羊の夢で恋をする

うたた寝

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モテる指輪

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「なーにが短く済ませるだこの大ウソつきめっ!」
「まーさか夜になるとはなー」
 日が傾いている放課後から話し始めた、というのを差し引いても、日はとっくに沈み、星と月が登ってきている。『短く』とは一体、という話だ。いや、あるいは短く話したからこそこの程度の時間で済んだのかもしれないが。長く話されていたら日を跨いでいたのかもしれない。『短い』という主観に任せるのではなく、ちゃんと『40秒で済ませろ』や『3分間だけ待ってやる』という時間指定をすれば良かったな、というのは狼の反省点でもある。まぁ、それでも常識的な『短さ』というのはあるとも思うが。
 映画1,2本は観れそうな『短い』話を聞かされたことにより、すっかり夜になったこの町は既に寝る準備を始めている。『眠らない町』なんて言葉もあるが、この町は『早寝の町』と言ってもいい。日とともに眠り、日とともに起きる、とまでは言わないが、限りなくそれに近い生活習慣ではある気がする。
 実際、この時間になるともう人通りなどほとんど無い。学校はもちろんのこと、お店などもほとんど閉まっている。彼らが帰路で通っている商店街も例に漏れず、ほとんどの店が営業時間を終えた健全なシャッター商店街と化している。今この商店街で仕事をしているのは商店街の街灯くらいだろうか? いや、チカチカと点滅を始めたところを見るに、街灯さえも仕事を終えようとしているのかもしれない。
 そこまでまだ夜遅い時間帯、というわけでもないのだが、この町の人が夜出歩かないのは単純に明かりが無いから、というのがあるだろう。お店の明かりなどを失うと頼れる明かりはほとんど街灯の明かりのみ。そこから離れてしまうと、夜空の微かな明かりしかなくなり、何かライトなどの光源を持っていないとロクに道も歩けない状態になる。夜遊びと言うのは夜遊べる場所があるから成立するのであり、夜遊べる場所どころか、光っているところも無いような場所だと人は日が暮れる前に家に帰るのである。何故か? 日が暮れると暗くなって物理的に帰れなくなるからである。その後、家で夜遊び(夜更かし)をするかはまた別として。
 そして、日が暮れてから帰路についているこの二人は、今リアルに帰れなくなるんじゃないかと若干の恐怖である。一応、家に着くまでの道のりにずっと街灯がありはするが、この商店街もそこそこに長い。今チカチカ点滅している街灯が消えると商店街中真っ暗になるので結構致命的である。チカチカ点滅しているだけでも、一瞬辺りが完全に真っ暗になって恐怖だというのに。
「怖いねー」
「怖いなー」
 人間、暗い所は怖いものだ。これで隣が女子とかであれば奮い立たせてカッコつけたかもしれないが、隣が男子ではカッコをつける意味も必要も無い。怖いものは怖いと言わせてもらう。
「手、繋いでもいい……?」
 羊が精いっぱい可愛い声を出して言う。なるほど、怖いのか。友達が怖がっているのだ。友人の回答など決まっている。
「殴ってもいいなら」
「こわーっ」
 さらに怯えたようだが、狼からすれば当たり前の回答である。何が悲しくて同い年の男子と仲良く手を繋がなくてはならないのか。そうしないと世界が滅ぶと言われても少し悩む案件である。
 話していないと怖いので、そんな冗談を言い合いながら二人並んで歩いていると、

 不意に、点滅していた街灯が滅から点かなくなった。

 視界を奪われパニックにならなかったのは流石と褒めてもらいたいところだ。いや、パニックになっていたことに気付かないほどにパニックだったのかもしれないが。点滅の間の暗闇で少しは暗闇に慣れていた、というのもあるのかもしれない。
 視界ゼロの状態で歩き続けるのは危険だと、お互い何を言うでもなく理解したのか、お互いの足を止める。一応真っ直ぐ進めば商店街は抜けるハズではあるが、平衡感覚を失いそうな暗闇の中で真っ直ぐ歩くのは難しく、何かにぶつかりそうで危険であろう。
 何か光になるものあったかな、とお互いに探していると、幸いなことに街灯が再び点いた。
 この時間が一瞬だったのか結構長かったのか、は分からない。体感的には長く感じたのと、少なくとも点滅の間が伸びたのは確かだ。不幸中の幸いと言うべきか、一回落ちて機嫌を直したのか、街灯のチカチカ点滅が直っている。
 ほう、とお互い安堵のため息を吐いたのも束の間、
「おうわっ!?」
 羊は声に出して驚いて盛大に飛び跳ねた。
 街灯が点滅している不明瞭な光であったことと、相手の服装が暗い色のため闇に紛れて気付かなかったようだが、すぐ近くのシャッターが閉まっているお店の前に人が居た。気付かなかっただけなのだろうが、羊の感覚としては突然現れたに近い。
 簡易的な机を広げ、その前に簡易的な椅子を置いて腰かけている。特に看板などは設置していないが、雰囲気作りのためか顔が見えないほど目深に被ったフードやこれ見よがしに手をかざしている水晶玉を見るに占い師か何かだろう。水晶玉の周りにもそれっぽいアクセサリーのようなものが並べられている。
「しっしっし」
 顔は見えないが、声から察するに女性だろうか? 声だけの印象だとそれほど歳は彼らと離れていないような気がする。この時間帯だと人通りもほとんど無いだろうし暇だったのだろうか? 構ってほしそうにこれ見よがしに怪しげな笑い声を発してくる。
「「………………」」
 しかし、彼らは無視を決め込み歩き出す。目も合わせてはいけない。知らない人に話しかけられても返事してはいけないと義務教育で習っている。まぁ、さっき悲鳴を上げているから存在に気付いてしまっていることはバレているようなものなのだが。
「しっしっしっ!」
 聞こえていないと思ったのか、相手は音量を上げてくる。昼間の人が居る喧騒内であればともかく、自分たち以外人も居ない静まり返った夜だ。当然聞こえた上で無視している。だからボリュームを上げられてもやることは一緒。無視である。
「「………………」」
 そうして、フードの人物の前をそっと通り抜けた瞬間、
「しっしっしぃっ!!」
「(サッ)」
「いたぁいぃっ!?」
 背後からぶん投げられた水晶玉を狼がサッと避けた結果、その水晶玉が羊の後頭部に思いっ切り直撃する。アホみたいな質量の不意打ちに羊は後頭部を押さえて悶絶しながら地面に蹲る。
 目の前、正確には足元で友達が悶え苦しんでいるのだ。当然、友人としては激怒する。
「何すんだっ! 俺に当たったらどうするんだっ!?」
 ホント、友情って素晴らしいなー、と羊が白い目で思っていると、フードの人物も強気に、水晶玉が無くなった机のスペースに足をドーン! と置き、
「人通りの少ない路地で怪しい人物がこれ見よがしに怪しげに笑ってるんだから話かけんかいアホンダラァッ!!」
「あんたの今の言葉のどこに話し掛けたくなる要素があったんだよっ!! アホなこと言ってんじゃねぇっ!!」
「あんだとぉっ!? アホって言う方がアホなんだっ!!」
「じゃあお前の方が先に言ったからお前の方がアホじゃねーか、アホーッ!!」
「また言ったなぁっ!? 上等だこの野郎っ!! どっちがアホか決着付けてやろうじゃねーかっ!!」
「面白れぇっ!! 頭の良さは結局腕力で決まるんだっ!!」
 何か頭上近くでアホ二人が取っ組み合いを始めたので身の危険を感じた羊は、
「待て! 待て待て待てっ! 喧嘩を始める前にまず水晶玉を投げたことと躱して僕にぶつかったことを謝れっ!!」
「「え~っ」」
「『え~』じゃないっ!! ハモるなっ!!」
 アホ二人は取っ組み合った姿勢のまま羊の方を見てくる。
「いやいや、投げたコイツはともかく、避けた俺は何も悪くないだろ。コイツだけが謝るべきだ」
 狼に指を指されたフードの人物はいやいや、と首を横に振るう。
「何言ってるんだ。ワシは別にどっちに当たっても、もっと言うと別に当たらなくても良かったんだ。ワシのことを無視しようとしとるから、存在をアピールしただけのこと」
 当てといて、当たらなくても良かったとは凄い言い分だな、と羊は思ったが何故か狼は頷いている。
「ほう、要するに当てようと思ったわけじゃないってことだな?」
「そりゃそうじゃろ」
「なるほどな。ってことは、これは事故だな」
 狼は取っ組み合いを解いてフードの人物の肩をポンッと叩く。羊は思う。は? だが、フードの人物は顔こそ見えないもののきっと満面の笑顔をしているだろうな、ということが分かるほど嬉しそうな声音で上機嫌に頷いた。
「うん、そうなの」
 話が事故でまとまりそうだったので羊は慌てて割って入る。
「なわけあるかぁっ!! どういうロジックでそうなったっ!? 今っ!!」
 羊としては上訴したいほどに納得できかねる話の流れであるが、このアホ二人は仲良く肩を組みだして、
「だってなー? わざとじゃないんだもんなー?」
「なー」
「何急に仲良くなってんだっ! 人様の頭に向けてあんな思いっ切り振りかぶっておいて、わざとじゃないなんて話が通るかいっ!!」
 羊が不満ブンブン丸で怒っていると、流石に悪いと思ったのか、フードの人物がトテトテトテー、とこちらに寄ってきて、
「ごめんねー、わざとじゃないのー、ゆるちてー?」
「信じられないくらい可愛い声出してもダメなものはダメッ! 謝りなさいっ!!」
「チッ、クソが」
「こーわっ! 今の声のトーンこーわっ!!」
 その前のセリフとの落差もあったのかもしれないが、ドスの効いた声音だけで羊は身の危険を感じてからだ中に鳥肌が立った。怯んで羊の文句が止まったのをいいことに、フードの人物は盛大に開き直る。
「つかさー、避けなかったお前が悪いんじゃね?」
「はっ!?」
「だってコイツ避けたじゃん」
 フードの人物が狼を親指で指出すと、狼も頷く。
「それな」
「どれなっ!? 何アホ二人が手組んでんだっ! 言っとくけどその手の被害者の方が悪い的な論調には徹底抗戦させてもらうからなっ!!」
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