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【プロローグ】なんて勝手な婚約破棄でしょう!
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「とにかく、お前とはやっていけないって話だよ!!!」
私の婚約者であったはずの人は高圧的に言い放った。とにかく、彼はイライラしていて話にもならない。
ここは人の行き交う駅前広場。私だってこんな所で争いたくはないのだけど。
「どうして、そんな急に……!」
私は彼から突然切り出された話に動揺を隠すことが出来なかった。彼のために私がどれだけ苦労を、そして献身をしてきたというのか。
彼のためにロールキャベツだって、ミネストローネだって、筑前煮だって作ってあげた。いくら言ってもしなかった彼の部屋の掃除だってしてあげた。挙句の果てに確定申告まで。
全部、私がしなくても良かったはずの仕事だ。そのために私がどれだけ時間を無駄にしたか。自分磨きや推しへの応援やゴロゴロだって出来たはずなのに。
それでもそれらに文句の一つも言わなかったのは、一重に彼を愛していたからだ。
「2週間前の土曜日、お前どこに行ってた?」
私は彼の問いかけに困惑する。疚しいことなどなかったからだ。
「どこって……高校の同窓会だけど。私、ちゃんと前もって言ったよね」
「あんなに遅くなるなんて聞いてない!!」
「『あんなに』って、同窓会が終わってから友達と1時間くらい飲んだだけで、10時までには家に帰ってたわよ」
「その1時間で男と遊んでたんじゃないのか!?」
彼がヒステリックに叫ぶ。妄想もいい所だ。
実際には同性の3人と話を弾ませていただけなのに。
「まさか。そんなわけない」
「じゃあ、証拠を出してみろよ!!!」
あまりに理性的じゃない。私は冷静になろうとするが、彼との温度差が広がるばかりだった。
私は携帯を操作して、メッセージアプリを開き、彼に見せる。
「これ。その時、飲んでた友達。もちろん、女の子。『絶対に私が浮気なんかしてなかった』って証言してくれるはずよ」
彼はグッ、と言葉に詰まったようだった。
「い、いや。その女もお前が丸め込んでいるんだろう! 『浮気を黙っててくれ』ってな!!」
どうしてしまったというのだろう。もう、滅茶苦茶だ。
浮気の話に関してはこちらが完全論破しているのに。
こちらが責められているのが全く理解不可能だが、私だって百年の恋も冷めてしまいそうになる。
「大体、俺はお前が飼っているヘビが気味が悪くて仕方なかったんだ! ヘビもお前も気持ち悪いよ!」
流石に私の頭にも血が昇る。私だけじゃなく、『ブロン』まで悪く言うなんて。
ブロンは私が大切に飼っているペットのヘビだ。アルビノで、真っ白なコーンスネークである。
名前は推しのゲームキャラから取って付けた。ヘビと似た白が映える推しだった。
実際、ブロンというキャラ名は、フランス語で白を意味する『blanc』から来ているらしい。
私はヘビの生物的な美しさに惹かれていた。艶やかなボディも体色もシュッとした顔も、ヒトにはない美を保持していると思う。
しかし、ヘビについて万人に理解してもらえるとは思っていない。だから、私は付き合い始めた頃に彼に訊いたのだ。
『私はヘビが好きで好きで堪らない人間です。それでもいいですか』と。
それに対する彼の応えは『気にしないよ』というものだった。だから、私は彼が理解を示してくれているものと思っていた。
ヘビのブロンは私にはよく懐き、私の手にも乗っていたが、彼は決してブロンに触ろうとしなかったのだけれど。ブロンもなんだか、彼のことを警戒しているようだった。
「……そうですか」
私は彼との思い出を振り返ろうとしたが、ブロンへの愛情に邪魔されて何も思い起こすことは出来なかった。
頭を占めるのは、今となってはブロンのことばかり。彼とブロンとを天秤にかけるとすれば、その結果はもう明白だった。
もう、これ無理だ。私は覚悟を決める。
「分かりました。そこまで言うなら、終わりにしましょう」
私は毅然とした態度で言い放つ。
「あぁ、これで婚約破棄ってことでいいよな?」
彼はホッとしたような顔を見せたが、安堵しているのはこちらの方だった。
あなたからはブロンよりもずっと熱を感じない。
私にとって、ブロンの方がずっと――
「そうね。良かった」
私は呟いて、踵を返した。
私の婚約者であったはずの人は高圧的に言い放った。とにかく、彼はイライラしていて話にもならない。
ここは人の行き交う駅前広場。私だってこんな所で争いたくはないのだけど。
「どうして、そんな急に……!」
私は彼から突然切り出された話に動揺を隠すことが出来なかった。彼のために私がどれだけ苦労を、そして献身をしてきたというのか。
彼のためにロールキャベツだって、ミネストローネだって、筑前煮だって作ってあげた。いくら言ってもしなかった彼の部屋の掃除だってしてあげた。挙句の果てに確定申告まで。
全部、私がしなくても良かったはずの仕事だ。そのために私がどれだけ時間を無駄にしたか。自分磨きや推しへの応援やゴロゴロだって出来たはずなのに。
それでもそれらに文句の一つも言わなかったのは、一重に彼を愛していたからだ。
「2週間前の土曜日、お前どこに行ってた?」
私は彼の問いかけに困惑する。疚しいことなどなかったからだ。
「どこって……高校の同窓会だけど。私、ちゃんと前もって言ったよね」
「あんなに遅くなるなんて聞いてない!!」
「『あんなに』って、同窓会が終わってから友達と1時間くらい飲んだだけで、10時までには家に帰ってたわよ」
「その1時間で男と遊んでたんじゃないのか!?」
彼がヒステリックに叫ぶ。妄想もいい所だ。
実際には同性の3人と話を弾ませていただけなのに。
「まさか。そんなわけない」
「じゃあ、証拠を出してみろよ!!!」
あまりに理性的じゃない。私は冷静になろうとするが、彼との温度差が広がるばかりだった。
私は携帯を操作して、メッセージアプリを開き、彼に見せる。
「これ。その時、飲んでた友達。もちろん、女の子。『絶対に私が浮気なんかしてなかった』って証言してくれるはずよ」
彼はグッ、と言葉に詰まったようだった。
「い、いや。その女もお前が丸め込んでいるんだろう! 『浮気を黙っててくれ』ってな!!」
どうしてしまったというのだろう。もう、滅茶苦茶だ。
浮気の話に関してはこちらが完全論破しているのに。
こちらが責められているのが全く理解不可能だが、私だって百年の恋も冷めてしまいそうになる。
「大体、俺はお前が飼っているヘビが気味が悪くて仕方なかったんだ! ヘビもお前も気持ち悪いよ!」
流石に私の頭にも血が昇る。私だけじゃなく、『ブロン』まで悪く言うなんて。
ブロンは私が大切に飼っているペットのヘビだ。アルビノで、真っ白なコーンスネークである。
名前は推しのゲームキャラから取って付けた。ヘビと似た白が映える推しだった。
実際、ブロンというキャラ名は、フランス語で白を意味する『blanc』から来ているらしい。
私はヘビの生物的な美しさに惹かれていた。艶やかなボディも体色もシュッとした顔も、ヒトにはない美を保持していると思う。
しかし、ヘビについて万人に理解してもらえるとは思っていない。だから、私は付き合い始めた頃に彼に訊いたのだ。
『私はヘビが好きで好きで堪らない人間です。それでもいいですか』と。
それに対する彼の応えは『気にしないよ』というものだった。だから、私は彼が理解を示してくれているものと思っていた。
ヘビのブロンは私にはよく懐き、私の手にも乗っていたが、彼は決してブロンに触ろうとしなかったのだけれど。ブロンもなんだか、彼のことを警戒しているようだった。
「……そうですか」
私は彼との思い出を振り返ろうとしたが、ブロンへの愛情に邪魔されて何も思い起こすことは出来なかった。
頭を占めるのは、今となってはブロンのことばかり。彼とブロンとを天秤にかけるとすれば、その結果はもう明白だった。
もう、これ無理だ。私は覚悟を決める。
「分かりました。そこまで言うなら、終わりにしましょう」
私は毅然とした態度で言い放つ。
「あぁ、これで婚約破棄ってことでいいよな?」
彼はホッとしたような顔を見せたが、安堵しているのはこちらの方だった。
あなたからはブロンよりもずっと熱を感じない。
私にとって、ブロンの方がずっと――
「そうね。良かった」
私は呟いて、踵を返した。
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