魔法の環

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炎のエレメントマスター フィオーナ・ファイナス

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 ジークの所属するフレックス科一年B組は、担任に引率され、第一魔法演習場へと訪れていた。

(あいつ、わざと俺に隠してたな)

 ジークは担任をチラリと見た。金髪、長身の美男子は、彼の知り合いでもある最強の冒険者テスラだ。この前森で会った時、仕事でこの街に戻って来たと言っていたのは、高校で教師をするためだったようだ。

 まさかこんなところで、会うとは思ってなかったジークは、担任が彼だと分かった瞬間衝撃を受けた。

 それと同時に祖母システィの本気度にも驚いた。まさか、最強の冒険者を講師陣に加えるとは想像できず、最高の教育のために多種多様な人材を揃えるという彼女の言葉に偽りがないことを知った。

「魔法の基礎演習の締めに、実戦形式の演習をしようか」

 テスラは生徒を集めて、そう提案し、

「組み合わせは俺が決めといたから」

と組み合わせ表を張り出した。

 表の前に人だかりができ、確認した生徒から元の場所へと戻っていく。ジークは、大半の生徒の確認が済んでから、重い腰を上げる。そして、表の前で上から順に組み合わせを確認していった。

 彼は自分の名前を見つけると顔を曇らせる。

(よりによって、一番最後かよ)

 意図的に、テスラが最後にしたのだと確信し、ジークは彼を睨みつけた。

 視線に気づいたテスラは、ジークに向けて舌を出す。そして、くいくいっと、ジークの視線を誰かへ向けるように促した。

 彼の視線の先では、赤髪の少女がジークを睨みつけている。先程、ジークに魔法を教えてくれと頼んできた彼女だ。

 にべもなくジークは断った。が、その時に、彼女が唇を噛み締めていた様子。それがまだ記憶に残っている。

(フィオーラ・ファイナス。よりにもよって、ファイナス家のやつか)

 ファイナス家は、クラン家と同じエレメントマスターの家系で、属性は炎。名家中の名家である彼女がどういう理由で、自分なんかに魔法を教えてほしいと頼んだのか、ジークは不思議に思った。

(俺なんかに魔法を教えてくれと頼むのも、それを断れるのもさぞ屈辱だっただろうな)

 食い入るように、じっとジークを見つめる彼女は、本気の目をしていた。

(実戦形式だが、あくまで演習だ。あいつ、気合い入りすぎだろ)

 学校の授業で、体力を使いたくなかったジークは、暗い表情となる。

『ジークの相手はプリンの人ですか? なかなか手強そうですが、ジークなら問題ないですね』

 自分が戦うわけでもないのに、フェアはシュッシュッと拳を空に突き出す。

『いや、お前までやる気になられても』

 ジークは呆れた声を出した。

『やるからには勝たないと!』

 一層気合を入れ直すフェアに向かって、

『いや、勝たない』

と言った。

『なぜです!?』

 フェアはジークはと詰め寄り、前髪を引っ張る。

『俺たちには始まりの龍に勝つという最大の目標がある。今日負けとくのはその布石だ。大勝の前には小負けすべしって言葉があるだろ?』

 ジークは、フェアを手で払い、適当な論理と今作ったことわざを並べた。

『も、もちろん、分かっていましたとも。フェアはジークを試したのです』

 フェアは嘯き、グーサインをする。なんとなくの気分でジークもグーサインを返して、演習場の壁際へと移動し、座り込んで目を閉じた。

『他の生徒の試合は見ないのですか?』

『ああ。寝不足だから少し寝る。近づいたら起こしてくれ』

 ウトウトと、ジークの意識がまどろんでいくのに反比例して、実戦形式の演習が始まり、演習場の熱気は徐々に熱を帯びていく。




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