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一、蕾
一、蕾 ④
しおりを挟む「君に売る、ねえ。私には何も利点はないよ」
「SNSでいい人だったって拡散してやる。アルファのいい話は珍しいし」
「どこが私の利点なの。ギャグ?」
全く面白くないけどねと一蹴されてしまい、どうしていいか分からなくなる。
金でもない名誉でもない。そして初対面で相手のことなんてよく分からない。
「……僕の唯一の身内の形見なんだ。心ない人間に売られてしまって、心が引き裂かれそうだった。あれほど誰かを憎んだことも恨んだことも、ない。大切な人の形見なんだ。どうしたら売っていただけますか。土下座でもいいし、裸の写メを撮ってもかまわないし、何でもする。どんなことをしても、取り返せないことより辛いことなんて無い」
腕一本ぐらいなら無くなってもいい勢いだ。
土下座しようと地面に座ろうとすると、腕を捕まれた。
「何でもすると言ったね。男に二言はないかい」
「ないよ。別に自分には守る者は何もないし」
アルファの男は少しためらった後、僕の首輪を指でつついた。
「私の番になるのは?」
会って数分。会話も二、三回。
名前すらも知らない。そんな相手に、目の前の人物は何を言い出すのだろう。
でも僕は首輪を押さえた。
「この首輪の鍵は、身内に隠されていて自分では外れないんだ。だから番には無理」
そんなことでいいなら、別に僕は良かったのに。
「そうか。鍵穴を見せて貰って良いかな」
「どうぞ」
僕を管理していた身内は、僕が祖母に何を食べさせられていたか知っている。だから僕の価値を知っているんだ。だから首輪にだけは金をかけて上等なものを買っていたはず。簡単に開けられるはずはない。
「あの」
「なに?」
鍵穴に人差し指を押し込んできたので、よろめいた僕を、大きな手で腰を支えてくれた。
それでも首輪を真剣に見ている。そんなに僕と番になりたいのかな。
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