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前に進もうと、思う。
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あけましておめでとうございます。
ラントと、マリンに言霊を贈り、アイザックらに秘密裏の調査を依頼してから数日。
ヒースヴェルトはせっせと研究室に籠り、疑似聖砡の製作に勤しんでいる。
ルシオは、ヒースヴェルトに対しては《色替えの術》を行使する導具を作るため研究していると言っているが、本当はもう一つ、手掛けていた。
リーナからの依頼の、とある装置。
(ヒースヴェルト様とディーテ様のお話によると…暗黒の空間に、突然出現する壁、通路と思えば阻まれ、光を見つけて触れれば全身を毒針で刺される痛みを伴う…。この痛みを伴う仕組みを取り除き…この、魂の光…を、見極めねばならないな。)
ヒースヴェルトが、暗黒の空間で迷わずに本物の魂の根源を見極められるような、訓練を施す装置を作っているのだ。
(この疑似空間が完成すれば、おそらく他の者の天使化の試練に役立つはずだ。…ヒースヴェルト様が苦しまずに遂行できるよう…。)
もう二度と、苦しむ主の姿を見たくはない。
ディーテ神でさえ、目を背けるほどの壮絶な現実を突きつけられ、ヒースヴェルトの覚悟を改めて知らされた。
「ヒースヴェルト様、待っていてくださいね。」
同じ部屋で、寝落ちしてしまっているヒースヴェルトをふと見て、微笑んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ヒー様、お風呂の準備が…、って、あら?眠ってしまわれたのですか?」
リーナがヒースヴェルトを呼びに来たはいいが、ヒースヴェルトは昨晩からこのラボに籠りっきりで、そのまま寝落ちしてしまったのだ。
「リーナ、ヒースヴェルト様はお疲れのご様子。奥の仮眠室へ運ぶから手伝ってくれ。」
ルシオがヒースヴェルトを抱き抱えると、リーナもくすりと笑い、仮眠室のベッドを整える。
仮眠室と言っても、ヒースヴェルト専用の小部屋で、他者は利用しない。
ヒースヴェルトが好んでいるふかふかのクッションや、ルシオの神獣、アルフィンを模したぬいぐるみ(ジャンニとリーナの力作)などがある。
「ルシオ様、ヒー様が目覚められましたら、お知らせくださいます?」
「あぁ。承知した。…リーナ。疑似空間の導具だが…。」
「!はい。」
リーナの着眼点は、ルシオが気づかないところに目を向けていることも多く、ルシオ自身、話し合うことを好んでいた。
常にヒースヴェルトを想い、行動する彼女に、好感を持たないはずがない。
「…その、何だ……。一段落したら、少し町に出ないか。君の話は為になるし…その、もっと、君を知りたい。」
照れながら、懸命にデートに誘うルシオ。
「えっ?…私も、ルシオ様のお役に立てるなら、嬉しいですわ。そうですね…一緒に行きましょう!ふふっ。楽しみですね!」
頬をほんのりと染めて快く承諾してくれたリーナに、ほっとしてルシオは微笑んだ。
一年前の彼からは、想像もつかないだろう。千年もの間、恋愛感情は勿論のこと、交友関係を築くことすら、あえてしなかったからだ。
(……レイネア、僕は…前に進もうと思う。)
千年もの間、閉ざしていた感情が、また揺り起こされるのを感じていた。
「失礼します、ルシオ様。あれ?リーナさんも。…ヒー様は?お客さん、連れて来たっす。」
通信機に反応がないから、とアシュトがラボまで探しに来た。
「今は仮眠室で休まれている。急ぎか?」
「今、屋敷の方の応接室でフォレン様とお待ちです。」
「客…?あぁ、そういえば華護りの職人を呼ぶと言っていたな。」
ルシオも知っている、ギュゼリアの職人。
「はい、ブランシュさんです。事情を話したら快く引き受けていただきました。…ルシオ様に、恩を返せると喜んでおられましたよ。」
「…ふん。別に恩を着せるためにやったことでは無いんだけどね。親の尻拭いに救済してやっただけのこと。」
「素直じゃないなー。ま、いいや。じゃあ、少し待ってもらいますね。神殿の中、案内したり…時間潰しておきます。」
「あぁ。頼む。」
ふと、アシュトは後ろで機嫌良さそうにしているリーナを見つけ、一人納得していた。
「…ふぅん…?なーんか幸せそうな空気ッスね~♪」
「なっ…!」
アシュトのニヤついた顔が気に入らず、ルシオは声をあげた。
「いや、冗談抜きでお似合いッスよ、ヒー様愛に溢れるお二人。」
アシュトは尚もニヤニヤしながらルシオを弄る。そして、リーナも少し頬を赤らめ、両手を振りながら否定してみるものの。
「アシュト、何を勝手なことを言っているのっ。ただ一緒に出かける約束をしたってだけで…!」
まんざらでもなさそうな顔で抗議しているものだから、アシュトは苦笑した。
「自覚ねぇんスか?顔、真っ赤ッスよー!ひゃははは!!」
「アシュト!!!」
風のように去っていくアシュトに、リーナは怒鳴りつけたが、すでにその姿はなく。
「も、もう…!からかって楽しんでいるんですよ!」
「あ、あぁ。まぁ。…僕は全然、嬉しいよ。」
「うっ…。そりゃ私も…ごにょごにょ……。」
と、二人で照れていると。
「リーナ…いるの?ぁえ?ルシオしゃん、ぼく、寝てたの~?」
「「ッーーー!!ぐふっ!!」」
仮眠室から、アルフィンのぬいぐるみを抱いて出てきたヒースヴェルトに、二人は同じ反応をしている。
気が合うのは間違いないようだ。
「ヒー様っ、華護りの職人さんが来てくださってますよ、屋敷に参りましょう!」
「ほんと!?いくです~!!」
少し疲れの見える顔を、ぱん、と軽く叩いて目覚まさせてリーナの手を握って走り出す。
「ヒースヴェルト様!走ったら転びますって!リーナ、ヒースヴェルト様を頼んだぞ!僕は後から行くから!」
「はーい!」
リーナの顔は赤いまま。ヒースヴェルトはそんな彼女を不思議に思いながら、ラボを後にしたのだった。
ラントと、マリンに言霊を贈り、アイザックらに秘密裏の調査を依頼してから数日。
ヒースヴェルトはせっせと研究室に籠り、疑似聖砡の製作に勤しんでいる。
ルシオは、ヒースヴェルトに対しては《色替えの術》を行使する導具を作るため研究していると言っているが、本当はもう一つ、手掛けていた。
リーナからの依頼の、とある装置。
(ヒースヴェルト様とディーテ様のお話によると…暗黒の空間に、突然出現する壁、通路と思えば阻まれ、光を見つけて触れれば全身を毒針で刺される痛みを伴う…。この痛みを伴う仕組みを取り除き…この、魂の光…を、見極めねばならないな。)
ヒースヴェルトが、暗黒の空間で迷わずに本物の魂の根源を見極められるような、訓練を施す装置を作っているのだ。
(この疑似空間が完成すれば、おそらく他の者の天使化の試練に役立つはずだ。…ヒースヴェルト様が苦しまずに遂行できるよう…。)
もう二度と、苦しむ主の姿を見たくはない。
ディーテ神でさえ、目を背けるほどの壮絶な現実を突きつけられ、ヒースヴェルトの覚悟を改めて知らされた。
「ヒースヴェルト様、待っていてくださいね。」
同じ部屋で、寝落ちしてしまっているヒースヴェルトをふと見て、微笑んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ヒー様、お風呂の準備が…、って、あら?眠ってしまわれたのですか?」
リーナがヒースヴェルトを呼びに来たはいいが、ヒースヴェルトは昨晩からこのラボに籠りっきりで、そのまま寝落ちしてしまったのだ。
「リーナ、ヒースヴェルト様はお疲れのご様子。奥の仮眠室へ運ぶから手伝ってくれ。」
ルシオがヒースヴェルトを抱き抱えると、リーナもくすりと笑い、仮眠室のベッドを整える。
仮眠室と言っても、ヒースヴェルト専用の小部屋で、他者は利用しない。
ヒースヴェルトが好んでいるふかふかのクッションや、ルシオの神獣、アルフィンを模したぬいぐるみ(ジャンニとリーナの力作)などがある。
「ルシオ様、ヒー様が目覚められましたら、お知らせくださいます?」
「あぁ。承知した。…リーナ。疑似空間の導具だが…。」
「!はい。」
リーナの着眼点は、ルシオが気づかないところに目を向けていることも多く、ルシオ自身、話し合うことを好んでいた。
常にヒースヴェルトを想い、行動する彼女に、好感を持たないはずがない。
「…その、何だ……。一段落したら、少し町に出ないか。君の話は為になるし…その、もっと、君を知りたい。」
照れながら、懸命にデートに誘うルシオ。
「えっ?…私も、ルシオ様のお役に立てるなら、嬉しいですわ。そうですね…一緒に行きましょう!ふふっ。楽しみですね!」
頬をほんのりと染めて快く承諾してくれたリーナに、ほっとしてルシオは微笑んだ。
一年前の彼からは、想像もつかないだろう。千年もの間、恋愛感情は勿論のこと、交友関係を築くことすら、あえてしなかったからだ。
(……レイネア、僕は…前に進もうと思う。)
千年もの間、閉ざしていた感情が、また揺り起こされるのを感じていた。
「失礼します、ルシオ様。あれ?リーナさんも。…ヒー様は?お客さん、連れて来たっす。」
通信機に反応がないから、とアシュトがラボまで探しに来た。
「今は仮眠室で休まれている。急ぎか?」
「今、屋敷の方の応接室でフォレン様とお待ちです。」
「客…?あぁ、そういえば華護りの職人を呼ぶと言っていたな。」
ルシオも知っている、ギュゼリアの職人。
「はい、ブランシュさんです。事情を話したら快く引き受けていただきました。…ルシオ様に、恩を返せると喜んでおられましたよ。」
「…ふん。別に恩を着せるためにやったことでは無いんだけどね。親の尻拭いに救済してやっただけのこと。」
「素直じゃないなー。ま、いいや。じゃあ、少し待ってもらいますね。神殿の中、案内したり…時間潰しておきます。」
「あぁ。頼む。」
ふと、アシュトは後ろで機嫌良さそうにしているリーナを見つけ、一人納得していた。
「…ふぅん…?なーんか幸せそうな空気ッスね~♪」
「なっ…!」
アシュトのニヤついた顔が気に入らず、ルシオは声をあげた。
「いや、冗談抜きでお似合いッスよ、ヒー様愛に溢れるお二人。」
アシュトは尚もニヤニヤしながらルシオを弄る。そして、リーナも少し頬を赤らめ、両手を振りながら否定してみるものの。
「アシュト、何を勝手なことを言っているのっ。ただ一緒に出かける約束をしたってだけで…!」
まんざらでもなさそうな顔で抗議しているものだから、アシュトは苦笑した。
「自覚ねぇんスか?顔、真っ赤ッスよー!ひゃははは!!」
「アシュト!!!」
風のように去っていくアシュトに、リーナは怒鳴りつけたが、すでにその姿はなく。
「も、もう…!からかって楽しんでいるんですよ!」
「あ、あぁ。まぁ。…僕は全然、嬉しいよ。」
「うっ…。そりゃ私も…ごにょごにょ……。」
と、二人で照れていると。
「リーナ…いるの?ぁえ?ルシオしゃん、ぼく、寝てたの~?」
「「ッーーー!!ぐふっ!!」」
仮眠室から、アルフィンのぬいぐるみを抱いて出てきたヒースヴェルトに、二人は同じ反応をしている。
気が合うのは間違いないようだ。
「ヒー様っ、華護りの職人さんが来てくださってますよ、屋敷に参りましょう!」
「ほんと!?いくです~!!」
少し疲れの見える顔を、ぱん、と軽く叩いて目覚まさせてリーナの手を握って走り出す。
「ヒースヴェルト様!走ったら転びますって!リーナ、ヒースヴェルト様を頼んだぞ!僕は後から行くから!」
「はーい!」
リーナの顔は赤いまま。ヒースヴェルトはそんな彼女を不思議に思いながら、ラボを後にしたのだった。
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