数日の夢物語(仮)

佐久間茂

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体育祭

最終日

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運動場に出て自分の団の団席に向かうと、テントの下に沢山の生徒が集まっている。

    『よし……』

私は全速力で走る。あの様子を見る限りまだ点呼はされていないと思ったからだ。

     『ハァハァ……』

まだ間に合う…はず。

       『ゴーール!!』

恐らく15秒ほどだろうか、私は走りきった。

これだけ本気で走ったのは数ヶ月ぶりだろう。

部活を引退してからインドア生活を送っていた私には過酷な試練だった。。。

       『おはよう!!』

声をかけてきたのは昨日一緒に弁当を食べた友人だ。

       『お、おはよぅぅ!…』

こんなに元気がない挨拶をしたのは初めてだ。

それも仕方がない、私は肩で息をする程に疲れきっていたのだ。

まだ2日目の開会式さえ始まっていないのに…

 ⦅只今より、開会式を開催します。生徒の皆さんは本部前に整列して下さい。⦆

生徒会による開会式を始める放送が入る。

私は息を切らしながらゆっくりと並ぶ。

  ⦅これより体育祭2日目を開催します。⦆

高校生活最後の体育祭。

最終日が始まった。

私の今日の出番はこの学校一番の大目玉の競技である棒引きだ。

棒引きとは7本の棒を各数人ずつで引き合い自分の陣地に多く入れた方が勝ちという至ってシンプルなルールなのだが、これがまた毎年盛り上がる。

棒引きに出場するイコール凄い、みたいな風潮があるのだ。

だから私は自ら立候補して出場することにした。

棒引きは昨日決勝まで行われた。

私の団は棒引きが異様に強い。

決勝まで棒を一本しか取られずに勝ち上がってきたのだ。

そして決勝が始まる。

私は本気で挑んだ。

⦅ピー!!!そこまで!!⦆

終了の合図が鳴る。

結果は……勿論負ける訳もなく0対4で私の団の勝ちだ。

当然のように私はテントに戻りお茶を飲む。

その時、私の身に思いもよらぬ事が起きたのだ。

    『なぁなぁ、写真撮らへん?』

    『・・・・・!!??』

    『いいよ?』

    『やった!』

    『はい、チーズ』
(カシャッッ)

    『ありがとう!!』
   
    『いや、こちらこそありがとう!』

な、何が起こった。。。

一瞬の出来事で私は理解するのに数秒かかる。

もしかして……もしかすると…

写真に誘われた!?!?

今迄の人生でこんな事があっただろうか。

高校3年間、学校内のカースト制度で常に最下層にいた私には初めての経験だった。

とにかく静謐せいひつな性格だった。

最後の体育祭だからと言って棒引きに出たからなのか…

今思い出すと、彼女も棒引きに出ていた気がする。

ここまで棒引きのパワーの影響があるとは。

何故だ、何故なのだ、私なんかと写真を撮りたいと言ってくれる女の子がいたとは…

よく分からないがとにかく女の子と写真が撮れたのだ。

今、私はとても幸せだ!!

テンションが上がりきった私は自分の団を全力で応援する。

どの競技も上位をキープ出来ている。

最後の種目が終わった。

⦅生徒の皆さんは開会式と同じ体型で集まって下さい。⦆

閉会式が始まる。私は開会式と同じように並び入場する。

すると前に並んでいた女の子の友人が話しかけてきた。

   『場所変わってあげようか??』
   
   『え?なんで??』

   『話したいやろ?』

私は理解した。

どうやらこの女の子は私が3つ前にいる女の子と付き合っていると思っているらしいのだ。

写真を一緒に撮れただけで喜んでいる私に彼女などいるはずがない。

   『いや、大丈夫やで?』

   『いいからいいから』

なんという事をしてくれたのだ…

付き合ってもいないのに順番を変わってしまった。

これでは相手に勘違いをされてしまうではないか…

仕方なく私は3つ前にいた女の子と話す。

   『なんで前来たん?』

   『なんかよく分からへん…』

   『???』

   『なんでなんやろな…(笑)』

閉会式が一刻も早く終わる事を願う。

閉会の言葉を聞く生徒達は沈みかける夕日を浴びて、白皙の顔が茜色に染まっている。

⦅これで第95回体育祭を閉会します。⦆

やっと終わった…

私にはこの数分の時間が何十倍にも長く感じた。。

閉会式で私は気づいてしまった。

クラスの一部で私に彼女がいるという噂が流れていることに。

何故そんなことになっているのかは分からない。

だが、一刻も早くこの噂を無くさなければ…

解決策を考えながら帰る準備をしている時だ。

   『バイバイ!!』

   『お!バイバイ!!』

私と写真を撮ってくれた女の子が話しかけてくれた。

この一言で私は体中がやさしく柔らかに、手足のはしばしまで、溶けてゆくような幸福感が湯のように流れている気分になる。

閉会式の事など忘れてしまうくらい、またテンションが上がった。

私はそのままの気分で家に帰る。

何故だろうか、駅から家までの道のりを月がていねいに照らしてくれているような気がする。

この日も疲れていたのだろうか、すぐに眠りに落ちてしまう。。。
   
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