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第7話 色々ありすぎて疲れてるんだよ
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「まったく、何がニーナをそこまで突き動かすの?」
「いやまあ、なんとなく壁を壊したいなあって……」
「破壊神じゃないんだから」
嘘を吐くにしても、もう少しまともなものがあるだろう。
そうした中、ニーナは目を潤ませて胸に手を当てる。
「だって……だって、二人で過ごすには狭いじゃないですか!」
「は?」
「わたしはお嬢様と一緒の部屋で生活したいんです! おはようからおやすみまで、ずっと付き添ってお世話してあげたいんです! そのためには、この部屋ちょっと狭いんです!!」
「何、その歪んだ理由……」
私のことを想ってくれるのは素直に嬉しいけど、問題はその熱量だ。
自分より十歳近く上の人に血走った目で「世話をしたい!」と駄々をこねられるのが、これほどまでに気持ち悪いとは……。
ニーナが頬を膨らませる。
「同室を許可してくれないなら、わたし隠れ家から出ていきます!」
「ええ……?」
「わたしは、お嬢様の面倒を見たいんです! わたし色に染め上げたいんです! だから、お願いします!」
「なんで、言い方がちょっとイヤらしいの? そんな風に言われたら、同室なんて絶対に嫌だよ」
なんなら別室でも嫌だ。同じ建物にすら居たくない。どこか遠くで暮らして欲しい。
万が一に備え、頭の中で逃走経路をシミュレーションする……が、扉の前にニーナが陣取っているせいで逃げることも叶いそうにない。
よし……最悪、窓から飛び降りよう。
「どうして、そこまで頑なに拒むんですか! 普通、お嬢様くらいの年齢なら甘え盛りのはずですよね!?」
「だから、私の場合は中身が大人なんだってば! 世にいう普通は当てはまらないの!」
私はあなたが思うほど可愛らしい存在でないことを分かって欲しい。
そして、ニーナも自身がいかに危険な存在かを分かって欲しい。
「ふむ……お嬢様、さては年下好きですか?」
「ニーナ、一回休もう。あなた、色々ありすぎて疲れてるんだよ」
「いえ、わたしはいたって正常です! 今まで他の使用人の手前、我慢してきましたがこれが本来のわたしの姿です!」
「私、今の言葉を聞いてあなたに暇を出そうか本気で悩んでるよ」
「ああ、欲求が……欲求が我慢できません!」
ニーナはしゃがみ込んで頭を掻きむしった。
「背中を流したいです……! 着替えを手伝いたいです……! 髪を乾かしてあげたいです……!!」
「言ってることは一般的な使用人の業務なのに、今のニーナが言うと恐怖でしかないよね」
今後、入浴は一人で行うし、着替えは自分で用意するし、髪は三重に鍵をかけた脱衣所の中でしか乾かさない。
私は目を閉じ、心の中で決意を固めてからニーナに視線を戻す。
そこで、ニーナの手に不自然なものが握られていることに気が付いた。
「ニーナ、それ何?」
「これですか? これは、お嬢様が幼少期に使っていた哺乳瓶です!」
「そんな拗らせた禁断症状の出方あるんだね」
言われてみれば、見覚えがある。
ここ数年、使うことがなかったため存在をすっかり忘れていたけど、まさかこんな 場所でわざわざ保管されていたとは……心底、気持ちが悪い。
――と、不意に窓の外から話し声が聞こえた。
体内を巡る血液が、急激に冷えるかのような感覚に襲われる。
「ん? お嬢様、どうかしましたか?」
「なんか人が来たみたい」
私はそっと窓際まで移動すると、壁に背中を預けて外の様子をうかがった。
夕日に邪魔され、はっきり確認できないが、玄関の前に二つの人影が見える。
誰だろう……まさか追手?
緊迫した空気の中、ニーナが私の頭の上に顎を乗せ外を眺める。
「ああ、あれはジノスさんとマリーカさんですね! 二人ともテンセイシャ仲間ですよ!」
ニーナの言葉に、身体中からどっと汗が吹き出る。
まあ、冷静に考えれば魔法で隠してあるんだから近付けるのはテンセイシャだけか。
「そっか、だったら私が出ていくよ。他のテンセイシャと話してみたいし」
「分かりました! では、わたしはお茶の準備をしてから向かいますので、お嬢様は二人を応接室に案内してあげてください!」
「うん、分かった……でも、一つだけお願い」
私はニーナを呼び止めて、彼女の腕を強く掴む。
「変な誤解を生みそうだから、哺乳瓶は置いていこう!」
もし、隠れ家で赤ちゃんプレイをしていた疑惑でも抱かれたらどうしてくれる。
私は初対面の相手に、そんなパンチの効いた第一印象、絶対に与えたくない。
「いやまあ、なんとなく壁を壊したいなあって……」
「破壊神じゃないんだから」
嘘を吐くにしても、もう少しまともなものがあるだろう。
そうした中、ニーナは目を潤ませて胸に手を当てる。
「だって……だって、二人で過ごすには狭いじゃないですか!」
「は?」
「わたしはお嬢様と一緒の部屋で生活したいんです! おはようからおやすみまで、ずっと付き添ってお世話してあげたいんです! そのためには、この部屋ちょっと狭いんです!!」
「何、その歪んだ理由……」
私のことを想ってくれるのは素直に嬉しいけど、問題はその熱量だ。
自分より十歳近く上の人に血走った目で「世話をしたい!」と駄々をこねられるのが、これほどまでに気持ち悪いとは……。
ニーナが頬を膨らませる。
「同室を許可してくれないなら、わたし隠れ家から出ていきます!」
「ええ……?」
「わたしは、お嬢様の面倒を見たいんです! わたし色に染め上げたいんです! だから、お願いします!」
「なんで、言い方がちょっとイヤらしいの? そんな風に言われたら、同室なんて絶対に嫌だよ」
なんなら別室でも嫌だ。同じ建物にすら居たくない。どこか遠くで暮らして欲しい。
万が一に備え、頭の中で逃走経路をシミュレーションする……が、扉の前にニーナが陣取っているせいで逃げることも叶いそうにない。
よし……最悪、窓から飛び降りよう。
「どうして、そこまで頑なに拒むんですか! 普通、お嬢様くらいの年齢なら甘え盛りのはずですよね!?」
「だから、私の場合は中身が大人なんだってば! 世にいう普通は当てはまらないの!」
私はあなたが思うほど可愛らしい存在でないことを分かって欲しい。
そして、ニーナも自身がいかに危険な存在かを分かって欲しい。
「ふむ……お嬢様、さては年下好きですか?」
「ニーナ、一回休もう。あなた、色々ありすぎて疲れてるんだよ」
「いえ、わたしはいたって正常です! 今まで他の使用人の手前、我慢してきましたがこれが本来のわたしの姿です!」
「私、今の言葉を聞いてあなたに暇を出そうか本気で悩んでるよ」
「ああ、欲求が……欲求が我慢できません!」
ニーナはしゃがみ込んで頭を掻きむしった。
「背中を流したいです……! 着替えを手伝いたいです……! 髪を乾かしてあげたいです……!!」
「言ってることは一般的な使用人の業務なのに、今のニーナが言うと恐怖でしかないよね」
今後、入浴は一人で行うし、着替えは自分で用意するし、髪は三重に鍵をかけた脱衣所の中でしか乾かさない。
私は目を閉じ、心の中で決意を固めてからニーナに視線を戻す。
そこで、ニーナの手に不自然なものが握られていることに気が付いた。
「ニーナ、それ何?」
「これですか? これは、お嬢様が幼少期に使っていた哺乳瓶です!」
「そんな拗らせた禁断症状の出方あるんだね」
言われてみれば、見覚えがある。
ここ数年、使うことがなかったため存在をすっかり忘れていたけど、まさかこんな 場所でわざわざ保管されていたとは……心底、気持ちが悪い。
――と、不意に窓の外から話し声が聞こえた。
体内を巡る血液が、急激に冷えるかのような感覚に襲われる。
「ん? お嬢様、どうかしましたか?」
「なんか人が来たみたい」
私はそっと窓際まで移動すると、壁に背中を預けて外の様子をうかがった。
夕日に邪魔され、はっきり確認できないが、玄関の前に二つの人影が見える。
誰だろう……まさか追手?
緊迫した空気の中、ニーナが私の頭の上に顎を乗せ外を眺める。
「ああ、あれはジノスさんとマリーカさんですね! 二人ともテンセイシャ仲間ですよ!」
ニーナの言葉に、身体中からどっと汗が吹き出る。
まあ、冷静に考えれば魔法で隠してあるんだから近付けるのはテンセイシャだけか。
「そっか、だったら私が出ていくよ。他のテンセイシャと話してみたいし」
「分かりました! では、わたしはお茶の準備をしてから向かいますので、お嬢様は二人を応接室に案内してあげてください!」
「うん、分かった……でも、一つだけお願い」
私はニーナを呼び止めて、彼女の腕を強く掴む。
「変な誤解を生みそうだから、哺乳瓶は置いていこう!」
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