花喰らうオメガと運命の溺愛アルファ

哀木ストリーム

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一、蕾

一、蕾 ⑥

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「契約、ですねえ。もっと情熱的に誘われたら堕ちてしまいそうですけどね」
 うわあ。掴んでいた手を離した瞬間、手を捕まえられた。高貴なアルファって上品で、オメガにも甘い言葉を吐くんだ。
 家族にも人並みに優しくされたことないから、こんな甘い言葉嘘臭くてしかたない。
 本心がどこにあるかもわからないし信じられない。
 でも僕はビジネスでお願いしたいのだが、恋人を演じるだけで報酬があるのならばそれでいいかな。
 祖母の形見を貰えるならば、この人の欲しいオメガに演じればいいよね。
「分かったよ。竜仁さん。僕を貴方の番にしてよ」
 手を握り返して甘えた声ですり寄った。もちろん恋人なんて居たことがないので、これが正解なのかはわからない。
 けれど満足したのか、竜仁さんは僕の額にキスして車を走らせた。
 
 車は商店街を出ると、山の中へ入っていく。人影がなく薄暗い山の中、だんだんと地面が整っていないのか車が大きく揺れだした。
 裕福な人が道路も整っていない山の屋敷に住むのはおかしい。
 つい横目で訝しげに見てしまったのかもしれない。
 彼から事務的な言葉が、質問をしてないのに返ってきた。
「あの商店街もこの山も開発予定地なので、今更手入れする必要はありませんよ」
「ああ、なるほど」
「大型リゾートホテルの建築と、娯楽施設ができる予定です。商店街の人たちもほぼ買収が済み。閑古鳥が鳴いていたので、町の人たちも感謝してしました」
「ふうん。竜仁さんってやり手なんだね。すごいなあ」
 流石アルファだなあ。祖母のお金で起業しようとして失敗した身内とは大違いだ。
「この屋敷も、壊す予定だったんで今日は下見に来ていたんです。何か売れるものがないかなって」
「屋敷って、うわ」
 車から降りると、古びた屋敷が薄い霧の中、顔を出していた。伸びきった雑草と壁を覆う蔦、手入れなんて全くされていない聳え立つ大きな屋敷。
 お化け屋敷みたいで好奇心をくすぐられるが、中に入るとなると足がすくむ。
 取り壊そうとしていた邸で今からセックスするの?
 それって衛生的に大丈夫なのかな。
 この高級車の中の方が清潔そう。ここで襲ってくれないかな。
「どうしました?」
「竜仁さん、僕、怖いです」
 ハンドルを握っていた彼の手を握って、まっすぐに見つめてみた。
「ここじゃ駄目ですか?」
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