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第1章 ~ノワール国~
ノワール国 その 11
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暗黒騎士団決闘より数日前。
ノワール国 王女 エリカ - ノワールの自室への扉が勢いよく開かれる。
「エリカ!!!」
扉を開けたのはエリカの父にしてノワール国 国王グライス - ノワール。
「あら、お父様どうしました?」
「あらお父様じゃない!!エリカ!!お前、暗黒騎士の嫁になるとはどういう事だ!!」
「その事ですか……。」
「それ以外に何がある!!!」
顔を茹で蛸の様に赤くしてグライス王は娘エリカに詰め寄る。
「お父様…どうぞ落ち着いてくださいませ。」
「これが落ち着いていられるか!!!エリカ!!!お前はまだまだ子供だし何より暗黒騎士への嫁なんぞに」
「お父様!!それ以上は口にしてはいけません!」
「はっ!……ん~…ぐぐぐ…。」
グライス王はハッとして歯をくいしばる。
相手はあの暗黒騎士団…どんな状況だろうと下手なことを言ってそれが耳に入れば決まって反逆罪だ!と言い寄って来る…例えそれが王だとしても…。
「御心配をしていただきありがとうございますお父様。」
「エリカ…。」
「でも御安心してくださいまし私は暗黒騎士に嫁ぐつもりは毛頭ございませんわ。」
「しかし!あの男が負けたらお前は…!!」
「あら?お父様はシチリが負けると思っていらっしゃるの?」
「相手はあの勇者の血をひく暗黒騎士団だぞ!!多少腕が立つからとしても相手が悪すぎる!!」
「ふふっ。」
「何が可笑しい!!お前の将来がかかっておるのだぞ!!」
「申し訳ございませんお父様、でも成ればこそ決闘当日には面白いものが見れますわよ。」
「面白いものだと?」
「はいお約束致しますわ。」
「なんだそれは?」
「ふふっ当日のお楽しみです。」
決闘当日、リングの上で大の字に倒れている暗黒騎士団の団長にして暗黒騎士の王ラザニーとそれを見下ろしている髪の一部が角の様に見える男。
「ぬぅ…?もしかして『決闘』って足使うのは反則とかなのか?ルールとかあるのか?しまったなぁ~。」
「うぐぐぐ…。」
倒れたラザニーはゆっくりと身体を起こす。
「ごめんごめん、痛かったかい?まさかこんなにモロに入るとは思わなかったよ…大丈夫?」
ラザニーに駆け寄る七梨だが暗黒騎士の王にとってはこれ以上に無い侮辱行為。
「触るなぁ!!!」
暗黒剣 『ブラック・ギンガントス』を振るう。
「おっと」
ラザニーの猛攻をひょいひょい避けていく。
「貴様っ逃げ足だけは速いな!ならばこれはかわせるかぁ!!」
「暗黒疾風迅雷剣!!ダークネス・ブラック・ウイング!!!」
ラザニーの黒き剣から黒い風の刃が360°の方向に襲いかかっていく。
「…ぬっ!?」
七梨は避けたり緑の剣で相殺し風の刃から逃れるが…。
「ぎゃー!」
「うわぁー!!」
ラザニーの黒き風の刃は観客席にまで牙を向く。
「皆の者!!身を低く伏せるのだぁ!!」
ノアール騎士団 団長 アレク - へーリオスが叫ぶ。
「ふははは!我が黒き風よ吹き飛ばせ!切り刻め!!」
黒い嵐が去ったあと周りの観客達は擦り傷を負うもの泣き出す者が居たが、暗黒騎士団側は負傷したこちら側を見て爆笑している。
「なんなのだ!彼奴らは!巻き込まれても良いように盾などを持参するのが常識だろう!」
「必死に伏せる姿が愉快愉快!!」
「はははゴミ共も一緒に吹き飛べば良かったものを!!」
暗黒騎士団は常に防具を着用しているから耐えれたがこちらの観客はそうではない。
一般の民間人、盾などの身を守る物なんて常に持ち歩いては無い。1体1の決闘なのに観客を巻き込む技を使用してくるなんて誰が予想出来るのだろうか。
粉塵舞い上がるなか七梨がラザニーへ近づく。
「おい観客を危険な目に合わせやがって…正気か?」
「ふっふっふ…貴様は甘い…やはり愚か者だな…。」
「ぬ?」
「もしここが戦場だとしたら…魔族を一気に殲滅させるのは広範囲技しかあるまい?」
「ここは戦場じゃねぇ。」
「それに避けれぬ者が悪いのだ!無防備で戦場に立つのが悪いのだ!我に不義はない!」
「だからここは戦場じゃ…ぬ?」
七梨の視界に入ったのは…。
「ちょっと待ってろ。」
七梨は観客席に向かって歩く。
「いいのか!?このリングから1歩でも外へでたら場外!!貴様の負けが確定する!!まっこれ以上の地獄を見たくないのならそれが賢明だな。エリカ王女は俺が戴く。どうしても言うのならこの国も貰ってやってもいいぞ!ははははは!!」
「……てろ…。」
「ん?何か言ったか?聞こえんぞぅ!!」
「……黙ってろ糞野郎…。」
「うっ………。」
七梨は一言だけ発し観客席へ走っていく。
その恐ろしいほどに冷たい視線にラザニーは言葉を失った。
今まで自分に向かってきた敵は自分への恐怖で萎縮しまともに目を合わせようともしなかった…所詮は負け犬とラザニー自身もそれが当然だと思っていたが…七梨から向けられた視線は…その冷たい視線からはハッキリとした殺意が読み取れた。
動物的な本能が危険を察知し彼の動きを静止させる。
七梨が客席へ飛び移ると視界に凄惨な光景が飛び込んでくる。
「おい!大丈夫かっ!!」
「お兄さん!!」
「ミスト無事だったか!?」
「ガルボの旦那が私を庇ってそれで…!!」
「ガルボが?」
見ると血だまりの中に大男が倒れている。
「おっさん!!おいおっさん!生きてるか!おっさん!!」
「う…お、おっさんじゃねぇ…俺はガルボだ………。」
見るとガルボの腕が薄皮一枚で繋がっているいる状態…流れる血が止まらない。
「ミストは…無事だったか…?」
「あぁおっさんのおかげで無事だ!傷一つない!」
「そうか…それは良かった…俺はガルボだ…。」
その一言でガルボの意識が途絶えた。
「あぁ、ガルボ…。」
ミストが両手で自分の顔を押さえ膝から崩れる。
「怪我人は!?重傷者はいるか!!」
アリスやノワール国の兵士達が怪我人を外へと移動させる。
「………。」
ガルボの切断された腕をくっつけと傷口同士を合わせたまま動かない七梨にアリスが近づく…。
「シチリ…。」
「………。」
アリスの目には必死に切れた腕を繋げようと合わせているシチリの姿は涙を堪えた子供の様に見えた。
しかし、七梨は戦わなければならない。伝説の勇者の子孫であり暗黒騎士団団長 ラザニーと…。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおあぁぁ~~~!!!!」
「!?」
突然獣ような咆哮をあげシチリはラザニーを睨み付ける。
「アリス…ガルボを頼む…。」
「あぁ、直ぐにでも医者に見せよう…。」
七梨の雰囲気が今までと全く違う…本当にシチリなのかと疑ってしまうほどに…。
不思議な感覚でシチリを見送ると「うぅん…。」ガルボが意識を取り戻した。
「おい、無理に動くな傷口からの出血が………ない?」
「へぁ?なんだこりゃ!?手が戻ってやがる!?でも確かに切れて…指も動く…なんだ?俺は夢でも見たのか?」
ガルボは斬れていてハズの手をまじまじと見つめて首をかしげている。
そのガルボを見てアリスは確信する。
「やはり…!シチリは回復魔法が使えるんだ!それも切断された腕の復元という高度な魔法…シチリ本当に伝説の勇者なんだ!!」
リング中央、再び睨み合うシチリとラザニー。
ノワール側の観客席での負傷者の誘導や治療魔法を行う者などを嘲笑う暗黒騎士団側。
「だっせ~!守りも出来ない屑共なんてほっとけばいいのによ!」
「まったくだ!負傷は甘えから来る己の責任だ!これだからこの国は駄目なんだ!俺ら暗黒騎士団がこの国を甘えからの建て直しをしなければな!!」
「そうだな!!はははは!!」
七梨は無言でゆっくりと緑の剣を構える。
「魔剣の力は心の力…だったか…だったら魔剣よ俺に力を貸せ…鏡花口伝剣術改め…七竜式闘剣術 居合いの型…『極』…!!!」
『真空円斬!!!』
「でぇやぁあああああああああああ!!!」
紅い火花を散らしながら抜刀した刃の先に生まれる風の刃。
ラザニーの発生させた風の刃とは異なり一方にしか向かないが威力が違う。
「!?」
ラザニーは咄嗟に暴風を防ぐマントで身を守るが暗黒騎士団側の客席に風の刃が襲いかかる。
彼らは余裕で盾を一斉に構えるが…向かい来る竜巻を木製の板1枚で守る事など不可能。
木製の盾は瞬時に砕け風の刃は彼らが身に付けている防具をすら…いや彼らの座っている座席までも貫通し遥か彼方の空まで昇る。
負傷した者へヤジを飛ばし爆笑していた暗黒騎士の1人が頬についた鮮血をそのままに隣を見ると上半身を失った下半身がそのままそこに座っている。
「………!?!?」
焦って自分の身体は大丈夫かと確認をする為頭を下げる。
腹部からジワジワ流れる出血を見るとそのまま自分の頭部の重さに耐えれずその騎士の上半身は自分の足下へ落下していった。
仲間が次々と崩れ落ちていく光景をラザニーは生唾を飲みながら見る。
「な、なん、だと…!?」
同じ風の剣術でこうも違うのか?と茫然とするラザニー。
「どこ見てやがる!」
はっと振り向くと七梨の拳が目の前まで迫って来ていたが避けようにも身体が動かない。
拳が兜にめり込みながらも放たれた一撃はラザニーの身体をキリモミ状に回転させながら吹っ飛ばす。
兜は衝撃で外れ、本人は再び地に這っている…屈辱と苛立ちが積もっていく。
持っている剣を杖の代わりにしてゆっくりと起き上がり七梨を睨み付けると目の前の男に変化が起こっていた。
「なっ、なんだその眼は!!!」
ラザニーだけではなくノワール国側の観客までハッキリと認識しただろう。
『朱色に染まった両目』
「………。」
「そうか貴様は魔族の仲間だったのか!!そうと成ればもう容赦はせん!!魔族を匿っていたこの国も総て我ら暗黒騎士団が屠ってくれる!!勇者の名にかけて!!」
ラザニーが奮起し斬りかかってくるが両手に装備している手甲でその剣を振り払われガラ空きになった頭部。
輝きを放っていた自慢の金髪を無造作に捕まれ顔面に頭突きを入れられる。
「ぐぁっ!?」
更に無防備になったラザニーを鎧の上から七梨の連打が襲う。
傷一つ無くキラキラ輝いていた鎧が拳の一撃一撃で凹んでいく。
「うわぁ!?」
七梨の拳から血が滲み飛び散り出すが連打は止まらない。
息が切れて動きが鈍くなった隙を見つけてラザニーはなんとか間合いを取ることに成功する。
七梨からの追撃を予測して剣を構えたが七梨は動かずにこちらを凝視していた…その姿は初めて出会ったときとは同じ人物だと信じがたいほどに殺意に満ち溢れている。
「ふふ、やはり貴様は愚かだな…我が鎧の防御力を舐めすぎだ!見た目はこうだが俺様の身体には一つも貴様の拳は到達しておらん!!それどころか貴様の拳の方が使い物にならなくなっているではないか!!」
ゆっくりと七梨は血塗れの拳を握り構える。
「無理をするな愚か者よ!貴様が限界を越えておるのは解っている!ここまで楽しませてくれた礼だ!大人しく敗けを認めれば痛みなくその首を跳ねてやる。」
踏み込むため姿勢を低く。
「…そ、そうだ!貴様がどうしても言うのなら我が片腕にしてやってもよいぞ!!たかだか魔族にしては少しはやるようだしな、権限も半分ほどくれてやろう!!どうだ?我が軍門に下らぬか?」
「……死ね…。」
七梨の足下の床が踏み込みに耐えれず砕ける。
鏡花口伝体術改め、七竜式格闘術。
『飛龍 咆哮掌……顎』
両手での掌底…ラザニーの眼には自分を食いちぎろうとするドラゴンがその口を開いて襲いかかって来るビジョンが見えた。
自分の死を見たラザニーはひぃ!!と身を屈めて恐怖からか目を閉じた。
ドラゴンの牙…いや『死』そのものが来ると思った刹那、ガガンっ!!と異音が闘技場に鳴り響く。
「ぬっ!?」
ラザニーと死の間には巨大な黒い壁がそびえ立つ。
七梨は距離を取って突然現れた壁を確認するとそれは巨大な黒き剣であった。
暗黒騎士団最強、大陸El Dorado全国含めても最強の1角。
『神騎 ゴッドブラック』
全長 20mを越える 伝説の勇者の1人、つまりはラザニーの祖先が使用していた神騎。
巨大な黒い騎士の大剣が主人のラザニーを死から守った。
人対人の対決なら被害も多少と予想出来るが神騎が出てくるとなると話は別になる。
ノワール王、グライスは直ちに観客の避難を指示。
「ラザニー王よ!決闘と聞いていたが神騎まで持ち出すのは余りにも非道!神騎をどうか退いてもらいたい!!」
そそくさと神騎の操縦席に乗り込んだラザニーは呼吸を落ち着かせグライス王を睨み付ける。
「黙れ!ノワール王!!この者を見たであろう!!人間ではない!魔族だ!!」
「くっ………。」
グライスは複雑な思いで七梨を見る…グライス王だけではない、アリス、アレク、エリカ王女、ヴァルキリー隊やノワール国側の観客が皆七梨を見る。
神騎 ゴットブラックの足下で1人見上げてる七梨。
彼の視界には彼にしか見えない女の子のキャラクターが看板を持っていてその看板にはタイマーのカウントダウンが始まっている。
「ぬぅ………。」
10…。
「さぁ!!愚か者の魔族よ!!」
9…。
「我が最強の下僕にして最強の神騎が!!」
8…。
「虫けら同然の貴様を踏み潰してくれる!!」
7…。
「ぬぅ…困った…。」
6…。
ゴットブラックが巨大な剣を振り上げる。
5…。
「遊ばないでさっさとケリを着けるべきだったな…。」
4…。
ゴットブラックを睨み付ける。
3…。
「…にしても、俺1人にビビりすぎだろあの馬鹿…。」
2…。
観客席でアリスと目が合う。
1…。
「アリスやエリカには悪いことしたかな…。」
0…。
「やれやれ…仲間の元へも帰れんな…。」
視界のキャラクターがGoGo!と消える。
…とんだ演出だ…。
パンッ!!!
弾けてはいけない赤い実が弾けた気がした。
七梨の身体中から血が吹き出し、張っていた糸が切れたように七梨の身体が崩れ落ちる。
「ん?自滅か?…ふふふ、やった!やったぞ!!愚民共!!この世界の覇王!暗黒騎士団!団長のラザニー - キラーが魔族を撃ち取ったぞぉ!!」
ゴットブラックが剣を掲げ直し高々に勝利宣言をするとそれに続き暗黒騎士団も雄叫びを上げ始める。
ノワール国側の観客は自分達が応援していたのは魔族だったのかと落胆したり七梨を応援したために逆賊として暗黒騎士団に蹂躙されると絶望した表情になる。
「あの魔族の男め…余計なことを…。」
「こんなことなら、さっさとお荷物部隊なんかくれてやれば良かったんだ…。」
「もう…おしまいだ…。」
「暗黒騎士様達に大人しく従っておけば…。」
そんな声を耳にしてアリスは苛立つ七梨と過ごした日々が頭に蘇り歯を食い縛りながら倒れている七梨を見る。
シチリは伝説の勇者では無いのか…?
ラザニーの言う通り魔族だったのか…?
アリスの頭の中、心の中がぐるぐると廻る。
「立てーーーーーーーー!!立て!!シチリーー!!」
後悔の声、七梨への罵声の中で耳に入ってきた1つの声援…。
幻聴かと落胆したが。
「立ってくださーーーい!!シチリさーーん!!」
違う、ヴァルキリー隊のアイガとエルザが立ち上がり声を上げていた。
「なんだ!貴様ら!我が屠った魔族を応援するか!貴様らも反逆罪で処するぞ!!」
ゴットブラックはヴァルキリー隊にも剣を向けるが、それがどうしたとアイガ達はなお吼える。
「どっちが魔族だ!!シチリはなぁ!私たちの師匠なんだ!大切な仲間なんだ!!」
「そうです!シチリさんは大切な仲間です!」
『大切な仲間』という言葉がアリスの中に広がっていく。
「立ちなー!お兄さん!!そんな奴なんかに負けるなっーー!!」
「小僧っー!まだ手を治してくれた礼を言ってねぇぞー!立てーー!!」
アリスの隣で声を上げるはミストとガルボ。
「婿殿っーーー!立ち上がるのだーーー!」
「ちっ父上!?」
「た…てー…!」
アレクとカインも声を上げる。
…そうだ、魔族かどうかなど関係ない!シチリは大切な仲間なんだ!!
「シチリーーー!!!」
多少ながら湧いてきた七梨コールの響きに苛立ちを押さえられないラザニー。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!もういい!!黙れ貴様ら!!!貴様らもこの国も反逆罪だ!!我が暗黒騎士団よソイツらを皆殺しにしてしまえーーー!!」
遂に始まってしまう暗黒騎士団による蹂躙劇、アリスは己の剣を抜きアレクも車椅子ながら大剣を抜く。
ミストは落ちている瓶を拾いガルボも拳を構える。
両者がぶつかるといったところで…。
「お止めなさいっ!!!」
声の主はエリカ王女…彼女の清くすみ渡る凛とした声が皆の脳髄までも支配する。
「無駄な争いです!!!皆の者!!!剣を納めなさい!!!両雄の闘いがまだ終わっていません!!!」
女神をも連想させるほど堂々としたエリカ王女にラザニーが言う。
「御言葉だがエリカ王女よ、これは既に決闘ではなく人対魔族の戦いだ!邪魔をするなら貴女とて容赦せず斬り捨てることになる…我が妻になる人をこの手で斬るのは忍びない…どうか何も言わずに我らを見守っていて欲しい。」
「…そんなにシチリが怖いのですか?」
「なっ!?」
エリカ王女の真っ直ぐな問いにラザニーはむぐぐと歯を食い縛る。
「さてと…シチリ。貴方もいつまで寝ているつもりですか?いい加減起きなさい。」
「………。」
「ふぅ…言い方が悪いわね………起きなさい!シチリ!!これは…El Dorado King エリカ - ノワールとしての命令です!!!」
El Dorado King 大陸を統べる王。
実質『勇者の子孫』でもあるラザニー-キラーが1番近い存在。
己こそが王であると心酔しているラザニーはそれこそ『女』であるエリカが『王』と宣言したことに吹き出す。
「ふはははは!!!愉快愉快!女であるくせに王だと!?はははははは!!」
「………。」
「よいか!エリカ王女教えてやる。女はただ強い男の孕み袋に成っておればよいのだよ!そうこの世の良い女は総て勇者の子孫であるラザニー - キラー様の為に存在を許されておるのだ!!」
「ふぅ…ラザニー様…なんとも哀れな殿方ですこと…。」
「な、なぁ~にぃ~!?貴様も我を愚弄するかぁ!!!エリカ王女ぉ!!許さんぞぉ!!」
激昂するラザニーの前でエリカはゆっくりとゴットブラックの足下を指差す。
「!?」
指差した先に視線を落とすと倒れていた七梨がゆっくりと身体を起こしていた。
「ぐっががががが………!」
「シチリ!!」
「シチリさん!」
「角…男…!」
「お兄さん!」
「小僧!!」
「婿殿!!」
ふらふらしながらも起きた七梨の目は朱色から通常に戻っている。
「ぬ~………三途の川を見てきたぜぇ………通行料300円…手持ちどころか財布が無かったぜぇ………。」
起きたところで相手は20mの神騎、175そこそこの人間では相手にもならないハズだが七梨の目は勝利を諦めていない。それどころか挑戦的に瞳をギラギラさせている。
七梨は呼吸を整えて…。
「誰かっ!!!!俺に!!!!剣を5本貸せっ!!!コイツを!!!ぶった斬る!!!」
と場内に声を響かせる。
「貴様っ!!まだ生きておったか!!大人しく死んどけぇ!!」
ゴットブラックの非情の大剣が七梨を狙い振り下ろされる。
「遅ぇっ!!!」
ゴットブラックの股下をくぐり抜けヒョイヒョイとゴットブラックの頭部まで登っていく。
「剣を貸せぇ!!あと5本だぁ!!」
アイガとエルザはお互いに頷いて己の剣を握る。
「シチリさん!!!」
「これを使え!!!」
七梨に向かって2本の剣を投げる。
飛んでくる2本に素早く反応し器用にキャッチ。
「サンキュー!!!」
その2本をズボンの両膝側面に突き刺す。
「後っ!!!3本!!!」
「婿殿!!!」
「シチリ!!!」
アレク、アリス親子も己の剣を七梨に向けて放つ。
カインも力になりたくて何か渡せる剣が無いかポケットを漁るが出てきたのは小さいペーパーナイフが1本。
「んっ……!!」
それでもと投げるが飛距離がなく近くに落ちてコロコロ転がって行く。
「う………。」
「後1本っ!!」
ゴットブラックの攻撃を避けながらアレクとアリスの剣2本を掴む。
今度は己のジャケットの両肩側面に突き通す。
神騎の攻撃をギリギリで避けつつ剣を拾いにいく七梨をゲームラスボスの様に腕を組んで見ているエリカ王女。
グライス王の危ないから避難しろの声をいっさい聞かない。
「ふふふっ面白い!!面白いわシチリ!!!」
エリカ王女はドレスを膝で裂きティアラを投げ捨てて隠し持っていた漆黒の剣『国刀 ノアール』を天に向けて投げる。
「エリカ!?お前いつの間にそれを!!」
「さぁ!!行くのです!我が最強の剣シチリよ!El Dorado最強を見事切り払いなさい!!」
大見得を張って投げた様はとても美しいが…。
「ぬ!?どこに投げてんだ!アイツ!!!」
ほぼ反対方向に飛んでいく剣をロックオン。
「えぇい!『鬼神』っっ!!!」
瞳を朱色に光らせ七梨は駆ける。
『鬼神』一時的に血液の流れを加速させ身体能力を倍加させる。
七梨の身体能力は通常時で既に一般人を凌駕しているが、この鬼神発動時は身体能力が更に3倍~5倍程度まで跳ね上げる事が可能。
しかし代わりに心臓への負担が大きくなる為長時間の使用や体力の限界を越えると心臓が損傷する場合も出てくる。
『鬼神』と言う名は七梨の元の世界の仲間が勝手に名付けた。
襲いかかるゴットブラックの剣を咆哮掌で弾き空中で国刀ノアールをキャッチ。
「よっしゃぁぁあああああああああああああああああああああっ!!」
さながら某獅子の勇者ロボがファイナルな合体をする時の掛け声。
7本目の剣を背中に突き入れて完成する。
両膝に2本。
両腰に2本。
両肩に2本。
背中に1本。
剣の種類も長さもバラバラで均等も取れていない歪な形…これが七竜 七梨タカの完成形である。
「さてと………勝つか。」
ノワール国 王女 エリカ - ノワールの自室への扉が勢いよく開かれる。
「エリカ!!!」
扉を開けたのはエリカの父にしてノワール国 国王グライス - ノワール。
「あら、お父様どうしました?」
「あらお父様じゃない!!エリカ!!お前、暗黒騎士の嫁になるとはどういう事だ!!」
「その事ですか……。」
「それ以外に何がある!!!」
顔を茹で蛸の様に赤くしてグライス王は娘エリカに詰め寄る。
「お父様…どうぞ落ち着いてくださいませ。」
「これが落ち着いていられるか!!!エリカ!!!お前はまだまだ子供だし何より暗黒騎士への嫁なんぞに」
「お父様!!それ以上は口にしてはいけません!」
「はっ!……ん~…ぐぐぐ…。」
グライス王はハッとして歯をくいしばる。
相手はあの暗黒騎士団…どんな状況だろうと下手なことを言ってそれが耳に入れば決まって反逆罪だ!と言い寄って来る…例えそれが王だとしても…。
「御心配をしていただきありがとうございますお父様。」
「エリカ…。」
「でも御安心してくださいまし私は暗黒騎士に嫁ぐつもりは毛頭ございませんわ。」
「しかし!あの男が負けたらお前は…!!」
「あら?お父様はシチリが負けると思っていらっしゃるの?」
「相手はあの勇者の血をひく暗黒騎士団だぞ!!多少腕が立つからとしても相手が悪すぎる!!」
「ふふっ。」
「何が可笑しい!!お前の将来がかかっておるのだぞ!!」
「申し訳ございませんお父様、でも成ればこそ決闘当日には面白いものが見れますわよ。」
「面白いものだと?」
「はいお約束致しますわ。」
「なんだそれは?」
「ふふっ当日のお楽しみです。」
決闘当日、リングの上で大の字に倒れている暗黒騎士団の団長にして暗黒騎士の王ラザニーとそれを見下ろしている髪の一部が角の様に見える男。
「ぬぅ…?もしかして『決闘』って足使うのは反則とかなのか?ルールとかあるのか?しまったなぁ~。」
「うぐぐぐ…。」
倒れたラザニーはゆっくりと身体を起こす。
「ごめんごめん、痛かったかい?まさかこんなにモロに入るとは思わなかったよ…大丈夫?」
ラザニーに駆け寄る七梨だが暗黒騎士の王にとってはこれ以上に無い侮辱行為。
「触るなぁ!!!」
暗黒剣 『ブラック・ギンガントス』を振るう。
「おっと」
ラザニーの猛攻をひょいひょい避けていく。
「貴様っ逃げ足だけは速いな!ならばこれはかわせるかぁ!!」
「暗黒疾風迅雷剣!!ダークネス・ブラック・ウイング!!!」
ラザニーの黒き剣から黒い風の刃が360°の方向に襲いかかっていく。
「…ぬっ!?」
七梨は避けたり緑の剣で相殺し風の刃から逃れるが…。
「ぎゃー!」
「うわぁー!!」
ラザニーの黒き風の刃は観客席にまで牙を向く。
「皆の者!!身を低く伏せるのだぁ!!」
ノアール騎士団 団長 アレク - へーリオスが叫ぶ。
「ふははは!我が黒き風よ吹き飛ばせ!切り刻め!!」
黒い嵐が去ったあと周りの観客達は擦り傷を負うもの泣き出す者が居たが、暗黒騎士団側は負傷したこちら側を見て爆笑している。
「なんなのだ!彼奴らは!巻き込まれても良いように盾などを持参するのが常識だろう!」
「必死に伏せる姿が愉快愉快!!」
「はははゴミ共も一緒に吹き飛べば良かったものを!!」
暗黒騎士団は常に防具を着用しているから耐えれたがこちらの観客はそうではない。
一般の民間人、盾などの身を守る物なんて常に持ち歩いては無い。1体1の決闘なのに観客を巻き込む技を使用してくるなんて誰が予想出来るのだろうか。
粉塵舞い上がるなか七梨がラザニーへ近づく。
「おい観客を危険な目に合わせやがって…正気か?」
「ふっふっふ…貴様は甘い…やはり愚か者だな…。」
「ぬ?」
「もしここが戦場だとしたら…魔族を一気に殲滅させるのは広範囲技しかあるまい?」
「ここは戦場じゃねぇ。」
「それに避けれぬ者が悪いのだ!無防備で戦場に立つのが悪いのだ!我に不義はない!」
「だからここは戦場じゃ…ぬ?」
七梨の視界に入ったのは…。
「ちょっと待ってろ。」
七梨は観客席に向かって歩く。
「いいのか!?このリングから1歩でも外へでたら場外!!貴様の負けが確定する!!まっこれ以上の地獄を見たくないのならそれが賢明だな。エリカ王女は俺が戴く。どうしても言うのならこの国も貰ってやってもいいぞ!ははははは!!」
「……てろ…。」
「ん?何か言ったか?聞こえんぞぅ!!」
「……黙ってろ糞野郎…。」
「うっ………。」
七梨は一言だけ発し観客席へ走っていく。
その恐ろしいほどに冷たい視線にラザニーは言葉を失った。
今まで自分に向かってきた敵は自分への恐怖で萎縮しまともに目を合わせようともしなかった…所詮は負け犬とラザニー自身もそれが当然だと思っていたが…七梨から向けられた視線は…その冷たい視線からはハッキリとした殺意が読み取れた。
動物的な本能が危険を察知し彼の動きを静止させる。
七梨が客席へ飛び移ると視界に凄惨な光景が飛び込んでくる。
「おい!大丈夫かっ!!」
「お兄さん!!」
「ミスト無事だったか!?」
「ガルボの旦那が私を庇ってそれで…!!」
「ガルボが?」
見ると血だまりの中に大男が倒れている。
「おっさん!!おいおっさん!生きてるか!おっさん!!」
「う…お、おっさんじゃねぇ…俺はガルボだ………。」
見るとガルボの腕が薄皮一枚で繋がっているいる状態…流れる血が止まらない。
「ミストは…無事だったか…?」
「あぁおっさんのおかげで無事だ!傷一つない!」
「そうか…それは良かった…俺はガルボだ…。」
その一言でガルボの意識が途絶えた。
「あぁ、ガルボ…。」
ミストが両手で自分の顔を押さえ膝から崩れる。
「怪我人は!?重傷者はいるか!!」
アリスやノワール国の兵士達が怪我人を外へと移動させる。
「………。」
ガルボの切断された腕をくっつけと傷口同士を合わせたまま動かない七梨にアリスが近づく…。
「シチリ…。」
「………。」
アリスの目には必死に切れた腕を繋げようと合わせているシチリの姿は涙を堪えた子供の様に見えた。
しかし、七梨は戦わなければならない。伝説の勇者の子孫であり暗黒騎士団団長 ラザニーと…。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおあぁぁ~~~!!!!」
「!?」
突然獣ような咆哮をあげシチリはラザニーを睨み付ける。
「アリス…ガルボを頼む…。」
「あぁ、直ぐにでも医者に見せよう…。」
七梨の雰囲気が今までと全く違う…本当にシチリなのかと疑ってしまうほどに…。
不思議な感覚でシチリを見送ると「うぅん…。」ガルボが意識を取り戻した。
「おい、無理に動くな傷口からの出血が………ない?」
「へぁ?なんだこりゃ!?手が戻ってやがる!?でも確かに切れて…指も動く…なんだ?俺は夢でも見たのか?」
ガルボは斬れていてハズの手をまじまじと見つめて首をかしげている。
そのガルボを見てアリスは確信する。
「やはり…!シチリは回復魔法が使えるんだ!それも切断された腕の復元という高度な魔法…シチリ本当に伝説の勇者なんだ!!」
リング中央、再び睨み合うシチリとラザニー。
ノワール側の観客席での負傷者の誘導や治療魔法を行う者などを嘲笑う暗黒騎士団側。
「だっせ~!守りも出来ない屑共なんてほっとけばいいのによ!」
「まったくだ!負傷は甘えから来る己の責任だ!これだからこの国は駄目なんだ!俺ら暗黒騎士団がこの国を甘えからの建て直しをしなければな!!」
「そうだな!!はははは!!」
七梨は無言でゆっくりと緑の剣を構える。
「魔剣の力は心の力…だったか…だったら魔剣よ俺に力を貸せ…鏡花口伝剣術改め…七竜式闘剣術 居合いの型…『極』…!!!」
『真空円斬!!!』
「でぇやぁあああああああああああ!!!」
紅い火花を散らしながら抜刀した刃の先に生まれる風の刃。
ラザニーの発生させた風の刃とは異なり一方にしか向かないが威力が違う。
「!?」
ラザニーは咄嗟に暴風を防ぐマントで身を守るが暗黒騎士団側の客席に風の刃が襲いかかる。
彼らは余裕で盾を一斉に構えるが…向かい来る竜巻を木製の板1枚で守る事など不可能。
木製の盾は瞬時に砕け風の刃は彼らが身に付けている防具をすら…いや彼らの座っている座席までも貫通し遥か彼方の空まで昇る。
負傷した者へヤジを飛ばし爆笑していた暗黒騎士の1人が頬についた鮮血をそのままに隣を見ると上半身を失った下半身がそのままそこに座っている。
「………!?!?」
焦って自分の身体は大丈夫かと確認をする為頭を下げる。
腹部からジワジワ流れる出血を見るとそのまま自分の頭部の重さに耐えれずその騎士の上半身は自分の足下へ落下していった。
仲間が次々と崩れ落ちていく光景をラザニーは生唾を飲みながら見る。
「な、なん、だと…!?」
同じ風の剣術でこうも違うのか?と茫然とするラザニー。
「どこ見てやがる!」
はっと振り向くと七梨の拳が目の前まで迫って来ていたが避けようにも身体が動かない。
拳が兜にめり込みながらも放たれた一撃はラザニーの身体をキリモミ状に回転させながら吹っ飛ばす。
兜は衝撃で外れ、本人は再び地に這っている…屈辱と苛立ちが積もっていく。
持っている剣を杖の代わりにしてゆっくりと起き上がり七梨を睨み付けると目の前の男に変化が起こっていた。
「なっ、なんだその眼は!!!」
ラザニーだけではなくノワール国側の観客までハッキリと認識しただろう。
『朱色に染まった両目』
「………。」
「そうか貴様は魔族の仲間だったのか!!そうと成ればもう容赦はせん!!魔族を匿っていたこの国も総て我ら暗黒騎士団が屠ってくれる!!勇者の名にかけて!!」
ラザニーが奮起し斬りかかってくるが両手に装備している手甲でその剣を振り払われガラ空きになった頭部。
輝きを放っていた自慢の金髪を無造作に捕まれ顔面に頭突きを入れられる。
「ぐぁっ!?」
更に無防備になったラザニーを鎧の上から七梨の連打が襲う。
傷一つ無くキラキラ輝いていた鎧が拳の一撃一撃で凹んでいく。
「うわぁ!?」
七梨の拳から血が滲み飛び散り出すが連打は止まらない。
息が切れて動きが鈍くなった隙を見つけてラザニーはなんとか間合いを取ることに成功する。
七梨からの追撃を予測して剣を構えたが七梨は動かずにこちらを凝視していた…その姿は初めて出会ったときとは同じ人物だと信じがたいほどに殺意に満ち溢れている。
「ふふ、やはり貴様は愚かだな…我が鎧の防御力を舐めすぎだ!見た目はこうだが俺様の身体には一つも貴様の拳は到達しておらん!!それどころか貴様の拳の方が使い物にならなくなっているではないか!!」
ゆっくりと七梨は血塗れの拳を握り構える。
「無理をするな愚か者よ!貴様が限界を越えておるのは解っている!ここまで楽しませてくれた礼だ!大人しく敗けを認めれば痛みなくその首を跳ねてやる。」
踏み込むため姿勢を低く。
「…そ、そうだ!貴様がどうしても言うのなら我が片腕にしてやってもよいぞ!!たかだか魔族にしては少しはやるようだしな、権限も半分ほどくれてやろう!!どうだ?我が軍門に下らぬか?」
「……死ね…。」
七梨の足下の床が踏み込みに耐えれず砕ける。
鏡花口伝体術改め、七竜式格闘術。
『飛龍 咆哮掌……顎』
両手での掌底…ラザニーの眼には自分を食いちぎろうとするドラゴンがその口を開いて襲いかかって来るビジョンが見えた。
自分の死を見たラザニーはひぃ!!と身を屈めて恐怖からか目を閉じた。
ドラゴンの牙…いや『死』そのものが来ると思った刹那、ガガンっ!!と異音が闘技場に鳴り響く。
「ぬっ!?」
ラザニーと死の間には巨大な黒い壁がそびえ立つ。
七梨は距離を取って突然現れた壁を確認するとそれは巨大な黒き剣であった。
暗黒騎士団最強、大陸El Dorado全国含めても最強の1角。
『神騎 ゴッドブラック』
全長 20mを越える 伝説の勇者の1人、つまりはラザニーの祖先が使用していた神騎。
巨大な黒い騎士の大剣が主人のラザニーを死から守った。
人対人の対決なら被害も多少と予想出来るが神騎が出てくるとなると話は別になる。
ノワール王、グライスは直ちに観客の避難を指示。
「ラザニー王よ!決闘と聞いていたが神騎まで持ち出すのは余りにも非道!神騎をどうか退いてもらいたい!!」
そそくさと神騎の操縦席に乗り込んだラザニーは呼吸を落ち着かせグライス王を睨み付ける。
「黙れ!ノワール王!!この者を見たであろう!!人間ではない!魔族だ!!」
「くっ………。」
グライスは複雑な思いで七梨を見る…グライス王だけではない、アリス、アレク、エリカ王女、ヴァルキリー隊やノワール国側の観客が皆七梨を見る。
神騎 ゴットブラックの足下で1人見上げてる七梨。
彼の視界には彼にしか見えない女の子のキャラクターが看板を持っていてその看板にはタイマーのカウントダウンが始まっている。
「ぬぅ………。」
10…。
「さぁ!!愚か者の魔族よ!!」
9…。
「我が最強の下僕にして最強の神騎が!!」
8…。
「虫けら同然の貴様を踏み潰してくれる!!」
7…。
「ぬぅ…困った…。」
6…。
ゴットブラックが巨大な剣を振り上げる。
5…。
「遊ばないでさっさとケリを着けるべきだったな…。」
4…。
ゴットブラックを睨み付ける。
3…。
「…にしても、俺1人にビビりすぎだろあの馬鹿…。」
2…。
観客席でアリスと目が合う。
1…。
「アリスやエリカには悪いことしたかな…。」
0…。
「やれやれ…仲間の元へも帰れんな…。」
視界のキャラクターがGoGo!と消える。
…とんだ演出だ…。
パンッ!!!
弾けてはいけない赤い実が弾けた気がした。
七梨の身体中から血が吹き出し、張っていた糸が切れたように七梨の身体が崩れ落ちる。
「ん?自滅か?…ふふふ、やった!やったぞ!!愚民共!!この世界の覇王!暗黒騎士団!団長のラザニー - キラーが魔族を撃ち取ったぞぉ!!」
ゴットブラックが剣を掲げ直し高々に勝利宣言をするとそれに続き暗黒騎士団も雄叫びを上げ始める。
ノワール国側の観客は自分達が応援していたのは魔族だったのかと落胆したり七梨を応援したために逆賊として暗黒騎士団に蹂躙されると絶望した表情になる。
「あの魔族の男め…余計なことを…。」
「こんなことなら、さっさとお荷物部隊なんかくれてやれば良かったんだ…。」
「もう…おしまいだ…。」
「暗黒騎士様達に大人しく従っておけば…。」
そんな声を耳にしてアリスは苛立つ七梨と過ごした日々が頭に蘇り歯を食い縛りながら倒れている七梨を見る。
シチリは伝説の勇者では無いのか…?
ラザニーの言う通り魔族だったのか…?
アリスの頭の中、心の中がぐるぐると廻る。
「立てーーーーーーーー!!立て!!シチリーー!!」
後悔の声、七梨への罵声の中で耳に入ってきた1つの声援…。
幻聴かと落胆したが。
「立ってくださーーーい!!シチリさーーん!!」
違う、ヴァルキリー隊のアイガとエルザが立ち上がり声を上げていた。
「なんだ!貴様ら!我が屠った魔族を応援するか!貴様らも反逆罪で処するぞ!!」
ゴットブラックはヴァルキリー隊にも剣を向けるが、それがどうしたとアイガ達はなお吼える。
「どっちが魔族だ!!シチリはなぁ!私たちの師匠なんだ!大切な仲間なんだ!!」
「そうです!シチリさんは大切な仲間です!」
『大切な仲間』という言葉がアリスの中に広がっていく。
「立ちなー!お兄さん!!そんな奴なんかに負けるなっーー!!」
「小僧っー!まだ手を治してくれた礼を言ってねぇぞー!立てーー!!」
アリスの隣で声を上げるはミストとガルボ。
「婿殿っーーー!立ち上がるのだーーー!」
「ちっ父上!?」
「た…てー…!」
アレクとカインも声を上げる。
…そうだ、魔族かどうかなど関係ない!シチリは大切な仲間なんだ!!
「シチリーーー!!!」
多少ながら湧いてきた七梨コールの響きに苛立ちを押さえられないラザニー。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!もういい!!黙れ貴様ら!!!貴様らもこの国も反逆罪だ!!我が暗黒騎士団よソイツらを皆殺しにしてしまえーーー!!」
遂に始まってしまう暗黒騎士団による蹂躙劇、アリスは己の剣を抜きアレクも車椅子ながら大剣を抜く。
ミストは落ちている瓶を拾いガルボも拳を構える。
両者がぶつかるといったところで…。
「お止めなさいっ!!!」
声の主はエリカ王女…彼女の清くすみ渡る凛とした声が皆の脳髄までも支配する。
「無駄な争いです!!!皆の者!!!剣を納めなさい!!!両雄の闘いがまだ終わっていません!!!」
女神をも連想させるほど堂々としたエリカ王女にラザニーが言う。
「御言葉だがエリカ王女よ、これは既に決闘ではなく人対魔族の戦いだ!邪魔をするなら貴女とて容赦せず斬り捨てることになる…我が妻になる人をこの手で斬るのは忍びない…どうか何も言わずに我らを見守っていて欲しい。」
「…そんなにシチリが怖いのですか?」
「なっ!?」
エリカ王女の真っ直ぐな問いにラザニーはむぐぐと歯を食い縛る。
「さてと…シチリ。貴方もいつまで寝ているつもりですか?いい加減起きなさい。」
「………。」
「ふぅ…言い方が悪いわね………起きなさい!シチリ!!これは…El Dorado King エリカ - ノワールとしての命令です!!!」
El Dorado King 大陸を統べる王。
実質『勇者の子孫』でもあるラザニー-キラーが1番近い存在。
己こそが王であると心酔しているラザニーはそれこそ『女』であるエリカが『王』と宣言したことに吹き出す。
「ふはははは!!!愉快愉快!女であるくせに王だと!?はははははは!!」
「………。」
「よいか!エリカ王女教えてやる。女はただ強い男の孕み袋に成っておればよいのだよ!そうこの世の良い女は総て勇者の子孫であるラザニー - キラー様の為に存在を許されておるのだ!!」
「ふぅ…ラザニー様…なんとも哀れな殿方ですこと…。」
「な、なぁ~にぃ~!?貴様も我を愚弄するかぁ!!!エリカ王女ぉ!!許さんぞぉ!!」
激昂するラザニーの前でエリカはゆっくりとゴットブラックの足下を指差す。
「!?」
指差した先に視線を落とすと倒れていた七梨がゆっくりと身体を起こしていた。
「ぐっががががが………!」
「シチリ!!」
「シチリさん!」
「角…男…!」
「お兄さん!」
「小僧!!」
「婿殿!!」
ふらふらしながらも起きた七梨の目は朱色から通常に戻っている。
「ぬ~………三途の川を見てきたぜぇ………通行料300円…手持ちどころか財布が無かったぜぇ………。」
起きたところで相手は20mの神騎、175そこそこの人間では相手にもならないハズだが七梨の目は勝利を諦めていない。それどころか挑戦的に瞳をギラギラさせている。
七梨は呼吸を整えて…。
「誰かっ!!!!俺に!!!!剣を5本貸せっ!!!コイツを!!!ぶった斬る!!!」
と場内に声を響かせる。
「貴様っ!!まだ生きておったか!!大人しく死んどけぇ!!」
ゴットブラックの非情の大剣が七梨を狙い振り下ろされる。
「遅ぇっ!!!」
ゴットブラックの股下をくぐり抜けヒョイヒョイとゴットブラックの頭部まで登っていく。
「剣を貸せぇ!!あと5本だぁ!!」
アイガとエルザはお互いに頷いて己の剣を握る。
「シチリさん!!!」
「これを使え!!!」
七梨に向かって2本の剣を投げる。
飛んでくる2本に素早く反応し器用にキャッチ。
「サンキュー!!!」
その2本をズボンの両膝側面に突き刺す。
「後っ!!!3本!!!」
「婿殿!!!」
「シチリ!!!」
アレク、アリス親子も己の剣を七梨に向けて放つ。
カインも力になりたくて何か渡せる剣が無いかポケットを漁るが出てきたのは小さいペーパーナイフが1本。
「んっ……!!」
それでもと投げるが飛距離がなく近くに落ちてコロコロ転がって行く。
「う………。」
「後1本っ!!」
ゴットブラックの攻撃を避けながらアレクとアリスの剣2本を掴む。
今度は己のジャケットの両肩側面に突き通す。
神騎の攻撃をギリギリで避けつつ剣を拾いにいく七梨をゲームラスボスの様に腕を組んで見ているエリカ王女。
グライス王の危ないから避難しろの声をいっさい聞かない。
「ふふふっ面白い!!面白いわシチリ!!!」
エリカ王女はドレスを膝で裂きティアラを投げ捨てて隠し持っていた漆黒の剣『国刀 ノアール』を天に向けて投げる。
「エリカ!?お前いつの間にそれを!!」
「さぁ!!行くのです!我が最強の剣シチリよ!El Dorado最強を見事切り払いなさい!!」
大見得を張って投げた様はとても美しいが…。
「ぬ!?どこに投げてんだ!アイツ!!!」
ほぼ反対方向に飛んでいく剣をロックオン。
「えぇい!『鬼神』っっ!!!」
瞳を朱色に光らせ七梨は駆ける。
『鬼神』一時的に血液の流れを加速させ身体能力を倍加させる。
七梨の身体能力は通常時で既に一般人を凌駕しているが、この鬼神発動時は身体能力が更に3倍~5倍程度まで跳ね上げる事が可能。
しかし代わりに心臓への負担が大きくなる為長時間の使用や体力の限界を越えると心臓が損傷する場合も出てくる。
『鬼神』と言う名は七梨の元の世界の仲間が勝手に名付けた。
襲いかかるゴットブラックの剣を咆哮掌で弾き空中で国刀ノアールをキャッチ。
「よっしゃぁぁあああああああああああああああああああああっ!!」
さながら某獅子の勇者ロボがファイナルな合体をする時の掛け声。
7本目の剣を背中に突き入れて完成する。
両膝に2本。
両腰に2本。
両肩に2本。
背中に1本。
剣の種類も長さもバラバラで均等も取れていない歪な形…これが七竜 七梨タカの完成形である。
「さてと………勝つか。」
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