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始まり 短時日の皮切り

天下布武一刀の博打打ち! IN闘技場

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 光り輝く摩天楼、この場の頂点に位置する座にて謎の人物が座している。そのものが手を前にかざすと、数多の天文画面ウィンドウが開かれた。
 そこに映るのは様々な種族だった、人間、龍、オーク、エルフ、獣人等と幾多の種族の個々の個人情報ステータスと顔を映し出していた。身分や性別、無論種族までも全てがバラバラであり一見すると共通点などというものは見当たらなかった。がしかし、これらには唯一の共通点があった。それは世界異能チート能力の保有である。これを眺める人物は不敵な笑みをこぼす。

「フフフッ……素晴らしい……一つは神饌しんせんに、一つは選定に、最後の一つは天神地祇てんじんちぎとなろう……」

 その者は座から立ち上がり、両の手を広げる。

「さぁ……異能者共ッ! ……“アース・フリートの本” に導びかれるままにッ!!」

 ――表示された天文画面ウィンドウの中に神閤紅音かんごうあかねは存在しない。

 ◆

 セリスティール王国領、辺境都市「ドレイル」。この街のある一軒の宿屋にてボサボサになったマゼンタ色の髪の女が目を覚ます。

「……ふぅああ、もう朝か。ウーーッ、頭痛てぇ……二日酔いだなコレは」

 昨夜のあの後手に入れた金で取り敢えず酒をしこたま飲みまくった彼女は食卓ですっかり泥酔のまま眠りこけた。それをグリルが部屋まで運び介抱したのだった。しかしそれを彼女が知る由もなかった。

「……何もする気にならねぇな、まぁ元々アタシはアングラ系だったからな。日の下を歩いての生活なんざすぐには出来ねぇよな……よし寝よう」

「ふぅあぁ……あ、おはようお姉ちゃん」

 と真横で寝ていたグリルが起きる。この部屋にはベッドは一つしか無いため添い寝していたようだ。
 
「グリル……あぁそうか、まだやんなきゃいけねぇ事があったな。あとそれとお姉ちゃん呼びはやめろ。何だか歯痒いからな、姉貴か呼び捨てにしろ」

「え、うん……それで今日はどうするの?」

「そうだなぁ……まずはお前の服だろ? あーアタシのも買うかぁ。変な服、変な服ってしつけぇんだよマジで」

 そして彼女達は立ち上がり、ちゃきちゃきと髪を少しかして支度する。

「さーてと、じゃあ行くか」

「うん! 紅音!」

 そして服屋にてグリルには全体的に肌が見えにくいフード付きの服装と眼帯を買い与え、紅音自身は適当に見繕ったそれなりに動きやすい服とかばんを買ったのだった。

「おーいいんじゃね? 結構さまになってんぞ」

「ありがとう! 紅音も……うんとてもいいよ」

 ちょっと微妙な顔しながら彼女は紅音に言う。その表情の機微に紅音は少し違和感を感じるが、特に気にはならなかった。

「さて、んじゃこのまま冒険者ギルドまで行きますか」

「冒険者ギルドかぁ……バレないかな?」

 少し暗い顔をするグリルに対し紅音は気を使う。

「大丈夫だろ、なんかあってもアタシが守ってやるさ……知らんけど」

「し、知らないって何!」

 そうこうしている内に彼女たちはギルド内部に到着したのだった。昨日とは打って変わって中は賑やかなものだった。てんやわんやとどんちゃん騒ぎ、部隊遠征等の任務から帰ってきたみたいな様子だった。だがそれらには目もくれず彼女たちは受付へと向かった。

「よ! 昨日ぶりだな、アタシの推薦状届いてるか? あーあとこれ仮免のやつな」

「はい、神閤紅音かんごうあかね様ですね! 既にもう届いていますのでこのカードは交換しますね」

 そう言い残した受付嬢はカードを持って奥の部屋へと向かっていった。

「なぁグリル、どんな依頼がいいかねぇ。折角なんだし楽で大金稼げるやつがいいんだけど……なさそうだな」

 するとグリルが紅音の肩を叩いて呼びかけ話しかける。

「ねぇ紅音。冒険者ってどんな依頼が多いの?」

「え? ……さぁ? あ、この本にあるかもな。ちょいまち」

「えーと、なになに

 基本冒険者にはダンジョン攻略と申請依頼の二種類がある。ダンジョンは依頼をワザワザ受けずとも勝手に行ってそこでの戦利品を提出すればそれに応じた報酬が貰えるが、ほとんどの冒険者の死因はダンジョン内での死が多い。申請依頼は受付で受注し、目的地にて依頼を完遂するものが多い。その申請依頼主は個人もしくは団体や国家と幅は広い。己の身の丈にあった物を選ぶのが関の山だ。因みに依頼結果達成数かその他実績によって冒険者ランクが決まる。

だっそうだ」

「へー、その本っていろんなことが書いてあるんだねぇ」

「ん? あー、まっそうだな。便利なもんだぜ、一体誰が書いたんだか――」

 すると先程の受付嬢が戻ってきた。

「お待たせいたしました! こちらが紅音様の冒険者カードです! はじめからですのでランクの方はEですが、推薦者様の意向によりDからになります!」

 紅音はカードを受け取るが、ランクというものに疑問を覚える。

「……は? ランク? そういや本に……いや待て、推薦者の意向ぉ?」

(推薦者ってたしか……トールだったよな? もしかしてあの盗賊どものことか?)

「どうかしましたか? 何か不備でもありましたか?」

「い、いやなんでもない。それよりランクってどこまであんだ?」

「はい、ランクはEからSまでございます。ランクが特定の位まで来ますと依頼達成度以外も条件に組み込まれます。その条件はケースバイケースです」

「ほーん、なるほどな。分かった、それじゃ行ってくるわ」

「え? 紅音!? ちょっとどこ行くのぉーー!」

 そうして颯爽さっそうとギルドを出た彼女はある場所へと向かった。その場所はこの都市の名物たる闘技場であった。

「ここってどこ? 凄い大きい建物だけど」

「ここは闘技場さ、血や肉が踊り狂うためのパレード会場さ」

「闘技場って紅音でるの!?」

 驚くグリルだったが、紅音は何食わぬ顔で言う。

「んなわけねぇだろ! 観戦に決まってんだろ!! 無論賭けるがな」

「え、えぇ」

 若干引き気味な顔をしているグリルに目もくれず紅音は勝負師の炎を沸き立たす。

「今日の見出しのオッズ的には、この3000倍のやつにブチ込むッ!!」

「え、ええええ!! や、やめときなよ! ぜっったい負けるってそれ!!」

 必死に止めるグリルに対し、紅音は真剣な眼差しで返答する。

「グリル、何事も可能性を捨てちゃーいけねぇ。いいか? ダメだと諦めるやつは先に進めねぇんだよ。だからアタシは行くッ!!」

 と、その瞬間に彼女は猛ダッシュで駆け込んで行ってしまった。

「あ! 絶対大金はダメだよ!!」

 そして彼女だけの天下一の戦いが繰り広げられたのだった。

 ◆ 

 ――結果としては、ことごとく惨敗。しかも忠告を聞かずして紅音は大金を賭けた。その額2万セール、日本円にして20万円の大金である。そしてこの日の彼女の服といった諸々の使用金額的に彼女の財布はもぬけの殻である。近くのベンチにて賭けに負けた者たちがうずくまる場所に無論紅音はいた。

「お、おわったぁ……あわわわうわうすあだっっふぁ」

 大金を失いバグり散らかす紅音に対しグリルは彼女の体を揺らしながら言う。

「あ、紅音! しっかりして! もー! だから大金はダメだって言ったのにぃ!!」

「このままじゃ……ってた、煙草を吸わなきゃ……って! 火がねぇ!! ああああああ!!!」

 彼女のストレスメーターは振り切ってぶち壊れた。するとそこにとある人物がやってくる。

「おや、火がなくてお困りのようですね。どうぞ私の魔法で出した火です。」

「おっ! 気が利くなァ! サンキュー♪」

 そのまま彼女は煙草に火を通し一服する。

「プハーーーッ!! 何十時間ぶりの煙草は沁みるねぇ!」

「あ、紅音? このひと誰なの?」

「え? ……誰お前」
 
 ようやく気付いた紅音は目の前の魔法使いを見上げる。

「申し遅れました。私魔法使いのドンデル・フーリッシュと申します。実はデリア様より直接の依頼を申し使ってます。それとあの件に関しましては、一従者として心より感謝の言葉を送らさせていただきます」

 と、魔法使いの男は言った。どうやらデリアの使者らしい。

「それでどんな依頼だ。……ていうかわざわざアタシを指名したのか? なぜだ? アタシは冒険者になったばかりだぞ」

「そこは信頼ですよ、『信頼』。どうです? 一応貴女が持つそのカードはトールさんからの推薦ですし断るなんて真似しませんよねぇ?」

 と、銀髪メガネで青を基調としたローブを纏う嫌味な男は言う。それに対し紅音はカチンとくる。

「……チッ! 嫌味な野郎だ。あーいいぜ! さっさと言えよこのタコメガネ!」

「そうですか、それは上出来。それでは東のダンジョン【逆鱗森林げきりんしんりん】へと向かってください。そこでまずは第一階層のボスを撃破が目的です。勿論報酬はたんまりと差し上げましょう。成功報酬は2万セールです」

「ほーん、それは、それはいいじゃねーか。ヨシッ! グリル! そこまで行くぞ!!」

 数十時間ぶりの煙草をキメた紅音は何もよく考えず突っ走った行動を取る。

「え! ちょ、そんな急にダンジョンって、ああ!! もー待ってぇ!!」

 こうして彼女達は東のダンジョン【逆鱗森林げきりんしんりん】へと向かっていったのだ。負けをプラスマイナスゼロにするため、実質勝ちにするために!
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*あとがきに記載されている情報は読者向けであり、本作品に登場するキャラクター達は一切見れません。
 応援やご感想等よろしくお願いします。
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