✘✘令嬢、脱兎のごとく!~テンセイシャ狩りから始まる没落喜劇~

森羅 唯

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第13話 ターゲットを追いかけます!

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 その直後、全く別の方向から新たな紙飛行機がこちらに向かって飛んできた。
 なんだ、この無駄にスタイリッシュな文通は。

 周りの客も紙飛行機が酒場の四方八方から飛び回っていることについて、どうも思わないのだろうか。
 ニーナが再び紙飛行機を解体して目を通した後、私の耳元で囁く。

「お嬢様、ちょっといいですか?」

「なになに?」

「どうやら、ターゲットがこの酒場にいるようです!」

「そんな偶然ある?」

「すぐに仕留めましょう!」

「いやいや、証拠不十分のまま殺しにかかるの? 私、人違い殺人の片棒を担ぐなんて嫌だよ?」

 似顔絵と特徴が一致しているからといって、子供の噂を頼りにしていることには変わりない。

 事が起きてから「ごめんなさい間違いでした」で済む問題ではないし、もっと慎重に取り組むべきだ。
 ニーナが眉間にしわを寄せて、私の両肩を強く掴む。

「お嬢様!!」

「うわっ、なになに!?」

「わたしたちには今しかありません! 今日見逃した敵に明日命を奪われことになったとして、お嬢様は納得出来るんですか!?」

「それは……」

「とにかく、ターゲットを追いかけます! お嬢様も離れずついてきてくださいね!」

 ニーナの考えは十分理解できるけど、少し焦り過ぎている気がする。
 ここは、私が冷静さを取り戻させなければ。

「けど、追いかけた先はどうするの? 何か作戦とかあるんだよね?」

「作戦なんて必要ありません! ダーッと捕まえて、バーッと情報を聞き出して、ガーッと殺せばいいだけです!」

 決断を早まらなくて本当に良かった。
 こんな訳の分からないこと口走っている状況で、作戦を実行したところで上手くいくはずがない。

 鼻息荒く周囲を警戒するニーナをよそに、マリーカが私の肩をポンと叩く。

「安心しなさい。作戦ならすでに頭に浮かんでるわ」

「良かった。まともな人がいた」

 流石は魔王様、人を従えてきた立場だけあって今すべきことを理解できている。
 復讐者を語る活動内容不明の個人事業主とは大違いだ。
 マリーカが机の上に散らかっている紙の裏面に、簡単な図を書きながら説明する。

「まず、店を出たら怪しまれないよう距離を保って追跡。人通りが少なくなったら、囮役の一人が目立つような行動を取ってターゲットの足を止めるの」

「ふむふむ、それで?」

「その隙に、あたしが離れた位置からターゲットを昏睡状態に陥れるわ」

「ほうほう、なるほど」

「意識さえ失わせれば、あとはこっちのもの。介抱するフリでもしながら路地裏に引きずり込んで、確実に仕留めればいいわ」

「そっか、酔い潰れた人の介抱なら珍しい光景でもないし周囲を人が通っても怪しまれないもんね」

「死体も路地裏の隅に隠しておけば朝方まで見つからないでしょうし」

「凄い……。ちゃんと、私たちが逃げる時間の確保まで考えられてるんだね」

 ニーナとの対比で、マリーカが物凄くしっかりした人に見える。
 うん、魔王主導だし少しはなんとかなりそうな気がしてきた。

「どうやら、納得してもらえたみたいね。となると、あとは囮役の人選だけど……」

「はいはい! わたし! わたしがやりたいです!!」

 ニーナは勢いよく立ち上がって手を挙げた。
 ……言っちゃ悪いけど、四人の中で最も囮役に適性がない気がする。

 ジノスとマリーカもアイコンタクトで「ニーナで大丈夫かしら?」「じゃあ、お前がやれよ」「それは嫌」と擦り付け合いを始める始末だ。

「分かります……。わたしの勇気ある立候補に、皆さん感動のあまり声も出せないんですよね!」

「ごめん、そうじゃないんだよニーナ」なんて、立候補する勇気もない私には言えるはずがなく……。
 結局、私たちは一世一代の大勝負に大きな爆弾を抱えた形で挑むこととなった。
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