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危険な豆
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ポカポカとした陽気に包まれた、なんてことない昼のこと。
クレナが小休憩のため幌馬車を止めると、ラミスが真剣な眼差しで近付いてきて尋ねた。
「クレナちゃん、目的の街に着くのって、いつ頃になりそう? たしか、私たちの初出店は、この地方で一番大きな街でする予定だったよね?」
「昨日、集落を出たばかりなのに、もう次の話? そうね……馬車の扱いにも慣れてきたし、十日くらいで着けるんじゃないかしら」
「分かった。じゃあ、街に到着するまでに色々、名物になりそうな珈琲を考案しておくね。お客様第一を意識して頑張ってみる」
やる気満々に腕まくりするラミスに、クレナが目を丸くして言った。
「そりゃあ、あたしたちはカフェなわけだから、メニューを考えるのは当たり前だけど……。でも、あんたの口から『お客様』なんて単語が出てくるなんて夢にも思わなかったから、あたし今、凄く動揺してるわ」
「だよね。私だって、まさか自分がこんな言葉を口にするとは、夢にも思ってなかったよ。けど、集落での作業で思い知ったの。力仕事は、もう二度と御免だって」
「要するに、気合入れて働くから補給の手伝いは勘弁してくれと……。それで、名物になりそうな珈琲って言うけど何か計画でもあるの?」
「もちろん。すでに、一つサンプルも用意してあるから見てみて」
ラミスは涼しげな笑みを浮かべ、焙煎前の珈琲豆が詰まった袋を取り出した。
「サンプルってこれ? 見た目は、ただの珈琲豆だけど……」
「まあ、見てて」
こう言いながら、ラミスは自身の手の平に珈琲豆をいくつか広げた。
間もなく、豆の溝部分が口のように開いたり閉じたりと勝手に動き始める。
クレナは眉をひそめて、ラミスに問いかけた。
「えっ、気持ち悪……。こんな奴を名物にするつもりなの?」
「うん、名物になりそうな珈琲の第一弾として、生きてる豆を使ってみようと思う。せっかくの初出店だし、効果だけじゃなくて豆自体も遊び心のあるものがいいかなと思って。見た目は大事でしょ?」
「たしかに注目は集めるかもしれないけど、少しグロくないかしら。こんなパクパク動く豆……ていうか、これ豆なの? 豆に擬態した謎生物じゃなくて?」
「ちゃんと豆だよ。集落で買ったんだけど、みんな気にせず飲んでるって言ってた。見慣れたら、どうとも思わないらしいよ」
それからしばらく、クレナは謎の珈琲豆がどのようなものか、じっくりと観察した。
試しに落ち葉を拾って近付けると、破れない程度の力でパクッと噛みついた。
「で、これ肝心の味はどうなのよ。この見た目で不味かったら、目も当てられないわよ?」
「それについても確認済みだよ。平均して苦みが強いけど、他は特に癖のない味わいなの」
「なるほど、味は問題ないのね。ただ、根本的な問題として、これを見て飲みたいなんて思う人いるかしら。味は良くても、見た目は相当なゲテモノよ?」
「そこは、私の商才を信じて欲しい。私の予想では、都会の店は良くも悪くも安定した商品ばかり提供してくるはず。そこに、この一風変わった豆で淹れる珈琲を売り込めば、興味本位で客が寄ってくるはず」
胸を張って説明するラミスに、クレナは首を傾げて呟いた。
「うーん。そんなに上手くいくかしら……?」
「とにかく、私はこの豆に効果を付与する方向で開発を進めてみるね」
ラミスは豆を雑に袋へ戻すと、幌馬車の中へ引っ込んだ。
――翌日、ほぼ同時刻。
相変わらず幌馬車を走らせていると、二階からラミスの細い悲鳴が聞こえた。
「ク、クレナちゃん。痛い……助けて」
驚いたクレナは、急いでユニコーンを止め馬車の中へ。
そこには、両手の平に無数の珈琲豆をくっつけたまま、横たわっているラミスの姿があった。
「何よ、血も出てないのに大げさな。こいつに挟まれたって、痛くもないんでしょ?」
「それは、初期段階の話。今の豆っちは、あの時とは違う」
「後々、口に入れる物なのに名前付けてるのね……って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。とりあえず、引き離せばいいのね?」
その後、クレナが格闘し、なんとかラミスの手から豆を引きはがすことに成功。
珈琲豆はすべて、使っていない鉄製の箱の中へ封じられた。
「ありがとう、クレナちゃん。あと少し遅かったら、私の指が何本か持っていかれるところだった」
「指が持っていかれるだなんて、そんな大げさな……ん?」
クレナがラミスの指の様子を確認しようと近付いたその時、足の裏で何かをグシャリと踏む音が聞こえた。
拾ってみると、それは砕けたクルミの破片。
ラミスは赤くなった手の平に、薬を塗りながら尋ねた。
「熱を加えた瞬間、生存本能が覚醒してクルミを砕くほどの力で暴れる珈琲豆って、クレナちゃんなら扱える?」
「……あたしには荷が重いわね」
こうして、ラミスの名物考案計画は失敗に終わった。
クレナが小休憩のため幌馬車を止めると、ラミスが真剣な眼差しで近付いてきて尋ねた。
「クレナちゃん、目的の街に着くのって、いつ頃になりそう? たしか、私たちの初出店は、この地方で一番大きな街でする予定だったよね?」
「昨日、集落を出たばかりなのに、もう次の話? そうね……馬車の扱いにも慣れてきたし、十日くらいで着けるんじゃないかしら」
「分かった。じゃあ、街に到着するまでに色々、名物になりそうな珈琲を考案しておくね。お客様第一を意識して頑張ってみる」
やる気満々に腕まくりするラミスに、クレナが目を丸くして言った。
「そりゃあ、あたしたちはカフェなわけだから、メニューを考えるのは当たり前だけど……。でも、あんたの口から『お客様』なんて単語が出てくるなんて夢にも思わなかったから、あたし今、凄く動揺してるわ」
「だよね。私だって、まさか自分がこんな言葉を口にするとは、夢にも思ってなかったよ。けど、集落での作業で思い知ったの。力仕事は、もう二度と御免だって」
「要するに、気合入れて働くから補給の手伝いは勘弁してくれと……。それで、名物になりそうな珈琲って言うけど何か計画でもあるの?」
「もちろん。すでに、一つサンプルも用意してあるから見てみて」
ラミスは涼しげな笑みを浮かべ、焙煎前の珈琲豆が詰まった袋を取り出した。
「サンプルってこれ? 見た目は、ただの珈琲豆だけど……」
「まあ、見てて」
こう言いながら、ラミスは自身の手の平に珈琲豆をいくつか広げた。
間もなく、豆の溝部分が口のように開いたり閉じたりと勝手に動き始める。
クレナは眉をひそめて、ラミスに問いかけた。
「えっ、気持ち悪……。こんな奴を名物にするつもりなの?」
「うん、名物になりそうな珈琲の第一弾として、生きてる豆を使ってみようと思う。せっかくの初出店だし、効果だけじゃなくて豆自体も遊び心のあるものがいいかなと思って。見た目は大事でしょ?」
「たしかに注目は集めるかもしれないけど、少しグロくないかしら。こんなパクパク動く豆……ていうか、これ豆なの? 豆に擬態した謎生物じゃなくて?」
「ちゃんと豆だよ。集落で買ったんだけど、みんな気にせず飲んでるって言ってた。見慣れたら、どうとも思わないらしいよ」
それからしばらく、クレナは謎の珈琲豆がどのようなものか、じっくりと観察した。
試しに落ち葉を拾って近付けると、破れない程度の力でパクッと噛みついた。
「で、これ肝心の味はどうなのよ。この見た目で不味かったら、目も当てられないわよ?」
「それについても確認済みだよ。平均して苦みが強いけど、他は特に癖のない味わいなの」
「なるほど、味は問題ないのね。ただ、根本的な問題として、これを見て飲みたいなんて思う人いるかしら。味は良くても、見た目は相当なゲテモノよ?」
「そこは、私の商才を信じて欲しい。私の予想では、都会の店は良くも悪くも安定した商品ばかり提供してくるはず。そこに、この一風変わった豆で淹れる珈琲を売り込めば、興味本位で客が寄ってくるはず」
胸を張って説明するラミスに、クレナは首を傾げて呟いた。
「うーん。そんなに上手くいくかしら……?」
「とにかく、私はこの豆に効果を付与する方向で開発を進めてみるね」
ラミスは豆を雑に袋へ戻すと、幌馬車の中へ引っ込んだ。
――翌日、ほぼ同時刻。
相変わらず幌馬車を走らせていると、二階からラミスの細い悲鳴が聞こえた。
「ク、クレナちゃん。痛い……助けて」
驚いたクレナは、急いでユニコーンを止め馬車の中へ。
そこには、両手の平に無数の珈琲豆をくっつけたまま、横たわっているラミスの姿があった。
「何よ、血も出てないのに大げさな。こいつに挟まれたって、痛くもないんでしょ?」
「それは、初期段階の話。今の豆っちは、あの時とは違う」
「後々、口に入れる物なのに名前付けてるのね……って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。とりあえず、引き離せばいいのね?」
その後、クレナが格闘し、なんとかラミスの手から豆を引きはがすことに成功。
珈琲豆はすべて、使っていない鉄製の箱の中へ封じられた。
「ありがとう、クレナちゃん。あと少し遅かったら、私の指が何本か持っていかれるところだった」
「指が持っていかれるだなんて、そんな大げさな……ん?」
クレナがラミスの指の様子を確認しようと近付いたその時、足の裏で何かをグシャリと踏む音が聞こえた。
拾ってみると、それは砕けたクルミの破片。
ラミスは赤くなった手の平に、薬を塗りながら尋ねた。
「熱を加えた瞬間、生存本能が覚醒してクルミを砕くほどの力で暴れる珈琲豆って、クレナちゃんなら扱える?」
「……あたしには荷が重いわね」
こうして、ラミスの名物考案計画は失敗に終わった。
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