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邸内探検②
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「あー、リーナ、リーナ!!ここ、ここだよー!」
厨房から出て、エントランスに差し掛かると、前庭の花を摘んでいるリーナを見つけて、ヒースヴェルトは嬉しくなって走り出した。
「ヒー様、いきなり走ると転びますって!」
アシュトが慌てて追いかける。そして、
「んきゃ!!?」
玄関の低い段差で、案の定躓いて、その身体が宙を舞う。
「だーかーらー、言ったッス。」
首根っこを捕まれた猫ような形で救われた。
「うぁー、ひーたんネコみた~い」
ぷらーん、とアシュトの腕からぶら下がり、楽しそうに揺れる。
ヒースヴェルトは、アシュトと過ごすときは、とても気分が楽なのだ。
それが何なのかはわからなかったが、最近はトリシャのお陰もあり、人を学ぶ機会が増え、何となく感じていることがあった。
「次は気を付けるッスよー。」
「ぁい~。」
(………ぼくにお兄ちゃんがいたら、多分、こんな感じ。)
村では嫌われ、森でも、ディーテ神のいない日々は孤独で。
「アシュト、おにぃちゃん………」
って、呼んでみたいな。
なんて考えていたら、アシュトが顔を真っ赤にして固まっていた。ヒースヴェルトを猫持ちにしたままで。
「ひっ、いっ、今、なんッ!!」
「ぁ、声に出てた!?な、なんでもない~!!!」
ヒースヴェルトも、真っ赤になってジタバタしていた。
何してるのかしら、ヒー様とアシュト…。
花束を抱えて、リーナは首をかしげた。
「り、リーナ!すまん、ヒー様に付き合ってやってほしい。オレちょっと顔冷やしてくる!!」
ぽい、とヒースヴェルトをリーナに渡して、アシュトはダッシュでどこかに行ってしまった。
「ヒー様?どうしたんです?」
「う~。恥ずかしいこと、言って、しまいました。」
こちらも、両手で顔を覆っているが、羞恥で赤くなった顔は隠せていない。
「ま、大丈夫なんでしょう…けど。
ちょうど、ヒー様のお部屋に飾ろうとお花を頂いたところなんです。花瓶に活けて、飾りませんか?」
「ぁぃ~、行き、ます~。」
すとん、とリーナの側に降り立って、まだ赤らむ頬をムニムニと触っていたが。
「今日はトリシャ先生はお昼からお見えになるんでしたね。お部屋にお花があると、とても素敵な気分になりますから、きっとお勉強も捗りますね!」
「お勉強、楽しい!知らないこと、知るのはいいことーってママも言ってたの。たくさん知って、たくさん……考えて、それから…自分で、決めていくの。」
自分で、決める。
まだそんな覚悟できていないくせに、何を言っているんだろう。と、ヒースヴェルトは少し落ち込んだ。
「ヒー様が、大魔境の神殿へお戻りになられても、学んだ知識はずっとヒー様のものですから。知識は自信に繋がりますよ。」
(知ることが、ぼくの自信になる………?そうか、ぼくは自信がないのか……知らないことがありすぎて、人のこともまだ知らない。
ママの側にいたいだけじゃ、駄目なんだ。ぼくは、ママの役に立ちたいって、決めたんじゃないか。それなら、ぼくがやらなきゃならないことは……。)
ヒースヴェルトは、ふんす、と鼻息をならしてやる気になった。
部屋を花で飾ると、柔らかい雰囲気の室内は更に居心地のよい空間になる。
「リーナ、ありがとう!お花を貰ってきてくれて。」
「ラドリーさんがお声をかけてくださったんですよ。ヒー様のお部屋に、いかがですか、って。お優しい方ですよね。」
部屋に行く途中、ジャンニからお茶のセットを受け取っていたから、ヒースヴェルトはそのまま部屋でヒー様専用紅茶を飲むことにした。
紅茶の湯気は、金色。
「熱いから、気をつけてくださいね。」
「はーぃ。」
紅茶の飲み方も、正しい飲み方があるから、とトリシャがやる気で教えたりしているので、ヒースヴェルトはなにげに貴族の所作が身に付いてきている。
そんな彼の一コマを、リーナはニヤけながら見つめていた。
(はぁ……眼福だわ…。)
「んぁっ、リーナは、海のあるところに、住んでいました、か?」
かちゃん、と紅茶のカップが音をさせる。所作はまだまだ。
「えぇ。私の故郷は、海に囲まれた島国の一つですよ。」
「フォレンが、前に言ってたよ、うみには、ぼくよりオッキィなおさか…ニャ?おー、お、さ、か、な、いるのです!!」
「ふふっ。そうですね!大人よりも大きな魚が海のなかを泳いでいますし、釣り上げて食べたりしますよ。昨日お食べになった、白身魚のフライも、海のお魚ですよ。」
「えええっ?そうなの!?海のお魚は、ルートニアスの領地に、どうやってくるの!?」
「はい!それはですねぇ…。」
リーナはそれから、ヒースヴェルトに内陸への食物の輸送のことや、どこの果物がおいしいか、など。様々なことをヒースヴェルトに教えていた。
これも、ヒースヴェルトが知識欲が出てきたからこそで。
(良い傾向だわ。世界の、いろんな物に目を向ければ、興味を持てば…それを知り得ることで自信に繋がる。
ヒー様は、最近落ち込まれることが多いのよね。何か、抱えてらっしゃるのかも…。)
リーナの勘は正しく、ヒースヴェルトはずっと悩んでいた。
覚悟など、どうすればできるものなのか。
知らぬ人と共には生きたくないし、かといって大切な人を、その家族や仲間から引き剥がしてまで、連れてなんて行けるわけない。
そんな覚悟はできなかった。
それでも、自分の居場所は天上界で、ディーテ神の側にあると。
(…ぅうっ。ママ、覚悟ってこんなに苦しいの……?)
ヒースヴェルトは悩み続けていた。
厨房から出て、エントランスに差し掛かると、前庭の花を摘んでいるリーナを見つけて、ヒースヴェルトは嬉しくなって走り出した。
「ヒー様、いきなり走ると転びますって!」
アシュトが慌てて追いかける。そして、
「んきゃ!!?」
玄関の低い段差で、案の定躓いて、その身体が宙を舞う。
「だーかーらー、言ったッス。」
首根っこを捕まれた猫ような形で救われた。
「うぁー、ひーたんネコみた~い」
ぷらーん、とアシュトの腕からぶら下がり、楽しそうに揺れる。
ヒースヴェルトは、アシュトと過ごすときは、とても気分が楽なのだ。
それが何なのかはわからなかったが、最近はトリシャのお陰もあり、人を学ぶ機会が増え、何となく感じていることがあった。
「次は気を付けるッスよー。」
「ぁい~。」
(………ぼくにお兄ちゃんがいたら、多分、こんな感じ。)
村では嫌われ、森でも、ディーテ神のいない日々は孤独で。
「アシュト、おにぃちゃん………」
って、呼んでみたいな。
なんて考えていたら、アシュトが顔を真っ赤にして固まっていた。ヒースヴェルトを猫持ちにしたままで。
「ひっ、いっ、今、なんッ!!」
「ぁ、声に出てた!?な、なんでもない~!!!」
ヒースヴェルトも、真っ赤になってジタバタしていた。
何してるのかしら、ヒー様とアシュト…。
花束を抱えて、リーナは首をかしげた。
「り、リーナ!すまん、ヒー様に付き合ってやってほしい。オレちょっと顔冷やしてくる!!」
ぽい、とヒースヴェルトをリーナに渡して、アシュトはダッシュでどこかに行ってしまった。
「ヒー様?どうしたんです?」
「う~。恥ずかしいこと、言って、しまいました。」
こちらも、両手で顔を覆っているが、羞恥で赤くなった顔は隠せていない。
「ま、大丈夫なんでしょう…けど。
ちょうど、ヒー様のお部屋に飾ろうとお花を頂いたところなんです。花瓶に活けて、飾りませんか?」
「ぁぃ~、行き、ます~。」
すとん、とリーナの側に降り立って、まだ赤らむ頬をムニムニと触っていたが。
「今日はトリシャ先生はお昼からお見えになるんでしたね。お部屋にお花があると、とても素敵な気分になりますから、きっとお勉強も捗りますね!」
「お勉強、楽しい!知らないこと、知るのはいいことーってママも言ってたの。たくさん知って、たくさん……考えて、それから…自分で、決めていくの。」
自分で、決める。
まだそんな覚悟できていないくせに、何を言っているんだろう。と、ヒースヴェルトは少し落ち込んだ。
「ヒー様が、大魔境の神殿へお戻りになられても、学んだ知識はずっとヒー様のものですから。知識は自信に繋がりますよ。」
(知ることが、ぼくの自信になる………?そうか、ぼくは自信がないのか……知らないことがありすぎて、人のこともまだ知らない。
ママの側にいたいだけじゃ、駄目なんだ。ぼくは、ママの役に立ちたいって、決めたんじゃないか。それなら、ぼくがやらなきゃならないことは……。)
ヒースヴェルトは、ふんす、と鼻息をならしてやる気になった。
部屋を花で飾ると、柔らかい雰囲気の室内は更に居心地のよい空間になる。
「リーナ、ありがとう!お花を貰ってきてくれて。」
「ラドリーさんがお声をかけてくださったんですよ。ヒー様のお部屋に、いかがですか、って。お優しい方ですよね。」
部屋に行く途中、ジャンニからお茶のセットを受け取っていたから、ヒースヴェルトはそのまま部屋でヒー様専用紅茶を飲むことにした。
紅茶の湯気は、金色。
「熱いから、気をつけてくださいね。」
「はーぃ。」
紅茶の飲み方も、正しい飲み方があるから、とトリシャがやる気で教えたりしているので、ヒースヴェルトはなにげに貴族の所作が身に付いてきている。
そんな彼の一コマを、リーナはニヤけながら見つめていた。
(はぁ……眼福だわ…。)
「んぁっ、リーナは、海のあるところに、住んでいました、か?」
かちゃん、と紅茶のカップが音をさせる。所作はまだまだ。
「えぇ。私の故郷は、海に囲まれた島国の一つですよ。」
「フォレンが、前に言ってたよ、うみには、ぼくよりオッキィなおさか…ニャ?おー、お、さ、か、な、いるのです!!」
「ふふっ。そうですね!大人よりも大きな魚が海のなかを泳いでいますし、釣り上げて食べたりしますよ。昨日お食べになった、白身魚のフライも、海のお魚ですよ。」
「えええっ?そうなの!?海のお魚は、ルートニアスの領地に、どうやってくるの!?」
「はい!それはですねぇ…。」
リーナはそれから、ヒースヴェルトに内陸への食物の輸送のことや、どこの果物がおいしいか、など。様々なことをヒースヴェルトに教えていた。
これも、ヒースヴェルトが知識欲が出てきたからこそで。
(良い傾向だわ。世界の、いろんな物に目を向ければ、興味を持てば…それを知り得ることで自信に繋がる。
ヒー様は、最近落ち込まれることが多いのよね。何か、抱えてらっしゃるのかも…。)
リーナの勘は正しく、ヒースヴェルトはずっと悩んでいた。
覚悟など、どうすればできるものなのか。
知らぬ人と共には生きたくないし、かといって大切な人を、その家族や仲間から引き剥がしてまで、連れてなんて行けるわけない。
そんな覚悟はできなかった。
それでも、自分の居場所は天上界で、ディーテ神の側にあると。
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ヒースヴェルトは悩み続けていた。
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