28 / 41
第3話 婚約者ができました?
ep.27 エリク
しおりを挟む
むにゃむにゃ、とぼくの腕の中で意味のない寝言を言っているリディにため息を堪えた。
どうしてこの状況で眠れるのだろう。目の前には、よく知らない男がいるというのに。
リディをぐっと抱き寄せ、膝の上に乗せる。
そして、リディの顔が正面からは見えないように抱えると、へにゃっとリディが笑う。
「うへへ……えりく、あったかい……」
そんな寝言を呟いて、ぐりぐりとぼくの服に顔を擦りつける。まるで子どもだ。いや、リディの精神年齢は確かに子どもなのだけども。
恐らく、リディは完全に寝てしまったわけではないのだと思う。うとうとと、夢と現実を行き来している、そんな状態。
昨日はあっさりと眠ったと思ったけれど、彼女なりに緊張はしていて、あまり深くは眠れていないのだろう。
頭を撫でると、顔を緩める。
とても無防備な顔。そんな顔を外でするなと怒りたくなるのは、きっとぼくの我儘だ。
「仲がよろしいのですね」
無口なフレンツェル伯爵が珍しく話かけてくる。
表情は乏しいが、彼の瞳は微笑ましそうに柔らかい色をしていて、なんとなく、気まずい。
「……彼女とは、幼なじみなので」
渋々と答えると、伯爵は「なるほど」と頷く。
その言葉に含みがあるような気がしたのは、ぼくが深読みしすぎなのだろうか。
「……伯爵は、どうして王都の案内を?」
話を変えるために問いかけると、伯爵はそつなく答える。
「王太子殿下から直々に頼まれましたので」
……王太子か。
このフレンツェル伯爵は王太子殿下の側近中の側近だ。王太子殿下の補佐のようなことをしているとも聞く。
そんな人物が、わざわざぼくたちを王都に案内するようにと王太子に頼まれたのは、なにか思惑があってのことなのか、それとも王太子の気まぐれなのか……そのあたりは考えるだけ無駄だろうから、深くは考えない。
「それにしても、エリク殿下が女性を連れて来られるとは、意外でした」
ぽつりと呟いた伯爵に、ぼくはどういう意味だと問うように視線を向ける。
「殿下は……失礼ながら、俺と似たものを感じておりましたので」
そう言った伯爵に、ああ、と納得する。
この通り、フレンツェル伯爵はすごい美貌の持ち主で、結婚前は年頃のご令嬢方が群がっていたことを思い出す。
それに対応する彼は、表情にこそ出してはいないけれど、どこかうんざりとしていた。それにぼくも共感できたし、きっと同じ思いだった。
ぼくの場合は彼と違って、滅多に社交の場に出ないから、その鬱屈は彼と比べるまでもないけれど。
フレンツェル伯爵はきっと想い人がいて、だからこそ、群がる令嬢たちにうんざりしていたのだろう。それはぼくも同じだ。
好意を向けられるのは、好きな相手だけで十分だ。他にはいらない。
そして、その相手と想いが通じたのなら、閉じ込めてしまいたい。どこにも出さず、ただ自分だけを見てほしい──そう、ぼくは思う。
もしリディと想いが通じ合ったのなら、夜会になんて出したくないし、ましてや知らない人たちばかり集まる外国の夜会に出席するなんてもってのほかだ。
「今回の夜会はパートナー同伴でなければならないと伺ったので」
仕方なく。本当は嫌だけど、渋々連れてきたのだというのを含めて答える。
実際は、違うけれど。公務なんてただの口実。そろそろ、リディには自覚してもらわねばならない。ぼくも男であることを。
他の男なんかに現を抜かされるわけにはいかない。
結果は上々だ。
なんだかんだで、リディはぼくを意識しているように感じる。
……ただ、このように突然抱きしめられてそのまま眠られると、意識されていると思ったのは自意識過剰だったのでは……という気がしてならないけど。
「可愛らしい方ですね、リディアーヌ嬢は」
そう言った伯爵に、思わずむっとする。リディが可愛いのは一目見てわかることだ。わざわざ言わなくてもいい。
しかし、ぼくはリディいわく、『外面がいい』らしいので、それは顔に出さずに笑う。
「はい。ぼくの自慢の、婚約者です」
はっきりと言うと、伯爵はうっすらと口角をあげた。
「婚約者、ですか」
含みのある言い方に、笑顔を保つ。
フレンツェル伯爵は王太子のお気に入り。つまり、それほど有能な人物ということだ。
恐らく彼は、リディがぼくの〝正式な〟婚約者ではないことを知っている。
だけど、リディがぼくの婚約者候補に入っていることは、間違いない。リディは知らないだろうけれど、一応王子であるぼくにも何人かの婚約者候補がいる。兄上と父上が勝手に考えている相手たちが。
しかし、ぼくは王位継承権を放棄するつもりだ。王子の身分にこだわりはないし、伯爵としてリディとのんびり過ごすつもりで、いろいろと動いている。
……まあ、それにはリディの気持ちが大事になるわけだけど。リディの父であるクラヴリー伯爵は、リディの結婚相手は彼女が好いた相手と、と考えているようだから。
会うたびにそれとなく、生暖かい目で「がんばれ」と言われているような気がする。そしてその裏では「落とせるものなら落としてみろ」と言われているような気がしてならない。
はっきりとは言われないのだけど、これはたぶん、気のせいなんかではないと思う。
「ローレンツ殿下はご婚約者を探していらっしゃると伺いましたが、明日の夜会はそれが目的なのでしょうか?」
話を変えるためにローレンツの話題を振る。
すると、伯爵が顔を顰めた。
「……ええ、その通りです。殿下はその……とても志が高い方ですので、殿下の気に入る方がなかなか見つからず……」
苦々しく語る伯爵に、この人も苦労をしているのだな、と他人事のように思った。
確かにあの王太子の理想は高そうだ。
同じ王太子でも、兄上とは違う。兄上は幼なじみの公爵令嬢と婚約しており、完全に尻に敷かれている。公の場では兄を支える良い婚約者、というふうを装っているけれど、身内の前ではボロクソに言われている。正直、見ていてスカッとするので、もっとやればいいと思う。
兄上ちは来年あたりには結婚するだろう。そのためにいろいろと準備が進められているようだった。
「苦労されているのですね……」
心から同情して言うと、伯爵は小さく笑って「慣れていますので」と答えた。
その回答に、さらに同情を覚えた。
「う、うーん……えりく……?」
大人しくうとうとしていたリディが、ぱちりと目を開けた。そしてぼんやりとぼくを見て、目の前にいる伯爵を見た。
「あ、あれ……? いつの間にエリクは、伯爵さまと仲良しになったの……?」
ごしごしと目を擦りながら、どこか寝惚けた様子でリディは問いかける。
「……寝惚けてるでしょ」
「ねぼけてない……」
あくびを噛み締めてリディは答える。
ごしごしと目を擦り続けるリディの手を掴む。
「なにするのよ……」
「あんまり擦らないの。せっかく綺麗に化粧しているんだから……可愛いのが台無しだよ」
自分の台詞に吐きそうだった。
こんなのぼくのキャラじゃない……でも、仲良し婚約者を装わなければならない。特に、それを疑っているらしい、目の前にいる伯爵の前では。
「……エリク?」
ぱちぱちとリディは瞬きをして、ぼくの顔をぺちぺち触る。
「なにするの……」
「だって……エリクがきもちわる……じゃなくて、珍しいことを言うから、夢なのかと思って」
夢だと思ったなら、自分の顔を叩きなよ。というか、今、気持ち悪いって言いかけた?
そう言いたいのをぐっと堪えた。
「くっ……」
不意になにかを堪えるような声がして、ぼくとリディは同時にその声が聞こえた方を見る。
そこには、伯爵が口元を押さえて、笑いを堪えていた。
「伯爵さま……?」
ぽかんとして問いかけたリディに、伯爵は堪えきれずに笑い出した。
今のどこに笑いのツボがあったんだろう……。
伯爵は若干涙目になって、なんとか笑いを収めると、「申し訳ありません」と謝った。
「お二人のやりとりがまるで息のあった夫婦のようで……」
「……」
「……」
そう言われると、悪い気はしない。
ちらりとリディを見ると、不服そうな顔をしていた。それにむっとして、リディの片手でリディの頬をぎゅっと掴んだ。
「ひひゃひ! ふぁふぃふんのほ!」
「なに言っているかわからないよ」
「ふぇふぉはなひなふぃほ!」
リディのアホ面に満足して手を離すと、リディはギロリと睨んだ。
そしてふと、怪訝そうにぼくを見た。
「……ねえ、なんか近くない?」
「なにが?」
「エリクが、近い」
「そりゃあ、きみがぼくの膝の上に乗っているからね」
なにを今さら言っているのだろう。
リディはぱっと顔を赤くする。
「えっ! な、ど、どうして……?」
おろおろするリディに気分が良くなった。
ぼくに動揺しているリディは見ていて楽しい。
「……俺は、少し席を外した方がいいでしょうか」
先ほどまで笑っていた伯爵は、今度は神妙な顔をしてそう問いかけた。
どうやら、恋人同士がいちゃいちゃしているように見えたらしい。いい傾向だ。
「いいえっ! お願いですから、一緒にいてください……!」
必死に言うリディに、伯爵は苦笑いをした。そしてちらりとぼくを見て、なにやら同情した目を向けられる。
そういうの、本当にいらない。
不貞腐れたぼくは、リディをぎゅっと抱きしめる。
わあわあと騒ぐリディの背中を撫でると、急に大人しくなった。
訝しく思ってリディの顔を覗き込むと、真っ赤な顔をしていた。
可愛い。
いつもこれくらい、素直になればいいのに。
リディが聞いたら「そっくりそのままお返しするわ!」と言いそうなことを思っていると、伯爵が窓の外を見て、ぼくたちに言う。
「馬車の中で見ているだけでは退屈でしょう。商業区に入ったので、街に出てみますか?」
伯爵のその言葉にリディはガバッと反応し、キラキラした目で「ぜひ!」と答えた。
それにぼくは、少しだけ面白くないものを感じた。
どうしてこの状況で眠れるのだろう。目の前には、よく知らない男がいるというのに。
リディをぐっと抱き寄せ、膝の上に乗せる。
そして、リディの顔が正面からは見えないように抱えると、へにゃっとリディが笑う。
「うへへ……えりく、あったかい……」
そんな寝言を呟いて、ぐりぐりとぼくの服に顔を擦りつける。まるで子どもだ。いや、リディの精神年齢は確かに子どもなのだけども。
恐らく、リディは完全に寝てしまったわけではないのだと思う。うとうとと、夢と現実を行き来している、そんな状態。
昨日はあっさりと眠ったと思ったけれど、彼女なりに緊張はしていて、あまり深くは眠れていないのだろう。
頭を撫でると、顔を緩める。
とても無防備な顔。そんな顔を外でするなと怒りたくなるのは、きっとぼくの我儘だ。
「仲がよろしいのですね」
無口なフレンツェル伯爵が珍しく話かけてくる。
表情は乏しいが、彼の瞳は微笑ましそうに柔らかい色をしていて、なんとなく、気まずい。
「……彼女とは、幼なじみなので」
渋々と答えると、伯爵は「なるほど」と頷く。
その言葉に含みがあるような気がしたのは、ぼくが深読みしすぎなのだろうか。
「……伯爵は、どうして王都の案内を?」
話を変えるために問いかけると、伯爵はそつなく答える。
「王太子殿下から直々に頼まれましたので」
……王太子か。
このフレンツェル伯爵は王太子殿下の側近中の側近だ。王太子殿下の補佐のようなことをしているとも聞く。
そんな人物が、わざわざぼくたちを王都に案内するようにと王太子に頼まれたのは、なにか思惑があってのことなのか、それとも王太子の気まぐれなのか……そのあたりは考えるだけ無駄だろうから、深くは考えない。
「それにしても、エリク殿下が女性を連れて来られるとは、意外でした」
ぽつりと呟いた伯爵に、ぼくはどういう意味だと問うように視線を向ける。
「殿下は……失礼ながら、俺と似たものを感じておりましたので」
そう言った伯爵に、ああ、と納得する。
この通り、フレンツェル伯爵はすごい美貌の持ち主で、結婚前は年頃のご令嬢方が群がっていたことを思い出す。
それに対応する彼は、表情にこそ出してはいないけれど、どこかうんざりとしていた。それにぼくも共感できたし、きっと同じ思いだった。
ぼくの場合は彼と違って、滅多に社交の場に出ないから、その鬱屈は彼と比べるまでもないけれど。
フレンツェル伯爵はきっと想い人がいて、だからこそ、群がる令嬢たちにうんざりしていたのだろう。それはぼくも同じだ。
好意を向けられるのは、好きな相手だけで十分だ。他にはいらない。
そして、その相手と想いが通じたのなら、閉じ込めてしまいたい。どこにも出さず、ただ自分だけを見てほしい──そう、ぼくは思う。
もしリディと想いが通じ合ったのなら、夜会になんて出したくないし、ましてや知らない人たちばかり集まる外国の夜会に出席するなんてもってのほかだ。
「今回の夜会はパートナー同伴でなければならないと伺ったので」
仕方なく。本当は嫌だけど、渋々連れてきたのだというのを含めて答える。
実際は、違うけれど。公務なんてただの口実。そろそろ、リディには自覚してもらわねばならない。ぼくも男であることを。
他の男なんかに現を抜かされるわけにはいかない。
結果は上々だ。
なんだかんだで、リディはぼくを意識しているように感じる。
……ただ、このように突然抱きしめられてそのまま眠られると、意識されていると思ったのは自意識過剰だったのでは……という気がしてならないけど。
「可愛らしい方ですね、リディアーヌ嬢は」
そう言った伯爵に、思わずむっとする。リディが可愛いのは一目見てわかることだ。わざわざ言わなくてもいい。
しかし、ぼくはリディいわく、『外面がいい』らしいので、それは顔に出さずに笑う。
「はい。ぼくの自慢の、婚約者です」
はっきりと言うと、伯爵はうっすらと口角をあげた。
「婚約者、ですか」
含みのある言い方に、笑顔を保つ。
フレンツェル伯爵は王太子のお気に入り。つまり、それほど有能な人物ということだ。
恐らく彼は、リディがぼくの〝正式な〟婚約者ではないことを知っている。
だけど、リディがぼくの婚約者候補に入っていることは、間違いない。リディは知らないだろうけれど、一応王子であるぼくにも何人かの婚約者候補がいる。兄上と父上が勝手に考えている相手たちが。
しかし、ぼくは王位継承権を放棄するつもりだ。王子の身分にこだわりはないし、伯爵としてリディとのんびり過ごすつもりで、いろいろと動いている。
……まあ、それにはリディの気持ちが大事になるわけだけど。リディの父であるクラヴリー伯爵は、リディの結婚相手は彼女が好いた相手と、と考えているようだから。
会うたびにそれとなく、生暖かい目で「がんばれ」と言われているような気がする。そしてその裏では「落とせるものなら落としてみろ」と言われているような気がしてならない。
はっきりとは言われないのだけど、これはたぶん、気のせいなんかではないと思う。
「ローレンツ殿下はご婚約者を探していらっしゃると伺いましたが、明日の夜会はそれが目的なのでしょうか?」
話を変えるためにローレンツの話題を振る。
すると、伯爵が顔を顰めた。
「……ええ、その通りです。殿下はその……とても志が高い方ですので、殿下の気に入る方がなかなか見つからず……」
苦々しく語る伯爵に、この人も苦労をしているのだな、と他人事のように思った。
確かにあの王太子の理想は高そうだ。
同じ王太子でも、兄上とは違う。兄上は幼なじみの公爵令嬢と婚約しており、完全に尻に敷かれている。公の場では兄を支える良い婚約者、というふうを装っているけれど、身内の前ではボロクソに言われている。正直、見ていてスカッとするので、もっとやればいいと思う。
兄上ちは来年あたりには結婚するだろう。そのためにいろいろと準備が進められているようだった。
「苦労されているのですね……」
心から同情して言うと、伯爵は小さく笑って「慣れていますので」と答えた。
その回答に、さらに同情を覚えた。
「う、うーん……えりく……?」
大人しくうとうとしていたリディが、ぱちりと目を開けた。そしてぼんやりとぼくを見て、目の前にいる伯爵を見た。
「あ、あれ……? いつの間にエリクは、伯爵さまと仲良しになったの……?」
ごしごしと目を擦りながら、どこか寝惚けた様子でリディは問いかける。
「……寝惚けてるでしょ」
「ねぼけてない……」
あくびを噛み締めてリディは答える。
ごしごしと目を擦り続けるリディの手を掴む。
「なにするのよ……」
「あんまり擦らないの。せっかく綺麗に化粧しているんだから……可愛いのが台無しだよ」
自分の台詞に吐きそうだった。
こんなのぼくのキャラじゃない……でも、仲良し婚約者を装わなければならない。特に、それを疑っているらしい、目の前にいる伯爵の前では。
「……エリク?」
ぱちぱちとリディは瞬きをして、ぼくの顔をぺちぺち触る。
「なにするの……」
「だって……エリクがきもちわる……じゃなくて、珍しいことを言うから、夢なのかと思って」
夢だと思ったなら、自分の顔を叩きなよ。というか、今、気持ち悪いって言いかけた?
そう言いたいのをぐっと堪えた。
「くっ……」
不意になにかを堪えるような声がして、ぼくとリディは同時にその声が聞こえた方を見る。
そこには、伯爵が口元を押さえて、笑いを堪えていた。
「伯爵さま……?」
ぽかんとして問いかけたリディに、伯爵は堪えきれずに笑い出した。
今のどこに笑いのツボがあったんだろう……。
伯爵は若干涙目になって、なんとか笑いを収めると、「申し訳ありません」と謝った。
「お二人のやりとりがまるで息のあった夫婦のようで……」
「……」
「……」
そう言われると、悪い気はしない。
ちらりとリディを見ると、不服そうな顔をしていた。それにむっとして、リディの片手でリディの頬をぎゅっと掴んだ。
「ひひゃひ! ふぁふぃふんのほ!」
「なに言っているかわからないよ」
「ふぇふぉはなひなふぃほ!」
リディのアホ面に満足して手を離すと、リディはギロリと睨んだ。
そしてふと、怪訝そうにぼくを見た。
「……ねえ、なんか近くない?」
「なにが?」
「エリクが、近い」
「そりゃあ、きみがぼくの膝の上に乗っているからね」
なにを今さら言っているのだろう。
リディはぱっと顔を赤くする。
「えっ! な、ど、どうして……?」
おろおろするリディに気分が良くなった。
ぼくに動揺しているリディは見ていて楽しい。
「……俺は、少し席を外した方がいいでしょうか」
先ほどまで笑っていた伯爵は、今度は神妙な顔をしてそう問いかけた。
どうやら、恋人同士がいちゃいちゃしているように見えたらしい。いい傾向だ。
「いいえっ! お願いですから、一緒にいてください……!」
必死に言うリディに、伯爵は苦笑いをした。そしてちらりとぼくを見て、なにやら同情した目を向けられる。
そういうの、本当にいらない。
不貞腐れたぼくは、リディをぎゅっと抱きしめる。
わあわあと騒ぐリディの背中を撫でると、急に大人しくなった。
訝しく思ってリディの顔を覗き込むと、真っ赤な顔をしていた。
可愛い。
いつもこれくらい、素直になればいいのに。
リディが聞いたら「そっくりそのままお返しするわ!」と言いそうなことを思っていると、伯爵が窓の外を見て、ぼくたちに言う。
「馬車の中で見ているだけでは退屈でしょう。商業区に入ったので、街に出てみますか?」
伯爵のその言葉にリディはガバッと反応し、キラキラした目で「ぜひ!」と答えた。
それにぼくは、少しだけ面白くないものを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる