魔導士カイラは許されない〜インキュバスの呪いで貞操帯をかけられた少年〜

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初めての遠征〜ダーティとカイラ その2〜

商人

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 翌朝。カイラはダーティと共に、玄関近くにある部屋に連れられた。

 古びた家具類が置かれている。部屋の隅にソードラックがあるので、恐らく衛兵の休憩室だったのだろう。

 そこには、紫のローブを羽織った初老の男がいた。

「商人、コイツらだ」

「……ほぉ?」

 商人と呼ばれた男が目の色を変えた。ギラギラと輝く瞳に、カイラは恐れをなして萎縮する。

「なるほど。確かに綺麗ですねぇ」

 商人が真っ先に目をつけたのは、ダーティだった。

「名前は?」

「ダーティだ」

 しっかりと応えるダーティだが……彼の額には、『マズい事が起きたぞ』と言わんばかりに汗が滲んでいる。

「ダーティ? ……本当の名前ではないね? 子供に汚物ダーティなんて名付ける親がいる訳がない」

「あなたの言う通り、ダーティはステージネームだ。……私の本当の名前なんて、どうでも良いだろう?」

「……ふぅん。まぁ、いいか」

 商人はダーティの名前について軽く流した。

 すると、山賊が声を上げた。

「これほど美しいんだ。娼館に売れば相当な金額が付くに違いねえ。な? いくらで売れるんだ?」

 山賊の話から、ようやくカイラは気付いた。

 この商人が扱うのは、人間なのだと。

 そして、ダーティが焦っている理由も分かった。

 売られれば、ヴェルトやディックに見つけてもらえる可能性が非常に低くなるのだ。

 恐らく、2人が分かっているのは、ダーティの居場所だけだ。

 人を探す魔法……ルックフォーを発動させるには、尋ね人の持ち物が必要だ。だが、2人の手元にあるのは、ダーティの物だけ。

 つまり、ダーティと別れてしまえば、カイラを探す手立てが無くなるのだ。

 はやる山賊を宥めるように、商人が「まぁまぁ」と言って苦笑した。

「待ってくださいよ。売れるかどうかは、彼の年齢次第だ」

 穏やかな口調で商人は訊ねる。

「あなた、いくつなんです?」

「30歳だ」

 ダーティを除く全員が目を見開いた。

 どう見ても、20代前半程度にしか見えないからである。

 立派な中年だが……青年と表現したくなるような若々しさが、ダーティにはある。

「本当かい?」

「あぁ、本当だよ。……売れないだろう?」

 商人は頷いた。

「そうですねぇ……歳を取り過ぎだ」

「お、おい、待てよ!」

 山賊の声に怒気が込められる。

「上玉なんだぞ!? 年を取ってるからっつっても、売れるだろ!?」

「いえ。娼館は年増は買ってくれないですから……うーん。ちょっとウチでは引き取れませんねぇ……」

「……はぁあぁあ!?」

 山賊の怒声を聞き流した商人の目が、カイラに向けられる。

「ひっ……」

「この子は若そうだ。名前は? 年齢は?」

「カイラです。年は……ええと」

 カイラはダーティに視線をやる。

 演奏家に小さく頷かれたカイラは、商人に向き直った。

「じゅ、16歳です」

「ふぅん。その割には小柄だねぇ……力仕事には向かなそうだが、この子ならいくらでも買い手が付くよ。それこそ娼館にでも、物好きな金持ちにも」

 商人が顔を上げ、山賊にこう告げた。

「この子だけ引き取ろう。金髪の男は、あなた達の慰者なぐさみものにでもすれば良い」
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