人間誰しもウンコはする

うたた寝

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人間誰しもウンコはする

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「人間誰しもウンコはする」
「ぶふぅっ!?」
 客先での打ち合わせが予定よりも早く終わったため、予定通りに終わったという体にして帰ろうぜ、ということで、喫茶店で休息という名のサボりをしていた上司と部下。
 同僚が社内で働いているであろう時間帯に優雅にコーヒーでも飲んで優越感に浸っていた彼だったのだが、対面に座っていた女性上司が突如、何の脈略も無くそんなことを言い出したものだから、彼は喉を通りかかっていたコーヒーを逆流させるところだった。飲んでいたのがコーヒー、というのも噴き出す要因となっていたかもしれない。
 ゲホッ、ゲホッ、と。変なところに入ったコーヒーを何回か咳き込んでから落ち着かせた後彼は、
「な、何ですか? 急に」
 しかし、聞かれた上司は涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいる。恐らくカレーを食べている時にウンコの話をされても動じないタイプに違いない。まぁ、自分で言い出しておいて、自分で動じていても、なんのこっちゃ、という話ではあるのだが。
「いや、人間誰しもウンコはするんだよなー、とふと思ってな」
「何でそんなことを『ふと』思うんですか」
「あそこに居る美人の店員さんもフライパンで殴られたような顔をしているマスターも」
「とりあえずマスターに謝ってください」
「みんなトイレに行って座ってウンコしてトイレットペーパーで拭いている、って考えると、急に親近感沸かないか?」
「親近感……、って言っていいんですかね?」
「国宝級のイケメンと言われる男も、女性アイドルでセンターを踊っている子も、みんなトイレに行ってウンコはする。仲間だな、って感じしないか?」
「仲間……、って言っていいんですかね、それ」
「自分がトイレに行っている時に思い浮かべてみろ。自分の推しの子も同じようにトイレ入って便器に座ってウンコしてトイレットペーパーで拭いてるんだぞ? 同じことしていると思うと仲間意識の一つでも芽生えてこないか?」
「まぁ……、同じ人間なんだな、とは思いますけどね」
 頭ごなしに否定するのも何なので、とりあえず同意できそうなところだけ彼が同意していると、
「まぁ私は拭かない時もあるがな」
「何でだよ拭けよ何で拭かない選択肢があるんだよ」
「トイレットペーパーがちょうど無かったんだ」
「……一応聞きますど、それいつの話ですか?」
「聞かない方がいいぞ?」
「分かりました。聞かなかったことにします」
「あれは確か……、」
「聞かなかったことにするって言ってんだろ語り出してんじゃねーよ」
「だが断る」
「何でだよっ!」
 何でそうまでしてこの上司はトイレで拭かなかった武勇伝を語りたいのだろうか。……いや、武勇伝なのか? これ。デンデンデンって踊り出してもいいものなのだろうか? カッコいいのだろうか? ある種パーフェクトヒューマンなのだろうか?
 そんなパーフェクトヒューマンである女性上司は首を傾げながら、
「まぁ、トイレ後に拭く・拭かないは個人差があるとしてな」
「ねーよ」
「ホントか? どの文化圏においても無いと言い切れるか?」
「そういう文化圏の育ちなら否定しないが、あんたバリバリ拭かないのがおかしい文化圏だろうが。拭く文化圏だからトイレットペーパーがトイレに常備されてんだろうが」
「……おー、これは一本取られた」
 小さく拍手してくる女性上司。何だろう? こんな不毛なやり取りでも、褒められるとちょっと嬉しい。
「ってわけでな。みんなウンコをする仲間なのに争い合うなんてあまりにバカげたことだと思わないか?」
「何か綺麗な話にしようとしてますけど無理ですよ? すっごい汚いの付いてますから」
「振り上げた拳を振り下ろす前にな、ふと考えてもらいたいんだ。目の前のソイツもお前もウンコをする同士であると。そうしたらその拳を振り下ろすことはないんじゃないか、と」
「何でしょうね? いいこと言ってる風に聞こえてくるのが不思議ですね」
 彼は一緒に頼んだトーストに齧り付きながら、

「で、商談失敗した我々はこの後どうするんです?」

「………………」
 女性上司は残っていたコーヒーを飲み干してから、
「とりあえずウンコしてくるわ」
 帰社してさっきの持論を振りかざしても余計怒られるだろうな、ということは想像に難くないので、上司は現実逃避気味にトイレへと駆け込み、そこに籠城することに決めた。
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