ユニコーンの旅カフェ〜双子姉妹の日替わり魔法珈琲〜

森羅 唯

文字の大きさ
4 / 20

力持ち珈琲

しおりを挟む
 その晩、食事を終えた双子は集落の宿でくつろいでいた。

「故郷を離れてから、もう少しで一か月……慣れない馬車旅のせいもあって時間はかかっちゃったけど、なんとか最寄りの集落まで辿り着けたわね」

「うん、最後の最後で火炙りの刑に処されかけたけどね」

「それよ。あんた、二度と変なモノをあたしで試さないでよね」

 クレナが冷たい目つきで注意するも、ラミスは何食わぬ顔で尋ねた。

「ところで、クレナちゃんは何か身体に異変はない?」

「異変? 特にないわね。久しぶりにしっかりした食事にありつけたおかげか、いつもより身体に力がみなぎっている感じはあるけど」

「ああ、それきっと異変だよ。私がすり替えておいた夕食後の珈琲の効果が、今になって効いてきたんだと思う」

 クレナは数秒間、口をポカンと開けて固まった後、質問した。

「……あたし今、『二度と変なモノをあたしで試さないで』って言ったばかりよね?」

「晩ごはん食べる時は、まだ言われてなかった」

「ああ、これは一本取られたわね……って、なると思う?」

「ううん、ならないと思う。けど、勘違いしないで。私はあくまで、クレナちゃんのためを思って盛ったの。ほら、集落にいる間って物資の調達とか積み荷の整理とかの補給で、力仕事が多いでしょ? だから、力が湧いてくる魔法珈琲の実験のついで……じゃなくて、少しでもクレナちゃんの助けになりたくて」

「あんた、本音が漏れてるわよ。……これって、害のないモノよね」

「もちろん。妹の身体に害をなす珈琲を盛る姉なんて、この世にいるはずがないよ」

 前のめりになって否定するラミスに、クレナは眠そうな顔をして答えた。

「だったらいいわ。とりあえず、疲れたから今日は一旦寝ましょ」

「ええ? もう寝ちゃうの? せっかく効き目を試すために、握力測定用のリンゴとクルミとココナッツも用意したのに」

「実験するにあたって、ちょっと面白そうなラインナップ用意してんじゃないわよ。……ていうか、実験て言っちゃったじゃないの。あたし、無意識に実験対象としての立場を受け入れてるじゃない」

「もう、クレナちゃんは本当にワガママだね。まあ、いいや。効果は丸一日くらい持続するはずだし、明日の昼間に色々試してもらえれば。じゃあね、おやすみ」

「なんか、釈然としないわね。どうにかして、この子を懲らしめる方法はないかしら……」

 隣のベッドでスヤスヤと寝息を立て始めたラミスを横目に、クレナはため息をついて明かりを消した。





 次の朝、目を覚ましたクレナの視界に飛び込んできたのは、テーブルの上に並べられたリンゴとクルミとココナッツ。
 いつから起きていたのか、待ちくたびれた様子のラミスが、ベッドの脇からクレナの顔を覗き込んで言った。

「おはよう、クレナちゃん。朝ご飯はテーブルの上の三つだよ」

「それ、朝ご飯という名の実験じゃないのよ。朝からそんなに食べられないし……と、それよりも一晩寝たら、あたしにもちょうど良い珈琲の効き目の確認方法が思い浮かんだのよね」

「へえ、それってどんなの? ココナッツを素手で握り潰すより、インパクトの大きいこと?」

「見た目でいえば、ココナッツを握り潰すよりもインパクトはあるわね。……今日一日、あんたを担いだ状態で補給を行うわ」

 そう告げて、ベッドから起き上がり、ジリジリと壁際へラミスを追い詰めるクレナ。
 ラミスはぺたんと床に尻餅をつき、両肘を抱えて叫んだ。

「嫌だ! 私、そんな辱めを受けるために珈琲を淹れたんじゃないよ!」

「ただでさえ力負けするのに、こんな珈琲を盛ったのが運の尽きよ! ほら、辱めを受けたくないなら、ちゃんと自分の足で歩いて補給を手伝うことね!」

「ヤダヤダ! 私は、バリスタとして、珈琲を淹れる以外の仕事はしないって決めてるのー!!」

 その日、集落ではクレナがラミスを引きずって歩く姿が、あちこちで目撃されたという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...