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登場人物
1.雲行き
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季節は残暑の残る九月。年期の入った地方学校にはエアコンなんてものはない。キシキシと音を鳴らしながら回る扇風機を頼りに日常を過ごす。
だが、沢田たちは違う。誰にも邪魔されない、最高の場所がある。
部室棟の三階一番隅の教室が映画研究部、略して映研の部室である。普段授業で使っている教室と広さは変わらず、どの時間も窓際は木陰になり、風通しも抜群だ。
沢田たち映研部員四人は、昼休みはここに集まって弁当を食べながら映画の話をすることが日課だ…が、現時点では三人しかいない。
「ねぇ、戸っちん来るの遅くない?」
双葉は一つ目の弁当を食べ終え、二つ目に手を伸ばしながら言った。
「どうせ女子だろ」
新妻は、コンビニ弁当を食べながら吐き捨てるように言う。
「いや、まぁ、そうだけど。しょうがないだろ?木戸は」
沢田は曖昧に笑いながら答えた。
映研部メンバーの残り一人は、本物の映画にも出たことがあるモデル、木戸樹だ。木戸は沢田と同じクラスだが、一緒に部室には来ない。何故なら、女子達が我先にと木戸の傍に寄っていき、木戸の行く道を遮るからだ。女子達からのお誘いを丁寧にお断りしてから来るから、遅れてくるという事だ。
けど今日はやけに遅い。心配しているとドアが開いた、と同時にドサドサと何かが落ちる音がした。ドアの方に目を向けると木戸が沢山のお菓子を抱えて立っている。沢田は駆け寄って、木戸の足元に落ちているお菓子を拾いながら訊いた。
「どうした今日は。こんなにお菓子なんか持って。ハロウィンはまだ先ですけど?」
あははと乾いた笑いをしながら、木戸は目を泳がせた。
「なんか教室出た途端に、女の子たちがどうぞって渡してきて………。断ろうと思ったら、押し付けて逃げちゃうから断れなくてこんなに沢山………」
聞いてると何だかかわいそうになってきたので、もういいから座れ、と沢田は木戸をいつもの席に促した。
木戸が貰ったお菓子を見て、真っ先に飛びついたのは、案の定双葉だった。
「わーすげー!!さすが戸っちん、モテモテだね」
「いや、ただモデルっていうのが珍しいだけだよ。これ、好きなの食べていいよ」
「まじッ!?やったー!!おっ菓子―!!」
双葉は遠慮なしにお菓子にがっつき始めた。沢田もいくつかに手を伸ばした。食べながら双葉は、さっきから新妻が全くお菓子に手を付けていないことに気がついた。
「ヒロ、お菓子食べないの?ほら、これヒロの大好きなチョコチップクッキーだよぉ!」
双葉はクッキーの入った袋を、新妻の前で揺らして見せる。
「ほらほらークッキーって、あ!!!!!!」
グシャッ!!
気づけばクッキーの入った袋は床に落ち、中のクッキーは割れていた。
「ちょっ、何すんのさ!!食べ物粗末にしたら罰が当たるんだぞ!!」
「そんなモン目の前にひらひらさせてくるからだろーが。いらねーんだよ」
「じゃあ、口で言えばいいじゃん。わざわざ払いのけなくても!!」
あーあ、と言いながら双葉は落ちたクッキーを拾いに行く。
新妻が木戸をギロリと睨み、言った。
「大体、もらった本人が全部食えよ。モデル様宛に作ったモンだろ。俺たちに残飯処理させて、自分は良い顔して礼を言うんだろ?なぁ、モデル様?」
沢田と双葉は、すぐにその場の雰囲気が変わったのを感じた。しかも、机を円形に並べて座っているせいで、沢田は木戸と新妻に挟まれる最悪なポジションに座っている。
木戸はいきなり突っかかってきた新妻を睨んだ。
「何?そんなにお菓子が気に入らないなら食べなければいいじゃん。無理に食えなんて言ってないんだし。俺、新妻にそこまで言われるようなことした?」
それを聞いてさらに新妻は言葉を投げつける。
「自分がやったことも分かんねーなんて、ほんとお前芸能界で何学んでんだよ。」
ガタンッと椅子が倒れ、木戸が憤怒の表情で立ちあがった。そして机から身を乗り出して新妻の胸倉をつかんだ。これは不味い。
「ちょっと、二人共落ち着いて!!」
沢田は慌てて立ち上がり二人を止めようとした。
キーンコーンカーンコーン
「はい、しゅーりょー!!喧嘩止め!!教室に戻った戻った!!」
双葉が手をパンパンと叩きながら言った。
気まずそうに木戸は胸倉から手を放したが、新妻は木戸を睨んだままだ。そのまま舌打ちをして、部室から出ていった。
沢田は緊迫した場が収まったことに安堵し、ストンっと力なく椅子に落ちた。
「あぁ、今ので寿命縮まった~」
「あ、ごめん敦。挟んで言い争いして」
「マジで怖かった」
「ほんとにごめん」
双葉がまたパンパンと叩いた。
「ほら、二人も教室に戻りなよ。授業始まるよー。それと、戸っちん、割れちゃったクッキーも残りのお菓子もちゃんと僕が食べるから安心して」
そう言ってトンっと胸を叩いて見せた。それだけで少し空気が和んだ気がした。双葉が居れば放課後も何とかなりそうだ。
「じゃあ、教室戻るか。てか、双葉こそ急いだ方がいいんじゃないのか?三組は一組よりここから遠いだろ」
「うっわ!!忘れてた!!」
その日の放課後、木戸は仕事が入ったと言って帰ってしまい、新妻は連絡なしに来なかった。
だが、沢田たちは違う。誰にも邪魔されない、最高の場所がある。
部室棟の三階一番隅の教室が映画研究部、略して映研の部室である。普段授業で使っている教室と広さは変わらず、どの時間も窓際は木陰になり、風通しも抜群だ。
沢田たち映研部員四人は、昼休みはここに集まって弁当を食べながら映画の話をすることが日課だ…が、現時点では三人しかいない。
「ねぇ、戸っちん来るの遅くない?」
双葉は一つ目の弁当を食べ終え、二つ目に手を伸ばしながら言った。
「どうせ女子だろ」
新妻は、コンビニ弁当を食べながら吐き捨てるように言う。
「いや、まぁ、そうだけど。しょうがないだろ?木戸は」
沢田は曖昧に笑いながら答えた。
映研部メンバーの残り一人は、本物の映画にも出たことがあるモデル、木戸樹だ。木戸は沢田と同じクラスだが、一緒に部室には来ない。何故なら、女子達が我先にと木戸の傍に寄っていき、木戸の行く道を遮るからだ。女子達からのお誘いを丁寧にお断りしてから来るから、遅れてくるという事だ。
けど今日はやけに遅い。心配しているとドアが開いた、と同時にドサドサと何かが落ちる音がした。ドアの方に目を向けると木戸が沢山のお菓子を抱えて立っている。沢田は駆け寄って、木戸の足元に落ちているお菓子を拾いながら訊いた。
「どうした今日は。こんなにお菓子なんか持って。ハロウィンはまだ先ですけど?」
あははと乾いた笑いをしながら、木戸は目を泳がせた。
「なんか教室出た途端に、女の子たちがどうぞって渡してきて………。断ろうと思ったら、押し付けて逃げちゃうから断れなくてこんなに沢山………」
聞いてると何だかかわいそうになってきたので、もういいから座れ、と沢田は木戸をいつもの席に促した。
木戸が貰ったお菓子を見て、真っ先に飛びついたのは、案の定双葉だった。
「わーすげー!!さすが戸っちん、モテモテだね」
「いや、ただモデルっていうのが珍しいだけだよ。これ、好きなの食べていいよ」
「まじッ!?やったー!!おっ菓子―!!」
双葉は遠慮なしにお菓子にがっつき始めた。沢田もいくつかに手を伸ばした。食べながら双葉は、さっきから新妻が全くお菓子に手を付けていないことに気がついた。
「ヒロ、お菓子食べないの?ほら、これヒロの大好きなチョコチップクッキーだよぉ!」
双葉はクッキーの入った袋を、新妻の前で揺らして見せる。
「ほらほらークッキーって、あ!!!!!!」
グシャッ!!
気づけばクッキーの入った袋は床に落ち、中のクッキーは割れていた。
「ちょっ、何すんのさ!!食べ物粗末にしたら罰が当たるんだぞ!!」
「そんなモン目の前にひらひらさせてくるからだろーが。いらねーんだよ」
「じゃあ、口で言えばいいじゃん。わざわざ払いのけなくても!!」
あーあ、と言いながら双葉は落ちたクッキーを拾いに行く。
新妻が木戸をギロリと睨み、言った。
「大体、もらった本人が全部食えよ。モデル様宛に作ったモンだろ。俺たちに残飯処理させて、自分は良い顔して礼を言うんだろ?なぁ、モデル様?」
沢田と双葉は、すぐにその場の雰囲気が変わったのを感じた。しかも、机を円形に並べて座っているせいで、沢田は木戸と新妻に挟まれる最悪なポジションに座っている。
木戸はいきなり突っかかってきた新妻を睨んだ。
「何?そんなにお菓子が気に入らないなら食べなければいいじゃん。無理に食えなんて言ってないんだし。俺、新妻にそこまで言われるようなことした?」
それを聞いてさらに新妻は言葉を投げつける。
「自分がやったことも分かんねーなんて、ほんとお前芸能界で何学んでんだよ。」
ガタンッと椅子が倒れ、木戸が憤怒の表情で立ちあがった。そして机から身を乗り出して新妻の胸倉をつかんだ。これは不味い。
「ちょっと、二人共落ち着いて!!」
沢田は慌てて立ち上がり二人を止めようとした。
キーンコーンカーンコーン
「はい、しゅーりょー!!喧嘩止め!!教室に戻った戻った!!」
双葉が手をパンパンと叩きながら言った。
気まずそうに木戸は胸倉から手を放したが、新妻は木戸を睨んだままだ。そのまま舌打ちをして、部室から出ていった。
沢田は緊迫した場が収まったことに安堵し、ストンっと力なく椅子に落ちた。
「あぁ、今ので寿命縮まった~」
「あ、ごめん敦。挟んで言い争いして」
「マジで怖かった」
「ほんとにごめん」
双葉がまたパンパンと叩いた。
「ほら、二人も教室に戻りなよ。授業始まるよー。それと、戸っちん、割れちゃったクッキーも残りのお菓子もちゃんと僕が食べるから安心して」
そう言ってトンっと胸を叩いて見せた。それだけで少し空気が和んだ気がした。双葉が居れば放課後も何とかなりそうだ。
「じゃあ、教室戻るか。てか、双葉こそ急いだ方がいいんじゃないのか?三組は一組よりここから遠いだろ」
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