着。2回ドアをノックする。
「父上、シチリ殿をお連れしました。」
「そうか入れ。」
「はっ、失礼します。」
父上はベットで上半身を起こして私達を待っていた。
「お待たせしました父上。」
「うむ、そちらがシチリ殿か?」
「はじめまして、七梨タカです。お元気そうでなにより。」
「シチリ殿すまないが近くへ来てくれないか?」
「ぬ?なんでしょ?」
シチリが近づくと父上の右の腕が素早く顔面を捉える。
「父上!?」
シチリの左頬スレスレで止まっている拳。
「………。」
「ぬ。」
睨み付ける父上に対しシチリはいつもと変わらなかった…いや、それどころか。
「うん、体力あるし、怪我の具合も良いみたいだね。」
「何故だ?」
「ぬ?」
「瞬き一つしなかったが…寸止めすると何故解った?」
なんだ最初から当てる気がなかったのか……。
「いや、腕の長さを考慮してもこの位置なら当たらないだろうと思っていたし…なにより。」
「なにより?」
「殺気が全くなかったもの。」
これまたけろっとした表情のシチリ。
「ふっ、ふふふ……がはははははははははははははははははははは……………娘を宜しく頼む。」
豪快な笑いから一転父上は頭を下げる。
「へぁ!?」
「なんでだ!?」
驚く私とツッコミを入れるシチリ。
「ちっちちち父上!?いったいなにを言っているのですか!!!!」
「……うむ、アリスよ。俺は本気だ。」
「ええ!?」
「どうだろう?シチリ殿俺はこの通りもう動けんし戦えん…。娘アリスも年頃だがいい縁談もない。助けてもらった礼と言うわけでも無いが…アリスを支えてやってくれないか?いや………むしろ婿に…!」
「落ち着いてください父上!いったいどうしたのです!!」
「なかなか愉快な親父さんだな。」
「うるさい!!なに1人冷静で他人事のように眺めている!!」
「そうだ、ちょっと親父さんと2人で話をさせてもらえない?」
「人の話を聞け…って、お前までなにを!?」
「式の段取りの話か?」
「父上!!」
「まぁまぁアリス、ちょっとごめんな…。」
「ちょっ、ちょっとシチリ!?」
私はホレホレと部屋の外へと閉め出された。
ちゃっかり鍵まで掛けたようでこちらからは開かない。……まさか!本当に式の段取りを!?しかし…しかしだなぁ!新婦である私(?)の意見もだなぁ!!聞くべきではないのかぁぁぁぁ!!!
………って、そうじゃないけどぉぉぉぉぉぉ!!!
…それから5分くらいかな?1人でイライラと悶々としていたらドアが開らいた。
「…終わったよ。」
「えぇ!?もう終わったのか!?」
段取りにしては短いだろう…それに私にも心の準備が必要だし…なによりお互いの………ん?
「アリス……。」
あれ?父上の顔が真っ青になっている?何があったの?
「父上…?なにかありましたか?」
「うむ………少し考えたい事があるから1人になりたい。アリスは婿殿に屋敷を案内してやってくれ。」
「婿殿っていうな!」
さっきと今で空気が全然違う。
「承知しました。」
「お前も否定しろ。」
あぅ、私までツッコまれてしまった。
「では、え~とアレク殿今後ちょくちょく顔をだしますので…。」
「解った…よろしく頼む。」
父上はシチリに深く頭を下げる。話についていけない状況だったが部屋から出る。
「シチリ…父上と何を話したのだ?」
「ぬ?」
「なにか様子が変わっていたが?」
「まっ……色々とな……あっアレク殿には話したが俺、明日からちょくちょくここに来るから。」
「それもそれでどういうとなんだ?」
「まぁ、いずれな…婚約どうこうって話ではないことは確か…期待すんなよ。」
「なぁ!?」
一気に顔が赤くなるのが解る。
「わ、わたしは期待なんぞしてないぞ!!」
この男は何を言っているのだ!!まったく……!!
………はぁ、期待するな…か………。
「あの建物ってなんだ?」
むーー……人の気持ちも考えずに…。
「あれは、へーリオス家の鍛錬所だ。」
「ふ~ん…。」
なにやら興味がありそうだな。
「見てみるか?」
「ぬ、いいのか?」
「あぁ、父上にも案内を任されたしな。」
「なら、よろしく頼む。」
ーーへーリオス家鍛練所ーー
中に入るなりシチリは目を輝かせている。やはり男というのはこういう所に興味があるのだろう。……そうだ!!
「なぁ、シチリ私と一戦、手合わせしてみないか?」
「ぬ?」
壁に掛けてある木剣を2本手に取り1本をシチリに渡す。
相変わらず、ぽかんとした表情だったが、木剣を構えると目付きが変わる。
「ハァ!!」
一閃二閃と木剣を振るうが上体を反らして軽くかわされる。
「どうしたシチリ!サムライというものを私も体験してみたい。遠慮は要らんぞお前も打ってこい!」
シチリから距離を取り木剣を構える。
「ぬー……ところで、アリスお前もすきるというものが使えるのか?」
特殊技能
この世界では魔法や剣技、獣化など様々なスキルが存在する。
大きく分けると。
「生まれもって使用出来る天性型」
これは種族特有なもの。ドワーフのオヤジさんの『怪力』とか奥さんのトワさん、ダークエルフの『魔術』などがこれに当たる。
「突発的に使用出来るようになった突発型」
これは何かの拍子で発現してしまう。生涯で1度だけの人も居ればそのスキルを使いこなす人も居る。
「指導や魔導書による習得型」
主に魔導書による低級魔術を修得しているものが多く普段の生活の為に役立てていたりする。例としては火を起こす着火目的の為の使用など。
上記の3つは複合も可能である。しかし、上記以外にも例外としてのスキルが存在する。
『伝説の勇者』が使用できるチート級のスキルである。存在が認められていないもの、常軌を余りにも逸しているスキルの事を言う。
「あぁ、簡単なのだが私も幾つか修得している。その1つが…!」
「ぬ!?」
筋力を一時的に高める強化。踏み込む速度を2段階3段階と上げることが出来る。私の最も得意なスキルだ。
シチリの目の前で木剣がクロスする。
「やるな!」
「ぬ………!これは驚きだ。」
驚きだと言っていたシチリだがしっかりと私の剣に合わせてくる。
鍔迫り合いでは男の腕力の前に女の私では力負けしてしまう。………そう今のままでは…。
「オウガを葬ったその力を見せてみろ!シチリ!」
強化!!
「おわっ!?」
腕力を上げシチリを木剣ごと振り払う。そして離れた瞬間、踏み込む速度を強化して間合いを詰める。
反応が遅れているシチリに木剣の狙いを定め…必殺。
『ライトニング・スピアー!』
高速の突き技…私の必殺だったのだが…。
「!?!?」
そこにシチリ姿は既になく私の突きは何もない空を突く形になった。
「消えた!?」
周りを見渡した所で自分の首元に木剣が姿を見せる。
「なにぃ!?」
「…はい、俺の勝ちだね。」
負け知らずとまではいかないのだが、私の必殺技には自信があったからショックだ…。
「………よく避けたな。」
「まぁね、あとサムライ、サムライと言われるけども、俺はどちらかと言うと忍。」
「…しのび?」
「平たく言うと忍者だ。」
「ニンジャか!」
「ぬ…知ってるの?」
「『勇者様』の仲間にも居たしな、にんじゃ!にんにんってやつだろ!」
左手の人差し指を右手で握り右人差し指を伸ばす…よく言う忍者ポーズ。
「にんにん言うな。」
「にん!」
シチリはため息をつきながら後ろを向き離れる。そして私に木剣を向き直す。
「同期…というか同い年のヤツには『超忍』と呼ばれてる奴が2人ほどいるがな…。」
「『ちょうにん』?」
「鏡花口伝 ……。」
シチリの目の光が静に…鋭くなった気が……何か来るな…私も木剣を構え直し攻撃に備える。
「シャドーウォーク…。」
シチリの姿がまた消える。
「2回目。」
「っ!?」
首元にまた木剣が……速い、見えない。
「っ!?………ま、参った……。」
「流石、騎士と言うだけはあるね…。」
…言ってくれる…私の攻めは最初だけで後は動くことすら出来なかったというのに……『伝説の勇者』と私の差がこれ程もあるのかと落胆する。まぁ父上にも剣の腕は敵わないのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれども……今の私にはシチリの背中すら見えないのだな………。
「いや、手も足も出なかった…まだまだ未熟だな私は………。」
木剣で肩をトントンと叩いてるシチリの次の言葉に私は耳を疑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる