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始まり 短時日の皮切り

激闘! 第一階層 階層ボス【森林カジュモーク】戦!

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 彼女たちはダンジョンのボス部屋の扉を開けて入り、あまたの冒険者を退け殺し尽くした第一階層のボス“森林カジュモーク”と戦うのだった。
 紅音たちがボス部屋への中に入る。そこは洞窟のような場所で丁度中心あたりの天井から空の光が漏れ、その真下に小さな花畑がある広大な空間であった。

「何だ? 随分と神秘的で綺麗な場所じゃねぇか。一体どんなやつがいやがるんだ?」

「気をつけるにゃ、こういう場所は得てして強力なヤツが出て来やすいのにゃ」

「へーそうなんですね。……ん? あそこにあるのはなんでしょう?」

 とグリルが指をさした場所は中心に生えているピンクのお花だった。だがその花の大きさは他と比べ少し目立つほどだった。

「ん? アレは……怪しすぎるな。多分近づいたら出てくるやつじゃね? こう地面からドゴゴーンッとさ」

「確かにそうかもにゃね。ちょっと行ってみるにゃ。ミャーは素早いから、もし動いてもすぐ逃げれるにゃ」

「よし、行って来い。お前の尊い犠牲は無駄にはしない」

「ニャッ! 死ぬ前提で話すんじゃないにゃ!」

 と言いミニルはあの怪しげな花まで近づいて行った。そろり、そろりと少しづつ近づいていき光が当たっている所まで来るが何も起きない。どこまで近づけばいいのか、近づく度にその足取りは繊細なものへとなっていく。

「ま、まだかにゃ? もう……かにゃ?」

「全っ然反応しねぇな。もしかしてそれ違うんじゃね? はぁー……この時間が超絶暇なんだが。なんか他にあんじゃねーの?」

 紅音は退屈そうに上を向き始める。他に何か無いものかと。

「はぁ……ん? なんか光ったか?」

 彼女は目を凝らしてよく見る。何が光ったのかその真偽を確かめるために。

「……!!」

 退屈そうに上を向いていた紅音はあることに気が付いた。それは天井の光と中心の怪しげな花は、人の心理的盲点を突いた視覚的な罠であったと。ここのボスは今現在、入り口の扉側の壁に引っ付いてこちらをずっと見ていたのだった。10mはあろう巨体の森林カジュモークと紅音の目が合う。

「!! チッ! おい、グリル! 掴まれェ!!」

「え? ちょッ!!」

 と大声を出した紅音はグリルの手を力強く掴んで引っ張り、全速力で走った。突然の出来事にミニルは驚愕の眼差しで紅音の方を見る。そこで彼女は位置的な要因で紅音が叫んだ理由のモノを瞬時に見る。

「ウニャッ!! 入り口の壁に引っ付いてやがるにゃーーーッ!!」

「うぇ? ああ!! なんっかいるぅう!」

 引っ張られながらグリルも気づくが、ボスも動き出して紅音たちに向けてヤツの腕が振り下ろされる。
 が、なんとか避けきることが出来た。もし気づくのが遅かったら確実に潰されていたかもしれない。

「うおああーー! ……あっぶねぇ!! 卑怯だぞ!」

「紅音、ボスにそれ言っても仕方ないにゃ。それにしても物凄い巨躯のトレントにゃ。全身は木の根のようなものが複雑に入り乱れ混ざり合い、顔と両肩に大きな1つ目がある随分とキモイ奴にゃ」

 ミニルは冷静に相手の姿を識別して状況を周囲に確認させる。これにより、パーティーが混乱しても少しは落ち着きを取り戻せられるのである。紅音は息を整え、少し落ち着きを取り戻す。

「ここまで動物離れしてるやつって、どうやって殺すんだ? 頭潰しても普通に再生しそうなんだが」

「多分あの3つの目玉を潰したら勝ちだと思うにゃ。因みに根拠はにゃい! にゃけどミャーの“ダンジョンハンター”としての感がそう言ってるにゃ!」

「……ハンターがどうだ知らねぇが、誰でも思いつくと思うぞ。それ」

「うるさいにゃ! 相手はとにかくデカイにゃから散開するにゃよ!」

 と三人はボスから見て左、真ん中、右と手分けして囲んだ。敵の攻撃を分散させるための陣形である。
 三人は一斉にしてボスへ襲いかかる。しかし森林カジュモークはそれを容易く許してもらえるほど甘い相手ではなかった。

「ウグァッ! ……ゴフッ」

 三人はヤツが操る太い木の根で薙ぎ払われてしまう。
 それを受けた紅音は自分たちの状況の不利さを感じる。そして状況の打開策を頭の中で必死に考える。

(このままジリ貧で追い詰めても勝てる未来ビジョンが見えねぇ。どうしたもんか……アタシの能力でなにか出来ねぇか? 金、金……! もしアタシの金に制限がなかったとしたら? ……試してみるか)

 と紅音は立ち上がり、手に持ったメイスを構える。

「二人共、アタシに名案がある。三秒数えた後、アタシがコイツの動きを封じる。その隙にやつの目玉を潰してくれ」

「あ、紅音?」

「わかったにゃ。ミャーもこの能力を使って断ち切ってやるにゃ!」

 そう言うとミニルは両腕に能力【斬手刀】を発動した。紅音も精神を集中し狙いを定める。

「行くぜ、3,2,1,0ッ!! イッケーーーッ!!」

 すると紅音のメイスはまたもや如意棒の如く勢いよく伸びるが、メイスの頭の部分が4つに分断させる。その4つがヤツの両手両足に食らいつきみるみる金へと侵食していく。意表を突かれたボスは己の身に起きている状況に困惑する。

「今ニャ! その目玉! 取ったりニャーーッ!!」

「てりゃーーーーッ!!」

 と二人はヤツの両肩の目玉を同時に潰す。ヤツはもだえ苦しむが、まともに身動きが取れないために何も出来なかった。そして最後の目玉は紅音がとどめを刺す。

「死に晒しやがれ!! この木偶の坊!!」

 ヤツの音のない悲鳴が空間を振動させながら消滅していった。
 そうして三人は第一階層の階層ボスたる“森林カジュモーク”を見事撃破したのだった。

「よっしゃーーッ!!」

「やったにゃーーッ!!」

「あ、消えちゃったぁ……シュン」

 各々多様な感情をあらわにする。その感情は辛く厳しい戦いを生き残れた者のみに許された特別なものであった。

「さーってと、そろそろ帰りますか! 早いとこ報酬金を貰いに行かねば」

 そのまま両手を頭の後ろに据えて帰ろうとする紅音に対しミニルは呼び止める。

「ちょ、ちょっと待つにゃ! “お宝”、“お宝”開けるの忘れてるにゃ!」

 その“お宝”という言葉に紅音の体はピクッと反応を示し、物凄い勢いで戻りミニルの肩を鷲掴わしづかむ。

「宝!? ボス倒すと貰えんのかよ!! 在り処を教えろッ!!」

「い、痛いにゃ! その手を放すにゃ! ……にゃんだ知らなかったのかにゃ? てっきりそれを知っているものにゃからここに居ると思ってたにゃ」

「アタシたちはここを攻略してこいと言われただけだ。それで宝は? 宝は?」

「そう急かすにゃ、ほらそこにあるにゃよ」

 と彼女の指さした方にはなんと、いつの間にか宝箱が出現していた。紅音はその宝箱へと飛びつく。

「うおおお!! これが宝かァ! 早速開けるとしようかねぇー」

「お宝……お腹減ってきちゃった」

「ニャッ! 独り占めするにゃよ! 何で腹が減るニャ!」

 そうして紅音たちは宝箱を開けた。すると中に入っていたのは【森林の宝玉】【枝ストレート】【無限葉巻】だった。

「なんだこれ、ただの葉巻に緑色の水晶みたいなのと……枝じゃねーか。水晶は金になりそうだが、他は売れなさそうだな。グリル、食うか?」

「え! ……まぁ食べていいなら」

「ダメに決まってるにゃ! まだ何に使えるか分からにゃいし、ここは持って帰って査定ニャ!」

「ふーん……まぁいいか。そういうことなら一旦持ち帰るか!」

「大金になるといいね、紅音!」

 こうして三人は東のダンジョン【逆鱗森林げきりんしんりん】初の第一階層踏破者として名を広めるのだった。

 因みに査定に出した枝や葉巻は二十セール――二百円――だった。

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*あとがきに記載されている情報は読者向けであり、本作品に登場するキャラクター達は一切見れません。
 応援やご感想等よろしくお願いします。
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