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第3話 婚約者ができました?
ep.26
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朝食を食べ終わる頃には、いつものわたしたちに戻っていた。それは、ユーグが一緒だったからかもしれない。
「ねえねえ、エリク」
「なに?」
いつものように、いつもとは違うソファに座っているエリクの隣に座り、話しかける。
「今日はなにするの?」
夜会は明日。こうしてのんびり読書なんてしているくらいなのだから、きっと今日はエリクの予定という予定はないとみた。
こうしてずっと部屋に篭っているのは退屈だ。だから、ぜひとも、この機会にセルグスの王都を見てみたい!
そんなわたしの思惑に気づいたのか、エリクは眉間に皺を寄せた。
「……もうすぐ来るんじゃない」
「来る? なにが?」
きょとんとしたわたしに、エリクが簡潔に言う。
「案内」
「案内……?」
エリクの言葉が短すぎてよくわからない。
きっとそれはエリクは意図してやっていることで、実際にその案内がなにかを教える気はないのだろう。
たぶん、もうすぐわたしをどこかに案内してくれる人が来る、ということなのだとは思うけど……どこに案内してくれるのだろう。それくらい、教えてくれてもいいのに。
なんとなく、エリクは嫌そう。
わたしを案内してくれる場所が不満なのか、それともその案内をしてくれる人が不満なのか、それはよくわからないけれど、エリクはわたしが出かけることを望んでいないのだと思う。
そういえば、きな臭い動きがあるとかなんとか言っていたな……それとなにか関係あるのだろうか。
そんなことを考えていると、ノックの音がした。
それにユーグが反応し、対応してくれる。
少しして、ユーグとは別の足音が聞こえた。
「殿下、お客様です」
「うん、ありがとう。今日はよろしくお願いいたします、フレンツェル伯爵」
エリクは立ち上がり、軽く頭を下げた。
わたしもそれに倣い、軽く会釈をしながら、エリクがフレンツェル伯爵と呼んだ人を見た。
彼はわたしたちよりもいくつか年上というくらいの、比較的若い男性だった。たぶん、十歳も離れていないだろう。
艶やかな短めの黒髪、サファイアのような青い瞳。パッと見てもまじまじ見ても、とてもよく整った顔立ちをしている。
切れ長の目がエリクを見つめ、少し視線を下げる。
「いえ。良い案内人となれるかどうかはわかりませんが、今日はよろしくお願いいたします」
素っ気ない口調で答えた彼の表情は変わらない。
エリクとは違う系統の美形だ。まるで人形みたい。
青い瞳はとても冷たそうで、取っつきにくそうな人だな、と思った。外面の良いエリクとは対称的だ。
「……リディ、今日はフレンツェル伯爵が王都を案内してくれることになっているんだよ」
「そうなの? 初めまして、フレンツェル伯爵さま。リディアーヌと申します。今日はよろしくお願いいたします!」
にこっと元気に挨拶をすると、伯爵さまはわたしに視線を移し、表情を変えないまま挨拶をした。
「ヴィンフリート・フレンツェルと申します。よろしくお願いいたします」
優雅に挨拶をする伯爵さまに、ぼうっとしてしまう。わあ! 素敵! お手本みたい!
それに気づいたのか、エリクがむっとした顔をして小声で言う。
「リディ、伯爵は結婚しているから」
「とても美しい方ですものね。ご結婚していて当然だわ。奥さまも美人さんなのかしら?」
「……明日の夜会で会えるでしょ」
どこかがっくりしたように言ったエリクにわたしは首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや……なんかバカみたいだと思って……」
「誰が?」
「……もういいよ。早く行こう」
そう言ってエリクはわたしに手を差し出す。脱力した様子のエリクを不思議に思いながら手を置く。
伯爵さまはそんなわたしたちのやり取りを、やはり変わらない顔で眺め、「では、ご案内いたします」と言って歩き出す。
エリクはそのあとに続いたので、わたしも自然とそれに続く形になる。
「いってらっしゃいませ」
にこっとわたしたちを見送るユーグに、わからないくらいに小さくエリクが首を振る。
それにユーグは小さく頷く。
……なに、今のやりとり。
まるで思いが通じあった恋人みたい。
なんとなく釈然としないものを感じていたわたしだけど、馬車に乗り込んで王都を案内してもらうとそれもコロッと忘れた。
「ここが時計塔です。建国当初に建てられたもので、王都の象徴とも呼べる建造物です」
ゆっくりと走る馬車に乗りながら、伯爵さまがそんなふうに王都の有名な建物、場所を説明てくれる。
淡々と、しかし丁寧に、その名前の由来だとか、昔あった出来事だとかを混じえて教えてくれて楽しい。その説明はとてもわかりやすくて、頭の良い方なのだと思った。エリクも似たようなところがある。
時計塔のあとはこれといった名所や建物がないらしく、伯爵さまはむっつり黙り込んだ。
外面だけは良くて社交的に振る舞っているエリクも、なぜだかあまり言葉を発せず、街並みをぼんやりと眺めている。
……ここはわたしが、この場の空気をなんとかするしかあるまい。
いや、特別気まずいとかではなくて、もっとこう、どうせなら楽しくわいわいしながら観光したい。ただそれだけなのだけど。
どんな話題がいいかな。伯爵さまも、エリクも楽しい話題……うーん、思いつかない……。
エリクはまあ、置いといて、伯爵さまともう少しフレンドリーになるべきだよね、わいわいするためには。
それなら、話題はひとつしかない!
「伯爵さま」
「はい」
伯爵さまの氷のような瞳にわたしが写る。
わあ、綺麗な瞳だなあ……わたしもこんな普通の榛色ではなくて、エリクや伯爵さまみたいな色の瞳が良かったなあ……。
「伯爵さまはご結婚されているのですか?」
わたしの質問に、わずかに伯爵さまの眉間に皺が寄った。その瞳に警戒するような色がある。
……あれ? わたし、話題の選択間違えた……?
ちらりとエリクの方を見たが、エリクは我関せずと先ほどと変わらず街並みを眺めている。
少しはわたしを助けてくれてもいいのに! エリクのバカ! わたしはニコニコ笑っていればいいって言ったのはどこのどいつだ!
「……ええ、少し前に」
「そうなのですね! 奥さまはどんな方ですか?」
ニコニコと笑みを浮かべて問いかけると、伯爵さまは少し考え込むように腕を組んだ。
わくわくして回答を待つわたしの脇をエリクがそっと肘で突く。
「ちょっと、リディ……」
「なに?」
こそこそと小声でエリクが話かけてくる。
きょとんとしてエリクを見ると、エリクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「フレンツェル伯爵の奥方は借金の形として嫁がれたんだよ……」
「えっ! 借金の形!?」
驚いて思わず大きな声を出してしまい、わたしは慌てて口を手で塞いだけど、もう遅い。
エリクは「あーあ……やっちゃった」と言わんばかりにわたしを見ている。
ど、どうしよう……! 見てないで助けて、エリク……!
おろおろとしながらエリクに助けを求めるように視線を送ると、くすりと笑い声が聞こえた。
えっ、と顔を向くと、わたしとエリクの正面に座る伯爵さまが笑っていた。
に、人形が笑った……!
「……すみません。お二人の仲の良さが微笑ましくて」
「はあ……」
別に仲なんて良くないけど。わたしとエリクはただの幼なじみだし。
……あっ。この国では婚約者ってことになっていたんだった……いけない、忘れるところだった。
「俺と妻は確かに借金の形、という名目での婚姻でしたが……仲は、まあそこそこ良いと思いますよ」
「へえ……」
あっ、違う。思わず素で答えちゃった!
「そっ、そうなのですね。素敵なことですね!」
うふふっと笑って誤魔化す。
誤魔化されていない感がすごいけど、まあ気にしない。
「俺にはもったいないくらいの妻です。明るくて、前向きで……この通り、俺は表情があまり豊かではなく、口数も多くないのですが、こんな俺を慕ってくれる妻には感謝しています」
そう言った伯爵さまは、とても優しいお顔をされていた。きっと、奥さまのことがすごく好きなんだろうな。
……いいな。わたしも、結婚したらこんなふうに人に言ってもらいたい。
ちらりと隣のエリクを見ると、エリクと目が合って、思わず目を逸らした。
な、なんだろう……胸がどきどきしてきた……伯爵さまの奥さま愛に当てられたのかな。
「とても素敵な奥さまなのですね」
「はい。リディアーヌ嬢と歳が近いので、会ったときは仲良くしてもらえたら嬉しいです」
「こちらこそ! 奥さまにお会いできるのを、楽しみにしております」
にこっと笑うと、伯爵さまも微かに笑い返してくれた。
わあ、美形の微笑みの破壊力すごい……! なんかどきどきしてきた……。
ぽわんと伯爵さまに見惚れていると、伯爵さまが苦笑を漏らした。
不思議に思って首を傾げると、急にエリクに抱き寄せられて、エリクの服しか見えなくなる。
「エリク……?」
「リディのバカ」
「え? なんで?」
「バカだからだよ。本当にどうしようもないバカ。……だから、嫌だったんだよ……」
ブツブツとエリクがなにか文句を言っている。
理解不能だし、理不尽極まりない。
文句を言ってやりたいけど、思いの外、エリクの力が強くて動けない。
悔しい……でも、エリクの腕の中は安心できる。
そのうち、ブツブツと文句を言っているエリクの声が子守唄に聞こえてきて、わたしはうつらうつらとした。
昨日、あまり寝れなかったからなあ……。
「いい、リディ。きみはぼくの婚約者なんだからね?」
「うん」
「他の男に見惚れちゃだめ」
「うん……」
「……ねえ、聞いてる?」
聞いてる、聞いてる。
でもちょっとだけ眠いから、またあとにしてほしい。
「本当に……どうしようもないんだから、リディは」
呆れたようなエリクの声がして、優しくわたしの頭を撫でたような気がした。
「ねえねえ、エリク」
「なに?」
いつものように、いつもとは違うソファに座っているエリクの隣に座り、話しかける。
「今日はなにするの?」
夜会は明日。こうしてのんびり読書なんてしているくらいなのだから、きっと今日はエリクの予定という予定はないとみた。
こうしてずっと部屋に篭っているのは退屈だ。だから、ぜひとも、この機会にセルグスの王都を見てみたい!
そんなわたしの思惑に気づいたのか、エリクは眉間に皺を寄せた。
「……もうすぐ来るんじゃない」
「来る? なにが?」
きょとんとしたわたしに、エリクが簡潔に言う。
「案内」
「案内……?」
エリクの言葉が短すぎてよくわからない。
きっとそれはエリクは意図してやっていることで、実際にその案内がなにかを教える気はないのだろう。
たぶん、もうすぐわたしをどこかに案内してくれる人が来る、ということなのだとは思うけど……どこに案内してくれるのだろう。それくらい、教えてくれてもいいのに。
なんとなく、エリクは嫌そう。
わたしを案内してくれる場所が不満なのか、それともその案内をしてくれる人が不満なのか、それはよくわからないけれど、エリクはわたしが出かけることを望んでいないのだと思う。
そういえば、きな臭い動きがあるとかなんとか言っていたな……それとなにか関係あるのだろうか。
そんなことを考えていると、ノックの音がした。
それにユーグが反応し、対応してくれる。
少しして、ユーグとは別の足音が聞こえた。
「殿下、お客様です」
「うん、ありがとう。今日はよろしくお願いいたします、フレンツェル伯爵」
エリクは立ち上がり、軽く頭を下げた。
わたしもそれに倣い、軽く会釈をしながら、エリクがフレンツェル伯爵と呼んだ人を見た。
彼はわたしたちよりもいくつか年上というくらいの、比較的若い男性だった。たぶん、十歳も離れていないだろう。
艶やかな短めの黒髪、サファイアのような青い瞳。パッと見てもまじまじ見ても、とてもよく整った顔立ちをしている。
切れ長の目がエリクを見つめ、少し視線を下げる。
「いえ。良い案内人となれるかどうかはわかりませんが、今日はよろしくお願いいたします」
素っ気ない口調で答えた彼の表情は変わらない。
エリクとは違う系統の美形だ。まるで人形みたい。
青い瞳はとても冷たそうで、取っつきにくそうな人だな、と思った。外面の良いエリクとは対称的だ。
「……リディ、今日はフレンツェル伯爵が王都を案内してくれることになっているんだよ」
「そうなの? 初めまして、フレンツェル伯爵さま。リディアーヌと申します。今日はよろしくお願いいたします!」
にこっと元気に挨拶をすると、伯爵さまはわたしに視線を移し、表情を変えないまま挨拶をした。
「ヴィンフリート・フレンツェルと申します。よろしくお願いいたします」
優雅に挨拶をする伯爵さまに、ぼうっとしてしまう。わあ! 素敵! お手本みたい!
それに気づいたのか、エリクがむっとした顔をして小声で言う。
「リディ、伯爵は結婚しているから」
「とても美しい方ですものね。ご結婚していて当然だわ。奥さまも美人さんなのかしら?」
「……明日の夜会で会えるでしょ」
どこかがっくりしたように言ったエリクにわたしは首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや……なんかバカみたいだと思って……」
「誰が?」
「……もういいよ。早く行こう」
そう言ってエリクはわたしに手を差し出す。脱力した様子のエリクを不思議に思いながら手を置く。
伯爵さまはそんなわたしたちのやり取りを、やはり変わらない顔で眺め、「では、ご案内いたします」と言って歩き出す。
エリクはそのあとに続いたので、わたしも自然とそれに続く形になる。
「いってらっしゃいませ」
にこっとわたしたちを見送るユーグに、わからないくらいに小さくエリクが首を振る。
それにユーグは小さく頷く。
……なに、今のやりとり。
まるで思いが通じあった恋人みたい。
なんとなく釈然としないものを感じていたわたしだけど、馬車に乗り込んで王都を案内してもらうとそれもコロッと忘れた。
「ここが時計塔です。建国当初に建てられたもので、王都の象徴とも呼べる建造物です」
ゆっくりと走る馬車に乗りながら、伯爵さまがそんなふうに王都の有名な建物、場所を説明てくれる。
淡々と、しかし丁寧に、その名前の由来だとか、昔あった出来事だとかを混じえて教えてくれて楽しい。その説明はとてもわかりやすくて、頭の良い方なのだと思った。エリクも似たようなところがある。
時計塔のあとはこれといった名所や建物がないらしく、伯爵さまはむっつり黙り込んだ。
外面だけは良くて社交的に振る舞っているエリクも、なぜだかあまり言葉を発せず、街並みをぼんやりと眺めている。
……ここはわたしが、この場の空気をなんとかするしかあるまい。
いや、特別気まずいとかではなくて、もっとこう、どうせなら楽しくわいわいしながら観光したい。ただそれだけなのだけど。
どんな話題がいいかな。伯爵さまも、エリクも楽しい話題……うーん、思いつかない……。
エリクはまあ、置いといて、伯爵さまともう少しフレンドリーになるべきだよね、わいわいするためには。
それなら、話題はひとつしかない!
「伯爵さま」
「はい」
伯爵さまの氷のような瞳にわたしが写る。
わあ、綺麗な瞳だなあ……わたしもこんな普通の榛色ではなくて、エリクや伯爵さまみたいな色の瞳が良かったなあ……。
「伯爵さまはご結婚されているのですか?」
わたしの質問に、わずかに伯爵さまの眉間に皺が寄った。その瞳に警戒するような色がある。
……あれ? わたし、話題の選択間違えた……?
ちらりとエリクの方を見たが、エリクは我関せずと先ほどと変わらず街並みを眺めている。
少しはわたしを助けてくれてもいいのに! エリクのバカ! わたしはニコニコ笑っていればいいって言ったのはどこのどいつだ!
「……ええ、少し前に」
「そうなのですね! 奥さまはどんな方ですか?」
ニコニコと笑みを浮かべて問いかけると、伯爵さまは少し考え込むように腕を組んだ。
わくわくして回答を待つわたしの脇をエリクがそっと肘で突く。
「ちょっと、リディ……」
「なに?」
こそこそと小声でエリクが話かけてくる。
きょとんとしてエリクを見ると、エリクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「フレンツェル伯爵の奥方は借金の形として嫁がれたんだよ……」
「えっ! 借金の形!?」
驚いて思わず大きな声を出してしまい、わたしは慌てて口を手で塞いだけど、もう遅い。
エリクは「あーあ……やっちゃった」と言わんばかりにわたしを見ている。
ど、どうしよう……! 見てないで助けて、エリク……!
おろおろとしながらエリクに助けを求めるように視線を送ると、くすりと笑い声が聞こえた。
えっ、と顔を向くと、わたしとエリクの正面に座る伯爵さまが笑っていた。
に、人形が笑った……!
「……すみません。お二人の仲の良さが微笑ましくて」
「はあ……」
別に仲なんて良くないけど。わたしとエリクはただの幼なじみだし。
……あっ。この国では婚約者ってことになっていたんだった……いけない、忘れるところだった。
「俺と妻は確かに借金の形、という名目での婚姻でしたが……仲は、まあそこそこ良いと思いますよ」
「へえ……」
あっ、違う。思わず素で答えちゃった!
「そっ、そうなのですね。素敵なことですね!」
うふふっと笑って誤魔化す。
誤魔化されていない感がすごいけど、まあ気にしない。
「俺にはもったいないくらいの妻です。明るくて、前向きで……この通り、俺は表情があまり豊かではなく、口数も多くないのですが、こんな俺を慕ってくれる妻には感謝しています」
そう言った伯爵さまは、とても優しいお顔をされていた。きっと、奥さまのことがすごく好きなんだろうな。
……いいな。わたしも、結婚したらこんなふうに人に言ってもらいたい。
ちらりと隣のエリクを見ると、エリクと目が合って、思わず目を逸らした。
な、なんだろう……胸がどきどきしてきた……伯爵さまの奥さま愛に当てられたのかな。
「とても素敵な奥さまなのですね」
「はい。リディアーヌ嬢と歳が近いので、会ったときは仲良くしてもらえたら嬉しいです」
「こちらこそ! 奥さまにお会いできるのを、楽しみにしております」
にこっと笑うと、伯爵さまも微かに笑い返してくれた。
わあ、美形の微笑みの破壊力すごい……! なんかどきどきしてきた……。
ぽわんと伯爵さまに見惚れていると、伯爵さまが苦笑を漏らした。
不思議に思って首を傾げると、急にエリクに抱き寄せられて、エリクの服しか見えなくなる。
「エリク……?」
「リディのバカ」
「え? なんで?」
「バカだからだよ。本当にどうしようもないバカ。……だから、嫌だったんだよ……」
ブツブツとエリクがなにか文句を言っている。
理解不能だし、理不尽極まりない。
文句を言ってやりたいけど、思いの外、エリクの力が強くて動けない。
悔しい……でも、エリクの腕の中は安心できる。
そのうち、ブツブツと文句を言っているエリクの声が子守唄に聞こえてきて、わたしはうつらうつらとした。
昨日、あまり寝れなかったからなあ……。
「いい、リディ。きみはぼくの婚約者なんだからね?」
「うん」
「他の男に見惚れちゃだめ」
「うん……」
「……ねえ、聞いてる?」
聞いてる、聞いてる。
でもちょっとだけ眠いから、またあとにしてほしい。
「本当に……どうしようもないんだから、リディは」
呆れたようなエリクの声がして、優しくわたしの頭を撫でたような気がした。
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