僕のヒーローをわからせたいのです!~ドスケベ怪人になって推しに××する話~

たまご先生

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♢僕と推しと愛の告白

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♢Side翠

 昨日はあんなことがあったというのに、僕は普通に通学している。自分でも驚いてしまうほど、僕自身は何も変わらない。むしろ、妙だったのはクラスメイトたちだ。

 まず、藤吉さん。いつも柔らかい笑みを浮かべている印象しかないのだけれど、今日は一日中、度を越えて満面の笑みだったのだ。

 山本が言うには、「彼氏ができたのかもしれない」とのこと。ヤツはずっと発狂していたかと思うと、午後の授業前から僕を無理やり膝に乗せて、頭に顔を埋めてきやがった。僕は藤吉さんの代わりじゃないっつーのッ! 勿論、ひっぱたいてやった。

 他の男子も大なり小なり、山本と同じような様子で、これまたよくわからないけれど、示し合わせたように僕の机の周りに集まってきていた。いくら黒板前にスペースがあるからって、そこを集会場にされると一番前の席に座っている僕にとっては迷惑でしかないんだけど。

 藤吉さんの件は、まぁ僕には関係ないことだ。だが、僕の左隣……つまり赤井くん。彼の様子も今日はおかしかったのだ。

「あ、赤井くん……おはようございますッ!」

「ああ、翠……おはよ」

 いつも僕なんかが声をかけてもにこやかな赤井くんが、今日はなんだかぼんやりしている。授業中もなんだか上の空で、異常だった。

 それに、僕は聞いてしまったんだ。朝のホームルームが始まる前、赤井くんが頭を机に打ち付けて突っ伏していた。そのとき、赤井くんはボソッと呟いていたんだ……。

「やっぱり好きだなあ……」

 赤井くんがおかしかったのは、恋煩いのせいだッ! 間違いない。あああああ、相手が心底怨めしい。どこの誰なんだよ、その好きな相手は。藤吉さんレベルならまだ許せるけど、そうじゃないならぶっ殺そう。うん、決めた。

 っていうか、藤吉さんが様子おかしかったのって、もしかして赤井くんと付き合い始めたとかじゃないか!? ああああ、やっぱり許せない……。赤井くんは僕のものでもなんでもないのにッ! 僕は、なんて醜いやつなんだろう……。

 こんなときは、現実逃避に限る。

「よーし、今日も派手にブレイヴレッドにえっちなことするぞー!」

「黒木翠、それで本当にまだお試し幹部のつもりなのかい? もう少し、躊躇いがあるものかと……」

「だって、やっちゃったことはもう仕方ないじゃないですか」

「なんという開き直りの速さだ。キミを選んで正解だったよ……呆れるほどにね」

 もう一度犯した罪は消えないんだ。そして、その悦びも。結局、家に帰ってしばらくしたあと、思い出して、興奮のあまり二、三回ほど……。やっぱり生ブレイヴレッドの破壊力は半端ないなって。それでもう諦めがついたというかなんというか。

 それに、悪の幹部が頑張れば、ヒーローも輝くって大義名分までご用意されているわけで。僕はえっちなブレイヴレッドを見られて、ブレイヴレッドは悪を討つためにさらに強くなる。Win-Winじゃないか! うん、そうだそうだッ!

「それじゃあ、張り切ってえっちなことするぞ。今日の目標は、ブレイヴレッドの汗を舐めることッ!」

「……本当にキミはとんでもないバケモノだねー。あまりの気持ち悪さに、ボクも少し引いたよ」

「素直になれば、もっとすごいことができるって。カルボさんが言ったんですよ」

「いやっ、確かに言ったけどねぇ」

 たぶん、今日の僕はおかしい。学校でのあの空気感にあてられたのかな。いや、単純に推しに好きな人が出来たのが受け入れられないだけか。

「まあいいや。とりあえず、変身してくれるかな。今日は紹介したい人がいるんだよ」

「紹介したい人って、もしかして幹部の方ですか」

「ああ。幹部の一人、Dr.ピグマン。キミも知っているだろう?」

 勿論、よく知っていますともッ!!

 Dr.ピグマンは悪の科学者で、毎回おかしなメカでヒーローを翻弄する、ブレイヴレッドの敵の一人だ。だが、僕の大好きなブレイヴレッドは、そんな機械風情には屈しない。全戦全勝。派手に吹き飛ばされて去っていく、実に素晴らしいやられ役だ。

「なんかキミ、彼のことを誤解してないかい?……いいや、直接会えば分かるからさ」

 僕は、カルボさんに言われるがまま、変身する。
 ああ、夢じゃなかったんだなぁ。本当は少しだけ、夢だったらなぁって思ってた。僕はブレイヴレッドにひどいことなんてしてないって。ただの妄想の産物だって。結局、僕は悪事に手を染めていたのは現実だったわけで。また、罪の意識が……。

「あぁぁぁぁぁぁ……やっぱり、悪の幹部やめますッ! お試しなんで、クーリングオフできますよね」

「さっきまでの威勢はどうしたんだい。それに今さらそんなこと、できると思っているのかい? こと、でしょ。分かってるくせに。キミは面白い冗談を言うんだねー」

 ダメだ、もう終わりだ。
 もう僕はこれからドスケベ怪人として生きていくしかないんだ。親不孝な息子でごめんなさい。お母さん、あなたの息子はこれからヒーローをえっちな目に合わせる仕事に就きます……。

「あのッ!」

 僕が頭を抱えていると、後ろから声をかけられた。ビクッと身体が飛び上がりそうになる。だが、直前にカルボさんが言っていたことを思い出す。

 あ、たぶんピグマンさんだ。綺麗にヒーローに撃退される方法教えてもらわないとッ! あれはもはや芸術の領域だからね。本当に。

 僕は、にこやかな表情を作って振り向いた。

「はじめまして……ッ!? えっ、うそッ、えっ、あっ」

 開いた口が塞がらなかった。なぜなら、そこにいたのは白衣の男Dr.ピグマンではなく、よく見知った人物だったからだ。

「好きですッ! 俺と付き合ってくださいッ!」

「ふえぇっ……!?」

 畳み掛けるような唐突な愛の告白に、思考が鈍化する。
 相手が冗談を言っているようには見えなかった。すごく真剣な目で僕を見ていたから。

 僕のことを真っ直ぐに見つめていたのは、同じ高校の制服を着た男。なんなら、同じクラス。さらに言うなら隣の席。そして、僕の推し……つまり赤井英雄、その人であった。
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