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二、開花

二、開花 ⑥

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 彼は同じ布団に眠るつもりはないようで、ソファを隣に持ってきて丸くなって眠っていたがすぐに上半身を起こす。
 僕の方が小さいのでソファに眠ると言ったら断れたから申し訳なかったが、僕は花を食べなくなったことで中毒症状や禁断症状が出るらしいのでベットの方がいいらしかった。
 彼は縛った腕を心配してくれているがまだ、僕には激しい症状が出ていない。
 ただ僕は間違った行動はしていないと思いたいけど、不安がよぎった。

「平気です。ただ、あの花ってもしかして麻薬とかドラッグみたいに違法なんですか」
 少し不安になった。竜仁さんは即答せず、言葉を探しながら「前も話したけど、一応違うよ。まだね」とだけ。
「まだ取り締まる法律はないってことは伝えておこうかな。医師からは奨められてもいない」
 海外で購入して日本で保持していても問題はないらしい。
 が、後遺症や中毒、依存するオメガがいるのと、アルファには強い拒絶反応が出ることから、どう取り締まるべきかまだ正確な判断が出来ていないのと、高額なものなので地上には出回っていないのでまだ社会問題にはなっていないらしい。

「オメガが加工品を持っているのは問題ないんだよ。医療品じゃない抑制剤みたいな。ただ強い依存症があるし楽にアルファを撃退できるわりには生産数は少ない。……隠さずに言えば、君のご両親はその花を高額で売り回っていたかな」
 ベータには、アルファやオメガの痛みが分からないんだろうね、と言葉を濁した。
 これで両親が働かなくても、祖母の貯蓄を食い潰さずに生きていた理由が分かってきた。あの花を金に変えていたのか。
「……あの花は、じゃあ加工品以外は簡単に手に入らないの」
「まあ。私も菫さんの家で初めて生花を見たよ。加工していない花は、美味しくないだろう」
「食べるのが当たり前だったので。そんなに食べるのはいけないことなんですか」
 自分の普通が覆される。自分の当たり前が異常だったのは、不安になる。
「いや、君が悪いんじゃないよ。何も知らなかった君は悪くない」
「でも貴方が僕を無理矢理番にしたことも、悪くないんでしょ。僕は自分を守るために食べていたのに無駄になったし、なんだろう。ちょっとだけ疲れちゃいましたね。力でも敵わないし」
 それは申し訳ない。

頭を撫でながら、困った顔の竜仁さんは言葉では表せない表情をしていて面白かった。
僕に学があれば。僕に知識があれば。彼が困ったような申し訳ないような、それでいて僕へ好意を感じさせる表情を向けている顔を言葉で伝えられたのかもしれない。
 僕が愚かでなければ、彼にこんな面倒なことをさせることはなかったのかな。

「とりあえず、花を食べるのは若いうちにやめておいた方が良い。私は協力を惜しまない。君は今から禁断症状に苦しむ。体力を温存させておくこと。そしてよく食べておくこと。そして私にイタリア語を教えること。当分の仕事はそれになるよ」
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