ボーイズシアター

神永ピノ

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登場人物

4.後悔

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部室棟の裏にある大きなクスノキ。その下に木戸は息を整えながら立っていた。モデルをやっているだけあって高身長なのに、今見えている木戸の後ろ姿は小さく弱弱しい。
「木戸………仕事はどうしたんだ………」
 さっきの話を聞かれたことで、沢田は完全に動揺していた。仕事でいるはずない木戸が、廊下に立っているなんて、誰も思わない。
「木戸………」
 その言葉の先が続かない。新妻の言葉を否定しなかった沢田には、今、木戸に優しい言葉をかけてやる資格はない。
 木戸はうつむいたまま呟いた。
「……もう、俺……映研辞めるよ」
 沢田は背筋に冷汗が流れた。なんでだよ、と聞こうとしたが、言葉は喉の奥で止まった。その言葉はあまりにも無神経だ。理由なんてわかってる。大きい小さいはあれど、三人とも木戸に不満を持っているという事を木戸が知ってしまったから。三人の相違点は、それを表に出しているか、いないかだけ。
 今、木戸に掛けられる言葉は………
「今、辞めたら絶対後悔するぞ」
 沢田は力を込めて言った。それを木戸は鼻で笑った。
「フッ………後悔?よく言うよ‼俺に不満持ってるくせに‼後悔なんてするわけないだろ‼お前だって、俺が居なくなれば昼休みも部活も、俺に気にしながら部室に行く必要がなくなる‼そうだろ!!」
「ちげーんだよ‼」
 沢田はそのまま木戸の胸倉をつかんだ。
「俺は後悔するんだよ‼今、既に後悔してんだよ‼あんな陰口みたいなことじゃなくて、ちゃんと木戸に言えばよかったって‼」
「俺だって、敦たちに迷惑かけてることぐらい知ってるよ‼」
 お互いヒートアップしすぎて声が大きくなる。部室棟にいた連中が野次馬になって、陰でこそこそしている。だが、今は関係ない。沢田に胸倉をつかまれた状態のまま、木戸は大きな声で言った。
「部活入った、て親に言った時も、仕事と両立できる訳ないんだからやめろって言われたよ‼でも、それでも俺は、敦たちと映画作りたいと思ったから‼だから‼自分にまかせられた役割はちゃんとやろうと思って、去年の映画の役者をやったんだ‼準備期間では手伝えなかったから、せめて撮影期間はって……」
 木戸の声はだんだん弱くなっていく。
「でもそれが新妻を不快にさせていたなら、俺は………もう……」
 木戸はぎゅっと目をつぶった。手は固く拳を作り、その姿は本当は辞めたくないという気持ちがにじみ出ていた。そんなとき、頭上から声が聞こえた。
「戸っちーん‼さわちゃーん‼ヒロが部活始めるぞーだってー‼」
 双葉が窓から手を振りながら笑顔で叫んでいる。さっきまでのことはなかったことにしようとしているのだろうか?木戸は躊躇しながら
「いや、俺はもう……部には……」
と言うが、双葉は聞こえているのかいないのか木戸の言葉に一切耳を貸さない。
「えー何‼何か言ったぁー?とにかく上がってきてよぉー‼」
 沢田は木戸に行こっ、と短く言い、歩き始めた。しかし木戸はその場から動こうとしない。足音がしないことから、木戸が付いてきていないことに気が付いた沢田は立ち止まった。
「木戸、新妻が待ってる。今俺に話してくれたこと、ちゃんと2人にも…」
 木戸はびくりと肩を揺らした。木戸は不安そうな顔のままだが、歩き始めた。沢田は木戸に合わせて並び、部室に戻った。
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